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第5章 謀の終幕 5-4. ヴィスコンティ公爵邸再び


壁に掛かっていたはずのタペストリーを探し始めて、かれこれ2時間は経っている。

薄暗い中で、警備兵をやり過ごしながらの作業だから、どうしても時間を喰ってしまう。


大広間の間取りは、前後の出入り口用の扉、部屋のほぼ中央にコの字型に配置されたソファ、その前にソファに合った高さのテーブル、そして、部屋の片隅にお茶などを用意するためのもう一つのテーブルがある。


部屋は、壁も床も板張りで、ソファの下には絨毯が敷かれている。

ソファの正面の壁には大きな暖炉が口を開け、その周りだけが舗石で囲まれていた。


ソファやテーブルの下、絨毯の裏側、暖炉の中まで探したが、タペストリーは見つからない。

大広間に隣接する控え室や洗面室の中も確かめたが、何処にもなかった。


「 これは、他の部屋に持っていかれたと考えた方が無難じゃないだろうか? 」


「 公爵か、レティシア様の自室ということでしょうか? 」


「 それも、十分あり得るね 」


僕とマリエルは意見を交わすが、確信的なアイデアは浮かんでこない。


・タペストリーは暖炉の上の壁にかかっていた。


・その場所にかけたのは、無くなれば直ぐに判るからということと、文章は魔法の文字で書かれているので、普段は見えていない。


・書かれた文章は、ヴィスコンティ公爵家とクリストフ殿下が共謀して王位を簒奪する密約で、事ある毎に、両家の交わした約束を再認識する意味も兼ねている。


・密約は、謀反が失敗した際には、クリストフ殿下にとっての致命傷となり得る。


・そして、何故、いま無いのか?


・場所を移す必要性があったのか?


「 整理をすると、そういうことになる 」


「 場所を移す必要があるのかしら ・・・うう~ん!? 」


マリエルとロザンナがそう口にした後、ものすごく深く考え込んで唸っている。

これまでも、この部屋に出入りしている此の2人が思い当たらないとなると、手の打ちようがない。


「 レティシア様の部屋に押し入りますか? 」


「 いや、それは屋敷の衛兵を呼び集めるだけだから得策じゃない。

目的を達成する前に捕まるか、撤収するはめになるよ 」


マリエルの過激な意見を抑え込んでおかないと。

この娘は、その秀麗な見たと洗練された振る舞いとは裏腹に、戦士の魂を宿しているみたいだ。


「 あ、あの、私たちは考え過ぎているのはないでしょうか? 」


突然のロザンナの言葉に、皆、彼女に注目した。


「 公爵とクリストフ殿下の関係に変化はありませんよね?

ですから、タペストリーをかける場所を変える必要はないはずです 」


「 ああ、そうだと思う 」


「 なのに、元あった場所から消えている 」


「 そうよ、いま私たちを悩ませている最も大きな謎よ 」


ロザンナの確認に、僕とマリエルが交互に応える。


すると彼女は、不思議なことを言い始めた。


「 タペストリーの存在自体は、無くなってはいないのではないでしょうか? 」


「「 はあ?現に目の前からなくってるじゃない!? 」」


「 いえ、こういうことです 」


そう言うとロザンナは、部屋の片隅にあるテーブルから、スツールを暖炉の前まで引きずってきた。

そして、スツールのうえに上がると、暖炉の上の壁を手探りしている。


そして彼女は、何かを空間から引っ張り出してきた。

あれは ・・・ 探していたタペストリーだ!?


「 ・・・・・・ 不可視化魔法?! 」


マリエルが呟いている。

そうだ、光学迷彩と同じ原理で、光魔法を応用した姿を消す魔法だ。

そうか!?灯台元暮らしだった。


「ありました。 これで、クリストフ殿下も逃げられません! 」




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