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20.解決への一歩


「…なんだよ急に」


翌日、女の呼び出しにより、4人はリビングに集まっていた。


大事な話がある、とだけ知らされているが何の話なのかはわからないでいた。


「みんなそこに座ってくれる?」


「あ、お茶は必要ですか?」


「そうね、真哉くんお願いできる?」


「だから話ってなんだよ」


「凛ちゃん、私の隣にくる?」


「…ここで、いい」


「おい!無視すんじゃねーよ!」


「無視してる理由があるのよ、そのくらい分かりなさいよ」


「はぁ!? んだよっ!」


「まぁまぁ落ち着いてください。はい綾人くん」


真哉が全員にコップを配り終わり、着席する。




「まず…」


女が口を開く。


これからどんな話し合いを始めると言うのか。彼女の次の言葉に3人は耳を傾ける。


「みんな集まってくれてありがとう。でも最初に言わないといけないことがあるの。綾人」


「なんだよ」


男は視線をそらしたままぶっきらぼうに尋ねる。


「昨日は、その…ごめんなさい」


女が口にしたのは謝罪の言葉だった。


このたった一言の中に、どれだけの想いが込められているのか。誰もが思ったことであろう。


そしてその言葉を投げかけられた男の反応はいたっていつも通りであった。


「やっぱりテメーの仕業かよ」


だが今回は一味違う。


「そうよ。私なりに考えての行動だったの。反省はしても後悔はしてないわ」


女は正面からぶつかり合う気である。その覚悟を持った答えであった。


「…あぁそうかよ」


「僕からも綾人くんに謝りたい。君のゲームを故意に壊したのは僕なんだ」


続いて真哉も謝罪に加わる。


「それに、スキルを使えなくなったというのも…ごめん」


「……」


男は反応を示さない。


いつもならここぞとばかりに他人を責める男だが、二人の作る正体不明の雰囲気がそれを止めていた。


「あなた最初に言ったわよね。ここで私たちだけの楽園を作らないかって」


「だからなんだよ」


「あなたの気持ち。正直わからない」


「……」


女には男の気持ちが分からない。分かりようもない。


「だから、知りたい。分からないから。知りたいのよ」


女の素直な進言に、男は何も答えられないでいた。


ここはあまりにも未知なことが多すぎる。


ここはどこか。


神とはなんなのだ。


俺は誰なんだ。


お前は何を考えているのか…。



人は未知だとわかった途端、知りたくなるのだ。


知らないことは、恐怖そのものだからである。


知らないということは、死へと直結するからである。



「だからなんなんだよ。俺に全部打ち明けろっつーのかよ」


「ううん。ただ、ここにいる皆となら、ちゃんと向き合って、ちゃんと話せ、たらって…」


向き合って…。と自分に言い聞かせるように呟く。


「俺は世界の救済なんてからっきし興味ねぇんだって」


ため息をつき、男は言い放つ。


「それは知ってる。でも私にも使命がある。役割があるの」


「じゃあどうすりゃいいっつーんだよ!何も変わらねぇじゃねーか!」


「だから話そうって言ってるのよ!ほかにも別の方法とか…あるかもしれないじゃない!」


「別のって何だよ!マニュアルにはそんなもん書いてなかったんだろ!?」


「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。ここは建設的に議論しましょう」


熱くなりかかる二人を真哉がなだめる。


「凛さんはどう思いますか?」


そして凛に振る。が、


「……」


彼女は先ほどから俯いたまま、口を開くことはなかった。


「お前もなんなんだよ…何も言わねーでどうやったら建設的な議論ができんだ!?教えてくれよおい!」


「……ごめん…なさい」


「やめて綾人! 凛ちゃんだって今、必死に悩んでるし考えてるのよ!」


「おい真哉。スキル使えんならゲームくれよ。後は3人で楽しくお喋りでもしてるんだな」


男は立ち上がり、真哉の方へ近づこうとする。


「…んだよ」


だが真哉も同様に立ち上がり、男をジッと見つめる。


男よりもやや身長の高い真哉。何も語らないが、目で伝えようとしていた。


「チッ…わーったよ。座りゃいいんだろ座りゃ」


それを見た女は、ゆっくりと凛の傍に寄り、肩を揃えた。


「んだよ。俺が悪いってのかよ」


「ありがとう綾人くん。座ってくれて」


「で?なんだ? そんなに楽園が気に食わねーのか?」


痺れを切らした男はつっかかるように言い放つ。


「ちがう。ちがうの…」


「なにが」


「こんなこと言いたくないけど。本当は私も分からないのよ」


振り切れんばかりに首を振る女。


「だから何が!」


「だって! だって楽しいのよ!みんなとバカみたいにふざけて、一緒にご飯食べたりして…楽しいから。楽しいから分からないのよ!」


女は叫んだ。


「楽しいならいいじゃねーか!何が分からねーだよ!」


男も叫んだ。


「楽しくしちゃいけないのよ!じゃないとずっとこのまま…!世界を見捨てることになるじゃない!」


実に女神らしい言葉である。


「あんたも私の気持ち分かりなさいよ!どんだけ辛いと思ってるの!?なんでこんなに…こんなに胸が苦しくなくちゃいけないのよ…!」


喉にこみ上げてくる痛烈な想い。理解されない苦しみ。


その頬は微かに湿っていた。




「……みんなごめん」


ぽつり、と沈黙の中で微かに声が聞こえた。


「凛…ちゃん?」


隣にいた女が最も明瞭に聞こえたその言葉に、思わず聞き返す。


「みんなに言わなきゃいけないこと、ある」



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