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吸血鬼と少女  作者: あああ
プロローグ
3/6

旅立ち

 


 館内に戻った二人はいくつかの部屋に入ってみたが、どこの部屋にも物は見当たらず、ただただ床や壁が血にまみれているだけだった。



「本当に何も無いですね」



「そうね。血の感じからしても、かなり昔から放置されているっぽいわね」



 部屋内に差し込んでくる月光は弱いので基本的にはファルが見ているのだが、本当に部屋の中には何も無かった。

 ただ唯一、あの部屋を除いては。



(あの手紙のことといい、あの部屋は特別なのかしら)



 しかし、あの部屋に行く気にはどうしてもなれず、結局何も得られないまま数時間館内を探索することになった。




「ここには、何かありそうですね」



 三階の一番奥の部屋までたどり着いた二人は、今までとは一風変わった扉に、何かを期待せずにはいられなかった。



 扉を開けると、中は今までとは打って変わって血や荒らされた形跡はなく、綺麗な部屋だった。

 そして、部屋の中には金色の台座と例の私達が入っていたカプセルと小さめの車椅子が一つと、服が二着があった。



「何でこんな所に車椅子があるのかしら…」



「この服も、見た感じ私達のサイズにぴったりですよ。

 明らかに不自然ですよね…ありがたいんですけど…」



 明らかに何者かの意図を感じる内容に、不信感を抱かずにはいられなかったが、ありがたく受け取ることにした。

 服を着てみるとやはりぴったりで、車椅子もファナにぴったりの大きさのものだった。



「怪しい…怪しすぎます…」



 ファラはブツブツとこの状況への疑問を呟いたが、ファルの意識は既にカプセルの中へと向けられていた。

 カプセルの中には血のパックがあり、まさにファルのために用意されているとしか思えないものだった。



「本当に…怪しいわね…」



 ファルは、あの手紙のことからこの部屋のことまで、明らかにこの状況が私達のために用意されている気がした。

 それが私達の味方なのか敵なのかは判断出来ないが、ここまで親切にしてあって敵ということは考えにくい。と考えたファルは、カプセルを叩き割って中の血のパックをありがたく頂戴することにした。



「……大丈夫、ですか?」



 ファラが、血を飲むファルを見ながら心配そうに声をかけると、ファルは一気にその血を飲み干し、どこか紅潮した顔をしながら「美味しい…」と声を漏らした。

 その呟きを聞いたファラは一安心したが、ファルの様子がどこかおかしいような気がして、再び声をかけた。



「違うの。力が…力が溢れてきて…思ったより大きいのよ…

 吸血鬼の私が言うのもアレだけど、吸血鬼の力ってすごいのね…」



 ファルは自分の内側から溢れ出す力の波を制御出来ずにいた。

 今すぐにでも力を爆発させたかったが、周囲にどんな被害が出るかがわからないので、そうする訳にもいかなかった。



「あがっ……あああああああっ!!!!」



「ファルさん!?」



 数分ほど堪えていたが収まる気配はなく、本当にどうしようかと思ったその時、力の波が一気に大きくなり、容量を超えた力がファルの身体に変化をもたらした。

 長かった金色の髪は更に長く、ツヤのある髪になり、紅い瞳は全てを吸い込みそうな真紅の瞳へと変化した。

 肌はいっそう白く、羽は大きく立派な漆黒の羽となり、美しきその姿は吸血鬼の真祖そのものだった。…小柄なままではあったが。



「ファル…さん…」



「はぁ…はぁ…すごいわね…血を飲むだけでこんなに変わるなんて」



 もちろん、ファルは自分が吸血鬼の真祖であることなど覚えていない。

 本来吸血鬼はそれほど個体の力は強くないのだが、群れを組み、血族を増やすことが最も恐れられている。

 しかし、真祖となると個体の力も凄まじく、真祖直の血族となると、それもかなりの力を持つため、この世界の敵に回してはいけない勢力の一つとして、吸血鬼の真祖は有名だった。



 とにかく、カプセルに保管されていた血を飲むことで真祖の力を取り戻したファルは、自分の力を恐れていた。

 何も覚えてないままにこんな強大な力があるのだ。

 あまりの力に自分を見失いそうにもなったが、ファラの一声で踏みとどまることが出来た。



「本当に、大丈夫ですか?」



「少し休ませてもらおうかしら。

 ……ありがとう」



「…?どういたしまして?」



 感謝される理由がわからなかったファラは少し戸惑ったが、素直に感謝を受け入れた。

 それは、ファルが優しい顔をしていたからだった。




 ☆☆☆




 二人は、ファルがしばらく休んだ後に部屋にあった最後の物…金色の台座について調べることにした。



「他の物はわかりやすく私達のためって感じだったけれど…これは何かしらね?」



「さあ…ただの台座にしか見えませんが…」



 ファラの言う通りで、ただただ台形の台だった。

 強いていえば、少し背が高い。それこそ、ファルがちょうど物を起きやすいくらいの高さだった。

 台座のような箱なのかと思って調べてみても、本当にただの台形の物体で、持ち運ぼうとしてもピクリともしなかった。



「何にも無さそうですね」



「そうね。これだけ訳が分からないのも不自然だけれど…」



「でも、これ以上調べようもないですからね…」



 二人は金色の台座については諦めると、その部屋を後にした。



 目的のものはこの部屋で全て揃ったので館から出て本格的に旅を始めることにした二人は、館を出て、真っ直ぐ森の中へと入っていった。

 ファルがふと館の方を振り返ると、館の右上の方から、何かの魔力を感じた。



(あそこは…あの部屋かしら)



 何があったのか確かめたい気にも駆られたが、ファラに余計な負担をかけさせないためにも、もう一度あの館へ戻るのはやめておこう。と思ったファルは、再び足を森の中へと進めていったのだった。



とりあえず、プロローグは完結です。


これからは、不定期で22時に投稿しようかと思います。

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