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正しいこと

「きゃぁっ!!」


相手のかん高い声と共に体に衝撃が走る。どんっと勢いよく人とぶつかり尻もちを着いた。


「お嬢様!」


後ろからルマの焦った声が聞こえる。近づいてくるのがわかり、頭を向けた。腕を支え立たせてくれる。


「お嬢様、どうされたのですか、ここに着いた時からぼーっとなさって……。」


「え、…あぁ、ごめんなさい……」


その言葉にはっと、意識が戻ってくる感覚がした。この周りの建物の配置…光景…、まさか。

ばっと、目の前の相手に顔を向けると、ズンっと心に重いものがのしかかる。

今ぶつかった人は…女性は…、アリアエルだ。

ゴクリと、息を飲み込む。ここで焦って取り乱しては行けない。穏便に、彼女の記憶に残らないようにしなければ。待ち受けるのは…下手すれば、死だ…。


「ぶつかったのはわたくしの不注意よ。ごめんなさい。」


くりくりと大きな愛らしい瞳を見つめる。ピンクの小さな唇と、長いまつ毛、通った鼻筋…、花のような愛らしい顔立ちだ。彼に愛される顔。

すっと手を差し出すと、おずおずと手を受け取ってくれた。サラサラとした私と同じ金髪。私は栗毛の金髪だが、彼女はスーッと通ったストレートの金髪だ。


「……そのしゃべり方……どこかの、お嬢様なの?」


ぱっと彼女がたったのを確認すると素早く手を離す。

高い、鈴を鳴らすような愛らしい声。これから彼に愛される声。きゅっと後ろで手を握る。


(あまり、ここにいたくないわ、)


「……ええ、隣国の。お忍びなの……、ケガはない?」


この人と話していたくない。心がそう叫んでいた。早く。早くこの場を離れたい。


「ないです。こちらこそぶつかってごめんなさい、…怪我はありませんか?」


心配そうに上目遣いで見つめてくる。ぐるぐると胃の中が気持ち悪くなりそうだった。


(こんなに純真な子……、好かれて当たり前よ…。)


こんないい子にこんな汚い感情を持ってるなんて、悲しくて、惨めになる。


「大丈夫ですわ。…………ごめんなさい、わたくし、そろそろ行かないと……」


彼女の大きな瞳から目をそらす。ここにいたくない。限界だ。ルマが後ろから心配そうに見つめてくる。額から変な汗が吹き出し、喉元まで出かかった嫉妬をこらえる。


後ろからあのっ!と鈴の音のような声が響く。

私はそれを無視して歩き続けた。ルマがずっとハンカチを突き出す。それを静かに受け取った。口元に当てる。

ルマは優秀な侍女だ。何故こんなにも私が取り乱しているのか、下手に聞くことは無い。いつか話してくれると言う信頼感もあるだろうが、普通は気になって聞いてしまうものだ。

何も聞かずハンカチを差し出す。きっとルマの中は心配で堪らないだろう。


(申し訳ないわ…、言えないのは。)


きっとこのことを話したらもっと心配する。それだけは避けたい。


「…少し座りましょう。足が疲れたわ、」


へらりと、ルマに笑いかける。上手く笑ったつもりだったが、それを見たルマの顔が歪んだ。

ガサガサと大量の買い物の紙袋が音を立てる。

ルマに少し持とうか、と声をかけたのだが、

いいえ、お嬢様にそんなことさせられません。それに、私が持ちたいのです。……強くならなければ。

と何かの意気込みを込めた答えが帰ってきた。


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