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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
54/87

幕間―とある空間―

神々の会話


とある真っ白い空間。

これはアメリア命名、神々面談室での会話である。

ふわりふわりと浮かんでいた子供の様な容姿をした人物が二人、『ゲーム盤』の世界を覗いていた。

一人はにまにまと面白そうに口を歪め、一人はむすっと眉間に皺を寄せて口をへの字にしている。


「おーや、まー」

「ねぇねぇ創造神。あの父親どうにか出来ないの?禁断って文字にすると魅惑だけど流石に…」


創造神と呼ばれた人物は、楽しそうにしていた表情を一変させ片眉をぴくりと持ちあげて隣にいる自分を呼んだ人物を笑顔で睨む。


「え?なに?僕に文句があるの?ジン君」

「だって…僕達のアメリアにくっつき過ぎて殺したくなる」


物騒な会話をしているが、周りに浮かんでいる似たような子供の容姿の神々も特にツッコミを入れず、逆にうんうんと同意しているほど。

神々はアメリアを愛しているが故にそのように思っている訳ではないようだが、彼らの愛情は創造神も感じ取れる程歪んでいるものだ。

後一回で約束の100回だと言うのに、未だに解放してあげない辺り本当にそう思っている。


創造神はジンの手をやんわりと止めて、斜め上に視線を持ちあげながら溜息と共に彼を止める為に答えをさらっと吐きだした。


「ふーん。ポンコツジン君が手を下したら一瞬だからやめなさい。仕方ないなぁ…じゃあ教えておいてあげるよ。ロイドはアメリアに恋してないよ」

「そっか……ってはあ?」

「だから恋してないんだって」


さらりと吐きだされた言葉は現状『ゲーム盤』で起こっている事とは裏腹なものだった。


ジンは創造神へ噛みつくように『ゲーム盤』の世界を指差して吠える。


「だってあれは恋した顔でしょ!?あの甘え方異常だよ!?本人だってアメリアとアスターが違う人間だって思ってるじゃん!」

「あー…ポンコツジン君には分からないよねぇ…というかこの“設定”はなかった筈なんだよ」


ぎゃあぎゃあと主にジンが叫んでいる事で、世界を眺めていたその場にいた別の神々も興味を持ったようにわらわらと集まってきた。

創造神はうんざり顔を隠そうとはしない。


「なになにー?」「どんな?」

「君達ポンコツ神の本気と僕達に近い願いの力を持ってしまったあの子がぶつかった事で起きた“(ひずみ)”」

「ひずみー?」


歪と言われても神々には分からない。

彼らは良かれと思って自分たちの欲望をぶつけているに過ぎない。

神がそんな事をすれば、世界の基準がずれ、元ある世界に歪みという歪を生じさせているなどと考えてもいない。

創造神は自分の生み出した登場人物達を心の中で憐れむ。

目の前にいる神々は悪いとはどこかで思っていても、腐っても神様。

力は相当な物を一人一人所持している。


「…さり気なくポンコツ言うな!で?その歪が起きたからなんだっていうのさ」

「予期せぬ君達の介入が続き、それを回避する為に彼女が力を無意識で使っているからねぇ…予想していなかったイレギュラーが次々起きた」

「ふむふむ」


神々は珍しく協力的になっている創造神の話を真面目に空中で正座をしながら聞いている。

彼が話し始めた事は自分たちが愛し、救おうと必死になっている『ゲーム盤』のアメリアに関する情報だ。

それはそれは必死に頭にしっかりと叩きこむ。


「ロイドがアメリアに恋したと思っているのは勘違い。3歳の頃のアメリアを思い出せば簡単に答えに辿り着く。彼は元々の“設定”でアスターを愛し続けている。それは今も変わらずに…ね?」

「だからアメリアを好きになったんじゃないの?」

「だからそんな“設定”はないんだよ。彼女は負の根源として生み出してるんだよ?ロイドは“隠れ攻略対象”だよ?」


じれったい言い方をする創造神にジンが眉間に皺を寄せ、片眉を上げながら不機嫌を隠そうとせず噛みつく。

要点だけさっさと教えて欲しいといった気持ちなのである。

それが分かっている創造神も腹立っている表情を隠しもしない。

仲が悪くみえるかもしれないが、別段創造神とジンは仲が悪いわけではない。

言いかえれば、さっさと攻略サイトを見て攻略したい派のジンと、自力で攻略したい派の創造神といった感じの間柄である。


「はぁ?わかりやすく教えてよ」

「考える事を放棄した神は無能だからね!?まぁ教えてあげるけどさ。“裏設定”というか“下書き”。言いかえると“ベータ版”の、彼の設定が掘り起こされちゃったんだよね」


正座をして真剣に静聴していた神々が驚きのあまり空中で裏返ったり、立ち上がったり様々な反応を起こす。

ジンはくるりと一回転し、白い空間のテーブルの上へと足をおろす。


「裏設定!?てか言い方統一しよう?!」

「え?だって本来なら絶対に出て来ない設定だったんだけど、君達とあの子がぶつかりまくるから出てきちゃったんだよ?だから統一も何も、僕からしてもイレギュラーだって言ってんでしょ!んで、そのベータロイドの中にあった一文」


『アメリアにアスターを見つけてしまったロイドは、アメリアを通して再びアスターに恋をする(本人はアメリアに恋をしていると勘違いする→後に気づいてアメリアと必要以上に距離を置く)』


「っていう設定があったんだよ~♪」


楽しそうにけらけらと笑う創造神の言葉に、ジンはテーブルの上に胡坐をかいて頭を抱えた。

これにはひっくり返っていたりした神々も、めそめそと何処からともなく取り出したハンカチで目を押さえた。


「なんという…えぐい…」「アメリア可哀想…」「結局アメリア幸せにならない…つらい」


嘆き悲しむ神々に創造神は盛大にツッコミを入れる。

嘆くも悲しむもその神の自由だがその設定を掘り起こしたのは紛れもない神々であり、ぶつかっているアメリアであると。

元々チラシの裏、出す筈のなかった設定が現在の『ゲーム盤』に反映されてしまっている。それが自分のせいだと嘆かれているのは創造神的にも侵害である。

自分は一切悪くないと心から叫びたい。


「その設定掘り起こしたの君達だからね!?僕だってこれは酷いって思ったから下げていたのに!アメリアヒロインルートあると思われそうだったから消したのに!!!」

「うげぇ…まじかぁ…僕達のせいなのか…ヒロインは僕達の愛しのアメリアで良いよ…」


どれだけ止めてもやめなかっただろう、本当にポンコツめと創造神は内心悪態を吐く。

神々が本気を出せばどうなるかくらい考えれば分かる事だった筈なのに、目の前で胡坐をかいて頭を抱え嘆くジンや、空中に浮いて涙を流している神々に、本当に自分と同じ力を持つ神なのか甚だ疑問を抱く。

もういっそといった心持で創造神は、ついでに嘆くなら嘆けと半ば投げやりにネタばれを神々に暴露する事にした。


「はいはい。そんなわけにいかないでしょうが!んでアグリアなんだけど、あれもベータというか下書き段階で没になった(いなくなった)キャラクター」

「そんなキャラまで…」「ひえぇ…」

「あんまりにキャラが増えるのも面倒だったから消したのに、次から次へと表に出てきちゃっててさぁ…“裏”が“表”に完全に関わってきちゃってるんだよねぇ?わかるー?ジンくーん」


胡坐をかいて頭を抱えているジンの頭にどっかりと乗っかる創造神。

わざわざ体重をかけるように体を調節する辺り、創造神も多少なりとも怒っているのがわかる。

ジンも大人しくそれを受け入れている。


「わーかーるー」

「そっかーなら僕が何を考えてるのか分かるよねぇ?」


にまぁと創造神が笑う。

しかし目が笑っていない。

空中に浮く神々もその場に一瞬で降り立ち、ジン含めポンコツと呼ばれた神々は美しい土下座を披露した。


「えっと!色々ごめんなさい!」


一つ溜息を吐くとふわりとジンの上から退いた創造神は、その場でくるりくるりと回る。


「全くさぁ…僕の愛しいアメリアが可哀想…。何度も言うけどあの子を更に苦しめてるの君達だからね!強制力は未だ健在で自分で死ぬ事も出来ないのに、何生き地獄味あわせてるの?!あの子が頑張ってフラグ作ってるのに、裏設定が出てきちゃって一部折れちゃってんじゃん」

「うぐぐぐぐ」「フラグは折れていいんだもん!」


がばりと頭を上げてぎゃあぎゃあと神々が吠えれば、創造神は冷たい目線で見降ろし言葉で一蹴する。


「唸るな騒ぐなうるさい。誰が許したと言った!頭を上げるな!」

「ひえ!」「ごめんなさいいいいい」


大変ご立腹な創造神に神々は神様ではあるが頭を再び下げる。

この場にいる神に優劣はないが、創造神は少なくとも別の世界の神であり、自分たちが勝手に手を出してしまった『ゲーム盤』の世界の創造主。

これ以上彼を怒らせる事は得策ではないとポンコツと言われている神であっても分かった。

ジン一人だけは真っすぐと睨みつける様に創造神を見つめる。


「裏設定が表に出ちゃった以上、あの子は今まで以上に大変な思いをする事になるんだよ!唸りたいのは僕ね!?わかってる!?せめてフラグ立てられないとか最初からなら良いのに、立てた物が折れたら可哀想でしょうが!」

「僕達の愛しのアメリアは、なんとしてでも生かす!!!」


力強く意志の強いジンの言葉に、先程より大きめに溜息を吐き、創造神は自分の中にある怒りを抑えた。

――本当に真っすぐだけど、可哀想なのは一体誰なのか良く考えて欲しい…。

ジンの真っすぐなところは美徳だと創造神は思う。だがそれは今のアメリアにはとっては苦でしかないだろうと、同時に思うのだ。

彼は創造神故に『ゲーム盤』の登場人物たちを少なくとも愛しているのだ。


「……解放してあげないのは君達の悪いところだと僕は思うよ…いっそ神様辞めて欲しい…アメリアの性格が歪まないのが本当に不思議だよ…」

「辞めない!みんな生かす為に頑張るぞー!」「おー!」


やる気を取り戻したジン達神々陣営は再び『ゲーム盤』の世界を覗きこむ。

もう創造神の言葉を聞いていない。

全く勝手な神達だと思う。

だがそれも神様故なのかと創造神はふわりと空中に浮きながら、世界を眺め思う。


「はぁ…。ポンコツ神さま達に愛されるのは辛いねぇ…さてアメリア。僕が手を出さなくてもこれは大分きつい状態だよ。僕が作って没にしていた下書き、ベータ版、裏設定…言い方は自由だけど出てきちゃったからね」


『ゲーム盤』の世界では今アメリアは夢の世界にいるようだ。

あれはロイドとダレンのクリスタルかと見つめながら思う。


「そのクリスタルは僕達とぶつかって生まれたものじゃないよ。それは君が無意識に望んで、見たかった未来であり過去だ。分からない事が多い世界からヒントを得たくて、知識を大事にする君だからこそ生まれた歪だ」


ヒロインであるユリがゲーム本編中に夢で見る設定を埋め込もうと考え、取りやめた裏設定。それが夢のクリスタル。

攻略対象達のヒントを得るためのクリスタル。

しかし神々と同じ力を持つアメリアが望み、知識や経験を重視する彼女だからこそ出現した裏設定だ。

望む望まないにしても、現在自分の位置が不安定になり、フラグ建築も過去と違い思うようにいかない現在。

彼女は無意識の中で苦しみ、そして望んだのだ。

足りない情報を自分の未来()が、世界を幸せであると、登場人物たちの幸せであると確信を得る為に。


神々は可哀想!なんてこった!などと喚いているが、これもどれも彼女に力をつけてしまった君たちが悪いと創造神は思う。

ダレンやロイド達のこの先の未来をアメリアと同じく知ってしまっても、眺めている神々は止める事はないだろう。

彼らが愛しているのはアメリアであり、『ゲーム盤』の登場人物たちではない。

彼女ただ一人だ。

あわよくばアメリアが諦めてくれればいいと思っている程に、彼女の生存フラグを建築させようとその意志は強い。彼女が生きればこんな未来はないのだと上手い事誘導できないかと考えているくらいだ。


世界の創造主である創造神は本来の未来とは違う世界に心が少し悲しくなる。

悪役令嬢が断罪された後、あの世界で生きる登場人物たちは幸せになる筈だった。

それが神々と神と同じ願いの力を持ってしまったアメリアがぶつかってしまった事で起こった、エンディング後の変更。

――ここまでいったら…バグだな…。


クリスタルの投影で着実に罅の深さを増している事に創造神は目を細める。


「これまで通りのイベントは勿論起こる。世界の強制力は生きている。だけど今までと異なる流れだろうね。覚悟した方が良い…君の罅の入ってしまった鋼鉄の精神と魂が折れない事を祈るよ」


楽しそうに眺めている事は変わりない、しかし創造神の瞳は以前よりも冷たく神々を見つめ、世界を見つめていた。


「ジン君達は腐っても、いくらポンコツでも…神だよ、アメリア」


この場で心から彼女の願いが全うできる事を祈るのは、『ゲーム盤』を生み出した創造主のみ。

いい加減自分の生み出した登場人物、キャラクターを解放してあげたいのだった。


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