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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
7/87

第6話

連戦。引き続き対ダレン戦→対マイク戦


睨みあう事数分。

ふぅと先に視線を動かしたのはダレンだった。


「ん。今日のところは仕方ないね。アメリア、君は最近変わった。だから誕生パーティーの時、僕がエスコートすることになったよ」

「…なにをみてかわったというのかさっぱり、りかいできませんが、えすこーとはおとーさまにしてもらいます。おにーさまのえすこーとではいやです」


嫌味爆弾を流れるように落とすアメリア。

その爆弾に流石のダレンの笑顔もひきつったのが分かった。

アメリアはなおも追撃をやめない。

彼女はとりあえずこの部屋から、今すぐに!この二人に退場して頂きたいのである。


「おにーさまのほうがしんちょうてきにあうとおもいますが、いざというときにおにーさまではたいおうできないかもしれません。なによりもおにーさまではわたくしとかみいろがかぶります。わたくしが、めだつためにじゃまです」


今までの通りのわがままを上乗せし、ぶつけてみた。

最初の頃のアメリアは兄と父にのみ懐いていたが、それも無駄だと分かっているアメリアはその行動を自分の罪に気づいてからしていない。

あから様な行動は結果無意味だと理解している。

現状この兄に甘えたところで無意味なのだ。

――ならばさっさとこの部屋から退場していただこう。

そう考えているだけである。


「アメリア?どうしてそんなに僕を避けるんだい?」

「さけてはいません」

「ならそんな事を言うという事は嫌いなのかな?」

「…きらいではありません」

「そう?だったら僕でも良いじゃないか」


(くっ!ああ言えばこう言う!!嫌いじゃないけど邪魔なのですー!)


アメリアは表情は変えないものの、今までの周回で嫌という程味わってきた自分の兄の実力の片鱗を今現在味わっている。

現在のダレンは小さいながらも確かに将来自分を追い込んだ手口に近い形で、アメリアを追いこんでいる。

過去の経験則に基づいても唯一彼にだけは口で勝てた試しがないのだ。


ゆっくりと息を吐く。

諦めたらそこで終了ではあるが、これ以上言い合っても仕方ないとアメリアは考える。

結局のところ目の前にいる兄の考えがアメリアには読めない。


「そこまでおっしゃるのなら、おねがいいたします」


ならば、と付け焼刃かもしれない条件を彼女は放つ事へ考えをまとめた。


「とうじつまでわたくしにかんしょうしないでくださいませ。げんざいもおにーさまやマイクのせいでべんきょうができません。じゃまでしかないのです」

「…あねうえ…」


誕生日当日までの間、自分に干渉してくるな。

条件をのまなければエスコートは受けない。

それがアメリアが出した条件。

そして彼女がこの条件を先に出したことにより、マイクとダレンはアメリアに干渉できなくなったのも然り。

ダレンは自分の妹がここまで頭が回るなど露ほど思っていなかった。


――先を越された…。


目の前にいる自分の妹アメリアに一杯食わされ、今まで保ってきた笑顔が崩される。


「ん。分かった…そうしないとエスコートを受けてくれないんだろう?」


あえて確認するように繰り返すと、アメリアはこくりと頷いて返す。

今回の勝負は引き分けだとアメリアは心の中でガッツポーズである。

勝つ事は出来なかったが、負ける事もなかったと。

目の前に立つダレンの表情を崩せたのが今回の一番の功績だとアメリアは思っている。

表情はそんな内心を微塵もにじみ出していない嫌悪たっぷりの仮面を張り付けたものだったが。


その場の第三者であるマイクはダレンが、アメリアに言い負かされている状況にしか思えなかった。

ダレンの方が年上なのだ。

そう、アメリアよりも。

それなのに対等にアメリアは戦って見せた。

その事が何よりもマイクは驚愕した。


来てから数日しか経っていないが、自分を虐める姉しか知らない自分ではあるけれど、その姉に対し思う事はたくさんあった。

まるで自分を姉が虐める事によって、姉が代わりに母からの暴力を受けているのではないかと。

――姉上の行動には常に何かしらの理由がある…?

そしてそれは先程の二人の言い合いで確信に変わろうとしている。

いまだ半信半疑ではあるが、何故自分がこんなにも大人と変わらない考えが起こせるのか昔から疑問だった。

言い合いの中で姉は、自分たちからの干渉を何よりも拒否している。

それは母との事すらも口出しするなという事に他ならない。

マイクは目の前に立つアメリアの背中が遥か先にいるように思えた。


マイクにとってアメリアは壁なのだ。


それは姉の力で、自分を口と態度だけで虐めるだけで作り上げただけの壁。

しかしその壁は思ったよりも強固であったとマイクは思う。

ここ数日だけで作り上げた壁なのにも関わらず、彼女の作り上げた壁を壊せる気がしない。


「あねうえは…」


マイクは自分の中に燻ぶる思いをアメリアに伝えたい。

母親のせいで上手く表現できない自分の言葉をゆっくりと、しっかりと紡ぐ。


「あねうえは、ぼくをまもろうとしてくれてるんだよね…?」

「…どうしてそのかんがえになるのか、りかいできない」

「あねうえは!ぼくや、あにうえがだいすきなんです」


「だから、はなそうとするんだ!」


マイクの言葉にアメリアの心は激しく動揺した。

何故、歳が変わらないはずのマイクにそんな考えが過ったのか。

今までのマイクはただただ自分に良いように虐められていた人形だったはずだ。

そして兄もまた自分に現在のように干渉しては来なかった。

それが何がどうしてこうなったのか…。

アメリアの頭はダレンと言い合った時より回転していた。



長く感じるその場の沈黙。それは数分かもしれないし一瞬かもしれない。

しかし三人を包む異様な空気はその場の誰も口を開く事をためらう程の緊張した空気。

マイクは答えを望んでいるわけではない。ただ、ただ自分の考えを自分を守る壁となった、姉のアメリアに伝えたかっただけなのだ。純粋で真っすぐな幼い子供の言葉。それは時に思いもよらない結果を生み出す残酷な言葉。


アメリアはここでマイクの言葉を認める事はまず“出来ない”。


 自分との約束。

 神々との約束を完遂するために。


「いいかげんにしてください!マイク!ダレンおにーさま!でていってください」


突如アメリアが声を張り上げた。

それと同時に部屋に乾いた音が響く。


精一杯の力を込め、アメリアはマイクの頬を叩いた。

身長がさほど変わらないマイクとアメリア。

しかし力を込められ叩かれれば、小さい体のマイクは揺らぎ、強く背にある扉に体を打ち付ける事となるのは目に見えていた。


今まで暴力など振るってこなかった姉の行動にマイクは震えた。

震える足で倒れないようにするのが精一杯な状態で姉の表情を確認する。


確認した事を後悔する事になろうとは思っていなかった。


彼女の瞳は、強い“拒絶”の色を自分に示していた。

光の加減で色が変わるアメリアの瞳は今、底知れぬ漆黒の色を纏っているようにみえ、その瞳の冷たさにぶるりと体を震わせる。

アメリアの行動に驚きと衝撃で動けなかったダレンも、マイクが視界の端で震えている事に気づくと直ぐにマイクの元へと駆け寄る。

そして彼もまたアメリアの拒絶だけが覗く瞳を見つめ、奥歯を噛みしめながらマイクと共に部屋を去った。



◇◇



二人が出て行き、ゆっくりと扉を閉め鍵をかけその場で蹲る。


(叩いて…しまいました…)


蹲るアメリアはマイクを叩いた掌を見つめる。

彼を叩く事はここ最近の周回では決してしなかったことだ。

彼の母親がしてきた仕打ちを知っているからこそ、これ以上肉体的な虐待は必要ないと分かっていたから。

それが今回二人のあまりの変化に動揺した。

そしてそれに対しての激しい拒絶をアメリアの中に生み出した。


(お母様を見てから心が簡単に揺れてしまっている…これではいけない…)


掌をゆっくりと握っては開く。

感触を確かめるように何度も何度も繰り返す。

指先は驚くほど冷たい。

そして小さな手は震えていた。


(誰も殺さず、傷つけず悪を貫くつもりが…神さま方が本気を出している今回は…手を汚さないといけないかもしれませんね)


全く面倒だとアメリアはそっとその掌を顔に当て、いつの間にか止めていた息を確かめるように吐き出した。

彼女は再度自分の役割を、自分のすべきことを認識する。


この世界に悪は自分だけでいい。

そして自分が死ぬ事で全ては私と共に還る。

これが最後の周回。

――記念すべき100回目だと。


最後の周回は始まったばかり。

アメリアが顔をあげると先程より力強く冷たい瞳が作り上げられ、そこにはあった。


(さてはて悪戯好きの神さま方…。悪役令嬢アメリア・ド・グロリア・スターチス!全力でお相手致しましょう!)


鋼鉄の魂を持つアメリアは、打倒ハッピーエンドを胸に立ちあがった。


それからというもの、ダレンとマイクがアメリアを見つけても条件通り干渉してくる事はなかった。

否、干渉出来なくなったと言った方が正しいだろう。

先日の出来事がきっかけとなり、マイクとダレンはアメリアと今まで以上に接することが出来なくなってしまっていた。

平手を打たれたマイクはアメリアの事を見かけると体が恐怖で固まり、近付いても上手く言葉に出来ず、内心はとても心配しているのだが表現する方法を知らない。

また、ダレンもアメリアと今まで距離を取ってきた為に、妹との接し方が分からない。特にここ最近の彼女への接し方が上手ではない。


(これでいいのです)


アメリアはそう考える。

それが望んだ事なのだと、特に気にすることなく過ごしていた。

ライラには何かあったのだろう?と目だけで問いただされているが、特に口に出されているわけでもないのでアメリアは説明を曖昧に笑顔で返している。


子供たちはそれぞれの考えを巡らせて距離を、溝を作ってしまった。


子供たちの様子にロイドは眉を顰め見つめる事しかできないもどかしさに更に頭を抱えていたのだった。


全てはアメリアの思惑通りに事が進んでいた。


神々はそれをあの空間からアメリア強制力―またの名をアメリア行動力―を苦々しい表情で見つめていた。

神々はマイクとダレンに干渉した。

記憶を維持させたわけではないが、多少頭脳が回るように細工した。

あくまでも子供の域を超えないレベルでだ。

しかしそれをアメリアは一瞬にして気づき『軌道修正』を行ったのだ。


その様子を共に見ていた『ゲーム盤』の創造神は、言う。


「彼女の想いの力は僕らに近い…」


神に近い悪役令嬢、アメリア・ド・グロリア・スターチス。

現在3歳。

数か月が過ぎ、明日4歳の誕生日を迎える。




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