第3話 依頼を受けようか。
泣き疲れてそのまま寝てしまったのか、俺はドアの前で朝を迎えていた。腫れぼったい瞼を擦りながら、昨日の事を考える。
パーティーをクビになった。これは、後方支援職の自分にとっては死活問題となりうる。俺がいくらCランクでも、自分一人で倒せる魔物のランクはせいぜいCランクだ。個体によっては厳しいかもしれない。
俺が前衛もいけるタイプだったらまだしも…。いや、戦える時点でパーティーを追放される事なんて無いのか。
ウンウン唸っても、中々いいアイデアが出てこない。今まで貯めてきた金があるから、すぐに生活に困るという事は無いだろう。しかし、俺一人の力で稼げる金額なんて、たかが知れてる。やはり、すぐにパーティーに入れてもらうしかない。
だが、昨日の今日で俺をパーティーに入れてくれる人なんているだろうか。宿屋の前でクビにされたから、あの光景を見ていた冒険者達も多いだろう。なにしろ『Aランクパーティーにクビにされた無能ブースター』を誰が欲しがるのだろう。
どんどん悪い方向に考えてしまいそうになる。昨日も思った、「生きる意味なんて無い」という考えが頭をよぎる。そうか、それならもういっそ……。
クウゥゥゥ……
頼りない俺の腹の音にハッとする。昨日は夕飯を食べていなかった。そうだ、腹が減っているから気が沈んでいるんだ。そうに違いない。
朝食を取るために、俺は街に出た。宿屋の食堂という手もあったが、元メンバーに鉢合わせする可能性が高いため、外で食べる事にした。
日が登って間もないというのに、街は活気で溢れていた。近くに漁場と牧場があるから、そこで働く人達が集まっているのだろう。
露店が並ぶ大通りをプラプラと歩いていると、露店の主人に呼びかけられた。
「よっ、そこのお兄さん!今朝採れたばかりの新鮮魚介を使ったハイラール食べてかない?三種盛りは750ベンス、五種盛りは1340ベンスだよ!」
「えぇっと…うん、そうだな。三種盛りを頼むよ」
「まいど!」
パパッと作られたハイラールを受け取り、750ベンスを手渡す。また来てくださいね〜、という声を背にし、近くの噴水に腰掛ける。
ハイラールはこの街の名物の一つで、小麦を平べったく焼いた生地に野菜や魚介、ソースなどを乗せ、そのままクルクル巻いていく料理だ。片手で食べやすく、アレンジもしやすいため、多くの店がハイラールを出している。店によっては、具材が肉になっていたりもする。
赤身の魚がたっぷり入ったハイラールを齧る。魚の濃い味と酸味の効いたソースがとても美味しい。食べ進めていく内に、頭も少し落ち着いてきた。
死ぬのは良くない。うん、そうだ。とはいえ俺の稼ぎでは、じきに飢えて死んでしまう。
とりあえず、ここでゴチャゴチャ考えていたって仕方が無い。ギルドに行って依頼をいくつか受けよう。
残っていたハイラールを頬張り、ギルドへの道を急ぐ。
ギルドが営業し始めたと同時に依頼を受けたから、なんとか割のいい依頼を受けられる事ができた。常設依頼の薬草狩りと臨時依頼のゴブリン隊殲滅だ。ゴブリン隊の殲滅は、Dランクの冒険者でもパーティーを組めば楽にこなせるのだが、報酬がものすごく良いのだ。それというのも、ゴブリンが村でも作り始めたら手が付けられなくなる程増えてしまうからなのだ。
早速俺は近くの森に足を運んだ。確か薬草は森の浅い所に、ゴブリン隊は中ほどに生息しているはずだ。
指定の薬草を採取しながら、さらに深い所まで進む。途中、出て来た魔物を剣で切り裂く。浅い所にいる魔物位なら、俺でも難無く倒せる。他の魔物に血の匂いが気付かれないように、手早く解体する。解体したものを袋に入れ、先に進む。
大丈夫、まだ俺の力で倒せる。
ガキイッ!!
「うっ!」
間一髪、魔物の牙を剣で受け止める。危なかった、もう少し反応が遅れていたら殺されていた。
俺の目の前にいる狼型の魔物がこちらをジッと見つめている。睨み合いが続き、先に動いたのは魔物。俺に向かって飛びかかってくる。そこに剣を突き出し、魔物を串刺しにする。一瞬の呻きの後、絶命する魔物。なんとか勝てた。
この魔物もそうだが、出て来る魔物が強くなった気がする。このまま進めば、ゴブリン隊にやられる前に死んでしまう。
「……ブースト、するか。」
「…武の神ストライドよ、我、願う。主、力与えんとすを!」
…やっとブーストをかけ終わった。ブーストの効果ごとに詠唱を変えないといけないから、とても時間が掛かる。纏めて詠唱出来るようになんないかな、と思いながらいつも詠唱している。
さて、ブーストの効果は30分しか持たないから、早めにゴブリン隊を見つけよう。