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第2話 楽しかった一時

 やっと街に着いた。途中、俺の怪我のせいで予定とは大幅にズレての到着となってしまった。しかし、こうして無事に街まで辿り着けた事には変わりない。足でまといだ、って途中で置いて行かれる可能性もあったわけだし。

 俺はいるかも分からない神に向かって一人感謝しながら、身体検査を待つ列に並んだ。





「はい、こちら商品のカプセル回復剤60錠ですね。毎度ありー。」


 宿屋を取った後、俺達は街の中を自由に散策する事になった。俺は真っ先に薬屋に行き、カプセル状の回復剤を買い溜めておいた。瓶入りの回復剤より値が張るが、その分持ち運びがしやすい。それに、空になったガラス瓶は販売していた店に戻さないといけないルールなので、住民はともかく俺らみたいな冒険者にとってはガラス瓶が邪魔で仕方が無い。無限に持ち物を保有できる訳では無いため、こういった錠剤の薬が重宝されているのだ。


 早速、さっき買ったばかりの回復剤を口に含む。すると、じんわりと身体の内から暖かくなる感覚が広がった。治癒の様にすぐ治る訳では無いが、効果は治癒に匹敵する程だ。多分二、三時間じっとしていたら宿に戻る頃にはすっかり治ってしまっているはずだ。


 近くの屋台で昼食を買い、広場のベンチに腰掛ける。さて、これから何をしようか。

 モグモグと口の中に肉挟みパンを押し込む。肉挟みパンはこの街の名物だ。牛や豚、鶏などの家畜の肉は勿論、オークや炎トカゲなどの魔物の肉も入っている。様々な種類の肉が入っているから、味が喧嘩してしまうのでは、と思っていたがこれは美味い。それぞれが喧嘩せず、かつ味が劣らない具合に盛り付けられた肉と、ソースも程よく酸味が効いていて美味しい。


 肉の美味さに舌鼓を打っていると、不意にある考えが頭をよぎる。


「そうだ、冒険者ギルドに行こう」





 冒険者ギルドの掲示板に貼り出されている依頼書を見ていく。薬草採取、ゴブリン退治、ドブ掃除…。流石に午後はめぼしい依頼は無いか。

 いや、俺は依頼を受けるためにここに来たんじゃない。

 依頼書が貼られている掲示板を後にし、もう一つの掲示板を見る。そこには、炎攻撃魔法入門講座、錬金術講座、魔法陣入門講座など、ギルドで受けられる講座が張り出されていた。


 冒険者ギルドは仕事の斡旋の他に、冒険者業で役立つ技術を習う事ができる。しかも、地域によって講座の内容が違っていたりするのだ。だから、俺は街に行くとほぼ毎回講座を受けている。

 講座を受ける事で今まで知らなかった事を学べるし、なにより命を守る(すべ)が増える。俺みたいに攻撃特化型じゃない職業では、こういった知識があるのと無いのとでは生存確率にグンと差が出てしまうのだ。低ランクなら尚更。

 そのため、少しでも生き永らえられるようにと、皆こぞって講座を受講しに来る。


 他の受講希望者達と一緒に掲示板を見ていく。


 さて、今回はどんな講座を受けようか。





 いやぁ、今回の講座は良かった!


 結局俺は受付のお姉さんにオススメしてもらった、魔法陣応用講座を受講した。他の街には無い技術がいっぱい詰まっていますよ、と言われたのだが、本当に素晴らしい技術が詰まっていた…!

 効果が高い魔法陣をいくつか教えてもらっただけでなく、複雑な魔法陣の構築方法も丁寧に教えてくれた。今回主に学んだのは、身体防御の魔法陣だった。複雑な構造で、何回も何回も失敗したけれど、なんとか完成する事ができた。

 試しに魔法陣で身体防御を自分にかけたら、講師が飛ばしてきた炎魔法を弾き飛ばす事に成功した。ただ構築が甘かったのか、一回防いだだけですぐに効果が無くなってしまったけれど。


 今回創った魔法陣が描かれた紙を魔導書に写す。魔法陣は、紙に描いた魔法陣を使用したいと念じるだけで発動する、優れものだ。しかし、創った魔法陣を一枚一枚持ち運んでいたら不便だ。

 そのために魔導書がある。魔導書は魔法陣を写すだけではなく、上書きもできるのだ。


 昔は魔導書は貴族のみ手に出来るものだったのだが、今となっては庶民も、ましてや貧民でさえも気軽に手に出来る存在となっているのだ。



 俺は新しくお宝が増えた魔導書をニマニマと眺めながら宿への道を急ぐ。脚の痛みなど、とうの昔に引いている。 

 この魔法陣が使えるようになったら、俺は皆に必要とされるかもしれない。

 そんな淡い期待を胸に抱きながら、道を進む。





「……今、なんと?」

「だからぁ、お前はクビだって」


 代わりにコイツがウチに入るからさ、と俺よりガタイのいい男を見せられる。


 あぁ、やっぱり俺は必要となんかされていないんだな。


 不思議と悲しくは無かった。頭の隅で分かっていたのかもしれない。俺は無能なんだ、不必要なんだ、って…。


 ぼんやりしている俺に構わずにウィリアムは言葉を続けていく。


「あ、パーティー除籍届提出してきたからな。これでもうお前みたいな無能とはおさらばだな!」


 アッハッハと高笑いするウィリアム。そしてクスクスと嘲笑うレベッカにクリス、新しい男。


 クスクス、クスクス。無能、無能、無能!お前なんて、お前なんか、お前の代わりなんて…。


 今まで言われてきた様々な言葉がフラッシュバックする。頭が痛い。目の前がボヤけてくる。


「フランク…」


 心配そうなミゲルの声。ダメだ、今ここで泣き顔を見せたらミゲルが余計に心配してしまう。

 胸中に込み上げてきた思いをグッとこらえ、精一杯の笑顔を作る。


「ミゲル、今までありがとう」


 それだけを告げると、自分の部屋に向かう。パタンと扉を閉じ、そのままズルズルとしゃがみこむ。途端、堰を切ったように涙が溢れた。



 今までの努力は無駄だったんだ。



 俺は、生きる意味なんて無いのかもしれない。

 魔導書、と書いていますが、イメージとしては御朱印帳なんです。

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