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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第53話


話す予定ではなかった部分をさらけ出してしまったアメリアは、ライラに紅茶のおかわりをもらいながらどうしたものかと考えていた。


(ライラもこの最後の周回で影響が出ているんですかね…。神さま方の力がどれほどの範囲で影響しているかまだ分からないですけど…、ライラにも影響しているなら苦しいです…。どうかライラはライラのままであって欲しい…)


過去の周回で決して裏切らなかったライラ。

自分と共に、いや、自分よりも先に必ず命を落としてしまうキャラクター。

アメリアを慕い、付き添い、守り戦う一人の登場人物。99回の周回を支え、共にあった戦友にも神々の力がおよび、自分の壁となりうるのかと不安に思っている。

その事を表には出さず、自らの内に密かに募らせていた。


「お嬢様、続き読まれますか?」

「え…、ええ。そうします」


ライラから本を受け取り、先程見つけていたブラック魔法老師の項目まで一気に捲る。

受け取る際、ライラの表情を見つめたがこの空間で多少気が緩んでいるといった状態なのには変わらず、至っていつもと変わらない彼女だった。


(大丈夫そうです…?まぁ今気にしても仕方がないですね!老師様の秘密を知ってしまいましょう!)


不安は完全には拭い去れないが、アメリアは本来この空間でするべき事へと頭を切り替えた。

魔法老師が作ったとされる教材。

大雑把に纏められているが、ブルームーン国の詳細名簿。

今からそれを嫌でも彼女は思い知ることとなる。


 ブラック・D・ヘムロック。

特別貴族:D

爵位:秘密♪


この時点でアメリアは一旦止まる。


(老師様ー?教材とは名ばかりですかー?)


大雑把であったとしても、的を得ている記述ではあったアグリアの内容は間違ってはいないだろう。だが、これを制作した老師は自分の項目で最初から秘密と堂々と書いている。

教材だと言うのだから、自分の事もちゃんと纏めるべきであろうとアメリアは思っている。

本の頁をそのままにライラに問いかける。


「ねぇライラ。老師様は爵位をお持ちです?」

「あのじじいですか?書いてないのですか?」

「それが…こうやって書かれていて…」


秘密と書かれている部分をライラに見せれば、周りの穏やかな空気が固まった。

冷えていくライラの周りの温度。

いつぞやの寒気がアメリアを襲う。


(怒って当然ですねーーー!!さむーい!!!)


体感温度は変わらないにしても、気分的にとても冷えていると感じる。

爵位の部分から下を読み進めていたライラの背後には混沌の扉が出現しており、彼女が笑顔であってもかなり怒りを感じている事は確かである。

読み終わったのか笑顔が崩れ、完全に表情からも腹を立てていると分かるほどまでに変化した。


「あんのじじい!!教材と言っていたのは嘘か!!!」


ライラの口調が崩れる程に、老師は過去に彼女に何かしたのかアメリアは思う。

しかしアメリアは咎めない。

自分だって魔法老師が作ったこの本に同じ事を思っていたのだ。

そしてライラとは違う形でアメリアも怒りを少なくとも感じている。

特に祖母アグリアの頁、兵器という部分で。

知識を大事にしているアメリアだが、秘密にしたいのであればそれでいいとは思っている。だが、これは秘密にする事でも、調べれば簡単に分かる事でもある。

そこまで考えた時、アメリアははたと気づく。


「これは老師様からの課題ですか…」

「お嬢様?」

「こんなに簡単に分かる項目を秘密とわざわざ書いたのは、自分で調べろという事なのではないかと思ったのです!」


魔法老師はお茶目な可愛いお髭のおじいちゃん先生だ。

本当の姿を確認してもアメリアの認識は変わらない。本当の見た目がとても美しい男性だろうと、99回も共に過ごしてきたのだ。アメリアにとって彼は慣れ親しんだおじいちゃん先生の認識のままだ。

彼は過去の周回でも似た方法で自分に課題を出した事がある。この周回では課題らしい課題は与えられていなかったと思い出した。


(このタイミングでの課題ならいつもの周回と変わらないですね。にしても今…私7歳ですよね?普通ならわからないのでは?)


自分の今の歳を思い返し、課題のタイミングはずれてはいないが課題にしては難しい物だと、呆れている。

いくらアメリアが他の7歳児よりも突貫しており、天才児だと言われていたとしても、普通の天才児と訳が違う。99回という経験があってこその知識量だ。普通に生きている天才児と同じだった場合を考えなかったのかと、老師に内心溜息をついた。そして今回の課題は、項目を特に気にしなければ課題は課題にならない小さなものだ。

魔法老師の考えは分からないと頭を振って、ライラの気分を落ち着かせてから再度読み進める事にした。


「ライラ、しばらく読みますので、持ってきた本で参考になりそうなところがあるか、見つけてもらっても良いです?」

「畏まりました」


ライラに頼むと彼女は直ぐに作業に入った。

混沌の扉はアメリアが頼みごとをした時に消えてなくなり、安定のライラだなと安心して本に戻る。


 ブラック・D・ヘムロック。

特別貴族:D

爵位:秘密♪

生まれもっての聖霊。

妻と子が過去に存在しているが、事件があり現在は一人身を貫いている。

事件とは異端の双子ライラ・アークの能力に関係するものであり、妻と子供は現在その双子の力となっている。事件詳細下記にて記述。

精霊王と旧知の仲ではあるものの、高い地位は必要としておらず、その代りに現在は魔法老師としてラナンキュラス国に人間に扮して活動している。

ラナンキュラス王と精霊王の取り決めにて、活動は許されているが、精霊王の命令にてアグリア女大公、ド・グロリアの名を引き継ぎし者、二人を監視する役割を裏で担っている。

二人がブルームーン国に対して不利益になる場合、処分するようにとの事。

※出来うる限りそのようなことがない様に穏やかに見守っていきたい所ではある。


 事件特記:

彼の子供が生まれしばらく経ったときに起きた。

ラナンキュラス国の貴族子息がブルームーン国にやってきていた。人間に姿を変えていた彼の子供と仲が良くなっていた。比較的両者とも温厚な性格をしていた。

その時期は気温が高く、暑くなり人間の誰もが苛立ちやすくなっていた時に事が起きた。

貴族子息が彼の子供に軽い八つ当たりをしたとのことで、彼の子供は仕返しをしてしまった。貴族子息は彼の子供を人間だと認識していたのだろう。

特別貴族程の力を持っていた彼の子供は聖霊であり、その力の加減を間違えた。

呪いに特化しているヘムロック家の力を人間に振るってしまい、貴族子息は呪われ命を落とした。

精霊王は他国の貴族子息を手にかけたとして、罰を与えた。

その期間を決める事、そして、軽く出来ないかなどブラックと話していた時に彼の妻、子供は彼の自宅でラナンキュラス国の騎士に殺され、聖霊の根源を奪われた。

ラナンキュラス国の騎士は命を落とした貴族子息の親族であった。

その後、異端の双子が拉致されていた場所へ辿り着き、ラナンキュラス国の禁忌魔法が構築され、彼の妻と子供は双子の力へと変換された。

妻と子は現在【混沌の扉】と姿を変えている。

ブラック本人の意向により、異端の双子に記憶改竄の魔法が構築された。

二人が証を授けた時にその魔法は解除される構築。

その後、ラナンキュラス王に精霊王からその事件が報告された。ラナンキュラス国へ本人が望む時人間に扮して活動できる事を両国王に認めさせ、約束させた。

※家族を失ってしばらくは傷心した心を癒す為、本国から外へは出る事はなかった。


現在もラナンキュラス国の禁忌魔法を憎んでいる。


 変更点記述:

異端の双子に対し監視は継続、処分命令撤回。

しかし、双子のどちらかが失態を犯した際、国へ強制的に連れ戻る事を精霊王へ報告し、そちらが異端の双子に対し最優先とされた。

アグリア女大公及びその孫、アメリア・ド・グロリア・スターチス公爵令嬢の両名に関し、女大公の行動によっては監視から処分へと切り替える事とする。

アスター・ド・グロリア・スターチスの血を引く、ダレン・フレッド・スターチス公爵子息に関しては、出来うる限りブルームーン国へ連れ戻せれば良いが、公爵子息はド・グロリアの血族なだけである。その為、アグリア女大公の行動次第になるが現状保留。

※処分…そうならない事を祈る。



(老師様…私とお婆様の監視も担っていたんですね…)


老師はアメリアにいつも笑顔だった。

これを作ったのはブラック魔法老師本人。

記述にある通り、出来うる限り彼は穏やかに見守っていたいという気持ちが伝わってきた。

注意事項のようにわざわざアメリアに渡ることが分かっている教材に、一言添えられるようにそうならないようにと書かれている。

そっとアメリアは彼の文字を指で撫でる。


「ライラ…老師様はわたくしやお婆様にも優しいです…」

「処分するなど書かれていてですか?!」


ライラが怒りを覚えたのはそこかとアメリアは気づいた。

視線を文字から、ライラへと持ちあげる。

彼女は頼んだとおり参考になるものを見つけ、広げて待ってくれていた。

現在の光の加減で色の変わるアメリアの瞳は、ラピスラズリと桜色のようにライラに見えた。

慈しむ様なラピスラズリ、愛溢れる桜色。

二色は入り混じる事もなく、美しく瞳に映っている。


「お嬢様…」

「老師様だって辛い筈です…。老師様がわたくしに向けて下さっていた笑顔は嘘のように思えないの…。本当に穏やかに見守りたいと思っているからこそ、わたくしに読まれるこの教材に書いたのですよ…」


アメリアの言葉にライラは内に秘めていた自分の古い記憶が甦ってきた。

それは彼女が幼い頃、何百年も前の記憶。

ブラックが魔法老師になる前、ライラとアークが幼い頃からの彼との思い出だった。


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