表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

再会

 蛇を最初に倒すのは、間違っていなかった。

 入手した魔封石を持ってすぐにアレスコに行くのは、間違っていた。

 ドルフィンを連れずに天軍師を倒しに行くのは、間違っていた。

 けれど、魔封石とドルフィンがいれば、天軍師を倒せるという予感があった。

 ふいに、微睡(まどろ)みから引っ張られるような感覚を覚え、まぶたを開く。


 青年は白い部屋の中にいた。


 白くて、何もなくて、天井も壁もわからない部屋。青年の体だけははっきりとしており、全身に力も入るのだが、奇妙な浮遊感のせいで上手く動けない。そもそも、自分が立っているか、寝ているのかさえわからなかった。


「ここは……?」


 青年――狼刀(ろうと)の口から声が漏れる。

 それは疑問文の体をなしていたけれど、答えを求めてのものではなかった。そもそも、狼刀はこの場所を知っている。

 一度しか訪れていなくても、強く印象に残っている場所だ。

「ここは転生の間。って、答えれば満足?」

 天使がふわりと舞い降りる。

「今までの中では、頑張った方だと思うけど、五回も死んじゃってさすがにもうあきらめる?」

 狼刀の周りを飛び回る天使。

「ねー、どーすんの? 諦めるの? 魔王倒すの?」

 狼刀は、その天使にただならぬ既視感を覚えていた。

 最初にここに来たときに会っているから、当然と言えば当然なのだが、それだけでは何とも言えない。言うなれば、違和感があった。

「ちょっと、聞いてんの? ゆーきろーとさーん」

 思考を巡らせ、狼刀は既視感の意味に気がつくと同時に、叫んだ。

「ドルフィン!」

「はぁ? いきなりどうしたの?」

 怪訝な顔をする天使。

「お前、ドルフィンだろ? 天空民(てんくうみん)の」

 狼刀は、確認するように言った。

 態度といい、声といい、姿といい、似ているなんてものじゃない。髪や瞳の色こそ違うが、造詣は瓜二つ。むしろ、最初にドルフィンを見たときに、なぜ気が付かなかったのかが不思議なくらいである。

「確かに、あたしも天空民だったけど、ドルフィンじゃないわ」

「え……」

 狼刀は間の抜けた顔を浮かべたが、天使は構わずに続ける。

「あたしは、マナティ。そして、あたしの妹が、ドルフィン。あの子は、まだ、あの世界で生きてるの。でも、このまま何もしないと、魔王に殺された天空民(あたしたち)と同じ運命をたどってしまう。だから、他の天空民(みんな)から特別な力を託されて、転生の間(ここ)に残ったあたしには、ドルフィン(あのこ)を救う義務があるの。だから、強そうな人間を見つけては、あの世界に転移させてるの」

 天使――マナティの長台詞を狼刀は呆然と聞いていた。

「いい? あたしの話、理解できた?」

「え、ま、まあ……」

「じゃ、決めて。魔王倒すか、諦めるか」

「…………」

 マナティがいつになく真面目な表情を浮かべる。

「まあ、もし、もしもの話だけど……」

 マナティはさらに言葉を続けるが、狼刀の意思は決まっていた。

「魔王を倒してやるさ」

 攻略法は見えている。新たな敵が現れたって、何度でも立ち向かってやる。不可能なんてない。

 真剣な顔の狼刀を見て、マナティは満足そうに笑う。

「じゃあ、いってらっしゃい」

「いってきます」

 狼刀も、渾身の笑顔で応えた。


 かくして、狼刀は異世界へと舞い戻る。


 ◇


「ここか」

 狼刀(ろうと)が発する一言目が変わった。

 仄暗い暗闇から注がれる複数の視線。などと、現状の確認をする必要すらなく、狼刀は状況を理解していた。

「よくきた。ゆうしゃよ」

 低く威圧感のある、もはや聞きなれた声がして、狼刀は反射的に愛用の竹刀で攻撃を仕掛ける。老魔法使いは、完全な不意打ちに反応が間に合わず、消滅した。

「ひ、卑怯者ぉ!」

「この、人でなしが!」

 周囲にいた魔物たちは怒り狂い、狼刀に襲い掛かる。魔物(人外の生物)に人でなし呼ばわりされるというのはどうなのだろうか。

 そんなことを考えつつも、狼刀は魔物たちの攻撃を(かわ)し、あるいは受け流して、竹刀を振るう。

 最後まで残っていたのは、無傷の狼刀、一人だけだった。


 狼刀は城内で回収しなければいけないアイテムを回収。小さなコインはふくろに入れておき、最重要な聖水は手に持って、城の外に出た。


「な――」

 狼刀は、あくまのきしの台詞を聞こうともせずに、聖水をぶちまける。

「――――」

 声にならない悲鳴をあげ、あくまのきしは消滅した。

 ここまでは問題がない。

 まずは、あの巨大な蛇を倒す。そのあとは、こちらの大陸に戻ってゴーレムからのイベントをこなす。それが考える限りの最適解だ。それだけ思うと、狼刀は動き出した。


 北の大陸にある魔封石の眠るアスガル洞窟。

「ミーに何かようデースか。人間」

 いつ来ても変わらぬ問いかけをする大蛇に、狼刀は今までと違う応えかたをする。

「魔封石というのを探しに来た」

 大蛇は割けんばかりに口を開いた。狼刀を呑み込まんとする構えだ。

 狼刀は飛びかかってきた大蛇を受け流すと、首に竹刀を突き刺し、大蛇のスピードを生かして、全身を真っ二つに斬り裂いた。

 大蛇は力尽きて動かなくなり、消滅。

 狼刀は洞窟の奥で魔封石を回収し、洞窟を出た。


 洞窟の外に出ると日が落ちたためか、あたりは暗くなっていた。星は出ているようだが、とても十分な明るさとは言えないだろう。

 夜を越すだけならアレスコという手もあるが、一度入れば出られなってしまうため、避けるべきだ。

 そんな折に見つけたのが、旅の宿ルナティークだった。

 ログハウスのような作りで、中は簡易なベットがいくつかあるだけの、質素な造りだ。

 管理人は若い男性で、元々はサタナキに住んでいたらしい。奇妙な縁もあったものである。狼刀はサタナキについての雑談に、しばし花を咲かせていた。


 そして夜が明けた。


 狼刀は要塞都市サタナキの入口の前で、ゴーレムと対面。魔王軍幹部の魔物の一撃よりも重たいであろう攻撃を(かわ)し、竹刀を突き立てる。

「グオォォォォォー」

 空気が震えるような叫びを残し、ゴーレムは砕け散った。

 狼刀は悲劇の巨人の冥福を祈り、町の中に入っていく。待ち受けていたのは一人の老人だった。

「ようこそ、旅の方。あのゴーレムを倒してしまうとはお見事です。是非とも、この町の守護者になってもらえませんか」

 前回と同じ流れである。

「申し訳ありませんが、私には魔王討伐という目標があるので……」

 狼刀は、魔王討伐のためと言って断った。

 老人――長老のカッシーニは残念がりながらも、もてなしをしてくれる。そうなると、狼刀は知っていた。

「そうですか。ではせめて今は、この町でゆっくりしていってください。お礼の品も用意しますゆえ」

 狼刀の予想通りの――というか、前回とまったく同じ――展開である。

「心遣い感謝いたします」

 狼刀のセリフも、前回とまったく同じだった。


 その夜。町では宴が催された。

 狼刀は前と同じように、住人達から話を聞いて回ったが、サタナキ出身の宿主について知っている人はいなかった。彼は町のことに詳しかったのにである。

 まあ、住民票もお役所もないところで、全員をしっかり把握するのは無理ということだろう。

 狼刀も四桁くらいいてもおかしくない住人のことは、長老を除いて覚えられなかった。


 翌朝には城壁の盾というアイテムを入手。同じ手順を踏めば、同じ結果にたどり着く。それは実にゲームのような感覚だった。


 柵に囲まれた荒野の一角にあるのは、天空民(てんくうみん)の町ワラフスだ。現在は魔王配下の魔物によって支配されているが、住民は一人しかいない。

 とはいえ、その一人や入手アイテムは貴重であり、放っておくわけにはいかないイベントだ。

 狼刀は三度(みたび)この町を訪れ、エンペラーダイルと対峙する。

「狩りに時間はかけない主義でな。我が必殺技を見せてやろう」

 一言一句違わぬセリフを言って、エンペラーダイルは両手を地面に突き刺した。攻撃方法も一切変化はない。狼刀はその攻撃を躱そうとは思わなかった。

 城壁の盾を構え、エンペラーダイルを待ち受ける。

「そんな盾ごときで、我が必殺技を防げるものか」

 そのセリフで狼刀は勝ちを確信した。

 エンペラーダイルはその大きな顎で盾に噛みついた――否、噛みつこうとした。

 狼刀が後ろに数歩下がったために、エンペラーダイルの牙は空振り。勢いを御しきれずに、盾に激突した。

 エンペラーダイルが姿勢を立て直す前に、狼刀が一歩踏み込んだ。硬い盾を押しつけて、のしかかられるように倒れ込む。

 エンペラーダイルは、盾の下敷きとなり、身動きが取れなくなる。

 その隙を見逃さずに、狼刀は竹刀をその横腹に突き立てた。

「ぐあぁぁ……」

 エンペラーダイルは短く悲鳴をあげると、消滅した。


 町を探索すると、前回同様、住人が一人もいないのことが確認出来た。村の最奥――(ひでり)の祠にも、前回同様、旱の石が供えてある。狼刀は、石に触れることなく、空を見上げた。

 天使(マナティ)にそっくりな少女――ドルフィンはそこにいた。

「あんた何よ」

「俺は結城(ゆうき)狼刀、魔王討伐の旅をしてる。君は?」

 狼刀は簡潔に自己紹介を行い、ドルフィンへと問いかける。狼刀は答えを知っているから、聞かなくても問題はないのだが、不自然にならないためには必要な手順だ。

 ドルフィンは値踏みするように、狼刀の周りを飛び回ってから答えた。

「あたしはドルフィン。偉大なる天空民、最後の生き残りよ」

 顔の造形はマナティと瓜二つ。初対面の時になぜ気が付かなったのか不思議なくらいだ。

「この町に巣くう魔物を倒してくれたことには感謝するわ。それで、この秘宝になんか用があるの?」

 回りくどい説明は不要。

「協力してほしい。魔物に支配された町を救うためにその秘宝が必要なんだ」

 狼刀はストレートに要件を告げた。

「わかったわ。でも、あたしがいないと使えないわよ」

 その回答は予想の範囲内。狼刀にも断る理由はない。ドルフィンを仲間に加え、狼刀は町を出た。

 誰もいない、無人の町を。

「さあ、行きましょう。ロート」

 ドルフィンはどこか楽しそうに、笑顔で浮いていた。


 てってけてー

 天空民の最後の生き残り、ドルフィンが仲間になった。

 所持アイテムは天空民族衣装(しろいワンピース)、旱の杖、破魔の指輪。


 技巧の町ネプトンは魔王配下の魔物によって支配されている。狼刀は三度(みたび)その町を訪れていた。

 ドルフィンにはひとまず隠れていてもらう。

 狼刀が相対するのは、鎌を持った二体の骸骨(がいこつ)――死霊騎士(しりょうきし)。手荒い歓迎だが、既に慣れたもので、狼刀に焦りはない。

 隙が生まれれば、決着は一瞬だった。

「ほう。死霊騎士を倒せる人間がいるとは驚きましたねェ」

 部下を倒せば親玉――鮫型の魔物(カイザーシャーク)が現れる。

「魔王軍では、カイザーシャークと呼ばれています。以後お見知りおきを」

 丁寧に、聞きなれた自己紹介をするのは分身体。判断した基準は、両手に持った大剣だ。

「降伏する気は――」

 狼刀は、分身体がそのセリフを言い終わるよりも早く、合図を出す。

「いまだ、ドルフィン!」

「りょーかい」

 軽い調子で返事をすると、ドルフィンは(ひでり)の杖を天にかざした。

 目の前にいた分身体が蒸発して消え、背後にあった池が干上がる。

「ほう。私の分身たちを倒せる人間がいるとは驚きましたねェ」

 民家の扉が開き、何度も見てきた分身体に酷似した魔物が、ゆっくりと現れた。両手で持つのは重量級の三叉槍型の武器(トライデント)で、体長は分身体よりも大きく、三メートルは優に超えているだろう。

 紛れもなく本体だ。

「魔王軍では、カイザーシャークと呼ばれています。以後お見知りおきを」

 名乗りは相変わらず、分身体とさえ変わらないが。

 トライデントを構えたその姿も、刺突の速度が分身体よりも遅いことも、前回と同じ。狼刀は余裕をもって攻撃を(かわ)すと、背中に竹刀を突き刺した。

「ぐぅ……」

 呻き声をあげカイザーシャークは消滅した。


 狼刀は開放された住人達から話しを聞き、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ