第4章 逆転の法則 4-2. 戦力は整った
「 それでは、マリエル嬢もこちらに手を貸したいと仰っているのですか? 」
「 はい、そうです。元々、私たちが敵対する理由などなかったのですから 」
そう言って頷くエレミエルとマリエルの隣には、ロザンナもいる。
マリエルが、彼女の赦免に協力したのだ。
「 私の実家、リッシュモン伯爵家も、ブラウンズウィック侯爵家と共に、テルシウス殿下のお力になりたいと申し出ています 」
何とも嬉しい申し出だね。
これで、ヴィスコンティ公爵の派閥と戦えるだけの勢力になった。
公爵を追い詰める証拠も、かなり、出揃ってきている。
「 タブナード様、クリストフ殿下はどうされるお積りなのでしょう? 」
マリエル嬢は、ヴィスコンティ公爵だけでなく、クリストフ殿下も断罪されるべきだと言っているのだろう。
しかし、公爵に関する断罪の証拠はあるが、クリストフに就いては状況証拠しかない。
「 クリストフ殿下の罪を確定できるだけの証拠があれば、断罪できるのでしょうが。
殿下は常に、安全な場所に身を置かれているので、いまは、難しいですね 」
いま、僕たちは、グラン・ベルヌ学院のフロスト教授の部屋にいる。
リッシュモン伯爵家のマリエルが、ブラウンズウィック侯爵家やテルシウス殿下の許を訪れると、下手に勘ぐられてしまうからだ。侯爵家やテオは、常に見張られている。
教授のところには、彼女たちの他に、テオやミレーヌも集まってきている。
「 クリストフが関与しているのは明白だ。そして、考えられるのが、奴による王位の簒奪、ヴィスコンティが摂政となり、この国をいいようにする、そんなところだろう 」
皆は、テルシウス殿下の述べる持論に対して、いささかの異論も唱えない。
あの専横ぶりからだと、十二分に考えられることだからね。
今は、特別な被害が貴族にしか出ていないが、民衆の生活が楽という訳でもない。
王位継承を争って内戦になれば、その民衆にも被害が出る。
民衆のための改革が必要だと狼煙を上げ、その為のクーデターというなら未だしも、冤罪をばんばん作りだして政敵を屠っている時点で、彼らの望みが民衆の生活の向上だとは考え難い。
「 ヴィスコンティ公爵の罪を陽の下に曝せば、彼らの力を削ぐことはできる。先ずは、出来ることからやるしかないんじゃないかな? 」
僕自身、クリストフ殿下を断罪できないことに忸怩たる想いはある。
だが、100点を採れる準備ができるまで待っていては、敵に先手を取らせてしまうことになりかねない。
「 殿下、このことは、マニュエル王の耳に入れておかれるのですか? 」
ミレーヌが指摘する。僕も、国王への根回しが必要だとは思うのだが、テオこと、テルシウス殿下の顔色は冴えない。
「 私も悩むところだ。もし、王がこちらの言い分を信じなかったら、証拠そのものを握り潰してしまう可能性もある 」
「 そんな!?御自身の王権が危ないっていうのに?! 」
「 何だかんだ言って、クリストフは可愛い末っ子だからな。
人は、自分に都合の良い情報しか信じない。
問い詰められたクリストフやヴィスコンティが、これは自分たちを陥れる罠だと出張した時、王がどちらを信用するかだ 」
「 王位簒奪まで計画していると疑えない訳か?ならば、ヴィスコンティ公爵の脱税容疑だけになってしまう。
そんなもの、奴が、納税額を間違えていた、これは過失だと言い逃れすれば、大した罪に問われんぞ!? 」
教授の言うことももっともだ。
完全に失脚させられなければ、必ず、勢いを取り戻すだろう。
「 武器を隠したと思われる樽も未だ見つかっていない。ベスティア製の武器と、クリストフがこの件に関与した証拠が必要だ 」
「 証拠というのは、どういった物になるのでしょうか? 」
突然のマリエルの発言に、皆、彼女の方に目を向ける。
皆が、これまでクリストフ側の人間だと思われていた彼女の発言に、多少の違和感を覚えるのも無理はないのかも知れない。
「 私が皆さまの方に就いたことは、未だ露見していません。今なら未だ、ルクレジア様のサロンで情報を採れると思います 」
彼女はそんなことを申し出た。
自らの危険も省みず、クリストフ殿下が悪事に加担している証拠を掴んでこようとは、見上げた覚悟だ。
「 これは未だ、推論でしかないのだが、聞いてもらえるかな? 」
テオがそう言うと、マリエルは、真剣な表情をして頷いた。
「 彼らの計画はこうだ。ヴィスコンティ公爵が、彼の私兵を使って王宮を占拠する。
そして、マニュエル王に、クリストフへ王位を譲るよう強談する。
もしもの時に備えてヴィスコンティは、クリストフから、王位継承に手を貸す約束をしたことを証明する何かをもらっておくだろう。
旗色が悪くなった途端に、彼奴に逃げられては困るからな。
証拠とはおそらく、今の王権を打倒することに賛同する同意書ないし誓約書の類のはずだ 」
「 つまり、書き物という訳ですね? 」
「 ああ、そうなるだろう 」
マリエルの言葉に、テオは強く頷いた。




