吸血鬼と人間
「この蛇のモンスターなんてどうかしら?」
「蛇ですかー?もっと食べられそうなところが多いモンスターはいないんですか…?」
「ここら辺にいるのは低級ばかりだからこんなのしかいなそうね」
そう言いながら、蛇のモンスターを雑に持ち上げるファル。
(ひぃぃー!!グリーンスネークこっち見てるぅ!!怖い怖い怖い怖い……)
小型で戦闘力のあまりない雷兎にとっては、ストレスがマッハなのだった。
☆☆☆
「結局この蛇が一番マシですね…」
その後しばらく探索した二人は、仕方なく蛇を食べることに決めると、適当に拾ってきた枝に串刺しにして、炎魔法で火炙りにするという料理のりの字も感じない方法で調理した。
(グリーンスネークが…あんな無残な姿に…)
普段はグリーンスネークに追われる側の雷兎は、その光景を見ながらなんとも言えない気持ちになっていた。
「はい、あーん」
焼き終わった蛇をさっそくファラに食べさせようとするファル。
「えっ、私からですか…あーん…」
ファラは少し気が引けたがお腹も空いていたのでそのまま頂くと、思ったよりは食べられる味がして安心するのだった。
「うん。皮がパリッとしてて……皮がパリッとしてますね」
「皮がパリッとしてるのね」
「はい。皮がパリッと…」
皮の食感以外に触れないファラの感想に、ファルは全ての蛇をファラに譲ることにした。
「あれ?ファルさんは食べないんですか?」
「ええ。あまり美味しそうじゃないもの…」
「あはは…まあ、そうですね…」
(グリーンスネーク、散々の言われようだね……)
雷兎が内心でそう突っ込むと、話はその雷兎のことに移った。
「そういえばこの子は何を食べるのかしら?」
「兎だし、その辺の草とか食べるんじゃないですか?」
(その辺のって…まあ草は食べるけど…)
ファラから視線を送られたので、頷く雷兎。
それを見ていたファルが、面白がって明らかに怪しい赤みがかった草を雷兎の前に差し出した。
「これとかも食べるのかしらね?」
(無理無理無理無理っ!!それ毒あるやつ!)
雷兎が首を全力で横に振る。
「全力で首振ってますね…」
「これはダメなのね」
ファルがまたその辺の草をむしり、雷兎に差し出す。それを食べれたら食べて、食べられなかったら首を振る。
それを繰り返して雷兎の食べる草を選別しながら、話は雷兎の名前についてに移っていた。
「私ネーミングセンスあまり無いんですよね…ファルさんいい案無いですか?」
「そうね…うさぎちゃんとか」
「そのまんまじゃないですか!」
「じゃあ、草を食べるから草食ちゃん」
「雑すぎません!?」
そんな感じで色々と案を出したが雷兎がいい反応を示すことはなく、面倒になったファルがラパンで決定!といい、ラパンになるのだった。
「ラパンって…結局そのままじゃないですか…」
「大事なのは名前じゃないわ。名前をつけることよ」
「いや、それって……やっぱりなんでもないです…」
ファルさんって、素はこんな風なのかな…と何となく残念な気持ちになるファラであった。
☆☆☆
モンスターが出てきたので、進行は早めに切り上げて今日の拠点を念入りに探すことにしたファル達は、モンスターが嫌がるといわれている魔除の木を探すことにした。
「森には結構生えてるはずなんだけど…なかなか無いわね」
「水玉模様が特徴の木…なんですよね?」
「ええ。見つかった?」
「いえ…あったらかなり目立ちそうなものですけどね」
(ここら辺に魔除の木は無いんだけど…)
がそう伝えようと思っても上手く伝えられず、結局一行は無駄な探索を続けるのだった。
「ないわね」
「ないですね」
無いものを見つけられるはずもなく、朝が近づいてきたので素直に諦めた二人はいつものように安定した所を選び、結界を張ってやり過ごすことにした。
「まあ…この辺りには低級モンスターの反応しか無いし大丈夫でしょう。
でも、そろそろ結界以外の方法も考えないといけないわね」
「そうですね…私が魔法を覚えれば話は少し簡単になるんですけどね…」
「魔法はそんなにすぐ習得出来るものでもないわ。気負わなくて大丈夫よ」
「はい…」
詳しいことは明日考えようということで話はまとまり、二人は休憩に入るのだった。
この二人にとってはそれが当たり前になっていたが、ラパンにとっては初めてのことなので、何で朝になるのに寝始めてるんだろう?と思っていた。
挙句はファルが朝日が昇ると同時に霧散していき上手く状況が飲み込めなかったが、ここで野垂れ死ぬよりはこの二人のペットとして生きていく方がいいと思ったので、ラパンも大人しくファラのももの上で休憩を取ることにしたのだった。
☆☆☆
翌日、魔法の練習と太陽が昇っている間の対策をしてから出発することにした二人は、まずはファラの練習メニューをこなすことにした。
考えたのはもちろんファルで、まずは地属性の基本魔力の発現を反復練習をし、そこから実際に魔法のイメージを投影する練習に移るというものだった。
前者は基本魔力量を上げる効果があり、後者はもちろん魔法を実際に放つ練習だ。
ファラは、基本魔力は着実に発現量も上がっていき順調だったが、変動魔力の方がどうしても感覚が掴めず苦戦していた。
ラパンも暇なのか、ファラと一緒に基本魔力の発現を反復練習をしていた。
「ご飯出来たわよ」
そんな二人を眺めながら、昨日と同じ蛇のモンスターとラパンの餌を取ってきたファルは、今日は蛇入りスープを作ったのだった。
「今日は丸焼きじゃないんですね」
「ええ。せっかくなら美味しく頂けないかと思ってね。
料理の仕方はわからなかったから適当だけれど…感想ちょうだいね」
「あっ、やっぱりファルさんは食べないんですね…」
(私の葉っぱはそのまんまなんだね…)
ファラとラパンから避難の目を浴びるファル。
しかしそんなことは気にもしていないようで、さっそくファラにスープを飲んでもらおうとしていた。
「あーん………まずっ」
「まずい?」
「これ、蛇を熱湯に入れただけじゃないですか…?」
「うん」
思わず絶句するファラ。
ファルは食に興味はあれど、料理の方には全く興味が無いのだった。
「いいですか?スープっていうのは、ただ水に入れるだけじゃなくて出汁や具材を…」
料理の根本的なことから解説をするファラを見ながら、私はそのまんまで良かった…とラパンは思うのだった。
ご飯を挟んだこともあり、キリが良いので魔法の練習も切り上げて昼の過ごし方について話し合うことにした二人は、いい場所を探すのではその日しのぎにしかならないので、根本的にモンスターを呼び寄せない方法を考えることにした。
「でも、モンスターを呼び寄せない方法ですか…
あの魔除の木の枝を持ち歩くとかじゃダメなんですかね?」
「私も魔除の木の理屈まではわかってないからなんとも言えないわね…
自力でなんとかするとしたら、やっぱり魔法で臨時の拠点を作るのが一番早いかしらね」
「そんなことも出来るんですか?」
「地属性魔法の応用よ。
単純に、土を盛り上げて固めて簡易的な家を作る…みたいな感じね。
ファラが地属性魔法を覚えれば敵襲の時にこの家から迎撃出来るから、かなり楽になると思うわ。ラパンにも協力してもらえば、尚更ね」
ファルがそう言うと、ラパンが返事をするように軽い雷魔法を放った。
さすがに簡易的とはいえ、毎日家を作るとるとファルの魔力消費がすごい事になるのだが、ファルはそれを惜しんでファラ達を危険な目に合わせる訳にはいかないと考えていた。
「地属性魔法の基礎を覚えれば、傾斜を作って自分で車椅子を動かすことも出来るようになるから、使えるようになるまでは魔法の練習の時間を少し増やしましょうか」
「そうですね!早く魔法を使いたいなあ…」
兎にも角にもファラが魔法を習得すれば解決する問題が多く、ファラはそれだけにかなり気合が入っていた。
ファルとしてはそこまでプレッシャーを与えたくなかったのだが、あまりそう言い続けるのも逆効果かと思い、習得するまでは厳しくいった方がいいのかと悩みどころであった。
☆☆☆
とりあえずの予定は決まったので今日の進行を開始した一行は、予定通り洞窟を目指して進んでいた。
しばらくは特に問題も無く進んでいたのだが、数分ほど前からファルは何者かの気配を感じていた。
「………」
「ファルさん?そんなにピリピリしてどうしたんですか?
それに、ラパンも」
ファラは、ファルとラパンが何かを警戒していることを感じ取り、心配そうに声をかけた。
「何かがいる気配がするのよね。少しやばそうなのが」
(この気配って…あの時の…)
何かがいると感じているファルに対して、ラパンはこの気配に覚えがあった。
それは、自分の群れが壊滅させられた時に感じた気配だった。
ファルが本格的に気配を探ろうと立ち止まると、その正体はふとファル達の前に姿を現した。
「流石ですね、力も衰えていらっしゃらないと見えます。
しかし、少しは魔力をお隠しにならなければ、いらない厄介事に巻き込まれてしまうやも知れませんよ」
突然現れたのは仮面を付けた男で、男は馴れ馴れしくそう語りかけてくるのだった。
(こいつだ…よくも私達を…ッ!)
ラパンはこの男の姿に覚えがあり、それは先程の予想通りの群れを壊滅させた男だった。
一目でも自分では適うはずがないとわかったが、それでも気持ちを抑えきれなかったラパンは自分の中の最大級の雷魔法を撃ち込んだ。
「おやおや、貴方も無事に保護されたようで。良かったですねぇ」
(何が…!あんたのせいで…みんなが!)
一羽の小型の兎が放つにしては規格外のその魔法も、その男は虫けらを払うようにかき消し、まるで相手にしていなかった。
「それで、貴方は誰なのかしら?」
ファルが一触即発という雰囲気を纏いながらそう話しかけると、男は戦意はないといった風に両手を上げながら答えた。
「名乗りたいのは山々なのですが、名乗る訳にはいきません。
ワタクシはただ、これを渡しに」
そう言って男は頭を垂れながら、1枚のカードを渡してきた。
そこにはただ、『その少女の血を吸えば、貴方は破滅するだろう』とだけ書かれていた。
「これは…どういう事なの?」
ファルがそう問いながら顔を上げたが、そこには既に誰もおらず、何の変哲もない森の風景が広がっていた。
「……何が書かれてたんですか?」
「……何でもないわ」
呆気に取られていたファラが気を取り直してそう問うと、ファルは手紙のようにカードを燃やしてしまった。
「どうして、どうして燃やしちゃったんですか…?」
ファルが一人で抱え込む事に疎外感を覚えたファラは、思わず口を開いてしまった。
「どうしてって…」
「手紙の時もそうだったじゃないですかッ!
私は…私の事は心配するのに、私には心配させてくれないなんて、酷いですよ…」
「ファラ……」
どこかで自分を上に置いて考えていたファルは、ファラに言われて初めてそのことに気がついた。
ファラは一人じゃ何も出来ないから。私はファラより強いから。と、どこかでファラのことを保護対象として見ていたのだ。
現実にファラはファルに保護されていると言えるだろう。しかし、一緒に旅をする仲間として、現実はそうであってもそう扱うべきでは無かったのだ。
「…ごめんなさい。忘れてください。私は」
「待って!」
ファルは、ファラに言わせてはいけないことを言わせそうになった気がして、慌ててファラの言葉を止めた。
「待って…違うの。これは、私が……じゃなくって。
その……違うの。違うのよ…」
「何が違うんですか?わかってますよ。だって私は─」
「ダメッ!違うの!本当に…ごめんなさい。
もう、もうこんなことはしないから…ちゃんと、仲間だから…」
「仲間…ですか」
ファラは、仲間って何?と考えながら重い雰囲気に合わせるように俯いた。
すると、ラパンがこちらを心配そうにこちらを見つめていた。
(ラパン……そうだよね。一人は…嫌だよね。
私、なんでこんなこと言っちゃったんだろう…)
(ファラ…私は最低だわ。貴方のこと、貴方の気持ち、何も考えていなかった…
私は、貴方のことを大切にするって、大切にしたいって思っていたのに…)
二人はお互いの気持ちを伝え合うことが出来ず、重い雰囲気のまま立ち尽くしてしまっていた。
そしてそのまま朝を迎えると、ファルは霧散し、ファラとラパンは森の中で半日晒されたまま過ごさなければならなくなったのだった。
次の更新はしばらく後かもしれません。
思いつきで書き始めたのですが楽しいので、世界の構図や詳しい設定を考えています。
また、掘り下げるために同世界・同時系列の他の物語もいくつか同時進行で書いていこうかと考えています。
その場合シリーズ化するので、もしよければそちらもお願いします。