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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第65話

誕生日会は中止、事件となって世間に知れ渡ってから暫く経った頃。


二人の子供の行方は未だ知れず、スターチス家、サザンカ家共に明るかった空気は一変し、沈黙が包み込んでいた。

この事態にアメリアは一人アスターの秘密基地にやってきていた。

アスターの秘密基地内の時間は外の通常空間とは異なり、かなり緩やかである。考え事をする為にアメリアはこの場所に今いるのだが、彼女は現在怒りに震えている。

あれから暫く経った今でもユリ、マイクの二人の行方が分からず、アグリアの力も借りて調べているのだが、何の進展も見えない。二人を捜索している間はアグリアの訓練は頻繁には行われなくなった。中止にならなかったのはアメリアの中にある祖母がやろうとしている仮説が本当であれば、訓練は続けなくてはいけないと判断し、持ち前の我がままを爆発させたのである。また公爵家二人の子供の失踪の件が魔法老師より精霊王にも伝わり、滞在延長という命令が下された。

ブラック魔法老師曰く、今回ばかりはと精霊王を自分も説得したのだと自慢げに、魔法具での勉強中に語られたアメリアだったりする。

隣国の人間含めて捜査をしていると言うのに、高度な技術、魔法を使用していたとしてもここまで姿を隠せるだろうか…。アメリアは疑問に思っている。

世間では二人は既に…。等と密かに囁かれてもいる。


99回の死を経験し、この世界が何なのか知っているアメリアだからこそ、この予測していなかった事態は納得出来ず完全に消化不良を起こしている。

風も照らす光も穏やかな空間で、両手で頭を押さえて勢いをつけて上を向き、大きく息を吸って――。


「あーーーーー!!なんですか!何なんですかっ!この事態はっっ!!物語にこんな過去は用意されていませんでしたよね!イレギュラー多すぎです!神さま方のアホーーーーーー!!」


心の嘆きをそのままに、アメリアは光の加減で色の変わる瞳を深紅に染めて白の空間に向けて叫ぶ。

この事態を引き起こしたのが自分かもしれないと少しは考えている彼女だが、本気を出して干渉してきているのは神々であり、と八つ当たりをしているのだ。

白い空間から「僕たちのせいじゃないよね!?」という声が聞こえてきた様な気がするが、アメリアは無視を貫く。聞こえるわけがない。ここは『ゲーム盤』の世界だと。

淑女らしからぬ大声を上げ終わると、一つ息を吐いて自分の頬を強く叩く。

乾いた音が穏やかな空間に響き渡る。気合を入れ直し、瞳の色も戻れば、机の上に乗っている二人の捜索中の資料へと向き直る。

資料はアメリアが独自で入手した物もあれば、ライラ、アークの力を使って集めた物も多い。二人が何やら話しあっているのを度々見かけてはいたが、今はそれどころではないと気にしなかった。


アメリアは椅子に座り、机の上に並べた既に何度も読んでいる山となった資料へと、見落としが本当に無いのかと、再度目を通す。

紙の捲る音だけが響き、その音も次第にゆっくりと速度を落としてその内止まってしまった。漏れる溜息。アメリアはがっくりと肩を落とすと、資料を閉じて机に突っ伏し項垂れた。何度繰り返し読んだところで結果は変わらず、見落としている物も無かった。

外に自由に出る事の出来ないアメリアにとってこれ以上打つ手がないのだ。


氷の公爵家の子供が二名行方知れずとなれば、アメリアとダレンの二人にも必然的に警備を増やされて屋敷に軟禁状態となる。全員攫われる事が無いようにとの処置だが、息が詰まるとアメリアもダレンも内心感じている。

父のロイドも苛立ち故か、常に気を張っており、いつ倒れても不思議ではないとアメリアは見て心配している。


「お父様もユリもマイクも大丈夫でしょうか……。本編に関わるキャラクターである以上、途中退場は多分、恐らく、自信は無いですけど無いとは思うんですけど。……外に出ればワンチャン死亡フラグがあるかもしれないのに……、どうせ本編までは死ねないんでしょうけど……うぅぅぅぅぅぅ試したいぃぃぃぃ」


無詠唱で魔法を構築出来るアメリアと天才のダレンは正直強い。

その事を二人がロイドへ伝えたとしてもこの軟禁状態は解けなかった。100回目の死を望むアメリアからしたら、この状態は何よりも辛い。

ぐりぐりと資料を撒き込んで頭を振っていると、一枚の紙が足元に落ちる。


資料の一つだろうと、アメリアは疲れたように溜息を一つ付くとそれを手に取り、拾い上げた。


拾い上げた資料は、合魔獣の物。

アメリアの口から「あぁ……」と興味半分の声が漏れる。これも調べなくてはいけなかったのだと、思い出したのだが、正直気が乗らないと言った様子。ライラには引き続き調査を定期的にさせていたが、マイクとユリの失踪後からなりを顰めていると報告されている。関係性があるのかないのか、判断材料が足りないと最近は放置していた内容だ。


そんな気が乗らないアメリアの髪を一陣の風が強く吹き、浮き上がらせる。


強く瞼を閉じて耐えるが、机にあった資料は無残にも風に飛ばされていってしまう。風が止み、薄く目を開く。一体何がと辺りを見渡しても、そこにはいつもの秘密基地の穏やかな空間が広がっており、変化はない。

アメリアは首を傾げて眉を顰める。


「……なんですか?あの風……。お陰で資料が……、ん?風?」


手に持っていた資料に目が止まる。

記述を読み、その端に見慣れた紋章を見つけたのだ。


「これは……第五師団の?何故合魔獣の資料に……?」


動揺しながらも、思い出そうと頭を回転させる。この資料は本当に自分の物か。自分の物では無ければ双子に調べさせた物か。そうでもなければこれは〝何処から手に入れた物なのか〟アメリアは思い出す。

レオンの誕生日の日、あの場でも同じように風が吹いた。その後遭遇した得体のしれない生き物の事を…あの日の一つ一つをしっかりと思い出す。


「あれは…もしかして合魔獣ですか…?」


ただのイレギュラーが起こした、得体のしれない魔物か何かだとばかり思っていたアメリアの脳裏に一つの仮説が立てられていく。

仮説を仮説のままに終わらせぬように、同じく第五師団の紋章の入った物を、風に飛ばされた資料の中から急いで探す。

焦る気持ちを抑えきれず何枚か皺になってしまったが、散乱した資料の中に、答えはあったのだ。


風に飛ばされた資料。その中に。


アメリアはその場で崩れるように膝を付いて下を向く。


「見つけた…。あぁ…こんな近くに答えが…。昔からのわたくしの悪い癖。後で調べようと、後で見ようと思ってそのまま…。これが、貴方様が私に託した想い…真実だったのですねルドベキア様……」


アメリアの目の前にはルドベキアから託された縄で結ばれた古びた袋。その紐は役割を放棄しており、中身は外へ風に靡いて飛んで散らばってしまっていた。

袋の中に入っている資料には第五師団の紋章が入っており、散乱している物を寄せ集め並べてみれば合魔獣、実験、異端の双子、アークとライラの名前…それら全てが載っていた。


アメリアは唇を噛み締め涙を耐える。

いくら彼女が鋼鉄の精神と魂を持っているとしても、あまりに酷い内容だったのだ。瞼を閉じて首を何度も横に振り、落ち着けと泣いている暇はないと自分を叱咤する。感情を爆発させる事は簡単だと、何度も、何度も言い聞かせ落ち着かせた。


暫くして落ち着きを半分程取り戻し、再び資料へと視線を移せば、資料の中に一枚のメモの様な、まるで日記の様な殴り書きを見つけ、震える指でそれを拾い上げ、目を通す。


・異端の双子を媒体とし混沌の扉という魔法を構築に成功。しかし師団員の一部が実験の為死亡。双子を回収は危険と判断し諦める。王に気づかれ一部が解任された。一体どういう事だ。国の為に我々はしたというのに。これでは裏切りだ。

・平和を愛するのであれば危険分子である隣国は潰すべきだというのに、理解しないこの国は我々が貰い受けるべきだ。

・禁忌魔法による合魔獣の製作。この実験さえ成功すれば我々は国を手に入れる事も容易い。我々を裏切った国への復讐のため実験を随時行う。

・以降この実験は追い出されたアンスリウム家と共に行う。何年、何十年、何百年かかろうとも、必ず成し遂げる。薬が足りない。アンスリウムに頼まなくては…。彼の血筋は特別な力を持っている…禁忌魔法を使えるんだ…精霊魔法だって…アァ、救世主。彼は神の使いだったんだ……。

・追い出された者の復讐の為!救世主を!救世主の子孫をこの国の王にする為に!


支離滅裂な文章にアメリアは必死で頭を働かせた。

理解が出来ない、理解したくない。アメリアはそう思った。書かれている文字はミミズが走ったような部分もあり、かなり時間がかかったが、読み解けた部分だけでも十分に理解が出来てしまったのだ。

神の使いだと崇められ、狂ったその計画を。


「アンスリウム男爵の先祖は元々第五師団にいた…。ルドベキア様に構築されていた魔法は禁忌魔法。合魔獣も禁忌魔法…そして…マイクへ禁忌魔法を教えた人物もアンスリウム男爵に声が…」


脳を整理する為に次々と口に出していくアメリア。彼女の顔色はどんどんと悪くなっていく。

どれもが断片的で、曖昧だった部分がゆっくりと遠回りをしながらも、一本へ繋がっていっている。


「事の発端は第五師団の先祖。国に気付かれて密かに地位を失った者による復讐が合魔獣の実験…。今もそれは行われていて……アンスリウム男爵の血筋は禁忌魔法も、精霊魔法も使えたから、神の使いとして崇められていた…」


馬鹿馬鹿しいと吐き捨ててしまいたい程だった。何故アンスリウムの血筋が精霊魔法を使用出来るのか、禁忌魔法だけでも普通であれば困難だと言うのにと。

思考を巡らせていると、再び風が吹き、一枚の紙をアメリアの元へと辿り着かせた。

自然と持ちあがる視線の先、アメリアの瞳が驚愕で見開かれ、苦痛に揺れた。


「なっ!そんな!嘘っ!!」


『合魔獣の実験に使用する人間は孤児。その為に教会を設立。地下にて孤児を媒体に実験を行う。また別でマイク・スターチスを勧誘し、彼を媒体として実験を行う。』 


アメリアの脳裏に複数の孤児の青年たちの声が…蘇る。

――こんなところにいたくねェか!そうだろうよー!いいなーお嬢様かー

――ガッハッハ!それでもオレはここが好きだけどな!

――おれもー!男爵様のお陰で不自由してねえしな!

――いつか男爵様に恩返し出来る様にならないと

――だなー!!


クリスタルの投影からマイクと道化男の姿が…。

――いいの!?だったらユリも一緒がいい!

――ユリ?妹さんですね?構いませんよ!まぁこちらの準備が整ってからになりますが、大体R.D.908のマイク様の誕生日辺りに致しましょう!少し早まる場合もありますが…如何でしょう?

――わかった!それまでに僕はこれをやって魔力を手に入れておけば良いんだね!


孤児である彼らが今どうしているのか、マイクが今どうなっているのかアメリアは分からない。しかし、巻き込まれていると言う事だけは確実だと理解出来てしまった。

ぐしゃりと紙が握られ潰され、拳は強く怒りと悲しみで小さく震えている。


「こんな事……あって良い筈がない……」


少女にしては低く怒りに震える声がアメリアの口から漏れ出る。


「アンスリウム……貴方だけは絶対に許さないっ!」


時間は残り少ない。迎えに来るとあの仮面の男は言っていたのだ。既に迎えに来てしまっているのかもしれない。焦る気持ちを抑え込んで、ゆっくりと立ち上がり、資料をそのままにアメリアは秘密基地を後にした。


轟々と炎のように燃える深紅の瞳のまま、書斎からアグリアの元へと向かったのだった。


お久しぶりです。本橋です。

この度本作「悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む」が9月10日に発売される事が決まりました。

お知らせに関しては活動報告の方で詳しくさせて頂きます。

本当にありがとうございます!視点がアメリア視点になり、こちらとは少し変わった内容になる部分もありますが、第三者視点でこちらは変わらず続けていきたいと思います。

どうぞこれからも宜しくお願い致します。

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