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第1話 『ブースター』は要らないのですか?

「ぶっちゃけさぁ、ブースターって要らなくね?」


 その一言に手をピタッと止めてしまう。


「別にお前のブーストが無くても魔物は殺せているし、むしろお前がいるせいでこのパーティーの損失になっているんだよなぁ」


 グイッと酒を煽り、ゲラゲラと笑いながら罵倒してくるウィリアム。


 自分に力が無い事は十も承知なのだから、力無くはは、と笑うしかない。



 ブースター。これが俺…フランクに与えられた【天職】だ。天職とは、13歳になると神から授けられる、自分の適性に合った職業の事だ。勿論、必ずしも天職に就かなければならないという訳では無いのだが、大抵は天職の道に進むのだ。かくいう俺も天職の道に進んだクチだ。


 名前の通り、ブースターは自分や仲間、特別な技法を習得したら武器や防具にもブーストをかけられる職業だ。ブースターは後方支援職だが、戦闘時に自身の能力の上限を超える事ができるため、1パーティーに1人は必ずいると言ってもいい程重要な職業なのだ。ましてや、天職ともなれば普通のブースターと違い、強力なブーストをかける事ができるため重宝されている。


 だから、まだCランクの俺がAランクパーティー【NOIR】に入る事ができたのは俺が天職のブースターだったお陰なのだ。



 けれど、俺はいつもパーティーメンバーの足でまとい。後方で守られながらちまちまとブーストを仲間にかけていく。一人前のブースターは、前線に出て敵を倒しながらブーストをかけているらしい。パーティーが狙うAランクの魔物と俺のランクは離れているため、俺の攻撃が全然通らない。むしろ俺が加わった事で戦況が不利になる事が多いので、やむ無く安全圏で隠れながら支援を行っているのだ。


 そんなお荷物な俺だから、何か怪我をする度に、クレリック(聖職者)のレベッカ・レスターから溜め息を吐かれながら「それ位の傷なら、舐めておけば治りますわ」と治療を拒否され、ヘマをすると剣士のウィリアム・バロウズから「お前はどこまで無能なんだ!」と怒鳴られてしまう始末。自分が使えないのが悪いとわかっているけれど、結構キツい。ブースターとしての仕事だけでなく、雑用もしているのだ。


 そして今日も、狩ってきた魔物を解体するという汚れ役をしている。魔物から取れる素材は結構売れるし、たまに体内から出る魔石は小指の爪程の大きさで10万ベンスになるため、できるだけ良い状態で解体しなくてはならない。これが結構集中力が必要なのだ。そんな緻密な作業を飛んでくる罵声にたえながら、1人でこなさないとならない。


 止まっていた手を動かし、浴びせられる罵声に耐える。

 大丈夫、大丈夫。明日にはいつも通り忘れてしまっているから…。だから、今だけ我慢。





「その程度の怪我なら、治癒を使わなくとも良いでしょう?」

「いや、あの、今回の怪我は流石に治癒が無いと厳しいかと…」

「何ですか、貴方の様なグズが私に指図するのですか?」

「…そうですね、申し訳ありませんでしたレスター様」


 フンッ、と鼻を鳴らしながら立ち去るレベッカ。その光景を遠巻きに眺めながらニヤニヤとしているウィリアムとクリス。いつもの事だ。

 魔物との戦闘で傷ついた身体を引きずりながら、解体の準備を始める。解体が終わらないと夕飯は抜きなのだ。地面に布を敷き、その上に大きい魔物を乗せる。


「…っ!」


 ズキリ、と脚に鈍い痛みが走る。今日の戦闘でやられた所だ。傷が深かったのだろうか。止血しているとはいえ、流石に痛みが酷い。生憎、回復剤も切らしている。この事をメンバーに伝えても、どうせ治癒をするなり回復剤を渡すなりはしない。

 後数日で街に着くはずだ。それまでの辛抱…。





「……ねぇ、フランク。大丈夫?」


 俺が夜番をしていると、メイジ(魔術師)のミゲルがやってきた。ミゲルは、いつも俺を気にかけてくれる、パーティー内で唯一の人物だ。ウィリアムらに虐げられている俺を慮って、夜にこっそり食事を届けてくれている。

 俺を庇っている、とウィリアムらに知られたら何をされるかわからないから、こうして夜の間だけ話せるのだ。


「ん?あぁ、大丈夫」

「でも、今日の脚の怪我、相当深そうだったけれど…」


 はい、と手渡されたサンドウィッチを受け取り、がぶりと齧る。美味い。やはり、ミゲルのサンドウィッチは美味しい。


「痛むけれど歩けない程ではないから、街に着いた時に回復剤を買うさ」

「ごめんね、僕が回復剤を持ってたら良かったんだけど…」


 どんどん縮こまっていく年上の男を、慌てて慰める。お前は悪くない、油断していた俺が悪い。

 あまりにも必死な様子に面白くなったのか、ブブッ、と吹き出すミゲル。


「そんなに擁護しなくていいよ。多少は僕にも責任はあったはずだし」


 すっかり普段の調子を取り戻したミゲルは、もうその話をしなくなった。釣りの話、魔術の話、星の話…。ミゲルと夜番を交代するまで、彼と様々な話をした。

 そろそろ交代、という時間になる。時間が過ぎるのは早いな、と後ろ髪を引かれていると、いつになく真面目な顔でミゲルが俺の名前を呼んだ。


「フランク。君は最高のブースターだ。君のブーストが無ければ、今の僕らに今日のような魔物は絶対に討伐出来ていないだろう。…君のおかげで、僕らは今も生きていられるんだ」

「な、に、言って…」

「だから…」

 キッ、と俺を見る。


「だから、君は自分の力を軽んじないでほしい。」





 寝袋に入ってからも、ミゲルの言葉が頭から離れなかった。今まで、自分の力を誰も評価してくれなかった。誰かに認めてほしかった。辛かった。泣きたかった。けれど、泣いたら自分が弱い事を認めている気がして。つまらない意地を張って、一人で抱え込んでいた。


 でも、こうして認められて、俺の中の何かが壊れてしまった。溢れ出る涙を押し殺しながら枕を濡らす。いつぶりに泣いただろうか。最近は辛い事があっても、涙なんて見せなかったのに。


 すっかり泣き疲れてしまい、そのままウトウトとし始めてしまった。多分、今日はいい夢を見られるはず。


「…明日は、良い日になれるかな。」


 重い瞼を閉じながら考える。辺りには薪が燃える音だけが静かに響いていた。

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