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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第8話


「ライラです。お嬢様、湯浴みの準備が整いました」

「わかったわ、らいら。いまいきます」


ベッドから下りてライラの元に向かう。

扉から入ってきたライラを見た瞬間、アメリアはベッドへと戻りたくなった。

ライラの見た目の違和感をさておいて、アメリアの頭に警笛がけたたましく鳴り響く。


(ライラさーん!?どうしてそんなに機嫌がお悪いのでしょう!?)


目の前に立っているライラの表情こそ無表情だったが、とても機嫌が悪いようだ。

否、確実に機嫌が悪い。

アメリアだけは気づけるこの機嫌の悪さはライラの背後にあの時見た混沌(カオス)の扉が出現しかけているかのよう。


「らいら?どうしたの?きげんわる…」

「くもなります!」

「えっと…?」

「先程、愚弟がお嬢様に迷惑をおかけしましたよね?それも勘違いで…なんたる事でしょう!」


(やっぱり筒抜けなんですねー!?)


先程までアークがこの部屋で何を言っていたのか、アメリアとの会話を居なかったはずのライラは既に知っているようだ。

滅多にアークの事を“弟”と呼ばないライラが愚弟と言っている辺り、かなり頭に来ているようだとアメリアは瞬時に理解した。

ライラと二人きりだと多少表情も豊かで言葉も素直になるアメリアだが、これはどうしたものかと思い悩む。

アークへの初回のフラグ建築は完璧だったとアメリアは自負している。

しかしその事でライラとアークの仲が険悪になる事は望んではいない。

このままいけばライラは確実にアークを嫌ってしまう可能性は否めない。

アメリアは必死に考え、そして一つの行動を起こした。


「らいら、いいのです!らいらがいてくれればそれで!」

「お嬢様…しかし…」

「らいらがこんどからはいちばんに、おこしにきてください!アークではだめです!」

「っ!!…ええ!お嬢様っ!このライラにお任せを!あの無能アークではなくこのライラが必ず起こしに参ります!朝は私以外お嬢様の部屋には誰一人!誰一人っ!!近づけさせません!」

(そこまでは言っていないのですが…まぁ体力作りの時間稼げそうですし万事解決ですか…ね?)


対ライラ用必殺が炸裂した。

ライラが自分にだけは弱い事を知っているアメリアは、その小さい体でライラの足に抱きつき懇願したのだ。

思っていたよりも効果を発揮してしまったが、アメリア的には問題なかったので気にするほどでもない。

誰一人を強調して二回繰り返していたが、さして問題はあるまい。

既にアメリアは魔法を使用することが出来るのだから。


魔法には魔法使用開始定年期というものがある。

体に魔力が馴染み、使いこなせるのは本来ならば6~7歳からだと言われている。

それより前に知識も経験もなく酷使しようとすれば魔力暴走を起こし魔法の構築が上手くいかず、下手をすれば構築しようとした術者が命を落とすと言われているのだ。

過去の周回の賜物といっても過言ではないアメリアはある程度の体力こそあるものの、魔力制御は

目覚めてから現在に至るまでの間でも自在に使用することが出来ている。

――引き継ぎボーナスはゲームには必須!

創造神が良い笑顔で言っていた記憶がアメリアの頭に蘇る。

そしてそれは決して誰にもバレてはいけないアメリアの秘密、第二位に挙げられているほど。

第一位はアメリア自身の死ぬために頑張る鋼鉄の精神と魂の性格である。

閑話休題。


ライラに連れられ、その後湯浴みを済ませたアメリアは自室でメイド達にもみくちゃにされていた。否、湯浴みの時からもみくちゃにされていた。

背中の傷は気づかれないように魔法を構築し、上手い事隠し通したしっかり者のアメリア。

流石のアメリアも毎年の事なので、その時のメイド達には強く当たる事はしていない。

誕生日のこの日ばかりはメイド達は何故かアメリアを着飾る為に全力を注いでいる。

裏でライラが何かしたのかとライラに視線を向ければ、無表情でその時ばかりは何を考えているのか全く読めない空気を漂わせるのだ。

なのでアメリアは大人しく洗われ、磨かれ、着飾られる事にしている。

ドレスは既に決まっていたらしく問題はなかったのだが、髪形に関してあーでもないこーでもない、装飾品はこれだあれだと騒ぐメイド達を尻目に大人しく意識だけを別の事を考える事で飛ばしお人形さんになる。

珍しい事に侍女兼乳母なライラがメイド達に混ざっていなかった事が不思議でならない。


完成したアメリアをみてメイド達は「良い仕事しました!」と汗を拭っている。

ライラも「流石お嬢様!素晴らしい!まるで天使!」と大絶賛しているではないか。

その様子に違和感を覚え、出来上がった姿を姿見で確認したアメリアは内心首を傾げた。


(今までと全然違うだと…!?化粧も大人しめ、ドレスも大人しい…いつもビカビカと輝いていた邪魔くさい宝石たちもドレスに合わせて美しく目立たないけれど、抑えすぎないようになっている…?何故!!!!)


過去の周回では毎度おなじみこの格好!といった状態だったのにも関わらず、仕上がった格好が子供のアメリアの瞳と髪色を最大限に生かし、この上なく魅力を最大限に発揮している。

可愛げ、美しさ両方を兼ね備え、その両方が対立することなく生きている。

そういった状態にされていたのだ。


(ドレスが違った時点で気付くべきでした!気を抜いてましたー!神さま方やりおる!)


神々が干渉したかはさておき。

今のアメリアは誰が見ても絶賛するであろう小さい淑女として完成させられていた。

亡きアスターを知っている人が見れば、アスターの生まれ変わりだと口をそろえて言うであろうその姿。

アメリアはすっと表情を殺した。


「いまさらかえろといってもじかんがない。こんかいはこれでいいでしょう」

「お、お嬢様!?何か気に入らないところが!?」

「すべてです」


アメリアの冷たい言葉にその場にいたメイド達は震える。

どこをどう見ても美しく可愛い天使のような少女のアメリア。

それなのにも関わらず気に入らないと、姿見を睨みつけるように見つめている。


「え…」

「これではわたくしをころします。つかえないメイドたちですね…さがりなさい」

「も…申し訳ございませんでした…」


こう言われてはメイド達は部屋を出て行く他ない。

メイド達はちゃんと良い仕事をしたのだ。

本当に。

最高の仕事をしたのだが、アメリアから言わせると“最低”な仕事ぶりなのである。


(これではいつものように猫撫で声出して殿下の評価を下げられないじゃないですかー!!!)


それもその筈。

今までの周回はどれも子供には不似合いなドギツイ化粧、奇抜い衣装、ごてごての装飾品達という“悪”を凝縮した姿だったのだから。

そのまま見た目“悪”のアメリアだったからこそ、これから現れるこの国の第一王子ジークライド・レイ・ラナンキュラスに一目見ただけで嫌われる事が出来たというのに。

その悪が今は完全に鳴りを顰めてしまっている現在進行形。

アメリアはどうしたものかと考える。


「お嬢様…とてもお美しくそして可愛らしく素晴らしい。とても良い仕事をあのメイド達はしました…何がそんなに気に入らないのですか?」


流石のライラもこればかりはアメリアに同意し兼ねた。

姿見を睨みつけるように見つめるアメリアに声をかける。


「らいら…わたくしはめだちたかったの…」

「目立ち…」

「そう…なのにこれではおにーさまやマイクのうつくしさにまけてしまう」

「っ!それはあり得ません!」


ゆるりとアメリアは首を振る。


「じかんがないからこんかいはこれでいいわ…でもらいねんはわたくしがえらぶことにしましょう。これではわたくしをころしている」

「…畏まりましたお嬢様」


アメリアの瞳は憂いを帯びたはコバルトブルーの色。

その瞳を見たライラはもう何も言えなかった。

本当にこの小さき姫は悲しんでいるのだとライラは思ったのだ。


(よっし!ライラの許可は取りました!来年はごってごてのがっちがちにしてみせますよー!嫌われる為に全力を惜しみませんっ!)


その内心は鋼鉄精神万歳の状況であった。


「ねぇらいら…いまさらなのだけどきいてもいい?」

「何でしょうか?お嬢様」

「なぜおとこのかたのふくをきているの?」


本日のライラは男性の騎士のような礼服を身に纏っていた。

その姿は双子のアークのような危うくも鋭い美麗さがあり、声を出さなければ女性だと気づかれる事はまずないだろう。

アークは常に髪の毛を後ろに上げて流しており、一方現在のライラは普段から髪の毛を下ろして一つに纏めて後ろに流しているが、それを前に流している。

ただそれだけの違いでしかない。流石は双子。二人はこうして見てみると、とても顔の作りが似ている。

想像力を総動員させアークの女装姿を思い浮かべたアメリアだったが、結果ライラにしかならなかったというまでもない。


ずっと聞くに聞けなかった事を意を決して怖いものを突っつくかのごとく聞いてみた。

無表情を標準装備の彼女は小首を傾げながら


「お嬢様をお守りする為ですが?」


と至極当然というように答えた。

それに対してアメリアはそうかと頷いて返す事が精一杯であった。


(かっこいいですけども!とっても似合ってますけども!?とっても見た目がアーク!)


ライラが男装する事など周回で数回ほどしか見てこなかったアメリア。

4歳の誕生日に男装を見るのは今回が初めてだったりする。

嫌な予感がしてアメリアはライラに向き直る。


「ちゃんと…しごとしてね…?」

「お嬢様を守る事が…」

「きちんといえのしごとをしなさい」

「……畏まりました」


不服そうに了解したライラを見て、アメリアは先に釘を刺して良かったと心から思った。


そんな時、扉が数回ノックされた事でライラとアメリアは会話を止める。

ライラが扉の前にいき相手を確認すると、ゆっくりとその相手を招き入れた。


「おにーさま」

「……」


訪ねてきたのはダレン・フレッド・スターチス。

今回のエスコート役のアメリアの兄だった。

そしてアメリアの姿を見たダレンは、石像のように固まってしまった。



男装ライラ登場



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