1.ユーディーside
「エレノア=リクア様。私イリス=センティーは今ここであなたの罪を告発します!」
貴族が集まるパーティーでそれは起こっていた。ある男爵令嬢が、公爵令嬢にされた数々の犯罪行為を告発していたのだ。その内容を聞いたものは、信じられないという目で公爵令嬢を見ていた。
公爵令嬢の両親も体を寄せ合い、夫人は涙を流し、公爵はそんな夫人の肩を支えていた。その中心である、公爵令嬢はというと取り乱すこともなく、
「…もうし、わけありませんでした。私が、センティー様に行ったことは事実であり、決して許されることではないと思います。本当に反省しております。私はどんな処罰でも受ける所存です。」
淡々と述べていた。
「エレノア、君にはガッカリだ。俺の妻として、次期王妃として国を支えてくれるものだと期待していたのだが、この様子だと君に王妃は向いてない。陛下は俺に全て委ねると仰った。暗殺まで企んだ君を、本当なら死刑にすべきなのだが…長年共に過ごした情もある。いまなら貴族籍の剥奪の上に王都追放で許してやる。即刻ここから立ち去れ。」
「…殿下、今までありがとうございました。お父様、お母様、こんなことになってしまって申し訳、ありません。お元気で。」
公爵令嬢は一筋の涙を流し、その場を立ち去った。
その姿をみると、すごく胸が痛かった。彼女を悲しませてしまったのは自分だから。でも、きっとこれは彼女のためにもなる。これでようやく彼女は自由になれるのだから。王太子殿下の婚約者になったおかげで、厳しい教育を受け、自由を無くし王妃殿下からは嫌がらせまがいのことをされていた。
昔はよく笑っていたのに、今では笑うことも怒ることもなくなって…
いや彼女のためと言ってはいるが、全て嘘っぱちだ。彼女がその生活に苦しんでいたのか、本当のことは知らないのだから。
「エレノア様。」
「貴方、は、ユーディー=ハウラン様ですよね。」
「こんな僕のこと覚えてくれて嬉しいです。」
「いえ、それよりなんのご用でしょう。」
「王都を去るとお聞きしました。ぜひ僕もお供させてください。」
「なぜ、貴方が?」
「エレノア様をお慕いしているからです。僕のことを好きになって欲しいとはいいません。ですが、チャンスをいただきたいのです。それに、僕は市民の生活をよく知っています。きっとあなたの役にたちますし、貴方を守ることだって。」
「…私は、誰かに守って欲しいなど思っておりません。それに、あなたの仕業よね、ハーロック。どういうつもり?」
ハーロック。懐かしい名前だ。それより彼女も覚えていることに驚いた。
ハーロック=レクイエム。俺の前世の名だ。
俺には前世の記憶というものがあった。前世の俺は、彼女の入婿として侯爵家に入った貧乏伯爵家の出だった。
だが、彼女との結婚生活は甘々しいものではなかった。俺が悪いのだ、当時付き合っていた女性と別れることができなかったから。だから彼女も呆れて、他の男と遊ぶことが増えたのだ。
でも、俺は自分の間違いに気づいてしまった。彼女がどれほど魅力的で、愛おしい存在だったのか。
けれど、その間違いに気づいた時には既に遅かった。彼女は物言わぬ骸となっていたのだから。
「あはは、ごめんよ、エレノア。でも、君のためでもあったんだ。実際スッキリしただろ?王妃からも、いーやな教育からも逃げられたんだ。それにあの様子じゃ、王太子殿下は側室を置いていただろうし。そんなの嫌だろ?」
「笑わせてくれるわね。私と結婚したにも関わらず、下町の娘との関係を続けていた貴方がそんなことを気にするなんて…もうほうっておいてよ。貴方にとって私がどうなろうが関係ないでしょ。そんなに私が憎かったの。」
色々失敗した。1番の誤算は俺の仕業だと見抜かれていたこと。それさえばれなきゃ例え俺がハーロックでも、もう少しマシな対応をしてくれた気がするんだけど。仕方ない、ここは一旦引くか。
「分かったよ、エレノア。でも最後これだけは言わせてくれないか。俺は後悔してもしたりないくらい君を愛していた。それに気づいたのは君を失ってからだけど。だからもう一度やり直したいんだ。」
「…信じられるわけないでしょ。今更。」
「今はそれでいいよ。先は長いからね。あと、影からひっそりついていくくらいならいいだろ?」
「あ、ハーロック!」
とりあえず今はこれでいい。俺の気持ちも伝えられたし。
という訳で俺はストーカー紛いの行為を始めるのだった。