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吸血鬼と少女  作者: あああ
暗静の森編
4/6

魔法

 


 森の中に入った二人は、さっそく困難を迎えていた。

 それは、吸血鬼の性…太陽の影響だった。

 吸血鬼の真祖の特徴の一つに、霧散というものがある。これは、太陽が昇っている間は身体が霧散し、空気と化してしまうものだ。

 霧散は完全にデメリットという訳ではなく、むしろ昼間は確実にバレることなく行動が出来るので、メリットになることの方が多い。しかし、この旅においてはデメリットでしか無かった。



「あと1時間弱で太陽が昇るわ。太陽が昇っている間は私は何も出来ないから、どこかに隠れて欲しいのだけれど…」



「そうなのですか?わかりました。

 お昼は、休憩時間ですね」



 ファラが、ファルが吸血鬼ということである程度は覚悟していたのか特に文句をいうこともなく受け入れると、さっそく隠れられそうなところを探すことにした。

 しかし、森の中にそうそう都合のいい場所があるはずも無く、特に何も見つからないまま数十分が過ぎると、ファルは仕方が無いので強引にこの問題を解決することにした。

 それはそう……隠れられる場所が無いのなら、隠れられる場所を作ればいいじゃない!戦法だ。



「この辺りかしら」



 木々がそれほど密集していない所を見つけると、ファルは地面を平らに慣らし、そこに車椅子のタイヤをしまい、設置した。



「ここでいいんですか?私、少し不安なんですけど…」



「ごめんなさい。もう時間があまりないから…

 ここに結界を張るわ。私の結界は太陽が昇っていると効果がかなり薄まるのだけれど…何も無いよりはマシでしょう?」



「そうですね。このままどこも見つからないよりはマシ…ですね」



 ファラがまだ少し不安そうだが、納得をした。

 しかし、効果が薄まるとはいえ吸血鬼の真祖の結界だ。雨風や低級のモンスターの襲来ならば防ぐことが出来る。

 もちろん、夜だとその効果は絶大で、満月の夜ともなると厄災級のモンスターの襲来ですら防ぐことが出来るレベルだった。

 モンスターというのは意思疎通が不可能な凶暴な動物のことで、この世界は多くの種族に加え数多のモンスターが蔓延っており、混沌を極めていた。



「そろそろね。私はちょっと周囲を探索してから休憩するわ。

 それと、明日から少し魔法の練習をしましょうか。いざという時に何も出来ないと、お互いに後悔しそうですし…」



 結界を張り終えたファルがそう切り上げると、ファラは少し寂しそうにしながらも、魔法という自分の知らない力にかなり興味を示した。



「そうですね。でも、私なんかでも魔法って使えるんですか?」



「ええ。使えるどころじゃないわよ。ファラからはすごい魔力量を感じるわ」



「そうなんですか」



 表情にはあまり出ていないが、それでも魔法を使えると言われて喜んでいるファラ。

 実際、ファルはファラから異常なほどの魔力を感じていた。

 いや、異常なほどではなく、明らかに異常なのだ。

 ファルはファラから、ただの人が持てる量とは思えない魔力量に加え、この二つ両方に適性がある種族はいないと言われている、光魔法と闇魔法の両方の波動を感じていたのだった。



(ファラ、貴方はいったい…)



 喜んでいるファラにこの事実をどう伝えるべきか、それとも伝えないべきかと悩んでいる間に太陽は昇り、ファルは霧散してしまった。

 ファラは特にやることもないのですぐに眠りにつき、ファルはファラが眠ったことを確認すると、周囲の探索に出た。

 ファルが感じていた通り周囲にモンスターは居らず、もう少し奥の方まで進んでみるとちらほらと低級のモンスターが現れ始めた。

 おそらく、あの館が一つのテリトリーなのだろう。

 この世界では、基本的には最上級のモンスターのテリトリーや特定の種族による村や街があり、そのテリトリーや村、街の外に低級〜上級のモンスターが蔓延っているというのが基本的なあり方だった。

 館のテリトリーの外は基本的に低級のモンスターで構成されており、ひとまずはファラが襲撃される心配が消えたので、ファルも安心して眠りにつくことにしたのだった。




 ☆☆☆




 太陽が沈むと、霧散していたファルの身体は元に戻り、結界の中へと帰ってきた。

 ファラはまだ眠っており、ファルは1日中何も口にしていないファラのために、今のうちにモンスターを狩ってこようと森の奥へと飛んでいった。



「人間って何が好きなのかしら…」



 ファルは、様々なモンスターを見下ろしながら何を狩るべきかと悩んでいた。

 吸血鬼であるファルには、味の感覚がわからなかったのだ。

 吸血鬼は睡眠も食事も必要としない種族で、ただ在るだけでも死ぬことはなく、力を出す時にだけ血を吸えば事足りるのだった。

 ただ精神的にはそうはいかず、眠りの代わりに意識を落としたり、食事を取る吸血鬼は多かった。

ファルも食事に関心はあるのだが、自分のことについての記憶を無くしていたファルは味の感覚についても何も覚えていなかった。



「そもそも、人間って肉を食べる種族でしたっけ」



 人間が肉食か草食かすらわからなくなったファルは、無駄な殺生をするのも気が引けたので、結局何も狩らずに結界の所へ戻ることにしたのだった。



「結局私も、こんなものなのね」



 少し自分の力に酔いしれていた所があったファルは、結局自分は全能なんてものには程遠いのだなと感じたのだった。




 結界の所へ戻ってくると、ファラが既に目を覚ましており、ファルを見つけたファラは、安心した顔で出迎えたのだった。



「ファルさん!どこに行っちゃったのかと思いましたよ〜」



「心配させちゃったかしら?ご飯を用意しようかと思ったのだけれど、ファラが何を食べるのかわからなくって…」



 ファルがそう言うと、ファラはそういえばと自分が何も食べていないことを思い出し、それと同時に「くー」と可愛らしいお腹の音を鳴らすのだった。



「あっ、そうだったんですか。

 何を…ですか。色々と食べるので何とも…それと、お水も欲しいですね」



 それを誤魔化すように少し顔を赤らめながらファラがそう言うと、空腹でお腹が鳴るということが無いファルには伝わらなかったようで、「お腹から音がしたけれど、大丈夫なの?」とストレートに聞いてしまうのだった。

 そのことを察したファラは、「お腹が空いた時に出る音なので、問題ありません…」と恥ずかしそうにいうと、ファルも納得して、二人は食べられそうなものと水を探すことにしたのだった。




「このペースじゃ今日はモンスターのいる地点まではいけなそうね。

 魔法の練習もしたいし、どうしようかしら?」



 しばらく進んだところで、自分が飛んだ時の感覚と合わせてモンスターのいる所まではたどり着けないと算出したファルは、予定を変更しようとファラに相談するのだった。



「食べ物の方は…毒さえなければその辺の草でも大丈夫だと思いますけど、お水は欲しいですね」



「水って、魔法の水でも大丈夫なのかしら?

 私、水属性の魔法なら使えるけれど」



「魔法の水ですか…どうなんでしょう…」



 少し考えた後、水の宛がある訳でもなかったので魔法の水を試すことにした二人は、器の代わりになるものを探しながら進むことにした。



「あれとかどうでしょう?あそこの大きな葉っぱです」



「葉じゃ水圧に耐えられるかしら…」



「そんな凄い魔法使うんですか…?」




 二人はそんなやり取りをしながらしばらく進んでいると、周りに比べて一回り大きな木を発見した。

 時間もいい頃合なので今日はここまでにしようと決めた二人は、ファルは木を切って器作りを、ファラは魔法の練習をすることにした。



「魔法の基本は魔力を自覚することよ。

 魔力は誰にでもあるものだけれど、魔力量が多い方が自覚しやすいとされているわ。私なんかは意識するまでもなく魔力の流れがわかるけれど、ファラはとにかくまずは魔力を自覚する練習をしましょう」



 吸血鬼の真祖の魔力量は月の満ち欠けで変化するのだが、満月の夜の魔力量は世界最強と謳われる古代龍を上回る程だった。

 もっとも、あくまで『総合的な魔力量』の話だが。



「魔力の自覚…ですか。具体的にはどうやって練習するのでしょうか?」



「それはファラが得たい魔法によるわ。

 でも、まずは基本魔力からかしら。基本魔力は炎、水、風、雷、地の5つよ。この中から適性のある魔力は練習すれば使えるようになるわ」



「基本魔力ってことは、それ以外にもあるんですか?」



「ええ。でも、相当ややこしいからまずは基本魔力のことで大丈夫よ。

 文字通り、ほとんどの魔法はまずこの基本魔力を使うから」



 魔法は、基本魔力に乗加魔力や変動魔力加えることで発動する。

 簡単に説明すると、乗加魔力は魔法に性質を加えるもの、変動魔力は魔法の性質を変えるものだ。

 例えば、毒性を加えたり爆発性を付与するのが乗加魔法。熱量を決めたり、固液気を変えたりするのが変動魔力だ。

 この三つが基本的な魔法に使う魔力で、これに加え特異魔法と呼ばれる種族特有の魔法や、乗加魔力や変動魔力を加えることが出来ない固定魔法がある。

 ちなみに、光魔法と闇魔法はこの固定魔法の一種だ。

 先程の『総合的な魔力量』というのもこの話で、古代龍はそれぞれ何かしらの魔法を極めている事が多く、吸血鬼の真祖は多くの魔法を扱うことに長けているので、真正面からぶつかると古代龍の強大な魔法に打ち負けてしまうだろう。



「そうなんですね。私は何の基本魔力に適性があるんでしょうか…?」



「適性とは言ったけれど、基本的には全員全ての魔力を持っているわ。ただ、魔力が少ないと自覚が難しいという話ね。

 ファラの魔力量は、私が見た感じだと地風水炎雷の順で魔力量が高いわね。

 水属性くらいまでは練習すれば使えるようになると思うわ。

 どうしても炎属性や雷属性が使いたいのなら練習に付き合ってあげるわよ」



「いえ…特にこだわりもないので、地属性…?の練習でお願いします」



「ここまで言っておいてという感じだけれど、私は魔術師では無いから正しい練習法はわからないわ。

 だから、私が地属性の魔力を放出するからそれでなんとなく魔力を感じ取ってもらいたいわ」



「わ、わかりました…頑張ります!」



 ファラに確認をとると、ファルは地属性の魔力を放出し始めた。



「……あっ、何か…雰囲気というか、何か変わった感じがします」



 それと同時に、さっそく魔力を感じ取ったファラがそう呟いた。



「それが地属性の魔力よ。これに乗加魔力か変動魔力を加えると魔法が発動するわ。例えば…」



 そう言ってファルが魔力を先程の大木の根元に集中させると、そこに軟化魔力を加えた。

 すると、大木の根元の土が泥の様に変化し、重さを支えきれなくなった大木は根元から崩れ倒れるのだった。



「地属性の基本的な使い方は大地を変動させることね。

 魔力量を増やせば土や岩なんかを生み出すことも出来るけど、地面に既にあるものを使う方が魔力量のコスパがいいわ。

 私が感じ取れるのは基本魔力に固定魔力だけだから、ファラの変動魔力についてはなんとも言えないわ。

 練習方法も、何度も私の魔法を見て感じ取ってもらうしか無い…のかしらね」



「でも、とにかく今は基本魔力…ですよね」



「そうね。私は魔力を流しながらこの木でコップを作ってるから、ファラは魔力の流れに意識を集中させなさい」



「わかりました」



 そうして、ファルはコップ作りを、ファラは地属性の魔力を感じる練習を始めるのだった。


ファラは、四肢が不自由です。顔や首、お腹とかにはちゃんと力を入れられます。

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