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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第60話

アメリアはアンスリウムを追い、廊下を進む中、勤めている者達が何事かと振り向くが、それすらも無詠唱の魔法を構築し、自分の姿を認識出来ない様に一瞬だけ幻影をかけ、その場の者たちの横を風に乗り駆け抜けている。

持続して魔法を構築し続ければラナンキュラス城内にいる存在している騎士達に勘付かれてしまう。そして見つかり、捕まれば、アンスリウム男爵を逃してしまう。

アメリアはそれだけは避けたかった。


(たかが男爵が何故ここに!!)


謁見する予定ならば、アメリアだって何も言えない。しかし、この時期国王含め城内に居る者たちは忙しく、謁見の暇はなかった筈だと走りながら思い出す。四大公爵である父ですら帰宅が遅い時期だ。

だと言うのに男爵という地位でこの城内を普通に歩いているアンスリウムに対し、アメリアは違和感を強く持った。


(ライラが言うように例の道化男がアンスリウム男爵だとしたら!ここも危ない!)


フードの男がマイクに渡していた黒の本。それは禁忌魔法の構築が記された禁断の書。

当たり前のように持っていた夢の中の男をライラは、アンスリウム男爵と言った。それが本当だとするならば、彼は…――


(禁忌魔法が構築出来る!!)


アメリアは奥歯を噛み締め、駆ける。



駆け抜けていく中、気がつけば人知れぬ城内の外れ。サロンやテラス、そういったような場所ではない。アメリアも初めて見る場所に、走り抜けていた足を止める。

気づかれない様に薄いものだったとしても、魔法を構築し肉体を強化し駆け抜けてきたというのに、一向にアンスリウムに近付く事が出来ていない。

どこか、何かがおかしいとアメリアは感じた。


辺りを見渡せば薄暗く、城内の死角のような所に、ぽつんと佇む小さな石碑。

先程までアメリアはアンスリウム男爵を追っていた筈だというのに、気配を探しても近くには彼の気配は一切感じられず、誰もいない事が察する事が出来た。


「これは…男爵はどこに…?」


目の前にある小さな石碑には精霊文字。

この国にある筈のない文字で、何かが刻まれていた。


「精霊文字…?誰が…読めると言うの…?」


平和協定とまではいかないが、お互いに争いを望まない王を持つ、ラナンキュラス、ブルームーン。その間には精霊の壁。ラナンキュラス国の一部の者以外、精霊文字を知識を持っていない。敵国ではない国という認識だからこそ、疎かにしている部分もあるだろうが、それだけ平和という証なのだ。

それだというのに、目の前の石碑には精霊文字で文字が刻まれ、そこに鎮座していた。


アメリアは一歩、また一歩と石碑に近付き、裾を汚さない様に手に持つとその場でしゃがみ込み、文字をじっと見つめる。

この数週間血に滲むような努力をしてきたアメリアだからこそ、文字をゆっくりではあるが読む事が出来る。アグリアですら驚愕した程の成長率を見せた。

彼女が全ての能力を使える能力者―チート持ち能力者―であったとしても、知識を自分のものに出来るかどうかは、全てはその力を使う本人次第なのだ。


ゆっくりと一文字一文字しっかりと形、形式、意味を頭で辞書を引き、確認しながら口にし、読み上げていく。


「『ラ・レバル・ルート・ルーン』―我、外への扉へと道を繋げん―…!?なに…これ…」


ラナンキュラス城内にあってはならない文言。そしてそれが意味するものが外への扉。

アメリアは声には出さず、文字を読みあげていく。

どんどんと表情から血の気が引いていく。

これは一体なんだ。

アメリアは何度も読み返すが、刻まれた文字は変わらない。


―「我、外への扉へと道を繋げん。この道即ち国滅びる道標へと。その鍵場へ誘わん」―


アメリアは口の中がからからに乾いていた。

一体今までの周回で自分は何を見て来ていたのか。本編に関係ないと安易に考えていた筈のフラグは、思っていたよりも彼女に衝撃を与えている。

彼女の力で過去のフラグとして完全に存在を強めた今回の事。自業自得だとしてもアメリアはもう止まる事は出来ない。


(悩んでいても…仕方がない…)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは乾いた口に一気に空気を取り込み、体へと満たしていく。二、三度それを繰り返せば、血の気が戻り、いつもの彼女に戻った。

アンスリウムがこの石碑を使用したのか見極める為に、瞳に魔力を、そして精霊力を集め見つめる。


「ふーん…なるほど、なるほど。魔力を込めた瞳で見れば、精霊文字はこちらの文字に変わるのですか。こんな人気につかない所に置いてあるということは、そういうことなのでしょうかね?上手い事作りましたね」


石碑の文字は魔力を込められた瞳で見れば、刻まれた精霊文字は変化を起こし、普段から馴染みのある文字へと姿を変えた。精霊力を通して見てみればここにはアンスリウムが魔法を構築したであろう痕跡を。

道化男がアンスリウム男爵ならば、夢の中で空間を歪ませ移動していた事を踏まえれば、出来なくはないのだろうと、アメリアは納得していた。


アメリアは立ち上がり文字を、石碑に刻まれた魔法を読み上げ構築していく。


「さてはて、何が出てくるのでしょうね~?死亡フラグなら喜んでお受けいたしますよ!」


面白い事だと唇を持ちあげ、アメリアは嗤う。


(影のヒーローは楽じゃないですね)


魔法が構築され、空間が歪み、裂け目が現れるとアメリアを一瞬で呑みこんだ。



◇◇


移動が完了したのか浮遊感が途切れる。

アメリアはゆっくりと光の加減で変わる瞳を開く。


「は…?」


その瞳はいつもよりも大きく見開かれ、勢いをつけて後ろを振り向けば先程の薄暗い場所と打って変わり、輝くまでに美しい…はずだった薄汚れた女神像。そしてそれを守る様に後ろにはステンドグラス…だったもの。

どこかの教会の廃墟なのかと疑ったが、ステンドグラスは職人た作ったには拙く、どこか幼い。眉間に皺が寄る。

どこか埃っぽいようなこの場所は一体どこなのだろうと、アメリアは辺りを注意深く観察しながら、一つだけある扉の方へと足を進めていく。

手にはちゃんと第五師団長から受け取った袋がしっかりと握られている。移動でどこかに飛ばされる危険性を考えていなかったアメリアは少し反省気味である。


特に室内に目立ったものはない、少し古びてはいるが、ちゃんと整頓されている。空気の流れが悪いだけのような感じもするこの場所は、住人が存在するようだという事だけ、その形跡を見つける事が出来たくらいで何も目立った収穫はなかった。


何もない事を確認し、少し肩の力を抜いて、アメリアが扉を開こうとノブを回すと…――


「お?お客さん??」

「っ!?」


――自然と扉が開かれ目の前には好青年と一言で言えるような、そばかすのある丸みを帯びた頬の男が現れた。

好青年から言わせてみれば、部屋からアメリアが出てきたのだが…。


アメリアは自らの意思で切り替え、表情を殺し見下すように見つめる。


「ここはあなたの部屋?」

「おう!って言っても他のやつとも一緒だがな!」

「他?」

「オレくらいの歳のやつ…ってそうじゃなくて、お前誰だ?なんでここに?」


上手い事流されてくれていた好青年だが、案の定痛いところをついてきた。

自分の部屋から明らかにいるはずのない、見た目から御令嬢とわかるアメリアが登場したのだ。どんなに流されていたとしても現実に回帰するのは仕方がないことであろう。

アメリアは内心冷や汗だらだらであるが、表は安定している。肩眉を上げてお前に名乗る必要が?といった表情を向けており、向けられている好青年は怒る事も無く、困り顔である。

しばしそのまま二人は見つめ合ったが、アメリアは大きく息を吐いて、腕を組む。


「わたくしの事を知らないなんてどこの生まれなのかしらね…。まぁいいでしょう。ここに寄る予定はなかったというのに、気がついたらここにいたのよ。ここはどこなの?」

「はぁ!?人攫いは流石にオレの仲間にいねえよ!?何かに巻き込まれたのか…?怪我とかは…」

「ないわ、気易く触れないで頂戴」


馬鹿にされているのに心配してくれる優しい好青年はアメリアを知らないのか、知っていても関係ないのか彼女の思惑と違う反応を返してきた。

見るからに下町の青年。

アメリアは自分の噂はここまで届いてないのかと少し心の中で気分を落とし、現状を確認すると、この後どうしたものか考えている。


(心配して下さってありがとうございます!帰るにしてもここは…本当にどこなのでしょう!!!)


この青年が教えてくれるものと思っていたが、自分の心配をしてくれている状態で全く話が進まない。アメリアは焦れていた。


アンスリウム男爵を追ってここにやってきた筈だったが、現れたのは下町の青年。一体男爵はどこに消えたのかアメリアは直ぐにでも探して見つけてしまいたかった。

だがここで魔法を構築し、小さくとも騒動を起こす事は避けた方が良いと頭の中で考えていた。アンスリウム男爵がここへ移動したのであれば、近くに彼が存在している可能性もある。気づかれては追ってきた意味がない。


そんな時、廊下の角から数人の目の前にいる青年と歳が変わらない男達が姿を現した。


「おーい、ってなんだその女ァ!!」

「おー…なんかここで気絶していたらしい。攫ってないよな?」

「んなことするかァ!!マジか…何て事しやがる…こんなに小さい子を」


(そこまでは言ってないですよ!?ちっさい言うな!!胸も身長ももうちょっとしたら大きくなってきます!!)


ちょっと話を盛られているアメリアだが、別段その点においては訂正しない。

訂正する場所はそこではないのだが、彼女の脳内にツッコミを入れる存在はいない。


「ここはどこです」

「おん?ここ?聞いて驚け!」


一番声の大きい先程から話している丸々した青年は胸を張り、にやっと笑う。


「ここはアンスリウム男爵様が作って下さった教会!アドニス教会の孤児院だ!」

「つってもここも教会の中だけどな!」


(なっ!?なんですとーーー!?)


なんとアメリアはラナンキュラス城内の石碑から、アドニス教会の孤児院に移動していたのだった。


お知らせ》

次回は5月10日0時の更新になります。1週間空いてしまい申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。

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