第5章 謀の終幕 5-6. 最後に笑う者
「 相談は終わったのか?
大した腕だが、兵はまだ残っているぞ。
選んでもらおうか?此処で死ぬか、タペストリーを渡すか? 」
戦えば損害が大きくなると悟ったのか、クリストフは条件を突き付けてくる。
「 両方断わるって言ったら? 」
「 オライリー・タブナート、君はもっと賢い男かと思っていたが、買い被り過ぎだったようだ。
そこのロザンナ・クロスなんかと付き合ってるうちに頭が悪くなったのかな? 」
馬鹿を言え!タペストリーを渡したら、それこそ殺されるだろう!
「 弩弓兵、前へ!
急所に当てずとも構わん!距離をとって矢を射かけよ! 」
どうやら、少しずつ削る方向に攻め方を変える積りらしい。
じゃあ、此方も戦い方を変えるとするかな?!
「 放て! 」
弩弓から一斉に放たれた矢が僕らを襲う。
だが、それらの矢は、僕らに当たることはなかった。
それまで掌の中で構築していた風魔法が突風を呼び、矢を天井へと巻き上げる。
兵士たちが次の矢をつがえる間に、僕は再び弩弓兵に接近して、次々と彼らの腕を薙いでいった。
命まで奪う必要はない、戦えなくするだけで用は足るから。
「 く、くそ、魔法が使えたのか?!元徴税官風情が!? 」
「 奥の手は最後までとっておくもんでしょ 」
無傷な兵は2人しか残っておらず、終にクリストフと対峙する。
が、彼は、突然、上着のポケットに手を突っ込むと、何かを取り出した。
「 動くな!此れがなんだか解るか?!爆裂魔法を付与した魔石だ。
この屋敷ごと、お前たちを吹き飛ばしてやる! 」
何を言ってんでしょうかね?この王子様は?!
そんなことしたら、アンタまで吹っ飛ぶだろうが!?
彼には、もうそれしか手が残されていないのか、魔石を握り締めたまま、身動ぎさえしない。
粘度の高そうな汗がドロッと流れる彼の顔は、引きつりながらも笑っている。
どれぐらいの時間、そうやって睨み合っていたのかは解らない。
しかし、膠着状態は、思わぬことで破られた。
突然、クリストフの胸から、レイピアの剣先が生えたのだ。
何が起こったのか解らず、クリストフ自身が宙に眼を泳がせている。
「 殿下、お見苦しゅう御座います 」
ゴフッと口から血を吐くクリストの背後から、女性の声が聞こえる。
「 ルクレジア様! 」
マリエルが叫んだ。
あれが、ヴィスコンティ公爵令嬢、ルクレジアなのか?!
クリストフの背後からレイピアを突き立てているが、ルクレジア・ヴィスコンティ・マムルークだった。
「 先程、父が身罷ったと報告がありました。
たかだか3時間程度の夢しか見られないとは、なんて、体たらくなのかしら?! 」
言葉を紡ぐ口唇以外、彼女は全くの無表情だ。
「 殿下だけ逃げるなんて赦しませんよ 」
そう言うと、彼女はクリストフの手から、静かに魔石を摘み取った。




