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幸せと絶望

少し短いです。




ばくんと、心臓が唸る。彼を見た途端、頭が真っ白になった。ずっと、会いたかった人に会えないと思っていた人に会えたような衝撃的な感情だった。


「ノア、あちらに王宮お抱えのシェフが作ったケーキがあるようだ。行かないかい?」


後ろから父の声がする。髭を生やしダンディーな父はこの国の権力者アルベルト公爵だ。

アルベルト公爵が反応のない娘を不思議に思い、ゆっくりと近寄る。


「ノア?」


「お父様…、わたくし、」


きらびやかな装飾を付けた金髪の娘が口を開く。くるりと、向けられた視線は大きな瞳であり、長いまつ毛がぱちぱちと瞬かれた。

戸惑いと、絶望と、幸福を織り交ぜたようなそんな表情だった。


「…どうしましょう。」


ぽつりとそう呟いた。






そんなわけが無い。私は頭を働かせた。知っている。知ってる。ここがどんな所か、なにがおこるか、

この後の未来を断片的だが、自分の生死に関する大きなことがこれから起きることを知っている。


(まってちょうだい。わたくし、わたくしはノア・アルベルト…、この名前…。)


彼を見た瞬間からの衝撃と同時に頭の中に甦った記憶。全てを点と点で繋げたら、あぁ、まさか、そんな。

この世界…、前世の私がプレイしていたゲームだわ!

身体中から変な汗が吹き出す。自分が動揺と困惑、驚きを隠せていないのが分かった。しかも、自分にとって大事なことがある。



(大変、大変だわ…。もし、本当にここがゲームの世界だとして、彼はメインヒーローよ!!わたくしの目の前にいる彼は!)


たった今一目惚れをした相手がメインヒーローなんて!!

ばっと彼に瞳を向ける。長く束ね、月光を反射している銀髪に、すっとした鼻立ち。青の瞳は軽く釣り上がり、手元の紅茶を映していた。何度見ても美しい、綺麗な人だった。


もし、この世界のゲームの中で自分が主人公ならこの人と幸せになれたのかもしれない。しかし、その希望は叶わないようだ。

断罪イベント。待ち受けるのは死。

脳裏にその言葉が浮かぶ。


なぜって?…ノア・アルベルト…、わたくし、このゲームの悪役令嬢だもの。


どうしましょー…、

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