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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第52話


気を取り直してパラパラと捲ると【特別貴族一覧】といった項目にあたり、捲る手を止めてアグリアの欄を探し、直ぐに見つけることができた。


 アグリア・B・アーティチョーク。

特別貴族:B

爵位:大公

人間の貴族の生まれにして精霊力が高く、精霊王の加護を受けた唯一の人物。

精霊王の加護により、彼女にはラナンキュラス国等、他国の魔力は一切通用しない。

性格は気性が少々荒いが、どの種族に対しても平等に、また慈しみをもって接している点に置いて平民や下位の精霊達から多く慕われている。

特に注意する点は、彼女の力は特別貴族の中で規格外な程に怪力であり、人間にしてはかなり戦闘特化型である。

戦闘向きではあるが自由奔放な性格故に扱いには特に細心を払う事。

戦場に出せば加護により彼女一人でも生き残る事が可能。

怒りを買えば、彼女が出てくる前に彼女を慕う精霊達が精神的に追い込んでくるので注意が必要である。


 以下過去の事例を上げておく。

娘アスターが生まれた際、その娘を我がものにしようとした貴族が誘拐を企てたが、事前に彼女の近くにいた異端の双子が勘付き、彼女に知らせたところ怒りに触れ、感じ取った彼女を慕う精霊達がその貴族たちに一切協力しなくなり、統治していた領が干からび、夜な夜な部屋中の物を、姿を見せず動かし脅かし恐怖に陥れた事があった。

精霊王が止めるまでそれは続き、その貴族は今でも夜に怯えているという。

今や彼女の怒りにわざわざ自分で触れようと思う存在はいないだろう。ここまで。


ブルームーン国内では比較的落ち着いた人柄である。彼女の周りでは彼女の力(周りの精霊)を恐れて争いは起こらず、彼女もそれを望まない。


 変更点記述:

ド・グロリアの名を持つアスター、爵位Eの親を持つ異端の双子ライラ、アーク三名をラナンキュラス国へ。その際、精霊王との契約のもと、アグリア・B・アーティチョークは管理されている。

精霊王からの命令にて、ド・グロリアの血を引く兄妹(ダレン・フレッド・スターチス子息、アメリア・ド・グロリア・スターチス公爵令嬢)の二人を連れ戻すように命令を受けている。撤回はないものとする。

R.D.907現在。ラナンキュラス国スターチス公爵の屋敷に滞在。一年後行動を起こすと報告あり。

名高き女大公として歴戦に勝利を齎す人間兵器。

未だ無敗。

 要注意:稀に脱走し下町等に無断で行かれる為、発見し次第戻る様に説得する事。




(おいまてこら!お婆様、精霊王さまの加護ってなんなんですか!?記述した人、雑すぎません!?お母様こういうのからあの書物作ったのですか?!脱走要注意になってるじゃないですか!!!)


祖母の項目を読み進めていくうちに、如何に自分の母が分かりやすく纏めてくれていたのかを知ったアメリアである。その彼女の淑女有るまじき言葉使いになる程に書かれていた内容は大雑把であった。

アグリアの名前は魔法老師が話していた様にBと入っていた。

それは教えてもらったように、特別貴族の者がもつ名前の物。

隣国の女大公。そして、最後の記述に無敗の文字。


アメリアは奥歯をぎりっと鳴らす。


(お婆様…強いですね。無敗…素敵な響きですが…、私とお兄様がその無敗歴に一敗という文字を刻む事になるんです)


戦う相手はかなりの歴戦を歩いてきた女戦士。

戦闘に特化した特別貴族がアグリア。

肉体戦闘は99回の周回でも然程味わった事がない。戦えないわけではないが、彼女がこの世界を周回する上でする必要がなかった事だ。

死ぬために生きているアメリアは、生きる為に戦う必要がなかったのだ。


(肉体言語がお婆様なら、私のチート能力でねじ伏せられれば良いですけど…。加護によって魔力がきかないとなれば…私も肉体?筋肉ムッキムキさんになって、肉体にて生存フラグボッキボキにする感じです??)


これからのプランを頭の中で練り直すも、斜め上に練り直す安定の鋼鉄の精神アメリア。

自分の体を見つめ、筋肉が素晴らしい増し増しな状態になれば良いのかと考え、想像している。

想像の中のアメリアは顔が小さく胸筋が逞しく、筋肉という筋肉が盛り上がり、逆三角形な体系をしている。

現状のアメリアは可憐で乙女な少女である。

彼女が未来そのような状態になって喜ぶのは一割にも満たないだろう。

いくら彼女が嫌われていようと、見た目だけを考えるならば嘆く者が大半を占める筈だ。

筋肉がつくのは良い事だと思ってしまったアメリアは、少しばかり目指そうなどと考えていた。

どこかの白い空間の者たちの悲痛な叫びが響いた気がするが、気のせいである。


(筋肉は良いですね!!!…それにしてもこの記述書いた本人にお説教したいですねー…。なんですか?兵器って!お婆様は兵器なんかじゃないですよ!ムーーーーーー!!)


筋肉に夢をみているアメリアの頬が膨れる。

ブラック老師の項目を飛ばし、一気に最終頁を開く。しかしそこには精霊語でサインが書かれており、執筆者が誰か分からない。

アメリアの足の指先がパタパタと音を立ててシートを叩き、支度が済んだライラがどうしたのかとカップに紅茶を注ぎながら首を傾げた。


「お嬢様何か機嫌を損ねる様な事でもございましたか?」

「この本は誰が書いたのです!酷い内容です!お婆様を兵器だなんて!精霊語はまだ読めません!ムキー!!」


なんだその事かとライラは苦笑した。

アメリアの唇はとがっておりすっかり拗ねている。彼女好みに作った紅茶を本の代わりにと手渡した。

奪われた本をじっと見つめながら、心を落ち着かせる為に受け取った紅茶の香りを堪能した。

香る紅茶葉は強すぎず、しかし弱すぎない落ち着く香りでアメリアを満たしてくれる。

アメリアの表情がいくらか穏やかになってからライラは本の最終頁を捲り、作者を確認して直ぐに閉じた。

今度はライラの眉間に皺が寄り、うっすらと彼女の背後に混沌の扉が出現した。


「?どなただったの?」

「…これは教材として魔法老師様からお嬢様に渡す様にと、魔道具と共に受け取った物でした。ええ…鼻の下がのびているあのじじいの…」

「お口が悪いですよーライラー。教材ねー…ってことは、もしかして老師様直々に作ったってことなんです?」


過去の周回で教材を受け取った時、魔法老師は自作だとアメリアに話した事があった。

もしかして、という可能性で切り出したのだが…


「失礼致しました。ええ。しっかり最後にサインが入っておりました」


 ピシリ


確信に変われば話しは別だった。

アメリアは綺麗に笑顔を作るが、心の中は轟々と怒りに荒れている。

その怒りで誤ってカップの持ち手の部分に罅を入れてしまう程に、無意識に力が込めてしまったのだ。


(ほーう?読めないサインは老師様の…ふーん?)


「お嬢様!?お怪我は?!」

「大丈夫よ。これくらいなんて事無いです。壊してごめんなさいライラ」


彼女の怒りが自分にはない事が分かっているライラは落ち着いて、アメリアに怪我がないかを確認する。

罅の入ってしまったカップを受け取り何度も彼女の小さな手を確認するが、怪我はない様子だ。

アメリアはそれよりもカップを台無しにしてしまった事の方が申し訳なかった。職人が一つ一つ作った物だと知っているからこそ。

台無しにしたのは自分だが、自分に怒りをおぼせさせたのは紛れもない魔法老師だと思い返したアメリアは、笑顔が更に際立つ。


「綺麗なお嬢様の指に怪我がないのでしたらそれで」

「怪我があっても問題ないです。老師様おちゃめで楽しくて可愛いですけど、ライラにわたくしと二人の時はじじいって呼ぶのを許します」

「かわ?!……私のお嬢様に可愛いと言われるなんて…じじい次会ったら覚えておいてください」


ライラの言葉はとても小さく呟かれているのでアメリアの耳に入らない。

それよりもアメリアはアメリアで、頭の中で魔法老師に棘を吐いている。


(老師様ー?お婆様を兵器ってなんですかねー?間違ってはないんでしょうけど…私が間違って覚えたらどうしてくれるんですか!!!)


知識を大事にする鋼鉄の精神と魂を持つアメリアである。


ブラックの知らぬところで少女とその侍女の怒りを買ってしまった本をライラは横に置き、アメリアに食事を摂る事を促した。

アメリアも素直に頷いて応じる。

ある意味、笑顔のライラとアメリアだが、とても穏やかな陽気の中で食事を始めた二人の頭の中で、一人の魔法老師は何度かアグリア式肉体言語により、地面に沈められている。

頭の中はとても殺伐としているが、アメリアとライラの最近までの事を考えるととても穏やかに時間が流れている。


珍しいゆっくりとした時間の流れはアメリアの心を多少なり癒していた。


「お嬢様病み上がりなのですから、あまり無理なさりませんよう」

「もぐもぐもぐ」

「お下品です」


穏やかな空間で気が抜けていたアメリアは、口の中にサンドウィッチを含んだまま返事をしてしまった。

99回の周回を得た彼女の淑女魂からしたらかなり珍しい行動だ。

何度か租借し、飲み込むと紅茶を一口。

口の中の物が無くなってからアメリアは、ライラに照れたように微笑む。


「ごめんなさいライラ。眠っていて思ったよりもお腹が空いていたみたいで、食べながら話してしまいました」

「くっ!可愛らしいので許します!」


マナーとしては許してはいけないのだが、安定のライラはアメリアに悉く弱い。

直視出来なくなってそっと視線を逸らす程に彼女はアメリアのあざとさに負けた。

無理はしていない事を伝えれば、その後何度も確認をとってくるライラを何とか納得させてマナーを最低限守り食事を再開する。

二人しかいないこの秘密基地の中では、最低限アメリアが気にする部分以上の事はする必要がない。きっちりと仕事をこなそうとした時、彼女がライラに自然体であって欲しいと望み、それは今も守られている。


本当に素に戻れる空間の中。


「それでお嬢様、無詠唱での事ですが…」

「うぐぅ…やっぱり聞きたいです?」

「勿論」


(やっぱりライラは覚えていますよねーーー!!どこまで話したものか…)


この空間に来る際、ライラは無詠唱で魔法が構築出来る事を聞くと断言していた。

それは譲らないといった意志すらも感じるほどに。

一体何故なのか、アメリアは考えるが彼女の考える事は今とても読み辛い。ずっと傍にいたライラの事は自分が一番分かっているといっても過言ではなく、表情を、感情を、思いを読みとる事には苦労していなかった筈だった。

初めてライラの事が読む事が出来なくなってしまっていた。


(うぬーーーー…神様との約束で死ぬために生きてますなんて言えませんし…)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは考える。

無詠唱を習得出来たのも99回の周回での経験があってこそだ。

その経験を語った所で、通常の人であれば夢物語や頭のおかしい子といった目で自分を見つめ、信じてくれる事はないだろう。

ライラであれば信じてくれる可能性はあるが、それは、今までのライラであれば…だ。

今彼女の目の前にいるライラは過去の周回とは違った動きをみせるライラだ。

同じであって、同じではない。

これにはアメリアも本当にどうしたものかと頭の中で緊急会議を行う程。


ライラはじっと自分の主人が話し始めるのを待つ。

無詠唱が可能であればアークに罰を与える際も唱える必要がなかったと言える。そして、アグリア襲撃といっても過言ではないバルコニーからの落下の時だって、自分を守る事も出来た筈だ。

それなのに、目の前で考え込んでいる幼い少女はそうしなかった。

一体何故なのか問い詰めたい気持ちが強いが、アメリアは自分にいつか教えると約束をした。今は触れて欲しくないのだと。

うーん、うーんと小さく呻いているアメリアに、シルバーグレイの瞳が柔らかく下がり、ライラは苦笑した。


「お嬢様、詳しく知りたいのもありますが、話せる部分で構いません。私が知りたい理由は今後のお嬢様が望まれる事に関して、作戦を練る必要が出てくるときに知っている方がいいと判断したからですよ」


これはライラの本心だった。

アンスリウム男爵に対して、アメリアは激しい怒りを目覚めてから自分にみせた。

そして、教会の件についても今後作戦を練る必要が出てくる。

それを考えれば、無詠唱であるかないか、どこまで使用出来るのか出来ないのかといったところは重要となってくるのだ。


なるほどとアメリアは納得すると、手を合わせて指先をくるくると回す。


(作戦に必要ですよね…そうですよね…。もーーーーー信じてもらえるかあたって砕けろです!)


鋼鉄の精神と魂のアメリアはライラに対してかなり行き当たりばったりになっている。

過去の周回でも、設定でも彼女の死亡フラグに決してならない相手だからこその投げやりとも言える。

当たって信じてもらえず、砕けたら少し…いや、かなり悲しくなる気分はマックスである。

それほどにライラを第二の母、自分の剣と盾として慕っているアメリア。


「えっと…無詠唱で使用できる魔法は魔力での構築全てです」

「……お嬢様?」

「うぅぅ…信じてもらえないかもしれませんが、全部の構築がわたくしは出来ますぅぅぅぅ…」


どんどんと告白するアメリアの言葉は小さくなっていく。

ライラの表情がかちりと固まった。

穏やかな空間の時が止まったように感じる。それほどまでにアメリアの告白は衝撃が大きい。


(やっぱり信じてくれないーーーーー!!)


一方アメリアは頭の中で大号泣していた。

簡単に信じてもらえるとは思っていないが、ここまであからさまに反応するとは思っていなかった。その為彼女も彼女で衝撃が大きい。

下を向いてしょげてしまったアメリアに、ライラははっとし必死に言葉を繋げる。


「いえ、あの…信じてないと…いえばあれなのですが……あの!」

「良いのです…良いのですよぅ…。これも隠しておこうと思っていた事ですし…異常だって分かっていますし…」

「ですから!」

「わたくしは気持ち悪いですか?」


シルバーグレイの瞳がカッと最大限まで見開かれ、アメリアの両肩をがしりと力強く掴む。


「!!ら…」

「気持ち悪くなどありません!!不安にさせてしまって申し訳ありません。少し驚きまして…整理はまだついていませんが、アグリア様やアスターを考えるとまぁ…分からなくはないのかと納得も出来まして…」

「…ライラ…」


下を向いていた視線が上がり、光の加減で色の変わるアメリアの瞳がきらりと水の膜が揺れる。

涙は流さない。ただ、ただ、ライラが必死に受け入れようとしてくれている事が嬉しい。

ふわりとアメリアは頬を染めて喜びに笑う。


「ありがとう」

「アグリア様といい、お嬢様といい…規格外が多いです…。でも、話して下さってありがとうございます」

「全部じゃなくてごめんなさい。ちゃんと話せる時に話します…」

「待っています」


アスターの秘密基地は、穏やかな風と陽気、そして空気で彼女たちを包む。

それはアメリアの母、アスターの様に。

過去の周回とは異なり、ライラに無詠唱の話しをしたアメリア。


少しだけ母の前、この空間では素直になれるアメリアだった。


近状報告と次回予告》

活動報告にて報告させていただきましたが、指をざっくりと負傷してしまいまして、指が曲がらずタイピングがうまく出来ない状態になってしまっていますorz


更新日程を変えず頑張るつもりだったのですが、病院に行ったところ思いの外深くやっちゃっていたらしく、最近仕事で深夜勤投入も余儀なくされていまして、誤字も増えてきたのもあり、これ以上遅らせるのも心苦しかったのですが、自分の指を大事に更新頻度を1週間に1回にさせて頂きたいと思います(´;ω;`)

楽しみにしてくださっている皆様に本当に申し訳ありません…。

これからもゆっくりと進む物語ではありますが、宜しくお願い致します。


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