16.平く等しく
女は憤っていた。
「真哉~。お腹すいた」
「はいはい。おやつでも何か作りましょうか」
「おい真哉。ゲームパッド新しいの作ってくれ」
「いいですよ。今度は何色が良いですか?」
頭の血管はとうに限界を超えてきていた。いま血圧を測ったら確実にドクターストップである。
「甘いのがいい。フルーツもぐっど」
「それではイチゴのショートにしましょう」
「黒だな。あ、迷彩色ってのもいいな」
「わかりました。迷彩柄ですね」
おいまて。その前に血圧計の方が先だ。女は心の中でツッコミを入れる。
「女神様は何か必要なものはありませんか?」
真哉が尋ねるのに対し、女は淡々と答えた。
「強制労働マシーンでもあればそれがいいわね」
「はぁ…因みにそれはどうしてなんですか?」
「あのニート2人組に仕事させる為によ!!」
そう。一日中何もせず、空気ばかりを消費する2人に女はイラついていた。
「あぁ!?働くだ?ここは日本じゃねーんだぞ!」
「何もしないでいるあんた達を見てると…あーもうっ!無性にイラつくからよ!何でもいいからやれ!動け!」
「ゲームしてんじゃん。手動かしてんじゃん」
「凛は毎日動いてる。綾人とはちがう」
「ゲームは労働じゃないわよ! 凛!あなたはただ動いてるだけ!働くっていうのは、人のために動くと書いて働くなの!」
「人の為って言うならよー。俺は誰にも迷惑かけてねぇぜ? それってつまり、人の為じゃねーか」
「迷惑かけないのは当たり前なの!デフォなの!あんたはまだスタートラインにしか立ってないのよ!」
「凛は真哉の為に動いてる。凛がわがまま言うと、真哉すごい嬉しそう」
「それは真哉が特殊性癖の持ち主だからよ!それにわがままって自分で言っちゃってる!隠す気ゼロか!」
「じゃあ逆に聞くが!? 働いて給料でも出るんですかー?有休とかはあるんですかぁ?」
「出る訳ないでしょ!あんたのパンツ洗ってるのは誰よ!有難く思いなさいよ!主に真哉くんにね!」
「凛と女神のパンツ洗ってる真哉、嬉しそうだった」
「えっ!?うそ!洗濯物はちゃんと分けてるはず…!」
「いえ、余りにも溜まっていたものですから。ご迷惑でしたか?」
「迷惑じゃっ…ないっけどおおおお!! 取り敢えず一発殴らせろ!あと金輪際触るんじゃないわよ!」
女の悩みは尽きないのであった。
……
「と、いうわけで。役割分担をしたいと思います」
4人が机を囲む。議題は家事の割り当てとその分担表の作成である。
「現状、家事の殆どを真哉くんがやってくれているから、皆で平等に分担するべきだと思うの」
「僕は大丈夫ですよ。実際に働いている訳でもないので、時間がありますし…」
「それじゃ真哉くんは良くてもダメなのよ。甘えちゃうでしょ。主にこの二人が」
綾人と凛を指さす女。
「それに、家事だってちゃんとした仕事よ?そういう不平等は良くないと私思うの」
「なんかお前、急に所帯じみたこと言うようになったな。女神のくせに」
「誰が口うるさい姑よ!誰が!」
「俺はパス。別に頼んだつもりねーし。てかパンツくらい一週間は普通穿くだろ」
男は呆れたように立ち上がり、早々と自室に戻ろうとする。
「ペナルティはご飯抜き。異論は認めないから」
「はぁ!?死ねってのかよ!」
「働かない方が悪いのよ。働かざる者食うべからずって言うでしょ」
「凛、掃除とか洗濯やったことない」
「そこは私もだから、真哉くんに教えてもらいながら一緒に覚えましょ?」
「うん」
「んじゃ、飯は真哉。掃除と洗濯は凛とお前ってことで。俺は食べる係な。つーことで終わり」
「あんたね、勇者に寄生する市民を批判する前に、あんたが真哉に寄生してんじゃないわよ」
「正直手伝ってくださるなら助かりますね。空いた時間に読書ができますし」
「ちっ!わかったよ!やりゃーいんだろ!」
「何で真哉くんの言うことなら聞くのよ! なに?あんた達できてんの?そっち系なの?」
こうして男が折れ、家事の分担が決まったのである。男と真哉の関係は…また別のお話。
……
「これで…よし!」
女が作成した手書きの分担表にはこのように書かれていた。
(食事)真哉、女神
(食器洗い)綾人
(洗濯)綾人、凛
(掃除)真哉、凛
(トイレ掃除)綾人、女神
※洗濯物は男女別にすること。
※サボりは食事抜きのペナルティ
※各自の部屋は各自で掃除をすること
「さ、異論は?ある?」
「大アリだこんなもん!何で俺だけ3箇所なんだよ!」
「そんなの決まってるじゃない。あんたが一番仕事しないからよ」
「酷くね!?」
「では僕も食器洗いに入れてはどうですか?」
真哉が立候補する。だが、綾人が言いたいのはそういう意味ではないのだ。
「ちげーんだよ!完全に悪意の塊じゃねーか!俺が何したっつーんだよ!」
「はっ!あんたが何もしないからよ!」
「女!お前だって何もしてねーじゃねぇか!」
「少しは手伝ってたわよ! それにこの分担表を作ったのも私じゃない!」
「凛はどうなんだよ!?」
「凛ちゃんは一番年下だからいいの!」
「むぅ。子ども扱い…嫌い」
「だよな! 俺も凛も平等にしろ!デモだ!ストライキしてやる!」
「あーもう!やかましい! じゃあどうするってのよ!そんなに文句があるならあんたが決めなさいよ!」
男に紙とペンを渡す女。
「…ま、こんなもんだろ」
男が作った分担表はこうである。
(食事)真哉
(食器洗い)綾人
(洗濯)凛
(掃除 トイレ掃除含む)女神
※洗濯物は男女別にすること。
※サボりはおやつ抜きのペナルティ
※各自の部屋は各自で掃除をすること
「適当すぎかよ!もっとちゃんと考えなさいよ!」
「シンプルで良くね?」
「あんたね。食器洗いだけって自分が楽しようとしてるのまる出しじゃない!」
「うるせーな!食器洗いだって労働だろ!」
「それに何よ!トイレ掃除含むって!男子は男子でやってよ!」
「んなもんいいだろ別に。男も女も一緒じゃねーか」
「では、代わりに僕がトイレ掃除をしましょうか」
真哉が立候補する。
「それだけは絶対に止めて!」
「そうですか…」
「なんで残念がるのよ! てか地味にペナルティ変わってるんですけど!?」
「あ、ばれた?」
「バレるわ! もう何なのよ…疲れてきたわ…」
「では、今までの案を総合して、僕が作ってみても良いですか?」
真哉が紙とペンを取る。
真哉が作った分担表はこうである。
(食事)真哉、女神
(食器洗い)綾人、真哉
(洗濯)綾人、女神
(掃除)真哉、凛
(トイレ掃除)綾人、女神
※洗濯物は男女別にすること。
※サボりはおやつ&食事抜きのペナルティ
※各自の部屋は各自で掃除をすること
「…どうでしょう?女神様と綾人くん、そして僕が平等になるように配置した完璧な提案です!」
「……凛、少ない。子ども扱いしてる」
「そ、それは…! 凛さんはですね、凛さんはもう存在自体が重労働と言いますか、あの。お勤めご苦労様です的な意味でして…」
「あんた何言ってんの?」
「いえですから、凛さんには別の特別な仕事をお願いしたいなと思いまして…」
「特別な仕事?」
「えぇ。凛さんにしかできない仕事です」
「なに? 凛やってみたい」
「では、この特製尻尾つき猫耳メイド服を着てそうj…」
「死にさらせ!この変態!!!!」
「」
女裁判官による鉄拳制裁が行われたのは言うまでもない。
……
「ちょっとした冗談じゃないですか」
「あんたなんて執行猶予なしの無期懲役よ」
「凛も書きたい、それ」
紙とペンを取り、凛が書いた分担はこうである。
(食事)真哉、女神、凛
(食器洗い)綾人、真哉、凛
(洗濯)綾人、女神、凛
(掃除)真哉、凛、凛
(トイレ掃除)綾人、女神、凛
(おやつ)凛
※洗濯物は男女別にすること。
※サボりはおやつ&食事抜きのペナルティ
※各自の部屋は各自で掃除をすること
※おやつは一日3回とする
「なんか増えてるんですけど…」
「おやつ係、大事」
「結局食事係の僕が作るので、おやつ係は必要ないのではないですか?」
「必要。おやつを平等に配るの、大切」
「あんたねぇ…今は家事の分担を平等にしようとしてるのよ!明らかにあんたの分担多いじゃない!てか掃除!二つあるっ!」
「ちがう。凛は監督係。ちゃんと働いてるか、見る役」
「あんたが働けっっっ!」
「むぅ…」
……
最終決定
(食事)真哉、女神、凛
(食器洗い)真哉、綾人、凛
(洗濯)真也、女神
(掃除)綾人、凛
(トイレ掃除)綾人、女神
※洗濯物は男女別にすること。
※サボりはおやつ&食事抜きのペナルティ
※各自の部屋は各自で掃除をすること
※おやつは一日3回とする
コメント:ナレーターの私が作りました。