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第1章 脱走 1-1. 転生


神とおぼしき存在に転生を奨められ、それに応じた結果が牢獄転生になるとは思いもしなかった。

この世界で気がついた時には、既に牢獄につながれていた。

知識以外の記憶は要らないと言ったから、前世の自分に就いては覚えてはいない。

その代わり、現世の記憶は明確に残っている。


僕は、公爵を殺害しようとして捕らえられた王宮の官吏だったらしい。だが、実は殺人未遂は濡れぎぬで、不正を摘発しようとして逆に相手に嵌められてしまったようだ。

本来は存在しない事件をでっちあげた、公爵からの証拠は不十分だったけれども、家宅侵入やら不敬罪やらが加えられて、大海の孤島に島流しにされることになった。


しかし、前世で死んで転生したら即、詰みって、どんなだよ!?

転生する前の今世の僕は、失意のうちに衰弱して死んだのだろう。身体の肉が削げてガリガリだ。

どうやら、その死んでしまった彼の抜け殻に、前世の僕の魂が憑依したみたい。

一度、衰弱死してるから、結構きつい。精神力で保ってるようなもんだ。


島流しになったところで脱出する積りだけれど、昔観た古い映画のラストシーンのように、大海を木の葉みたいに浮かんで漂うはめになるのは御免被りたい。

やはり、いまのうちに脱獄してしまおう。


僕が今いる牢獄は、廊下側には鉄格子がしっかりとはまっていて、それ以外は煉瓦を積み上げた壁になっている。

収監される際に見た感じでは、両隣も同じような造りの牢になっていて人の気配は感じられなかった。


他の囚人や監獄の役人に、自らの悪事を暴露されたら困ると考えたのだろう。

日に二度の、少量の野菜くずが入っただけのスープを持って来る以外、看守すら姿を見せない。

悪事の全容が誰かの耳に入って、僕を陥れることで揉み消せたものが蒸し返されても面白くないだろうからね。


だが、外に人がいないということは、煉瓦の壁をぶち破っても誰かに騒がれるということもない訳だ。

ただし、隣の牢との間の壁をぶち破ったところで、向こうの鉄格子に鍵がかかっていなにことにはどうにもならない。

この場所は地下室にあるから、奥の壁の外は地面の下だし。

空洞がないか叩いてみたが、壁のすぐ外を排水管が通っていると期待させるような音はしなかった。


奥の壁の天井近くには、鉄格子のはまった小さな窓があって、外からの空気が入り込んできている。

廊下側の鉄格子を破って正面突破するか、奥の壁にある小窓を使って脱出するか、考えどころだね。

隣の牢の鉄格子に鍵がかかっていない可能性が少しでもあるなら、壁をぶち抜いて隣を調べてみるのは悪くないかも。


早速、隣の牢と隔てる壁を叩き、壁が脆そうな場所がないか調べてみる。

転生する際、特典で、剣技全般と魔法全般が使えるチート能力をもらったはずなのだが、魔法は、魔導書を見て覚えるなり、誰かから教えてもらわないと使えるものがない。

剣技に至っては、剣を持ってないから使いたくとも使い様がない。

ほんと、なにげに役に立たないチート能力だ。

だから今の僕は、一発で鉄格子を破ることもできず、地道にやっていこうとしているのだった。


一つひとつ黒ずんだ煉瓦を中指の背で叩き、抜ける煉瓦があれば、そこから壁を崩してく積りで作業を続けていく。すると、突然、壁の向こうからドンッと音がして、続いて、廊下側から声が聞こえてきた。

「 煩いです!静かにして下さい! 」

あれ?隣に囚人がいたんだ?


「 ああ、ごめん、ごめん。煩かったね 」

とりあえず、気怠そうな声の主に謝っておく。

しかし、囚人がいるということは、そっちの牢の鉄格子の扉が開いていることなんてあり得ない。

じゃあ、反対側の壁を調べるか?

そう考えてさっきまで調べていた壁から離れようとした時、再び、隣の牢から声がした。


「 ・・・・・ ねえ、あなた 」

力は強さはないが、何かを求めるような声だった。

「 少し話をしません? 」

今度は、ハッキリとした話し方。どうやら女性のようだ。


まあ、壁の調査は急ぐほどのことではない。島に流されるのは少し先の話だろうし。

折角、お隣さんがいると判ったのだ、少し話をするぐらい構わないだろう。


「 ええ、構いませんけど 」

この体の前の宿主は、王宮の官吏だけあって言葉使いが丁寧だ。

僕もそれに引きずられる。


だが、承諾する旨を伝えたのに返事がなかなか返って来ない。

おいおい、そっちから声をかけておいて眠ってしまったのか?

四半刻が経とうとしているが、いっこうに声がしない。やっぱり眠ってるな、これは。

牢獄生活をしていれば、体は衰弱して精神もおかしくなる。隣にいる奴が不意に黙り込んだと思ったら、実は死んでいたなんてあり得る話だ。


相手の心配をしていても仕方がない。

作業の続きをやりますか。

再び動き出そうとした矢先、ようやく声が戻ってきた。タイミング悪くないか?


「 ごめんなさい、待たせてしまいましたわね。久しぶりに人の声を聞いたら、なんだか、これまでのことを思い出してしまって ・・・・・ 」


牢獄生活のせいなのか、少ししゃがれた声だが、おそらく若い女のものだ。


「 別に構いませんよ 」

「 貴方は、平常心なのですね? 」

「 そう聞こますか? 」

「 ええ、とても落ち着いている 」

「 ああ、一応、極刑は免れましたからね。少しは心に余裕があるのかな 」

そうだ。生きる目標ならある。脱獄と云う目標が。

そして、適うならば、あの大臣の悪事を公の許に曝したい。


「 そう ・・・ でも、私は死刑 ・・・・ 」

おっと、知り合いになった途端、いきなり重たい話になった。

「 何やったんですか?盗み、か、それとも殺しとか? 」

我ながら、デリカシーがないと思う。

でも、知っておきたいじゃないか?声の主が、どんな輩なのかを。


暫くの沈黙の後、声の主は淡々と話し始めた。

「 殺しも盗みもしてない。ただ、質の悪いのに嵌められただけ。でも、もう終わったことだから ・・・・・・ 」

「 嵌められた、か?僕と同じですね 」

「 え?あなたも嵌められましたの?二人とも騙されやすいんですのね 」

「 僕の場合は、騙されたのは僕自身じゃなくて国ですけどね。相手が罪を捏造して、それを国が信じた結果ですよ 」

「 そう、悪い奴がいるのですね 」


そこで会話が途切れた。

二人とも、ただ、嵌められただけの哀れな存在だったということだ。

世の中には色々駆け引きはあるだろう。

僕も彼女もその駆け引きに負けたのだ。


だけれども、僕は、悪人だけが楽しく暮らしている世の中なんか許せない。


「 ねえ、ここから出たくはありませんか? 」

無実の罪で死んでいく人がすぐ側にいる。

そう思うと放っておけなくて、俺は、隣の囚人に声をかけていた。


「 出るって、どうやって出るのですか? 」

「 貴女の刑を執行する日に、一緒に逃げようと思うんですが 」


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