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斬り裂き蟷螂  作者: 緋龍
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蟲の民

流血表現がある話です。

苦手な方はご遠慮ください。

世界があかい。

その極限に紅い世界で、女は雪原の色をしていた。

銀色の長い髪が風になびく。

ガラス玉のような空色の瞳が紅い世界をただ静かに見つめていた。

女は静かに右手の鎖鎌くさりがまを振る。

鎖鎌についていた紅い液体が宙に飛んだ。

女は静かに鎖鎌を見る。

そして満足げに微笑んだ。

そんな女の後ろにそっと忍び寄る影がある。

それは息をせずに女の後ろに忍び寄り女に向かって短刀を振り下ろした。

女はそれをガラス玉のような瞳で一瞬見て、それから切ないため息を吐く。

その瞬間、忍び寄った影がゴボッと音を立てた。

ボタボタと紅い液体が影から落ちる。

女は右手を動かしていない。鎖鎌には紅い液体は一滴もついていなかった。

その代わり。

女の左手には、大量の紅い液体が流れていた。影をつらぬいたのは女の白い手。

女が小さく口を開き影に紅い唇を寄せる。

影が悲鳴を上げ――その悲鳴ごと影は飲まれた。

影が消え去ったのち、女は唇のはしを上げた狂人じみた笑みをその顔に張り付かせる。

女の舌がその唇をなめた。

まるで、何かを舐めとるような仕草。あまりにも鮮烈せんれつであった。

女は静かに、唇を開いて言った。

御馳走様ごちそうさま――影の民よ」


世界は分かれている。

いくつに別れているかなど、知っているものは皆無かいむ

何種類の生物が居るのか、何種類の人種がいるのか、それも分からない。

しかし、ヒトというものは名前がないということに大きな不安を覚えるものだ。

大きく5つに人種は分けた。

一つ目、背に白い翼を持つ明るい薄い色の髪と目を持つ者達、そらたみ

二つ目、背に黒い翼を持つ暗い色の髪と目をを持つ者達、やみたみ

三つ目、何も持たない代わりに素晴らしい技術を持つわざたみ

四つ目、虫のような特徴を持つ、さまざまな能力を持つ者達、むしたみ

五つ目、影に住む得体の知れない黒い色しか持たない者達、えいたみ

世界は今、人種戦争をしている真っ最中であった。

一番優勢なのはむしたみ

彼等、彼女等は戦の民であった。

族長自らが戦に出る蟲の民。一対一では敵うものは居まい。

蟲の民最強の戦士、族長の特徴は雪原の色。

銀色の長い髪と水色のガラスのような瞳を持つ者。

四つの種族は畏怖いふの情を持って、蟲族族長むしぞくぞくちょうの武器と容姿を持ってこう呼ぶ。

戦場に愛された雪蟷螂ゆきかまきりと。


「……今、帰った」

女は自分の種族の領土、森へ帰る。

森の奥には蟲の民の大きな集落があった。

女が帰ると集落のあちらことらからヒトが現れる。

その者達は、いずれも違う容姿をしていた。

背に薄い羽を生やすもの、頭に触覚のようなものを持つ者。飛び跳ねながら来る者もいる。

彼等は、彼女等は虫の特徴を持つ者達、蟲族である。

「ユキイさま!」

ある少女がそんな者達を跳ね飛ばす勢いで駆け出してきた。

その髪は銀色で目は空色であった。

帰って着たばかりの女と容姿が異常なほど似通っている。

その姿を見て、女は苦笑した。

雪威ゆきいさま!」

少女はゆきいに駆け寄ると同時に女に長い防寒用布マントを被せる。

それは、雪色の美しい布地。それは美しい装飾があちらこちらにあしらわれていた。

少女は怒っている、という雰囲気を隠さずに雪威に向かって言う。

「族長自らがお独りで行ってしまうなんて! どれだけ心配したと思ってるんですか!」

少女は隠しようも無い敬意が見え隠れするその声で雪威をなじった。

雪威は苦笑を隠さずに少女の頭を撫でる。

「すまない、しかし帰ってきただろう?」

静かに雪威は謝り、しかし言い訳のように言った。

それを聞いて少女の眉尻が上がる。

「当然です! これで帰って来なかったならば皆で世界を呪いながら自害するところですわよ!」

少女が雪威を叱るように叫んだ。

また雪威が苦笑する。

「自害は、困るな」

雪威は民全員を見渡そうとあたりを見渡した。

そして欠けていない事を確認し安堵の笑みを浮かべる。

それを見て少女は眉尻を下げた。

「……これからはりて、お独りで行かないで下さい……せめて私を、連れて行ってください」

その囁きは低く、雪威のそれと良く似ている。

声色だけでなく髪の色、長さ、そして目の色、身長に至るまでそっくりであった。

「気をつけよう、ヒイラギ」

柊と呼ばれた少女ひいらぎは小さく「そうして下さらないくせに」と言い下を見つめる。

それを聞いて、雪威は何も言わなかった。

柊は諦めたような笑みを浮かべながら口を開く。

「否定なさらないのですね」

雪威は取り囲む民を見渡し微笑んだ後、下がるように指示した。

民は名残惜なごりおしそうに各自指示した瞬間散っていく。

残っているのは雪威と柊だけになっていた。

それを満足そうに見て、雪威は柊に苦笑しつつ言う。

「連れて行けないかも知れないからな」

その声は低く、凪のように穏やかだった。

それを聞いて柊は諦めたようにため息をつく。

「貴方さまは、蟲族の、雪蟷螂ですものね……。貴方がもし、他の、そう天道虫てんとうむしあたりであったなら――」

柊の目線の先には幼子。

その頭は黒く、紅い羽が生えている。

近年生まれた天道虫の一族の幼子おさなごであった。

柊はじっとその幼子を見ている。それを見て雪威もそれにならって幼子を見た。

しかし、見る意味が違う。

戦時せんじでも子供は生まれる。愛すべき、私の民たち。私は民を守る為に生まれた。私はその為の力を持てる蟷螂であったことを誇りに思っている」

静かに雪威が言った。

その腰には鎖鎌が二つ。

戦うための力。美しい銀色の髪。

ソレは蟷螂そのもの。蘭科の花に擬態ぎたいするハナカマキリのようだった。

美しい族長を見て、柊はため息をつく。

「しかし、族長は守られねばなりませんわ。そのために私がいます」

柊はその容姿の相似を買われてそうなるために育てられた雪威の影武者であった。

しかし並べてみれば二人はそんなに似ていない。

戦う雪威と比べて柊は女らしすぎたのだった。

しかし、雪威はそれで良いと思っている。

「私は柊を危険な目にはあわせたくないのだが」

雪威はゆっくり歩みだした。

柊がその後を追う。

「それが私の役目ですわよ?」

雪威は淡々と歩き柊は小走りで雪威に付いていった。

軸は一緒でも、戦う者とそうでないものの差は大きかったのだ。

雪威はそれを見ても速度を緩めない。

そう昔柊が望んだからだった。

「それでも、だ」

雪威は自分の家、他の蟲族むしぞくの家よりもはるかに大きな屋敷の中へ入る。

柊は少し迷ったようなそぶりを見せた。

しかし、先に中に入った雪威が手招きしたので続く。

「雪威、さま」

困ったように息を切らしながら柊は言った。

「それは、私がらないと言う事ですか――」

それは、柊にとってあまりにも酷過こくすぎる話であった。

柊は雪威の危険を回避するために今まで育ってきたのだから。

雪威は何も言わず進み続ける。

そして一番奥の部屋まで来ると、部屋に座った。

柊も雪威がそう示したため、それに倣う。

雪威は黙って部屋の端から紙を取り寄せた。

そしてそれを指差す。

柊は雪威が差す場所を見つめた。

「どう思う?」

雪威が小さく問う。

柊は雪威が言わんとすることを感じ取り小さく息を呑んだ。

「此処で、えいたみやみたみの小一隊と戦闘した」

雪威が差した場所は、闇の民の国と影の民の国の境。

そして二つが争わず全てが雪威に向かって向かってきたという事実。

それが差すことはつまり――――。

「手を、組む国が現れたのですね」

それは、由々《ゆゆ》しき事態である。

顔をしかめ雰囲気が改められた柊を見て雪威が微笑した。

「な、なんですか?」

その笑顔にあてられ柊がひるむ。

滅多にこの蟲族女族長は微笑まないためであった。

そんな柊を見て雪威は苦笑しながら言う。

「私は、柊を要らないと思ったことはない。適材適所が望ましいだろう? 教えてくれ」

柊は戦えない。

しかし、彼女は頭が良い。

「……雪威さまは、ヒトを喜ばせることが上手うまいので、ずるいです」

危険な目にはあうな。

その代わりに戦略などを内で私に教えてくれ。

そう雪威は柊に遠まわしに言っているのだった。

柊はこの女族長を崇拝すうはいしていた。

柊はいすまいをただし、綺麗に一礼する。

おおせのままに、我が主上しゅじょう


戦争が酷くなる気配が静かにこの国をまとい始めていた。

ルビをつけてみましたがー、どれくらいつければいいかわかりませんね。

神の物語の方の主人公は明るいので、たまにはこんな主人公もいいな、って思ってます((笑

可愛いです、雪威。

ちょっと今頭痛いですねー。

雪威の方に頭痛がいかないことを願いつつ。

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