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5.ただいま転生渋滞中につき その2


「はぁ~ぬくいわぁ」


「ご満足いただけて光栄でございます」


真哉の能力により突如として不自然に出現した炬燵で暖をとる二人。


男はというと、正座をしながら電源コードを鼻に突っ込み、


「……ピコピコ」


…彼からは不測の事態にも動じない強さを感じる。


「はっ! こんなことしてる場合じゃないじゃない!」


突然我に返った女神は、真哉にこれからの説明を始める。おこたの中で。


「なるほど…つまり僕はこれから『スカイワールド』と呼ばれる異世界へ転生される訳ですね」


「そうよ。スカイワールドは7つの種族が存在する世界。そこでは魔物たちが跋扈し、憎き魔王が牛耳ってるってわけ。あ~思い出すだけでも吐き気がする…うぇ」


「仮に魔王を倒すことができたら、僕はどうなるのでしょうか?」


「今まで誰も倒せなかったから、私はずっとこんな損な役回りをさせられているわけだし…何とも言えないわ。倒した時点でここや私は消滅して、貴方は元の世界に戻れるかもしれない」


「…なるほど。女神様は魔王のために生まれ、魔王と共に去る…という訳ですね」


「そう言われると何だか私まで悪役になった気分だわ。あ、どうも」


いつの間にか蜜柑をスキルによって生み出し、女神に献上する真哉。甘くて美味しい。


「だからしゃ、んぐ。もぐもぐ…。あんたの冒険はまだ始まってないってことなのよ。わかる?」


「ええ! 腕が鳴りますねぇ!」


意気込む真哉とは裏腹に、鼻に異物を突っ込んだ男は完全に蚊帳の外であった。綾人ならぬ蚊帳人。


「いいわねそれ!蚊帳の人だってウケる~。ぷーくすくす」


「一応、彼も女神様から恩恵を受けた人なんですよね?スキルは強奪?…いや、電気を操るといったところですか」


「板切れを充電できるだけの、ただの屑よ」


「へ、へ~。ゲーム機を、ね。変わったスキルを与えられたのですね」


実は自分から所望したのだと聞いても俄かに信じられない真哉なのであった。


「え、まじ?アホなの?」


「はいはい、用済みのコイツは置いといて。あんただけが唯一の希望なの。魔王を倒す、ね!」


「わかりました! 必ずや魔王を討ち滅ぼし、世界に平和を取り戻してみせましょう!誰でもなく、女神様、貴女の為に!」


「そうそう!そういう反応が欲しかったのよ~。頼りにしてるわ、真哉!」


「で、僕はいつ転生されるのですか?」


「そうだったわね、じゃあ行くわよ!準備はいい?」


「はい!」


そう言って女神は真哉の頭に手をかざし、何やら唱え始める。これが転生の儀式なのである。ほのかな光が発生したかと思えば、それは瞬く間に大きくなり…


「……ごくり」


緊張と期待の瞬間。喉を鳴らす真哉。恐らくこれから先起こるであろうやましいことを考えているに違いない。


「我らが神、太陽神の名において、かの者を導きたまへ!」


眩しいほどの光に包まれる真哉。


【エラーコード423 直ちに転生を中止してください】


【エラーコード423 直ちに転生を中止してください】


「えっ!?」


どこからともなく響き渡るアラート音。ビビった女神は手を引っ込めてしまう。


「ど、どうかされたのですか、女神様?」


「え!わかんない分かんない!何がどうしてこうなった!?」


原因不明のアラートは暫くして止んだが、二人の焦りは収まらない。


「何なのよもう!こんなこと今までなかったのに…どうして!?」


「いつもだと、あのまま僕はスカイワールドへ転生されている筈だったんですよね」


「そうなのよ。いつもだとぶわーってなって、ばいばーいってする筈だったのに!」


語彙力の低さを露呈しつつも、懸命に自分に非はないことをアピールする女神。


「だって私のせいじゃないんだもん!絶対!」


「お、落ち着いてください女神様。きっと何か原因があるのでしょう。何か心当たりはありませんか?」


「そんなこと言われたって…」


「エラーコード423……はっ!もしかすれば何かのマニュアルに書いてあるのかもしれません!」


「マニュ…アル?」


「ええ、説明書のようなものです。そういうのはお持ちではないですか?」


「い、いやぁ? 太陽神様からここを任された時には何も…」


言いつつも何かあったのではないか、と必死に思い出そうとする女神。


「何か、分厚い本のようなものだと思うのですが」


「本…分厚い…んんん」


「恐らく、『異世界転生マニュアル』みたいな文字が書かれてあると…」


「あ!」


何かを思い出したのか。悪い予感がしたのはナレーターの私だけではない。


「それってさ…このくらいの?やつ?」


女神が手で本と思われる輪郭を表現する。


「きっとそれですよ女神様!それは今どこに!?」


「……あ~」


大量に流れ出る汗。宙を彷徨う目線。やらかし女神へと降格が決定された。


「もしかして、無くした…とか?」


「……うん」


「お前、作れねーの?それ」


「うわっなんだ君か! いきなり驚かせないでくれよ」


唐突に話に割り込む男。軽く存在を忘れていたのはナレーターの私だけではない筈。


「炬燵作れるんなら、そのマニュアルだって作れるだろ」


「あぁ、僕のスキルのことですね? なるほど。正直その発想はありませんでした」


「そ、そうよ!その手があったじゃない! たまにはやるじゃん蚊帳の外のピコ太郎!」


男の発言は通常ならば荒唐無稽すぎるのだが、今やこの場では男は救世主とも言えた。何事もチャレンジしてみないと始まらない。


「やってみます! …えぃ!」


「その掛け声ってデフォなの?そうなの?」


するとどこからともなく、一冊の本が生まれた。驚くべきことに成功してしまったのである。


「真哉すごーい!あんた有能!」


「やるな、真哉。お前ならできると思っていた」


「いやいや、君がいてくれなければできなかったさ。僕からも感謝したい」


ここに新たな友情が芽生えたのであった。


「ちょっとそれ、貸してくれる?」


早速マニュアルを開き、該当部分を探すやらかし女神。果たして汚名返上はできるのだろうか。


「これで僕が転生できなかった原因がわかりますね」


「それで何て書いてあんだ?」


全員が固唾を飲み、元女神(現やらかし女)をみる。


「えーっと、じゃあ読むわね」


「エラーコード423。転生が正常の順番で行われなかった可能性があります。再度規則に従い、転生の儀を行ってください。なお、それでも転生されない場合は異世界グループお客様相談センターまでお申し付けください」


……あーね。


「ちょっといいかしら? あ や と サン?」


静寂の中、炸裂音と共に男は儚く散ったのであった。


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