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17.北風と太陽作戦


「ねぇ真哉くん。ちょっといいかしら?」


ある日の午前。女は神妙な面持ちで真哉に声を掛けていた。


「ええ。どうしましたか?」


「ちょっとね。ここじゃなんだし、向こうで話さない?」


顎でキッチンの方向を示す女。真哉は特に疑問を持たないまま同意し、移動する。




「綾人のことなんだけどさ」


そう切り出す女。


「綾人くんのことですか?」


「うん…。わたしね、考えてみたの。どうやったらアイツを転生させられるかって」


そう。女は諦めていなかったのだ。この物語の主旨はそこにあるので至極当然のことと言えるが。


「えぇ。それで?」


真哉は相槌を打ち、聞き返す。


「わたしはやっぱり、自分の役目を果たさないといけないと思うの。だからどんなに嫌がってても、1人も例外なく転生させないといけない」


「はい。そうだと思います」


「だから真哉くんに協力して欲しいの」


女は自分一人ではできないのだと悟ったのである。こういう状況で他人を頼るというのは、打開への一つの方法である。


「ええ良いですよ?」


「まぁいきなり協力しろなんて虫の良いはなし……え?」


二つ返事で答える真哉に、驚く女。


「本当に…いいの?」


「もちろんですよ。僕も元々は転生したかったので」


またしても笑顔で返事をする真哉に、女は安堵した。


「そ、そうよね! おかしいのはアイツなんだから、なんで女神の私があんな奴のために、こんなに悩まないといけないのよ。おかしいわよ」


すっかり気分を良くした女は、いつもの調子で男への悪態をつくのであった。


「えぇ…まぁ。それで、僕は何をすれば良いんでしょうか?」


「そうだったわね。 真哉くん、北風と太陽の話は知ってる?」


「話自体は聞いたことはありますけど…」


北風は旅人の服を脱がせられなかったが、太陽は脱がせることができた。


手っ取り早く乱暴に物事を片付けてしまおうとするよりも、ゆっくり着実に行う方が、最終的に大きな効果を得ることができる。


また、冷たく厳しい態度で人を動かそうとしても、かえって人は頑なになるが、暖かく優しい言葉を掛けたり、態度を示すことによって初めて人は自分から行動してくれる。という教訓でもある。


「なら話は早いわね。真哉くんにはこれから北風をやって欲しいの」


「なるほど。僕は北風役として彼に厳しくしつつ、裏では女神様が太陽役となって転生を促すわけですね」


「そう。こんなとこに居たくないって思わせれば、さすがのアイツだって転生させてくれって言うと思うのよ」


押してだめなら引いてみろ。女の提案は画期的であった。まさに心理戦である。


「それで真哉くんには、明日から…してほしいの」


女は真哉に作戦の内容を耳打ちする。


「…なるほど。わかりました、やってみましょう」


「くくっ。アイツの困った顔が目に浮かぶわね」


この女神はどこまでも腹黒い。


「女神様は、具体的にはどうされるのですか?」


「わたし? まぁ私は私でなんとかするわよ」


こうして、女と真哉による北風と太陽作戦が始動したのである。




翌日。平和な日常に最大のピンチが訪れていた。


「どういうことだよ!」


血管を浮きだたせ、憤っているのは男である。


「…すみません」


それに対し真哉が謝る。


「真哉くんが謝ることじゃないわよ。こいつが四六時中ゲームなんてしてるから自業自得よ!」


「いえ、でも作ったのは僕ですし…」


「まぁこうなった以上しょうがないでしょう。真哉くんのスキルも万能じゃなかったってことじゃない?」


「いやいやおかしいだろ! 昨日まで使えたのがなんで今日になっていきなり使えなくなってんだよ!」


そう。今朝方、彼が愛用していたゲーム機が軒並み壊れてしまったのである。


「あんたねぇ。だから何で壊れたかなんて知らないって言ってんのよ!」


「ねえ。ドライヤーも、壊れてる」


脱衣所から出てきた凛が発言する。


「え?本当ですか?」


「ボタンおしても、電源つかない」


どうやら男の持っているゲーム機だけでなく、他の電化製品も何らかの不具合が起きていたようであった。


「本当だわ。そんなに使いすぎてはないはずなのに…」


女も試してみるも、確かに電源がつかない。


「申し訳ない…僕のせいだ」


「いや違うね!この腹黒女神のせいに違いねーぜ!」


「ななな何言いがかりつけてんのよ!どこに証拠があるってんのよ!」


「俺の持ってるゲーム機が一夜にして全滅。だが、この引き出しに隠してたゲーム機は…ほら、使えるぜ?」


そう言って隠し持っていたゲーム機を取り出し、電源をつける男。


「た、たまたまそれが無事だったって話じゃない!」


「いいや、明らかに俺を狙った犯行だっつってんだよ!」


「じゃあなに?ドライヤーも私が故意に壊したっていうの? 言っとくけどドライヤーは私や真哉も使うのよ?」


「髪、かわかせない」


濡れた頭にタオルを載せてしのいでいる凛は、不満たっぷりに呟く。


「…申し訳ない」


「ちっ。とりあえず真哉。新しいの作ってくれよ」


犯人探しよりも、新しいものを作った方が建設的だと判断した男は、真哉にそう進言する。


「いや…それがその…」


それを聞いて言葉を詰まらせる真哉。


「はやく。ドライヤーないと気持ち悪い」


「作りたいのは山々なんですが…その」


「あああもう!なんだよ! 早くしろよ!」


「……スキルが使えなく…なったみたいです」



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