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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第59話

アメリアは第五師団の現状を知るルドベキアを逃がす訳にはいかない。

彼の自尊心を傷つけてしまう可能性は大いにあったが、アメリアは何よりも一番近くにおり、どの周回も自分を守り、共に命を落としてきたライラ。そしてその弟であるアークを傷つけた第五師団を許せない。ここにはフラグを立てに来たという理由よりも、第五師団の調査にやってきているのだから。

鋼鉄の精神と魂のアメリアはルドベキアの腕に自分の腕を絡め、にっこりとジークライドへと視線を向ける。


「殿下。わたくしルドベキア様と二人きりでお話がございましたの。少しお借りしても?」

「駄目だ」

「あら…二人きりというのが気になられるので?」

「君は私の……婚約者だ。少し…考えてくれ」


珍しく怒りを露わにしないジークライドにアメリアは内心眉を顰める。苛立ちを表情に出してはいるが、口には出さないチョロイと思っていた婚約者はどうやら本日は頭を使っているらしい。

婚約者だと口にしているが、間があるのはやはり感情を殺し切れていない証拠だ。アメリアはその部分を鋭く見抜いた。


(私の愛しい旗殿下様はまだ子供ですけど、頑張っていますねー。感心感心!さてと、殿下を撃退しないと話しも出来ませんし…うーん…)


いくらジークライドが知識をつけようと、99回の周回を得たアメリアはそれを凌駕する。

アメリアの中では現在のジークライドは子供扱いである。彼女からしたらほとんどの人間が子供のようなものだが、そこら辺はアメリアの女性的理由で触れてはいけない。

女性の年齢は、どの年代からしてもタブーである。

寄り道の多い最後の周回だが、鋼鉄の精神と魂は目的に向かって真っすぐなのは変わらない。

アメリアはルドベキアの腕を、話を合わせろと軽く引く。


「殿下…アメリア様とは実は以前から約束を取り付けておりまして…」

「なっ!?」


(ルドベキア様ナイスです!!良いパンチです!!)


ルドベキアからのまさかの発言に、ジークライドは口を完全にへの字に曲げてしまう。話を合わせるだけで良かったのだが、思ったよりもルドベキアはアメリアの上をいく牽制パンチを与えてくれた。これにはアメリアも内心大歓喜、拍手喝采である。


三人を包む空気が重くなってきた所に、二組の違う足音が後ろから近づいてくるのにアメリアは気づいた。

ここはこの城内に居れば誰でも通れる廊下だ。誰が通ってもおかしくないのだが、よくよく耳を澄ませば聞きなれた足音。一人はこの城内にいても不思議ではない人物だが、もう一人は家に居る筈の人物が思い当たった。

不思議に思ったアメリアはゆっくりと振り向き、相手を確認する。


「お父様に…アーク」


近付いてきていたのは氷の公爵であるロイド、そのランドスチュワードであるアークだった。

二人もアメリアに気づき、ルドベキアの腕にしっかりと腕を絡めている事を確認し同時に眉をピクリと動かし、奥にジークライドがいる事を確認した。

アークは近くにライラの姿が見当たらない事が気にかかっていた。


「アメリア何故ここに…。殿下に会いにきたのか?」

「いいえ。ルドベキア様に会いに来ました」

「うん!?」


婚約者の前で別の男性に会いに来たとはっきり口に出したのだ。真っすぐと自分を見つめはっきりとした言葉で返す娘にロイドは口元が引き攣る。そして直視すればアメリアがアスターの姿がちらつく。

ロイドは目元を押さえ、深く息を吐く。


「殿下の前でそのような事…。恥を知りなさい」

「…約束をしたのは私です…。アメリア様ではございません」

「そうですよー」

「ルドベキア!アメリア嬢!」


至極全うな事を言う父に感心していれば、アメリアの上空からルドベキアが援護射撃。流れる様に口から乗っかるアメリアの精神はとても安定している。ジークライドの反応は、まぁ予想は出来ていた事だったが、今はごちゃごちゃとしている暇は彼女にはないのである。


(殿下がどれくらい勘違いしてくれるかによりますが…これくらいにしておきましょう!今日の殿下は撃退するには骨が折れそうですしね…、ナイスタイミングで現れたお父様とアークにお手伝いしてもらって、さっさと退散に限ります!ルドベキア様から情報吐かせ…おっと、もらって戻りましょう!)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは自分がしている事を重々に承知の上である。

回想としてこの出来事が残ればいいと思いつつ、アメリアはロイドからジークライドへと顔を向けた。

ジークライドの瞳が見開かれる。彼には今、光の加減で色の変わるアメリアの瞳が自分を嘲笑っているかのようなパープルに見えている。


「殿下、二人きりというのが気にかかっていたのですよね?」

「あ、あぁ…」

「でしたら解決しました。そこにいるアークを連れて行きますから、それで問題ございませんでしょう?」


婚前前の男女が二人きりになる事は、特にこの国の王子であるジークライドの婚約者のアメリアがルドベキアと二人きりになる事は予期せぬ噂を流す。その事をジークライドは気にしていたのだが、ロイドが連れている優秀な執事がいるのであれば…と彼女の言葉を否定する事が出来なくなってしまった。

一方何故か名前を出されたアークは無表情の中にこう思っていた。

――お嬢様…隣に居るめんどくさい旦那様が更に面倒になるので勘弁して下さい!

そんな事など露知らず、アメリアは一度ルドベキアの腕を離し、ロイドに近付く。


「お父様、これからルドベキア様とお話がありますからアークをお借りしますね?」

「ルドベキア殿は殿下の護衛をなさっていたのでは…」

「それならお強いお父様がすれば万事解決ですね!」


我がまま令嬢の名に恥じないアメリアの発言にアークは内心呆れ顔である。本当のアメリアを知っている彼だからこその反応と言える。

アスターの姿が過ってしまうロイドからしたら、下から自分を見上げ無理難題を突き付けてくる自分の娘から一旦離れ、冷静になりたい。

――アメリア…アスター…くそ!

何故か自分と目を合わせない父に小さく首を傾げるが、魔法のせいだろうかと斜め上に考えているアメリアである。

少し間を置いて、ロイドは深く、深く溜息を吐くとわかったと一言。

にんまりと口角を上げて、ジークライドに問題はこれでないだろうと笑顔で語り、問題しかないが、フラグを立てる事に余念がないアメリアはジークライドにこれ以上考える隙を与える事はしない。


「公務の邪魔をして本当に申し訳ありません!ルドベキア様、アークいきましょう!」


ジークライドが何かを口にする前にあえて自分から謝罪する。そして黙っていたルドベキアの腕を引き、アークを連れてその場を離れていく。


「アメリア嬢!」


一旦足を止め、振り返る。


「なんでしょう」

「普段の化粧より…」

「あぁ!申し訳ありません!!いつもの方がわたくし可愛いですよね!今日の様な何もしていないこんな平凡な顔なんて!以後気をつけますね!それでは、御機嫌よう」


淑女の礼を美しく決めるとアメリアは今度こそ本当にその場を離れた。

ジークライドが言わんとする事は理解できていたが、彼に対する化粧は決まっているのだ。今日の方が良いなどとは絶対に言わせないアメリアである。彼の言葉に勘違いを起こしたという状態であの場を去った事は、今回の良い収穫だと内心自分を褒めている。

残された彼らが何を思うかまでは理解できないが、アメリアはこれでいいと考える。


(さってと!切り替えましょう)


◇◇


長い廊下を三人は無言で進む。


「ルドベキア様、逃げる事は許しません。そんな隙もわたくしは与えません。諦めて魔力を鎮めなさい。他の者に気づかれればあなたが危険です」

「っ…申し訳ありません…。逃げるつもりはございませんよ…」

「そうですか。では先に歩いてわたくし達を誘導しなさい」


自分に魔法を構築した時のような、いつもとは違う空気を纏う少女にアークは戸惑う。

数歩離れてルドベキアが先を歩き、その後をアメリア、アークが並んでいる。

アークにだけ聞こえる程の声量で、真っすぐと前を向きながらアメリアは口を開く。

周りから見れば第五師団長が令嬢を連れているようにしか見えないだろう。しかし後ろの二人は表情も変えずに素に近い感覚で会話をしているのだ。


「アーク話して良いですよー」


先程ルドベキアと話していた時とは違う普段の、素に近いアメリアにアークは内心感心した。役者でもここまで切り替えが出来るとは思えない。彼女ならではだと。

アメリアから声をかけられた事により、アークもやっと言葉を返す事が出来るようになり、同調するように無表情ながら彼女に聞こえる程度の声量で返す。


「ではお言葉に甘えて。お嬢様、物扱いは勘弁してほしいです」

「ごめんなさい!」

「まぁいいですけど…。それよりいつ約束を取り付けたのですか?俺も姉さんも知らないですよ?」


それもその筈だ。

アメリアはその事をしれっと返す。


「今さっきです」

「お嬢様…?」

「だからごめんなさい!」


アークからの圧力が襲う。流石は双子。眼鏡をかけていても彼からの圧力はとてもライラに似ているとアメリアは感じる。


「はぁ…姉さんはどうしました?」

「置いてきちゃいましたねー」


尚もさらりと問題発言をするアメリアに、流石のアークも表情は変わらずも溜息を吐く。


「お嬢様………後でどうなってもしりませんからね…」

「うぅぅ…だって今まで抜け出せなかったんですもん…」


二人とも思い浮かべるはライラの荒れ狂う姿である。

ぶるりとアメリアの背筋が震える。ただ、自分も悪いがそれよりもと付け加えるも、アークは冷静に返す。


「その抜け出そうと言う考えをまずどうにかしましょう?何かしら名目があればアグリア様だとしても解放してくれますよ…」

「あ…なーるほど?」

「お嬢様」

「ごめんなさい!!」


二人がこのような会話をしていたなど知らないルドベキアが足を止めた。

どうやら目的の場所についたようだ。アメリアは会話を打ち切り、首を持ち上げアークを見上げると、ここで待てと音には出さず口の形だけで伝える。

それに首を振って答える執事長。

バチバチと視線で喧嘩する二人。


「アーク」

「なりませんよ、お嬢様。いくらお嬢様のお願いとしても二人きりにはさせられません」

「何も起こりませんし、誰も来ない様にして欲しいだけです」

「駄目です」


一歩も譲らない二人に今度はルドベキアが戸惑う番である。

アークの事はロイドがたまに連れている事で知っているが、常に無表情で仕事も的確、氷の公爵を支える一本の柱だと認識していたが、その彼が表情を少しだけ柔らかくし、咎める様にアメリアに言葉を発している。アメリアに対しても先程まで自分に鋭い言葉をぶつけてきていたというのに、執事に対しては緩和されているような感覚だ。


戸惑いを隠せないまま二人の動向を見つめるルドベキア。


するとアメリアが表情を消し、アークを鋭い視線で貫く。


「ルドベキア様と話が済んだら話すわ。それまでここで待ちなさい」


絶対的な命令。

アークはシルバーグレイの瞳を閉じて、心得たと一礼した。アメリアは一つ頷くと、ルドベキアに顎で扉を開ける様に指示し、ルドベキアもそれに従った。

先にルドベキアが中に入るとそれに続く様にアメリアが足を進める。

扉を閉める前にアークへ振り返り、眉を下げて微笑み申し訳なさそうに声をかける。


「ごめんなさい。聞いても良いけれど、感情を抑えてね?本当はライラにもアークにも秘密でやろうとしていた事だから」


これはアメリアが夢で見て、ブラック魔法老師から聞き、自分で動き調べようとしていた事。事件の被害者である双子に話さず事を成そうとしていた彼女の我がままであった。


そのまま扉を閉じ、アメリアは真っすぐと第五師団長ルドベキアを睨みつける。


「さて、ルドベキア様。さっさと過去の証拠を出してもらえますか?」

「その前にどこでその事を知ったのかお聞きしても…?」

「あなたには関係のない事。知る必要はない。教えるつもりもない。あなたのご先祖様が関わっているのあれ、どうであれ、知っていて隠していたあなたも同罪。ルドベキア様含め第五師団はわたくしが潰してあげます」


向けられる言葉全てに乗っている明らかなる敵意。

ルドベキアにはアメリアの瞳が深紅に燃えているように見えている。対峙しているのは齢7歳の子供の筈なのに、少女は少女に見えず、噂を知っているルドベキアからしても一体この子供は何者なのかと疑問を抱く程に、大人びて見えていた。


ルドベキアは一度喉元を押さえ、瞼を閉じ、ゆっくりと開くと懐から小さい鍵を一つ取り出す。執務室の机の引き出しに鍵を差し込み、何重にも縄で結ばれた古びた袋を取り出した。


「分かりました。私の口からはお教えできません。ただ、これを」

「これは?」


渡された袋を訝しげに見つめ受け取ると、視線をルドベキアに戻す。そこには先程まで師団長として威厳のあった彼はおらず、少し困ったような表情を浮かべ、喉元を押さえているルドベキアがいた。


「…ですから、口からはお教え出来ないのです。アメリア様、あなた様の瞳は特殊な能力があると聞いています」

「能力という程ではないとは思いますが…だったらなんだと言うのですか…」

「その力を使って私を見て下さい」


(!!??)


どこで手に入れた情報なのか知りたいところだが、瞳の力で自分を見ろという言葉に一瞬頬に熱が籠る。何を想像したのかは、アメリアは断固として言わないが、鋭く睨みつけていた瞳が少しばかり揺れた。


揺れる瞳をどうにか誤魔化そうと下へ視線を移せば、どこからともなくアメリアの前にアークが現れた。一体どこからとアメリアとルドベキアは驚愕した。


「アーク!?」

「なりませんよ、お嬢様」


突然のお咎め。

自分が何を考えていたのか見抜かれたのかとアメリアは一瞬焦るが、どうやらそういう事ではないようで、アークもアークで彼女同様の解釈を起こしていた。

事の発端である発言をしたルドベキアは目を瞬かせ、あぁと苦笑を浮かべる。


「何か勘違いをなさっているようですが、私にかけられた魔法を見て下さいと言う意味ですよ。何も私の肉体を見てくれという事ではございません。それでおのずと理解していただけるかと思いまして」

「紛らわしい言い方をしないでください!魔法…?…――瞳に力を…」


別段紛らわしい言い方をしたつもりのないルドベキアは困ったように笑う。

アメリアはむすりとした表情を浮かべながら適当な詠唱を口にし、その後無詠唱で瞳に魔法を構築すると、彼の望むままルドベキアを見た。

魔力のラナンキュラス国の魔法だろうと思い、アメリアは精霊魔法の構築はしていない。普通の慣れ親しんだ魔力魔法の構築である。


そして、映り込むはルドベキアの首でとぐろを巻く禍々しい色の一匹の大蛇。


「なっ!!」


後ずさり手で叫び出しそうな口元を押さえる。何度見直しても映り込んでくるものは禍々しい大蛇。それはルドベキアを今にも絞めつけ命を奪おうと蠢く様にとぐろを巻いている。

アメリアの異変にアークはルドベキアを見るが、何も映っては来ない。アメリアの状態が気にかかるが、今の彼女は心配される事を良しとしないだろうと思い、アークは黙って二人の視界から避ける様に壁へと移動した。

顔色を悪くしたアメリアにルドベキアは申し訳なさそうに微笑む。


「そういう事です。今の今まで口外出来なかった。自分の正義すらもねじ曲げて今の今まで生きてきました。やっと解放される。それを公表すれば良かったのにしなかった、私も同罪です」

「誰にされたかも言えない…というわけですね。同罪と仰るのであれば容赦はしません…わたくしはこの事を悪として扱います。わたくしの悪として。ルドベキア様にとって幸せな結果になる可能性は低い。それでも宜しいのですね?」


胸元で手を握り、瞳を逸らさず真っすぐとルドベキアを見つめるアメリア。

彼は『ゲーム盤』の世界では一師団長に過ぎない役柄だ。その事にアメリアは気づいている。本編にも関わって来ない本当の意味でのモブキャラクター。

それ故に自分が過去の事件を、これから起こす出来事を悪として処理する事を嘘偽りなく口にしたのだ。


(強制力が如何ほど生きているかは分かりませんが、やれるだけやってみましょうか。見るからしてルドベキア様も被害者の様ですが、結果としてどうなるか分かりませんね…)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは関わってきた人達の幸せを願うが、現状はイレギュラーのフラグの最中。生へのフラグとなるか、死へのフラグとなるか、どのような結果が生まれるのかアメリアとしても分からない。ただ分かると言えるのはこの出来事は本編に関わってくるとしても、アメリアの悪として、もしくはただの過去の出来事、噂としてだけだろう。

死亡フラグとして建築したい鋼鉄の精神と魂のアメリアは、悪として自分のものとするつもりである。


ルドベキアはどこかすっきりしたような顔で頷く。


「何故あなたが悪を必要とするのかは分かりません…でも、それでも構いません。私は先祖のしでかした事、それを知っている今の第五師団を良しとしていませんから。今の第五師団の半分は……――」


ルドベキアの首に巻きついていた大蛇が速度を上げ、彼の首を絞め付け始めた。アメリアは咄嗟に首を振り、それ以上は口にしなくて良いと止める。


「無理はしなくて結構です。わかりました。第五師団は今、ルドベキア様が良しとしない状態。二つの勢力で分けられていると仰りたいのではないですか?」

「ごほっ……ええ、その通りです。アメリア様、本当にあなたには驚かされる。…どのような結果になろうとも私は自分の正義を貫けるのであれば、それが一番の幸せです。どうぞ悪としてお使い下さい」

「わかりました」


ルドベキアは頭を深々と下げ、アメリアはその誠意を受け取った。

手に持つ縄で閉じられた古びた袋が重みを増した気がした。

話は終わったとアークに一言伝えると二人は扉から出て行った。二人が出ていくまでずっとルドベキアはアメリアに頭を下げたままだった。


◇◇


アークとアメリアはラナンキュラス城内の廊下を進みながら、屋敷に帰宅する為に城門へと向かっている。先程アークが手配していたのか迎えは既に来ているらしい事をアメリアは知った。


(アークは優秀ですねー)


勝手に抜け出してきている鋼鉄の精神と魂のアメリアは危機感が薄い。基本自分でどうにか出来てしまう公爵令嬢であるが故である。


「アーク、話すと約束したので言いますが、扉の出現および怒りを爆発させたら即刻退場です。いいですか?」

「はい」


即答するアークにアメリアは溜息を盛大に吐く。


「はー…話すつもりなかったのに…。ライラを誤魔化せたのにアークに捕まるし…双子って本当に似てますねー」


アークからしたら爆弾発言をさらりとするアメリアに、彼の眼鏡が気持ちずれた。


「あの…お嬢様?まさか…姉さんに隠しごと…」

「してるってバレてますねー」


投げやり気味に答えればアークはずれた眼鏡を元の位置に戻すと、表情が一変する。幾分か豊かになっているアークの表情にアメリアは内心嬉しくも、やはり悲しく感じている。

彼がこのような表情を向けるのは自分ではない筈なのにと。

アメリアは足を止めると手に持っていた袋をじっと見る。


「だから荒れてたのか!!お嬢様勘弁して下さいよ」

「荒れてたんですね…ごめんなさい…。これはね…あなた達二人に関わる事件の全貌よ」

「……は?」


二人の時が止まったように思えた。

一階廊下から見える景色にはあの中庭とそこに隣するように存在する外廊。

アークはアメリアが何を言っているのか、最初理解できなかったが、徐々に頭が言葉を処理していく。思い返しては悪夢のように、嫌という程蘇る事件を、過去を呼び起こす。全貌とはっきりと口にし、表情を変えていないアメリアの瞳を見るが、嘘偽りはない。真っすぐと真実だと語って来ている。

どくりどくりと耳の後ろで脈が鳴る。

明らかに動揺しているアークにアメリアは、つきりと心を痛める。感情を城内で爆発させてはいけないと言った手前、彼に無理をさせている事は明白なのだ。


すると、ふっふっと小さく刻む呼吸音が聞こえる。

見上げるとアメリアは目を見開いた。

感情を抑え込む事が苦手な彼が瞳を閉じて小さく口から息を刻んでいるのだ。アークの背後には混沌の扉は出現してない。本当に抑え込んでいる。

たった数週間という短い期間で一体アークにどのような変化が起こったのか、アメリアには想像出来ないが、確かに今この瞬間、アークは自分で感情を抑え込んでいる。


「成長しましたね…」

「これでも…まぁ…姉さんに言わせたらまだまだだと思います」


(ライラは本当にアークに厳しいですねー。にしてもアークが…本当に攻略対象として逸脱し始めてしまった…。本編で戻せるのでしょうか…。私としてはユリの前で成長して欲しいですよ…アーク・フリージア)


一瞬の不安がアメリアに過るが、中庭を見つめ続きを口にしようとしていた彼女の目に、一人の人物が映り込む。一瞬の不安を掻き消すには十分な人物だった。


「第五師団は………―――っ!!」


アメリアは瞬時に魔法を構築し、アークに声をかけながら横をすり抜け、駆け出した。


「直ぐ戻ります!追いかけてくる必要はない!追いかけてきたら教えませんから!」

「お嬢様?!」


(あれは!!)


魔法を構築し、普段から体力づくりをしていたアメリアの速度は速い。


駆ける。


中庭に隣する外廊を歩いていた人物。


(あれは!アンスリウム男爵!何故ここに!!)


過去の全貌を手にしたアメリアはアンスリウム男爵の後を追う。



アメリア駆ける

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