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吸血鬼と少女  作者: あああ
プロローグ
1/6

目覚め

 


「………………。」



 なんだか頭が重い。それに、全身に力が入らない。



「うう……ぁ……」



 声を出そうとしたが、呻き声のようなものしか出せなかった。

 全身に血が回っていない。そんな感じだ。



(私は……)



 いったい誰だったか。そんな事を漠然と思いながら、私は眠りに落ちた。




 ☆☆☆




 次に目が覚めた時、私は自分が液体で満たされたカプセルの中にいることがわかった。

 あれから何時間寝ていたのかは分からなかったが、血もそれなりに回り出したのか、それなりの思考力は回復していた。

 それでも、何かを考えようとすると非常にだるさを感じる。

 とりあえず今わかることは、私がカプセルの中にいるという事実と、目の前の同じようなカプセルの中に少女が眠っているということだけだった。



(この少女は……)



 その少女は、小柄で少し短めにに切り揃えられた金色の髪をしていた。

 その特徴的な姿にどこか見覚えがあるような気がして、私はその少女のことを思い出そうとしたが、気だるさが上回り考えることをやめた。

 もう一度眠ってしまおうか。そんなことを思いながら目を閉じようとしたその時、私はその少女の首筋を見てしまった。

 すると、突然私の中の血が騒ぎ出し、私に乾きを与えた。



 ───血が欲しい───



 突然湧き出したその欲求に、私は自分が吸血鬼である事を思い出した。



(そうだ。私は吸血鬼で……私は……)



 しかし、どんなに考えてもそれ以上のことを思い出せない。

 どうにか思い出そうと頭を捻っていると、突然カプセル内の液体が蒸発しだし、体積の増加に耐えられなくなったカプセルは割れてしまった。



「うわっ……と」



 突然自分の足で立つことになった私は、一瞬転びそうになったがなんとか踏みとどまれた。

 しかし、前のカプセルも同様に割れてしまったようで、中に入っていた少女の意識はまだ回復していなかったらしく、少女は倒れてしまっていた。

 私は訳もわからないままに、その少女を見ながら立ち尽くしていた。

 5Wの全てがわからないのだ。



 ただあるのは、身体の乾き──血への渇望。

 吸血鬼としての本能。自分が今何を求めているのかということだけがわかっていた。



(とにかく、何か情報は……)



 そう思って周囲を見渡したが、ただただ広くて薄暗い空間が広がっていた。

 そこにあるものといえば、自分と少女。それに先程の割れたカプセルの残骸くらいだ。

 何もわからずに少し気が沈んだのか、自然と頭がうなだれた。

 すると、私の目には長い金色の髪が映った。



(この色って……)



 私は少女に近づき、自分の髪と少女の髪を見比べてみる。

 それは私が予想した通り同じ色をしており、とても他人とは思えなかった私は、その少女を放っておくことは出来なかった。

 何度か呼びかけてみたものの反応はない。

 しかし、呼吸音や心臓の鼓動は聞こえるので、生きているようではあった。


『ここにいても仕方が無い』


 しばらくどうするか考えた末にそう結論付けた私は、少女を抱えて気の向く方へと歩き出すことにした。




 ☆☆☆




(本当に何も無いわね)



 私は内心で舌打ちをしながら、それでも歩き続けた。

 私の身体は小柄で、それこそこの少女と同じくらいだったが、力はあるようで少女を抱えて歩き続けることに負担はあまりなかった。

 これも、吸血鬼だからだろうか。

 吸血鬼といえば、どうやら私には羽が生えていて、飛ぶことも出来た。

 しかし、飛ぶにはそれなりの力を使うので、乾ききった今の身体ではまともに飛ぶことは出来なかった。

 この少女から血をいただけば力も湧いてくるのだろうが、なんとなくこの少女と自分を重ねていた私は、この少女の血を吸うことを躊躇していた。




「んっ……」



 やはり血を吸ってしまおうか。

 私がそんなことを考えていると、少女が目を覚ましたようで、小さな声が聞こえた。



「おはよう」



 どう声をかけたらいいのか分からなかったが、親近感を感じていた私は自然と挨拶を口にしていた。



「えっ?誰…?」



「……」



 私はその少女の簡単な問に答えることが出来なかった。

 わからない。というのが素直なところだが、わからないと答えるのもそれはそれで変だ。



「私は……?」



 どうやら少女も同じようで、自分のこともわからないようだった。



「あの…どうして真っ暗なのですか?

 私、何もわからなくて…」



「真っ暗?」



 私にとってはせいぜい薄暗いくらいなのだが、少女はそうではないらしい。

 言われてみるとその通りで、周囲を見渡しても明かりのようなものは一切なかった。


 暗視というものなのだろうか。

 暗闇でも目が見えるのは、おそらく吸血鬼の能力の一つだろう。

 そう思った私は、その少女に素直に自分が吸血鬼である事と、それ以外は何もわからないことを伝えた。



「そうだったんですか…

 私は…人間、だと思います」



「ええ。私もそうだと思ってたわ。

 それと…私と貴方は…」



 私は言いかけてから、どう伝えるべきかと悩んだ。

 すると、少女の方から思わぬ言葉が飛び出してきた。



「同じ……ですか?」



「どうして…」



 少女の言葉に驚ききった私は、そう呟くことしか出来なかった。

 私は自分と少女が似ていることを目で見てわかったのだが、この少女はなぜそう思ったのか。

 しばらくして、私の問に答えるように少女が口を開いた。



「ごめんなさい。うまく言えないんですが…あなたから、何か感じるんです」



「何か?」



「ごめんなさい。何かっていうことしかわからなくて…」



「いいえ。謝らなくてもいいのよ」



 やはり、私とこの少女は特別な関係があるのだろう。

 それが何なのかはまだわからないが、とにかくこの少女は私にとって何か特別なんだと確信するには十分だった。




 そしてまたしばらく無言が続くと、再び少女の方から口を開いた。



「あの…今ってどういう状況なんですか?」



「何も無いところをひたすら歩いているわ」



「もしかして、私を抱えて?」



「ええ」



「す、すみません…なんだか身体の感覚が無くて気づきませんでした。

 自分で歩くので、降ろしてください」



 私は別に抱えていることに不具合はなかったが、少女が自分で歩くというのならそれを否定する理由もないので少女を降ろした。

 すると、私が手を離した瞬間に少女は膝から崩れ落ちてしまった。



「あれ…?どうして…」



 私はとっさのことに反応出来ずに、そのまま倒れる少女を眺めていた。

 少女はピクリとも動かずに、ただひたすら呻き声を上げていた。



「んん……っ!はぁ…はぁ……力、が…」



「入らない?」



「……はい」



 私の目には、ただただ倒れているだけの少女が映っていたが、少女は必死に力を入れていたらしい。

 私は仕方が無いので、再びその少女を抱きかかえると、申し訳なさそうに少女が謝罪をした。



「謝らないで。こういう時は、ありがとうと言ってほしいわ」



「……はい。ありがとうございます」




 それから暫く会話はなく、ひたすら歩き続けていると、奥の方に扉が見えてきた。



「ねえ、扉があるわよ」



「本当ですか?

 ここから出られる…んですかね?」



「多分…ね」



 私は多分と答えたが、この扉を抜ければここから出られるという事をどこか確信していた。

 そもそも、こちらの方に歩けばここから出られる気がして歩いてきたのだ。

 それが何故かはわからなかったが、私はこの場所を知っているような気がしていた。




「ついたわ。開けるけど、大丈夫?」



 一応少女に確認をとると、大丈夫です。と返事が来たので扉に手を触れた。

 すると、手を触れた途端に扉は自動的に開いていき、私の目にはその扉の先の後継が嫌でも目に入ってしまった。

 そこには、何も覚えていない私でもそれが何かを理解してしまえる程の拷問器具があちこちに転がっていた。

 おそらく、拷問室というやつだろう。

 血で錆びた、何度も何度も使われた形跡のある拷問器具が無数にあるその部屋は、床も壁も天井も、血で赤く染まっていた。



「扉が開く音は聞こえましたが…まだ真っ暗ですね。

 どうですか?ここから出られそうですか?」



 扉の先には部屋があったのだが、その部屋に明かりはついておらず、少女には何も見えていないようだった。



「ええ。部屋があるわ。特に何も無い部屋よ」



 私はそう誤魔化すと、少女はそうですか。とだけ答えた。

 私はその部屋をすぐに抜けようと思い部屋の中に入ったが、部屋の真ん中にあった赤い椅子の上に、この部屋に似つかわしくない真っ白な封筒が一つ置かれていた。



「何かしら…」



 思わずそう呟いた私に反応するように、少女が答える。



「何かあったんですか?」



「ええ。封筒が一つ置いてあったわ。

 手紙かしら?どうしてこんな所に…」



「えっと…明かりはないですか?

 私だけ見えないのは、少し辛いのですが…」



「あら、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」



 この部屋にも明かりはあったが、中のことを誤魔化したためにここで明かりをつけるわけにもいかないので、その封筒を拾うと、この部屋を抜け出した。



「えっ……」



 部屋の先には廊下のようなものが広がっており、窓から僅かに月光が差し込んでいた。

 しかし、窓から外の様子を確認することはままならなかった。それは、床も壁も窓も、血にまみれていたからだ。

 僅かな光のおかげで少女にもちゃんと見えているらしく、少女はその光景に絶句していた。



「……ここは…」



 私がそう呟くと、少女は私の方を振り向いた。



「綺麗……」



 少女がそう呟くと、思わず言葉漏れてしまったことに気づいたのか、少し顔を赤らめながら目を逸らしてしまった。



「ふふ、ありがとう。貴方も綺麗よ」



 私がそう返すと、少女は少し微笑みながら話を例の封筒のことに戻してきた。

 少女を抱えたままだと読むこともままならない上に、この廊下にいるのも気が引けたので、どこか落ち着ける場所を探すことにした私達はひとまずこの館の外を目指すことにした。



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