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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第51話


アスターの秘密基地に移動してきたアメリアとライラの二人は、穏やかな陽気に身を預けていた。

移動で疲れる事はないが、この場所は母アスターが作った平和な空間だ。

穏やかに流れる風と降り注ぐ暖かな優しい光、そして清んだ空気は少し荒れていた彼女達ふたりの心を少しずつ癒してくれている。


「あったかいですねーライラー」

「そうですねぇ、お嬢様」


二人とも普段の表情とは打って変わって頬が緩んでいる。

緊張がほぐれるとはこの事だろう。


「ねぇライラー、この太陽はお母様みたいですかー?」

「そーですねーアスターの笑顔のようですねー」


どこか二人とも、のほほんとしている。

最近の彼女達は忙しかったのである。

一人はアグリアにこっぴどく詰め込まれ、一人は眠ってはいたが夢でクリスタル投影と戦っていた。

一人は肉体的に、一人は精神的に。

それはもう、ここまで穏やかとは言い難い所に身を投じていたのだ。

気が抜けても仕方がない。


母の笑顔のような太陽に包まれながら、淑女として怒られるだろうが、アメリアはその場にごろんと体を横たえた。

ライラは立っているが、アメリアに優しく目を向ける。


「お食事を摂りながら調べ物なさいますか?」


普段のライラでは決して勧めてこない行為だ。

食事は食事、調べ物は調べ物と分けて行動させる彼女なのだが、今日のライラはどこか自分に優しい。

アメリアはころりと草の絨毯に転がりながらライラを見つめ、微笑む。


「いつもなら怒るのに…」

「ふふ。お嬢様に怒った事はございませんよ?」

「えー?そうでしたっけー?」


いつぞやの言葉を二人は交わし、見つめ合って笑いあった。


ころりと転がしていた体をライラがひょいと持ち上げると、片手で二人が座るには十分の大きさのシートを広げるという、とんでも技を披露した。


(おお!流石はライラです!)


瞳をキラキラと光らせて手をぱちぱちと叩いている腕の中の主人に、ライラは内心喜びに満ちている。

綺麗に広がったシートの上へとアメリアをおろすと、持ってきたバスケットを置き、淡々と支度をしていく。

手際は流石と言っておこう。


アメリアは準備が終わるまでの短い間で、ブルームーン国の名簿を開いた。

アグリア、そして魔法老師ブラックについての記述を探す。

パラパラと頁をめくっていくアメリアに支度をしているライラがある事に気づく。


「どこでその本を手に入れたのかは分かりませんが、その本では詳しい事は分からないかと」


必死に目的の頁を探していたアメリアが本から顔を上げる。


「へ?!そうなのですか!?」

「ええ。ラナンキュラス国で作られた物のようですし、特別貴族としか恐らく記載されていないかもしれません」


ある程度、支度を済ませ後はお茶を入れたりするだけになった時、ライラがアメリアに一言入れると、彼女手に持っていた本を持ちあげてタイトルを確認する。

その後、ぱらぱらと流れる様に頁を捲る。そしてやはりこれには載っていないだろう事を告げた。


アメリアは両頬を膨らませ、ライラを睨みつける。


「どうして先に言ってくれないんですーーーー!ライラのいじわる!持ってき損です!」

「お嬢様にお渡ししようと思ってお持ちした物が、それに近い物でしたので…………いじわる…っ…」


バスケットの奥には一冊の本が入れてあり、それを取り出したところで、ライラの動きが止まる。

アメリアが自分に言った言葉を何度か復唱し、何かを納得するように満足げに頷いた。

取り出された本に両手を伸ばして笑顔になるアメリアは、ライラがぶつぶつと復唱している事をあえて無視した。

彼女からすると通常ライラの一部としてこの行動を見ている。


「本当です!?それを読ませて下さいライラ!」


普段ならすぐに渡してくれる彼女が今は無表情だが、どこか興奮気味な瞳でじっと見つめてきた。

その向けられている瞳は、いつぞやの警笛が頭の中で鳴り始めるほどに。


(最近味わっていなかった危機感!)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは本当に鈍い。

口の端をひきつらせながらも、アメリアは笑顔を崩さないあたりは培ってきた経験とも言えよう。


「………ライラ…?」

「ライラのいじわる」

「はい?」


ライラの口から発せられた言葉は先程アメリアが発言したものだった。

それがどうしたのかとアメリアは首を傾げる。

警笛は鳴り止んではいない。


「もう一度先程のように言って下さい」


真剣に言い寄ってきた侍女に首が真横になるほどに傾げそうになるが、それだけで良いのであればとアメリアは特に何も考えず、不思議なことを言うものだと疑問を持ったまま、ライラが望んだ言葉を発した。


「??ライラのいじわる!」

「いいですね!」

「何が!?」


一体何が良いのかはライラしか分からないだろう。

彼女の恋愛対象は過去も今もアスターとアメリアだ。それは、どの周回でも変わらない。

今の彼女の行動も通常ライラの一種である事は確かだ。

ライラが望んだ言葉を口にした時、アメリアは頭の中で鳴っていた警笛が止まった事で特に追求はしなかったが、一体何が良かったのかさっぱり分からないのだった。

己の欲求を満たされたように満足そうに微笑むライラは、本を渡した。


「いえ!こちらの話です。先に確認致しましたが、内容は精霊語ではないようでしたのでお嬢様でも読めるかと。ではどうぞ」

「…どちらの話ですか?まぁ…いいです。ありがとうライラ」


そんな本に一体何があるのか…とライラは思うが、後で目の前の主人は教えてくれると自分に約束したのだから、きっと無下にはしないだろうと考えた。

何事にも下調べをしているアメリアを近くで見てきたライラは、小さいながらに頑張る主人に穏やかな陽気に合わせた彼女が好きな紅茶を入れようと、精霊魔法を構築し持ってきていたポットを温め始める。


「いいえ。支度が終わるまでですよ?本を汚すのが嫌いなのはお嬢様なのですから」

「はーい!」


既にアメリアはライラから受け取った本に顔を埋めていた。

膝を三角にして子供には少し大きい本を太ももの間に置いて開いて読み始めている。


ライラから受け取った物はブルームーン国で作られた物だという印が入っていた。

タイトルに精霊語で文字が書かれており、アメリアにはまだ読めそうにない。


(これは後でライラに教えてもらいましょう!さてと!お婆様と老師様の情報を手に入れますよー!)


能力的に規格外なものを持ち、死亡フラグになる可能性のある祖母アグリア。しかし一年後彼女に負ければ自分はゲーム本編から姿を消し、生存フラグにもなる可能性が出てくる人物でもある。

本編が始まるまでは世界の強制力により死ぬ事は出来ない。

死亡フラグになるとしてもそれはまだ先の話であり、その前に祖母アグリアに勝利しなくてはならないといった最低ラインが出来てしまったのだ。

過去の周回では出て来なかった今回の周回で現れたキャラクター。


またブラック魔法老師も、過去の周回では元々自分に合わせて勉強を教えてくれて、飽きさせない、そして何よりも見た目が可愛いおじいちゃん先生だけだった人物。その本当の姿は聖霊であり特別貴族という、モブにしては強い設定を持っていたキャラクター。

魔法老師に関してはどちらのフラグにもならないが、敵に回すととても厄介そうだと言うアメリアの経験と知識からの見解である。


両人共に敵にするにはとてもモブにしては中ボスレベルと言える。


(お婆様は中ボスというよりも四天王と呼べれる強い力を持った存在な気がしますね…。創造神様はなんていう人を作ってくれたんですか!フラグ建築の邪魔にならないならいいのに!邪魔になりそうな人達じゃないですか!)


鋼鉄の精神と魂を持つアメリアとしても、自分の生存フラグとして立ちはだかってくる存在が身内だと思いもしなかった。

登場人物たちであれば軌道修正する事が経験と知識において可能だとアメリアは思う。

いくら現状建てたフラグが折れてしまっていたとしても、小さく撒いた悪評は布石となり、彼ら一人が自分の存在を認めた所で周りの大勢の評価は簡単には変わらない。悪役としては存在する事が可能だ。

自分を断罪するべきは攻略対象達とヒロインである妹。

大勢は物語の強制力によって登場人物達の耳にアメリアの悪を囁いて行くことも知っている。彼女は嫌というほど目にしてきたのだ。

強制力は『ゲーム盤』の本編が開始された時から強さを増す事を。


(だとしても今回は気を引き締めて行動しましょう。ユリに気づかれては未来が変わりません…。あの子は幸せになるべきヒロインです!)


その強制力とは関係あるのかないのか分からないイレギュラーな人物達が多い現状。


(お婆様の事は今度から生きる旗に見えてきそうです…。怖すぎる……。お婆様何て強い生存フラグなのですか…!)


自分で思って自分で寒気が立ったアメリアである。

生存フラグになるか、死亡フラグになるかはまだ分からない状態だとしても、アグリアの存在はかなり彼女の中で問題として上がっているのだ。


アメリアが唸っているのを少し微笑ましく見つめるのは彼女の侍女。


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