10.ユーディーside
朝目覚めると、エレノアの姿がなかった。宿屋のチナさんに伺うと、朝方荷物をもって出ていったと聞かされる。エレノアが借りていた部屋はすっからかんで、机の上には
『あなたは自由にいきてください。私も自由にいきます。今までありがとうございました。』
と書かれた紙が1枚。
俺は、宿を引き払い、実家にかえ、るわけがない!
すぐさまエレノアを探しに外に出た。
エレノアが何を考えて俺を置いていったかは分からないけれど、でもここでエレノアを追わなければ一生会うことはないかもしれない。そんな予感がした。
「エレノア!」
ハーロックは大バカものだ。全て終わったあとに、彼女への愛に気づき、後悔する。せっかく2度目の人生をもらえたんだ。なら、今度こそは後悔したくない。
※※※
「あの、つかぬ事お聞きしますが、私が愛人を囲うというのは一体…?」
「…いや、その、前世ハーロックに愛想を尽かしたエレノアは、何人も男を囲ってたよね?だから、今回も、その。男を侍らすのが好きなのかなーと。」
あー、そういえば、そんなこともあったわね。何だか懐かしい。
「1つだけ言っておくけれど、前世も今世も私は、その…未経験ですから。」
「へ?」
思いもよらぬエレノアの告白についマヌケな声を出してしまったことは認める。でも今の俺はそんなことに構ってられなかった。
「あの時の私は、ハーロックに少しでも妬いてほしくて、メイド達の案を採用しただけで、囲っていたっていう話は全て…」
「嘘なの?」
「申し訳ありません。ただそれぐらいハーロックを、きゃ。」
「じゃあ、ずっとハーロックを想っていたってこと?今は?今はハーロックのこと、僕のこと、どう思ってる!?」
エレノアの告白に嬉しくて、ついお姫様抱っこをしてしまった。その反応も、エレノアに再び触れることができることも嬉しくて嬉しくて。
「お、下ろしてください。」
「縛られているんだから、こうするしかないよね。」
「縄を外してくれれば言いじゃありませんか!」
「固くて外せそうにないから、また後で。それより質問に答えてよ。」
しばらくの間、エレノアは黙ったままだったけれど、観念したかのように口を開いた。顔を赤くして、少し俯きながら、
「私がお慕いしているのは、前世も今世も貴方様だけです。」
軽く触れ合うキスをする。
止められる訳がないのだ。だって、愛しの彼女が好きだと伝えてくれているのだ。これくらい許して欲しい。
「僕も、僕もエレノアを愛しています。」
彼女に向かって微笑むと、「なっ!」と驚いた声を出したあと気を失ったようだ。
本当こんな軽いキスで気を失うなんて可愛いすぎる。大人のキスをしたら、エレノアはどんな反応するんだろうな。
どこかで誰かが言っていたけど、女は男の最後の女になりたがり、男は女の最初の男になりたがるらしい。
それを聞いた時は共感出来なかったけど、今ならわかる気がする。エレノアの可愛い部分を最初に見られるというのは、やっぱり心躍り、優越感というのもある。まぁ、俺はエレノアの最初で最後の男になるんだけどな。
よしよし、と気を失っているのをいいことに、優しく頭を撫でていたのだが、両手両足の自由を抑えている古びた縄に目がいく。外した後も赤い筋がハッキリ残っていて痛々しい。
「本当、どうしてやろうか。」
地面に這いつくばっている野郎どもの背中を思いっきり踏みながら、見下ろした。