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強敵突破

「行くであります!」

 ベリムトが勢いよく屋敷の扉を開けると、大量の虫が襲い掛かってくる。

死絶魔法(ラサース)

 ベリムトは魔法で撃退。目の前に迫っていた大量の虫がほぼ消滅した。予定通りの展開だ。

 狼刀(ろうと)はそれを確認すると、残党を消滅させながら屋敷の中へと入っていった。

 べリムトも、巻き込む可能性があっては魔法が放てないのか、慌てて追いかける。

 ドルフィンはしばらく動けずにいたが、二人に遅れて屋敷へと入っていった。

 目的地は悩むまでもない。廊下の突き当り、美術館のような部屋だ。

「天軍師!」

 シルクハットに燕尾服、右手には杖を携えた男――天軍師がそこにいた。

「やあ、ようこそ。二人とも、どうかおかけください」

「その必要は無い」

 天軍師の誘いを突っぱねて、狼刀は太陽の手鏡を取り出す。

「……太陽の手鏡ですか」

「どうして、それを!?」

 天軍師とべリムトが反応を示すが、狼刀は答えることなく、太陽の手鏡を天軍師へと向けた。

「ぐわ! 何をする!」

 天軍師の目の色がわずかに変化する。それから、白々しいセリフと共に、全身が変化を始めた。燕尾服は黒い肌へと、顔面は血の気が失せ、青白く。体が二倍ほどに膨れ上がり、悪魔のような翼と尻尾が皮膚を突き破るように飛び出した。

「ガァァァ!」

 右手に持っていた杖は、巨大な棍棒のような武器へと変わっている。

「よくも。よくもォ! やって、くれたな! くたばれ! 勇者ども!」

 叫び、悪魔は棍棒を振り上げた。もう、そこに強敵だったころの面影はない。狼刀は攻撃を(かわ)すと、竹刀でその体を真っ二つにした。

「く、ふぅ……」

 天軍師が消滅する。

「呆気なかったな」

「……君は一体……?」

 ベリムトは狼刀に訝しむような視線を向けた。彼にしてみれば、自分の魔法を知ってた上に、天軍師(てき)の弱点をつくアイテムを持っていて、一撃で倒せる実力を持つ人なのだ。

 異様な存在に映ったとしても不思議ではない。

 肝心の狼刀はそんな視線に気がついていないのだが。

「あれ? もう終わっちゃった感じ?」

 遅れて、ドルフィンが部屋に入ってきた。

「ああ、終わった。次は姫だ」

「なに! 姫の居場所を知っているのでありますか!?」

「ああ、ついて来ればわかる」

 わいわいと話しながら、三人は姫のいる洞窟へと向かった。


 その後。

 天軍師を名乗っていた魔物が倒されたことを知った町の人たちは喜び、宴を開いた。だが、ほとんどの人は、誰が倒したのかを知らない。それでも、倒されたことは事実なのだし、本物の天軍師が生きていたこともあり、気にする人はいなかった。

 そんなことになっていたと狼刀達が知るのも、しばらく経ってからのことだった。


 ◇


 アレスコから南下し、南の大陸へと繋がる洞窟へ。ベリムト達には、魔王軍の幹部が言っていたということで説明が済んでいる。

 ベリムトは内容を半信半疑、ドルフィンは出来事を半信半疑といった様子だったが、今は大人しく狼刀のあとに続いていた。

 ほどなくして、三叉路にたどり着く。

「右よ、右」

 ドルフィンはどっから来ようとも、右へ曲がりたいらしい。

 こちらから来た場合は、左がドラゴンだ。

「左だ」

 狼刀は、右に行きたがるドルフィンを引っ張って、左へと向かった。一度通っているから、正解はわかっているはずなのだが。

「グルルルル……」

 ほどなくして、巨大な石竜子(とかげ)のような見た目で背中には小さな羽を生やした緑色の魔物――ドラゴンが現れた。

「死になさい!」

 ドラゴンを認識するとドルフィンの態度が急変した。勢いよく飛び上がって、三叉槍(トライデント)をドラゴンに突き刺す。

「グルアアアア」

死絶魔法(ラサース)

 死神神官(べリムト)はお得意の死絶魔法を放った。

 ドラゴンはどちらの攻撃にも、怯むことなく雷撃を放ち反撃。ドルフィンは、翼に雷撃を喰らいながらも突き刺さったままのトライデントを抜き、距離をとって着地。ゆっくりと翼を動かして、飛び直す。

 べリムトは、手を突き出して、防盾魔法(シルカンサ)と呟いた。雷撃はベリムトの手前で弾け、消える。

 しばしにらみ合う三者。その沈黙を破ったのは、狼刀だ。

「ドルフィン。トライデント(それ)を地面に突き刺して離れててくれないか」

 ドルフィンに向けた一言は、前回とほぼ変わらない。

 しかし、ドルフィンは狼刀の一言を無視し、ドラゴンに向かっていった。

「お、おい、ドルフィン」

 狼刀の声が届いていないのか、ドルフィンは振り返る素振りさえ見せない。

 仕方なく、狼刀は次の策を考える。

 ドルフィンは被撃していたが、ベリムトは素手で受け止めていた。魔法か何かではあるのだろう。だが、考えていても魔法の種類はわからない。

 そもそもこの世界にどんな魔法があるかさえ知らないのだ。

 魔法が見えてない(・・・・・)立場で考えて、結論を出すことは不可能だった。

「べリムト。さっきの雷を防いだ力は、他人に対しても使えるのか?」

 狼刀は無駄に考えることをやめて、本人に直接確認する。

「使えるのであります」

「なら、俺が突っ込むから、雷が来たら防いでくれ」

「わかったのであります」

 返事を確認した狼刀は、ドラゴンに向かって走り出した。

 ドラゴンがどんな攻撃を用意してるかはわからないが、雷以外なら(かわ)せる自信が狼刀にはあった。雷はべリムトが防いでくれる。前回の作戦とは違うが、狼刀がドラゴンに向かって突っ込んでいくのは、無謀ではない。

「グルウ」

 ドラゴンは向かってくる狼刀を見つけると、狙いを狼刀へ変更。口を開き、雷撃を放つ構え。しかし、頭の上から振り下ろされたトライデントにより、口が閉ざされた。

 雷撃は口の中で炸裂。口の隙間からプスプスと煙が噴き出していた。

 その間に狼刀はドラゴンに肉薄し、最初にトライデントがつけた大きな傷跡に、竹刀をねじ込んだ。

「グ……プスァ……」

 小さな呻き声をあげ、ドラゴンは消滅した。

 ドラゴンが消えたことを確認すると、ドルフィンはトライデントを持ち上げ、狼刀に突きつける。

「あたし、役に立ったでしょ?」

 そう尋ねてくるドルフィンの真意はわからないが、狼刀は素直に感想を述べた。

「ああ。すごく助かったよ。ドルフィン」

 ドルフィンは笑顔になり、トライデントを(おろ)した。

「それでいいのよ」

 狼刀からも、笑みがこぼれる。

「あの、助けてもらってありがとうございます」

 狼刀とドルフィンの空気を壊したのは、ドラゴンに囚われていた姫。黄色いドレスを(まと)っており、赤髪に映える銀の髪飾りが印象的だ。この前の姫と同じで間違いない。

 違っても困るのだが。

「姫様! ご無事で何よりであります! 姫様にもしものことがあっては、このべリムト……」

「べリムト。心配をかけたましたね。さあ、お城へ帰りましょう」

「はい、姫様! どこまでもお供するのであります!」

 そういうと、神官と姫は二人だけの空気を作り出す。残る二人には目もくれずに出口へと向かった。

「俺たちも城に行くか」

「うん」

 狼刀も遅ればせながら王と約束していたことを思い出し、城へ向かって歩き出した。


 城へ向かう道中。ドルフィンと狼刀は次の行動について話し合っていた。ドラゴンを倒し、姫は救出した。だが、狼刀の目的は魔王を倒すことである。

 ドラゴン、天軍師、カイザーシャーク、エンペラーダイル、あくまのきし。彼らは紛れもなく魔王軍の幹部だったが、魔王に繋がるようなことは言ってなかった。

「情報が少なすぎるよな」

「とりあえず、行ってないとこ行ってみたらいいんじゃないの?」

 冷静に考えようとする狼刀と、行き当たりばったりな考えのドルフィン。この手の話し合いは、上手くいかないと相場が決まっている。

「サンライト王から有益な情報が得られるといいんだが」

「せっかくおーさまにお願いできるんだから、もっといいことにしようよ」

 もはや、話し合いとは言えない会話だった。

「ところで、一つだけ謎なんだけどさ」

 ふと、ドルフィンが立ち止まる。

「なにがだ?」

 狼刀も足を止めてドルフィンへ向き直る。

「ユーキって未来予知でもできるの?」

「狼刀で頼む」

 話の腰を折ることはわかっていたが、狼刀は思わずそう言った。ドルフィンが突然呼び方を変えたことまでは気にしない。

「なんで?」

 ドルフィンが不満そうに顔をしかめた。どうしても、という理由がなくとも、にべもなく否定されてはそう言いたくもなるだろう。

「いや、まあ。その、色々……あって、な」

 狼刀の返事は歯切れの悪いものだった。

「まあ、いいけどさ」

 ドルフィンは完全に納得したわけではなかったが、わざわざ追及したいほどのことでもなかった。

「べつに……」

「…………」

 狼刀はそのまま終わらしてしまっては後味が悪いと思い。自分から話を戻すことにした。

「未来予知なんて出来ないよ」

「ほんとに? 色々知ってたりとか、未来予知じゃないの?」

 ドルフィンがさらに顔をしかめる。名前の一件がなければ、もう少し優しい言い方になったのだろうか。それは誰にもわからない。

「…………」

 狼刀は少し考えてから、自分の状況を説明することにした。言いふらすような内容ではないと思うが、黙ってなければいけない理由はないのだ。

 これからも一緒に動くなら、伝えておいても損はないだろう。

「俺は、死ぬたびにやり直してるんだ。色々知ってたりするのはそのせいだ」

 マナティの名前はあえて出さなかった。

 だが、ドルフィンの次の一言は狼刀の予想を裏切るものだった。


「無視?」


「え?」

 狼刀は自分の耳が信じられなかった。

「え? じゃなくてさ。ちゃんと答えてよ」

 ドルフィンは地上に降りて、狼刀に詰め寄ってくる。

「ちゃんと、答えて」

「だから、俺は、死ぬたびやり直して――」

「答えて」

 答える狼刀の言葉を遮るように、ドルフィンが問い詰める。その目は真剣で、ふざけているとは思えない。

 もちろん、狼刀もふざけてるわけではない。

「ねぇ」

「……説明は出来ない」

 原因は全くわからなかった。それでも、このやり取りを続けていては喧嘩になりかねない。

「すまない」

 狼刀は説明を諦めて、頭を下げた。

「そっか」

 ドルフィンはため息をつくと、狼刀に背を向けた。

「……話せる時が来たら話してね」

 狼刀にドルフィンの表情を見ることは出来ない。

「ああ、その時が来たら全部話すよ」

 ドルフィンが勢いよく振り返り、

「絶対だからね!」

 トライデントを狼刀に突きつけた。

 長い髪が風になびく。決意に彩られたその顔は儚くも、美しい。夕日を背にして立つその姿は、狼刀の心に深く刻み込まれたことだろう。

「ああ、絶対だ」

 美しく光る黄色い瞳を見据え、狼刀は力強く頷いた。


 ◇


 サンライト城。

 姫を助け出した勇者として、べリムト、ドルフィン、狼刀は王からの褒美を受け取っていた。

 べリムトは姫の側仕えにしてほしいと。

 ドルフィンは一族復興の夢のために力を貸してほしいと。

 狼刀は魔王についての情報を。

「それについては、私が」

 いかにも歴戦の勇士といった人物が立ち上がった。

「この地を支配する魔王は様々な魔法に通じる存在だ。その上、大量の悪魔や魔物を使役しているという。奪った城を根城とし、難攻不落のアンデットに門番をさせ、幹部達に各地を攻めさせる周到さ。その幹部達も、一騎当千の化け物揃いときた。

 眼光だけで死を与え、爪の一振で地形を歪め、果ては伝説に謳われるドラゴンまで使役しているという噂まであるくらいだ。まあ、これは眉唾物だろうが。

 とにかく、恐ろしい存在ということだ」

 勇士は力の入った語りを終えると、兵士達の中へと戻った。周りとは明らかに存在感が違ったが、ただの兵士らしい。

 王は傍らに立つ老人に目配せをし、一枚の絵を狼刀に渡させた。

「え……?」

 その絵を見て、狼刀の動きが止まる。

 話の流れからして、描かれているのは魔王だ。

 その姿に、狼刀は既視感を覚えた。

 見覚えのある。

 というか、倒したことのある魔物(てき)だ。


 青い顔にギラりと光る蛇のような瞳。紫色のローブを身に纏い、竜の頭の形を持った老人。


 それが、この大陸に巣くう魔王の姿だった。


 この世界に来て、最初に倒した敵。


 それが、魔王だった。


「魔王倒してたぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」

 次回。この物語のエンディング。

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