3.物語は進まない
「ねぇ、いつになったら魔王倒す気になるの?」
女はピコ太郎に尋ねる。だが肝心のピコ奴はゲームに集中しており返事はない。ただの廃人のようだ。
「あんたも変なこと言って傍観してないで一緒に説得しなさいよ!」
矛先を変えた女は、さもありなんとお得意の理不尽さを見せつける。
「はぁ? 理不尽なのはコイツでしょ!? 私は頑張ってやってるのに…!」
どちらが理不尽なのか。ナレーターの私には分からない。
「てかさー。ずっとゲームなんてしてて飽きないの?それ」
返事のない廃人は返事がないので、女は男の握られている板を覗き込む。
「私ゲームとかよく分かんないんだけど…なんか凄いわね。わちゃわちゃしてて」
それを聞いた男は、少し照れつつ鼻の下をかく。
「へへっ」
「キモ。褒めてないし」
「……」
唐突のツンデレ属性の開花に驚きを隠せない男。
「おいそこ!デレてない! 私には分かんないけど、きっと世界の危機よりも、自分の身の安全よりも優先しなきゃいけないことってことよねー?」
ゲームに対して興味という感情が芽生え始めた女。しかし内心ではカケラも思っていないのだろう。女はそういう女だ。そしてポキポキと指を鳴らしている。暴力はいけない。
「そんなに気になるんなら、やってみるか? ま、お前には無理だろうけどな」
男は女をバカにしながらも満更ではない様子で女にゲームを渡す。きっと興味を持ってくれたことが嬉しかったのだろう。男のツンデレなぞ見たくない。
「引っかかったな!馬鹿め!」
男からゲームをひったくった女は、手に取るなり速攻で床に向けて叩き割ったのだった。
「…ぬぅおおおおおおお!!!」
今度は男の叫びが響き渡る。
「へっへーん。これで魔王退治する気になったでしょう!さぁ潔く転生されなさい、綾人!」
「……」
男の哀しみはいかほどのものか。想像もつかない。怒り、憎しみ、悲しみ、裏切り、絶望…。その全てが一瞬にして男の感情を支配していた。
「あ、あんたが悪いのよ!こんな変な板切れでずーっとずーっとピコピコしてさぁ! やる気あんの?魔王退治する気あるの!?」
女に悪気はない。あるのは意味不明な言葉だけだ。
「…くっ…ククク…あはっ…あはははは!!!」
突然大声で笑い出した男。完全にラスボスが第二形態に移る予兆である。
「何よ、文句でもあるってゆうの?文句あるなら魔王倒してから言いなさいよ!このヘタレ!無能!」
罵倒を浴びせる女と笑い続ける男。まさにカオス。誰か助けてください。