16.エレノアside
かれこれ2時間くらい経ったのだろうか。窓の外はどんどんオレンジ色に光っていて、キラキラしていた。
そんな中、ノックもせず、先程のレイトンさんのように現れるユーディーの姿は、少し汗をかいていて、息も途切れ途切れだった。
そんなに急いでここに、私の為に来てくれたことを考えると、胸がキュンとしてしまうのを感じた。
「エレノア、大丈夫だった!なにか酷いこと言われなかった?!」
「あら、ユーディーは私のことをなんだと思ってるのかしら。」
「目が赤いけど、もしかして泣いてた?…母上!エレノアに何を言ったのさ。エレノアを泣かすようであれば例え家族でも許さないから。」
「ユーディー、違うの。ただとても安心して、その泣いてしまっただけで。楽しい時間を過ごせましたわ。」
あらぬ誤解をされてしまっては夫人に申し訳ない。私はすぐさま訂正した。「本当に?ならいいけど。母上、その、すいませんでした。」とユーディーはすぐ落ち着いてくれた。
「全く、この子ったら。冷静沈着なあの子は一体どこに行ったのかしら。まぁ、好きな相手のことで、平静を保てるような男は、男ではないから許して上げるわ。」
前世の記憶のことは話さず、貴族籍を外された後のことだけを話した。
「なんて酷いことかしら。こんなか弱い令嬢を、あのクラマの森に1人置いておくなんて。それに、人攫いにも遭うだなんて。辛かったわね。よく頑張ったわ!」
そう夫人は優しく抱きしめてくれた。その温かさに、なんだか涙がこぼれてしまって。
私は泣きながら夫人を抱きしめかえってしまったのだ。17歳にもなろう女性が、赤の他人の母親に甘えてしまうだなんて。今思えばなんて恥ずかしいことをしてしまったのだろうか。
けれど、母親の愛というものはこういうものかと感じることができた。そうだ、私はずっとこうして欲しかったのだ。
よく、妹のローズは母に抱きついていた。それが羨ましくて私もと、両手を広げて近づくと、母は顔を引き攣らせながら「ごめんね、また今度。」と、いつも同じことしか言わなかった。
拒否される度に私の幼い心は傷ついて、結局甘えることを辞めたのだ。これ以上傷つけられたくなくて。
あの家に、あの家族に私の居場所はなかった。父、母、妹が楽しそうに話しているのを見て、その中に入ることは諦めた。だって、私が入ると父も母も顔を曇らせ、楽しそうだった会話は途端に消えてしまうから。
一体なぜ私だけこのような扱いをされるのか、最初は分からず、夜な夜な枕を涙で濡らしていた。諦めてはいたものの、理由もわからず両親から嫌われることに小さな子供が、耐えきれる訳もなかったから。
その理由がわかったのは10歳の頃。どうやら私は父と母の子供ではないかもしれない。
客間を掃除していた使用人がそう話すのを聞いてしまったのだ。