お礼
「…彼は?助けてくれた彼はどうなったのですか?」
お父様にこそりと聞く。お父様ははっとしたように私に向き直り、焦った顔で私の肩をつかんだ。
「そ、それが、大変なんだ!ノアを助けてくれたあの方は、彼はどうやらあの大公の長男らしい。アーク・シルベアス様、名前を聞いた時意識が飛ぶほど驚いたよ…、」
知っているわ。でも今聞きたいのはそれではない。お父様があまり驚かないんだね。と私に素っ頓狂な声を出す。
「今どこに?」
「あぁ、少し怪我をしているから彼女と同じく客間にいるよ。ほかの部屋を用意するって言ったんだがね、ここでいいと言うから…、って、ノア!?どこに行くんだい!?」
私は駆け出していた。ベットから素足で走り出す。一瞬怪我と聞いて肝が冷えた。ただ、無事を確認したい。そう思っていた。
バァンッと客間の扉を勢いよく開く。はぁ、はぁと息を切らし、部屋の中のふたりを見る。
豪華な皮のソファに対照的に座っているふたり。アリアエルが、あっと、声を出し私を見つめる中、メインヒーロー、アークは静かに事しれぬ顔で本を読んでいる。彼の腕に包帯が巻かれていることに気がついた。
「…取り乱し申し訳ございません。」
ゆったりとパジャマの裾を持ち上げる。
いまは、しょうがない。おめかしする時間などなかった。
アリアエルがたとたとと、赤い絨毯の上を走ってよってくる。
「…私をかばって本当に、ごめんなさい、ありがとうございます…!」
ばっと、アリアエルが頭を下げる。この前嫉妬でぐるぐるしていた自分がすこし、馬鹿らしくなった。こんな子に勝てるわけないのに。
「…わたくしはどのくらい寝ていましたか?」
「…ざっと4時間くらいだ。魔力切れのだったから魔力を分けた。だから3日、寝込むことは無かっただろう。」
ぱたんと文庫本を閉じながら青色の瞳が私を捉える。きゅ、と喉元が苦しくなった。
「…ええ、本当になんと感謝を申してよろしいのか…。この度の御恩忘れることはございませんわ。」
ゆっくりと頭を下げる。スカートを持ち上げ深深と頭を下げた。
アリアエルがきょろきょろと私とアークを交互に見る。
「…そういう礼はいい。堅苦しくて好きじゃない。」
アークが渋い顔をする。私はゆっくり頭を上げた。
「…お礼をしなければなりません。窮地を助けて頂いたので…、なにかアルベルト家に要望することはございますか?」
アークがギロりと私を睨む。鋭い青の瞳は冷たかった。美形が睨むともなると迫力がすごい。
(…関わらないようにしていたのだけれど。お礼をしないとなると、アルベルト家の名が落ちることになる。…難しいところね。)
お礼はなんだろうか、なるべく今後足跡が残らないようなものがいい。お金や領地など、一度に割り切れるもの。そういうものだ。
「…その事については父上殿と話をつけている。気にしないでいただきたい。」
ピクと指が動く。話をつけている。お父様と話をつけて…?
(…何を欲求したの…?)
何だか嫌な予感がする。
「わたくしは何も聞いておりませんの、今聞いてもよろしくて?」




