正しいことを。
「助けて!誰か助けて!!」
鈴の音の声が道端に響く。なんとも惨いことだろうか。みんな関わりたくなさそうに嫌な顔をして彼らを見ている。思わず目をつぶりたくなった。
(……確かに、しょうがないわ。彼らは前世の世界でいう、ヤクザってやつみたいな存在だもの…。)
アリアエルが男の背中でぼろぼろと涙を流す。
彼らの手から逃れようと体を捩るが、ビクともしない。
助けて!再び叫び出す。声は恐怖に震え、今にも壊れそうだった。なんで誰も助けてくれないの?という顔をしている。ぎゅっと、心が苦しくなって離れない。
(……知らない……、知らないわ。……私には関係ないこと…それにメインヒーローが来てくれるはずですもの。わたくしだって彼女達に下手に関わって死にたくないもの……。)
助けて!再び彼女の声が響く。その叫びが彼らの感に触れたのか、彼女を勢いよく壁に打ち付ける。
「うっ!」
ドンッ!と鈍い音が広がる。アリアエルがぎゅうと体を丸める。アリアエルがゆっくり顔を向けると男達の額に青筋がたっていた。
危ない。ぴくりと指が動く。
「うるせぇなぁ!!黙れっつたろ!?大人しくしろ!!この雌豚が!!!」
ぶんっと彼女に拳が振り上げられる。
(…これで、いいの?)
全てがスローモーションで動き、アリアエルの顔が恐怖に染まった。
(彼女がこれからどうなるか知ってて見捨てるの?自分のために、人が傷つくのを見過ごすの?それは…正しいことなの?)
ふと、頭に父の姿が浮かんだ。小さい頃の記憶。
『ノア、君の名前は神と共に正しいことをした者。という意味だよ。誰になんと言われようとも、お前が思う正しいことをするんだ。』
弾かれたように手元にあった靴を手に取り、勢いよく駆け出す。今までに出したことの無い全速力で走った。
(……わたくしは。)
ひゅんひゅんと顔の周りで風が過ぎていく。不思議と走っている途中は息が切れなかった。
(…わたくしは、間違いを、犯すところだった。保身のために彼女を犠牲にするところだった!!)
ぐっと喉に唾を飲み込む。ずんずんと彼女達に近づいていく。たんっと勢いよく地面を蹴り、体を浮かせる。
(名に恥じる行動をするところだった!!!)
「その子を、」
腕を振り上げ、腰にひねりを持たせ勢いをつける。
「離しなさいっ!!!!!!」
パァンッ!!勢いよく男の頭に分厚い靴底をたたきつける。鈍い音と共に彼の体の重心が揺らいだのがわかった。
男の頭を軽く殴るには分厚い靴底は十分に良かったようだ。
がっと、男の体を足蹴にし、アリアエルの前に立ち塞がる。後ろから泣き声で、え、と声が聞こえた。素足で走ったこともあり、足がさらに痛くなっていた。




