幸せと絶望
コンコンとドアがノックされる。
「どうぞ。」
「失礼致しいたします。お嬢様。」
ギイっと重いドアが開けられたドアの先には髪を後ろに束ねた清楚な女性が頭を下げていた。
「あぁ、ルマ。ちょうどよかった、少し眠りにいい紅茶を入れてくださらないかしら。」
侍女のルマ。黒髪をまとめ、瞳は茶色く、一見地味だが、凛とした空気をまとった素敵な女性だ。ふと、ルマが少しだけ笑みを漏らす。
「そうおっしゃると思いました。只今。」
ルマは私が5歳の時から一緒だった。まだ13、4歳だったルマをよく連れ出して庭を駆け回っていたものだ。
ルマが香りのいい紅茶を入れる。部屋中にふわりといい匂いが広がった。
考えても仕方が無い。ことりと机にペンを置く。
(もしかしたらアリアエルはアークを選ばないかもしれない。それでそのままエンドに向かったら…。)
紅茶のカップに手を添えながら考える。もし、そうなら…。私の心に少し期待が芽生えた。
彼を好きになってもいいのかもしれない。
だが、悪役令嬢なのは変わりがない。アークが対象じゃないとしてもノア・アルベルトはアリアエルをいじめるのだ。何かといちゃもんをつけて。人気者だから気に入らないといい、協会の出だから気に食わないといい…。
最終断罪イベントの際アリアエルとその攻略対象との合体魔法で殺されるのだ。
(…、アリアエルが誰とくっつこうと邪魔してなければいいのよね。)
大人しく慎ましく、静かに平穏に。彼女のエンドが来るまでしていればいいのだ。
そうすれば死ぬことはないだろう。
すっとカップに口をつけると口いっぱいに紅茶の香りが広がる。
「お嬢様、お疲れのようです。早めに睡眠を取られては…」
ルマが横に静かに立ちながら提案をする。ルマが少し心配そうな瞳で見つめてくるのでふふっと、笑ってしまった。
「大丈夫よ。でも、そうね。…今日は早めに寝るわ。」
ルマが安心したような顔をする。かしこまりました、言うとすっとベットを整えに行った。
ふう、と息を吐きながら私は何気なくその姿を見つめる。
ルマはベットの枕をつかみ、じっと見つめるとポンっと宙に投げる。パンっと手を拍手するように合わせると、枕の周りに突風が巻き起こった。だんだんと枕がふかふかになって行く。
(…そうだったわ、ルマは風魔法の使い手だったわね…。)
魔法………、そうよ!たとえ邪魔をしていなかったとしても殺されないとは限らない。何かの濡れ着をかけられるかもしれない。悪役令嬢はどういう状況に陥るかわからないわ。
少しづつやることが明確になっていく。
「…そうね、魔法…いいかもしれない。身を守るためにはうってつけだわ。」
「…お嬢様?」
枕の魔法を解きながらルマが疑うようにこちらを見つめる。いつの間にか考えていることが口にでてたようだ。慌てて首を横に振る。
「…誰かに狙われているのですか。」
ルマが慌てたように私の肩を掴む。きょろきょろと周りを見渡す。
た、確かに狙われてはいる。だが、ルマがどうこうできる問題ではない。
「ち、違うわ!ルマ。不測の事態に備えてのことだから。心配しないでちょうだい。」
今にも私を食入りそうな瞳でルマが私を見る。それに少し苦笑いをしてしまった。
その後、ベットに入り、天井を見つめながらも少し考え事をした。魔法をどう習得するか。お父様に相談してみよう、とか、前世の記憶でまだ思い起こせることは無いだろうかとか。
そのうちに眠気が襲ってきていつの間にか意識を手放していた。
名前間違えてた☆




