19.二人と一人と一人
「女神様。…これからどうします?」
「そうね。あそこで凛ちゃんが止めに入ったのは全く予想してなかったわ」
「えぇ。凛さんにも先に作戦のことを伝えておけばよかったですね」
「もう同じ作戦は通用しなさそうだし…。本当に、どうしようかしら」
「夕食後にでも、凛さんに声をかけてみますか?」
「……そうね。そうしましょ。私たちだけで考えてもね」
凛は自室に閉じこもっていた。
大好きなぬいぐるみを抱えて、今朝の出来事を反芻する。
「なんであんな事、言っちゃったんだろう」
勢い余って、皆の空気を遮ってしまった。
私の一言で、その場の空気を凍らせてしまった。
私のわがままが、綾人を怒らせてしまった。
……
みんなに合わせる顔がない。
私は嫌われた。絶対。嫌われた。
コンコン。
「凛ちゃん? いる?」
「……っ!」
女神の声!なんで!? いや、理由は一つだけど!
どうしよう、怒られる!絶対怒られる!
「夕飯、来ないから心配になっちゃって」
え?
夕飯?
そっか。お腹空いてたの、すっかり忘れてた。
「今は食べたく、ない?」
食べたい。けど……食べれない。
「……」
「…凛ちゃん?」
どうしよう。どうしよう。何か応えないと。
でも、声がでない。怖い…。
「後で持ってくるから、食べられたら。ね」
女神、行っちゃったじゃん…。
凛の--私の、バカ。
真哉が作った豪華なダイニングテーブルではなく、それまで使っていた簡素なちゃぶ台に食器を並べる。
女と真哉だけの夕食だった。
「はは…こう見ると不思議と懐かしいわね、このちゃぶ台…」
「ええ。あのテーブルは二人には大きすぎますね…。ささ、食事にしましょう。二人だけですが…」
凛に声を掛けた女だったが、返事が無かったので後で諦めて戻ってきたのだ。
真哉は謝罪と共に、男に夕飯ができたことを伝えに行ったが、こちらも拒否。
「綾人、怒ってた?」
「まぁ…はい」
「…やっぱりそうよね。はぁ…」
「綾人くんには悪いことをしてしまいました…」
「真哉くんは悪くないわよ。変なこと思いついたのは私だし、ってそもそも転生しないアイツがっ…!」
「……」
「…はぁ。もうわけわかんない」
二人並んで食事を摂る手が止まる。
目の前に並ばれているのは真哉お手製のビーフシチューである。
カチカチと食器が擦れる音だけが反響していた。
「それにしても、広くなったわね…ここ」
吹き抜けの天井にはシャンデリア。
大理石の床に、豊かな装飾の暖炉。
四人でも十分すぎるダイニングテーブルには、座る者がいないイスがいくつも置かれている。
「そういえば、僕たち以外の人はもう来ないのでしょうか」
「……さぁ。私に聞かれても」
「そうですよね…すみません」
「……」
一方、男はと言うと、自室のベッドの上で天井を眺めていた。
「……チッ」
ゲームはあるにはある。
だが、そんな気にはなれなかった。
「うぜぇ」
一人悪態をつく。誰に対してでもなく、ただ沈黙から逃れるように。
声を出していないと消えてしまいそうだった。
あいつらは俺のことを恨んでいるのだろうか。
いや、俺は悪くない。俺だって嫌な思いをしている。
「クソッ」
全てはあの女のせいだ。いきなりこんなところに呼び出しやがって!
マジで腹が立つ。
やってらんねー。
「……」
凛は?
さっき、なんであいつは俺をかばったんだ?
どうせ俺のことからかって遊んでるだけなんだろ。
今頃3人で俺のこと笑って…。
糞だな……俺。
「…ゲームでもすっか」