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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
33/87

第31話


(お父様なんですか!?やっと収まった魔力がぁ部屋の温度がまた下がってー!?破壊!?扉の破壊がいけなかったんです!?そうですよね!雇い主であるこの屋敷の主人の執務室の壁と扉を破壊しているんですものね!)


鋼鉄の精神と魂のアメリアは斜め上に解釈していた。

アメリアを腕の中から離さず、黒い笑みを浮かべわざと溢れさせている魔力で室内の温度をじわじわと下げているロイドと、無表情ながら心配そうに眼鏡の奥の瞳を向けるアーク、そして無表情ながら明らかに怒っている事が分かる程に、背後に混沌の扉を出現させているライラである。

アメリアの内心は戦々恐々で震えあがっている。


「雇い主の執務室を破壊するとはいい度胸だな?侍女ライラ?」


あっやっぱり破壊したのがいけなかったんですねぇとアメリアは一人納得している。

ライラが混沌の扉を出現させても彼女の精神力が暴走する事はないので、アークのように感情で開く事はないと分かっているが、アメリアは怖いものは怖い。

明らかに向けられているのが自分を離さない父ロイドであるから尚怖い。

折角、物語から離脱させたというのにライラに彼が殺されては困るといった心境である。


ライラは素に戻っているアメリアを確認し、小さく舌打ちを打つ。

隣にいるアークにはしっかりと聞こえていた。


「これは大変失礼いたしました。しかしながら、わ た し の主であるお嬢様の身に危険を感じました故、ご了承頂ければと」

「何が危険だというんだ?家族の触れ合いを邪魔する権利はお前にはないだろう」

「ええ!家族の触れ合いだけでしたらね!」


アメリアは何故か彼らの背後に執務室とこの屋敷の廊下だけのはずなのに、本に出てきそうな悪魔のような何かが見えている錯覚を覚えた。

無表情に怒りを滲ませている侍女と真黒い笑みを張り付け氷の公爵モードの父。

これは何なんだとアメリアは思っている。

ロイドの黒い笑みに浮かぶ青の瞳がキラリと鋭く細められ、アメリアを抱く力が少し強くなる。

アメリアはとりあえず状況判断の為、眺めている状態だ。

大人しく抱かれているアメリアにライラは内心かなりの回数、舌打ちする。


「アスターの時のようにはいかないぞ、ライラ」

「やっぱり!お嬢様についているべきだった!」


無表情のライラの顔がぎりりっと歪んだ事にアメリアは驚いている。一体二人は何の会話をしているのか全く分かっていない。扉を壊した事についてじゃなかったのかといった心境である。

流石にこれ以上はまずいとライラをアークが止めに入る。

何故彼が彼女に近づけられているのかは彼の切り裂かれている執事服が物語っている。


「ライラ!旦那様になんて口の聞き方を…」

「お前は黙っていなさい!沈めますよ!」

「さっきまで本当に沈みかけていましたよ!」


(うーんこの状況は本当になんなんですかねー?最近私の周りでこういう状況良く生まれますね…明らかに神さま方が介入しているのが目に見えるんですけど…。はて…どんな風に介入しているのか考えてみませんと)


アメリアは内心首をかなり捻っている。斜め45度から見れば世界の景色が変わるのかと思っていたがそうでもない。

無表情ながら悲鳴じみた声を珍しく上げているアークを眺めていると、アメリアを抱くロイドの腕の力が先程より強くなり横抱きにされて彼女の体が持ち上がった。

その直後、ライラとアークの後ろに一人の人物が現れる。


「邪魔じゃお主ら!道を開けろ!沈め!」


「ぐっ!」

「がはっ!」


その人物がライラとアークの頭をわし掴むと、勢いよくそのまま床をへこませながら叩きつけた。

ロイドに横抱きにされながら考え込んでいたアメリアは、突然の事に瞳をぱちくりとさせて驚いている。

隠密を極めし超人一族の二人を一撃で文字通り沈めたのだ。


「よお!ロイド!私の娘のアスターが死んでから愛人を家に入れたって本当か?あぁ?」

「その言い方は少し…いえかなり誤解を招いているようですね」

「誤解だぁ?どこがだ!さっきあれの子供二人見てきたぞ!片方お前の色次いでんじゃねえか!」

「相変わらずちゃっかりしてますね!抱いた覚えが全くないのに二回も妊娠したんですよ!何度も報告しましたよね!?」

「自己管理が甘く迂闊に記憶飛ばして、下半身が緩い男の言い分など覚えとらんっ!今回もどうせそれだろ!!むしろ二人も産んでいる相手に何て酷い!」

「くっ…」


連射銃のように行われる会話。

ロイドに放たれている言葉はどれも鋭く相手を追い詰めており、アメリアはかなり感心している。

アメリアはロイドと二人を沈めた人物の間をいったりきたりしている。

たまに床に沈んでいる侍女と執事長を確認するが、完全に意識を飛ばしているようだ。


(えと!?ん!!?私の娘のアスター!?ってことは…)


「女大公様…?」


アメリアの発した声が聞こえたのかぴたりと二人の会話が止んだ。

ロイドの胸を叩き、下ろしてもらいたい事を伝えるが彼は一向に下ろそうとしない。


「あのお父様?お客様です。この格好は失礼ではありませんか!娘のわたくしに恥をかかせるおつもりですか!?」

「いや駄目だ。あの方がいる時は離す事は出来ない。連れ去られる」

「はい?!」


ロイドは視線を一度もその人物から逸らさず、真っすぐと見据えたままアメリアに答えている。

その真剣さがアメリアにも分かり、ちらりとその人物を伺う。

アスターのような青銀の髪…ではなく、パステル・ブルーの髪。その髪を上にあげ一本で結んでおりその髪形に馬の尻尾のようだとアメリアは思った。

彼女の釣り目がちな力強い光を放つルビーの瞳と少し歳が刻まれた皺。それでも綺麗だと一言で表せられる威厳のある姿で、服装はドレスではなく男性が着るような立派な騎士服。

彼女と視線が合うと、にっこりと綺麗な微笑みを浮かべた後、ロイドに不敵に微笑んだ。


「おいロイド?アメリアは天真爛漫で手につけられないお天馬じゃじゃ馬娘だと、アスターに似ても似つかない酷いもんだっつーとったな?それがなんだ?その腕にいるアスターを小さくしたような、可憐なおちびちゃんは…あぁん?」

「相変わらずあなたは言葉が汚い!確かに今のアメリアは大人しいですが、普段は全く正反対なのです!」


ずんずんと彼女は大股で執務室に入ってきてロイドに詰め寄ってくる。ロイドはアメリアを腕に抱いたまま、少しずつ後退している。

彼女が発する気迫は「氷の公爵」の彼を圧倒している。

詰め寄られてアメリアの全身から汗が溢れ出るような感覚が襲う。

彼女は膨大な精霊力持つ女大公であると全身で理解する。


「下町は色んな奴がいて、言葉が色々うつったのはしゃあないだろ?街は楽しいぞ?…それより、そんなのお前が根性出して精魂叩きなしゃあ良い問題だろうが!「氷の公爵」は名前だけかっ!戦場でのお前はもっと真面目だったわ!なんだ、育児放棄か?」

「してません!街に抜け出しているのは相変わらずですか!アメリアにきつくすれば文字通り骨が折れてしまいます!この子は細いんですっ」

「軟弱なのはド・グロリアの血筋か…ちぃっ。わしが他国の戦場に手助けに出向いて頑張っていた頃にアスターが死んだと?それについては」

「それこそ仕方ない事でしょう!そちらは特に精霊王直々の命だと聞いておりました!」

「うったしい!!精霊王のお願いだったから行ったがあんなん、わしの所に辿りつけんわ、片手で捻れる雑魚共だったんだぞ!?わしの精霊達が遊んだだけで撤退するような奴らの相手を何故わしがせんといかん!」


(それが王命というものでは…?)


少しばかり軟弱と言われショックを受けながらも、冷静にアメリアは内心突っ込みを入れる。

アメリアは現状ロイドに抱かれていて身動きが取れない。彼女が出来る事と言ったら過去の周回を振り返り、目の前の女性を思い出す事だけだ。

日記を読み、まとめられた資料を読み、ライラからアスターの母親は女大公というところまでは分かっている。しかし、どの周回を思い返しても彼女と出会う事は一度もなかったはずだ。

物語には出て来なかった人物が、物語の登場人物と激しく言い合っている。

アメリアは困惑を極めている。


(うーん…隣国の貴族名簿までは覚えてないんですよねぇ…困りました。名前が出てきません…)


ラナンキュラスの貴族名簿はきっちりアメリアの頭に入っており、彼女が周回の間で培った知識は豊富である。

しかし目の前のロイドを圧している女性の名前がはっきりと思い出せないのだ。

女大公として名前があったはずだが、特に関わる事もない人物だろうと綺麗に忘れてしまっていたのだ。


(どうしましょう!!この方は新しいフラグになり得るのかも分からない!)



フラグ建築においてアメリアが重要としているもの一つに“知識”があげられる。

それは彼女の“アメリア死亡経験則”も含まれている。

知識がなければ神々の妨害もとい介入を阻止できず、約束を守れない事をアメリアは良くその身に知っているのだ。

教会偵察もその“知識”を得る為。

彼女が過去亡くなった年齢が、アメリアが17~20歳と幅がある。

それは数回神々の小さな介入のせいでずれが生じた事で起きた幅だ。

その期間をアメリアは“アメリア死亡予定期間”と名前をつけている。

どんなにずれが生じても20歳には確実に断罪されて命を落としているのだから、狂いだした予定を戻すには三年はまぁ順当だろうと思っている。アメリアはその狂ってしまった世界を元に戻す為にその三年間奮起した事もある。

本来彼女が断罪されると決まっている年齢は18歳である。それを17歳で亡くなっているのは彼女が役割を早めに終わらせ命も終わらせたという、神々が泣きをみた数十回である。


『ゲーム盤』本編と呼ばれるのが、彼女たちが学生の時になる。

この世界の学生は13歳から18歳と六年間。アメリアが過ごしたのはその年齢であって、多少のずれはあるようだ。ユリは特例。人によっては入学がもっと遅い人もいる。高かれ低かれ魔力持ちがその力や知識を得る為に学びにやってくる。

その内の15歳から18歳の間で学生時代であり本編。言わばルート確定好感度イベントが多数起こり、物語が進むそうだ。今思い返してもユリはその頃最高でも14歳程度なのだが…そんなユリに恋をするとは一体…とアメリアは思ったものだ。

ユリの成長速度を元々創造神が弄っているのか年相応に見えないのも攻略対象が恋愛するに位置づけられるのかもしれない。もしくは元々攻略対象のねじが何本か外されて、物語に生み出されているのかどちらかだ。

創造神はかなりちゃめっけの強い性格の為、どれが真実なのかは、全くアメリアは分からないし知りたいとも思えないと言った所。

ユリが11歳の頃にアメリアと共に学生となる。それはユリの能力がヒロイン特有と言える全構築可能な能力であり、その力をうまく使う事が出来ず暴走してしまう可能性があったからだ。監視の面を含めてアメリアと一緒に特例で入学するのだ。

そこで全力でいじめ倒し、悪として裁かれ、様々な死に向かうのがアメリアの役目といえる。

そんなユリと攻略対象がエンディングを迎えた後、18歳のアメリアが生きながらえていたとしても、後日談として断罪され命を落としたなどエンドロール後に表示されている。


閑話休題。


アメリアは彼女に対して戦うにしても放置するにしても知識が圧倒的に足りなかった。

表情は一切崩さず不機嫌な表情でロイドとその人を見ているのだが、二人とも気にした様子はなく、尚も素早い言い合いをしている。


目の前の女性から放たれている気迫はかなり強く、アメリアの背中をじっとりと汗が滲む。

それ以上にアメリアは若干腹が立ってきた。


 いらいら


「いいからロイド!その子を寄こしな!」

「お断りいたします!義母上!持って帰られるおつもりでしょう!」

「あん?なんでわかった?お前が鍛えなおせないのなら、わしがやってやろうと思って♪」

「嘘ですね。私からアメリアを奪うおつもりでしょう?」


 いらいら


「…いいから寄こせ!わしに寄こせ!」

「嫌です!駄々っ子ですかあなたは!アメリアは渡しません!ライラとアークを連れていけばいいでしょう!」

「あれはもうちびちゃんに証を渡しとろうが!アークは持ちかえっても良いが…多分ライラがここにいる以上動かん!」


 ぶちっ


「お二方?わたくしの人権が無視されて話されているのは、とても、と て も機嫌が悪いですわ!はいっお父様っ!」

「なっなんだ、アメリア」

「さっさとわたくしを下しなさい!言い訳など聞きたくありませんから口を閉じて従いなさい!」


ロイドはどんと胸を強めに叩かれ、渋々アメリアを床に下ろす。

その瞬間目の前の彼女の手がアメリアを捉えようとした。


「わたくしに触ることは許しません!」

「なっ」


しかしアメリアを捉える前に彼女によってその腕は叩き落とされた。

叩き落とされたままの姿勢で、アメリアの対応に驚き目を見開く。


「一度も名も名乗らず、我が物顔でこの国の公爵の屋敷に乗り込んでいらして、わたくしの侍女とこの屋敷の執事長を床に沈め、挙句の果てにこの屋敷の主に噛みついて、その娘のわたくしを許可なく連れて帰ろうなど!人攫いも良いところです!それになんですかその言葉使いは!!隣国の女大公としてあってはならない!」

「っ!」

「いくらお母様のお母様だとしても!あなたは大公様です!それなのにこのような横暴をしていいわけがありません!隣国ではそれが罷り通るのだとしてもこの国にはこの国のルールが御座います!分かったら触らないでくださいませ!わたくしは物では御座いません!部屋に戻りますっ!」


女大公である彼女に、真正面からアメリアは言い放ったのだ。

アメリアは言い終わると礼を一つ取り、床に沈んでいるライラを足先で頭を小突き目覚めさせふらつく彼女を連れて部屋へと戻っていった。

怒っていても鋼鉄の精神と魂のアメリアはちゃんとその振る舞いをしてずんずんと歩いていた。

残された大公は固まっていた。

そしてロイドは…


「ふくっくっくっ…言われてしまいましたねぇ…」


心底楽しそうに笑っていたのだ。

口元に手をあて顔を背け盛大に笑いだすのを堪えた様子で笑っている。

未だ大公は目をぱちぱちさせ状況を掴めないでいた。


「なぁロイド…あれはアスターか?」

「いいえ。あれは私とアスターの宝のアメリアですよ」


ゆるりと首を振って否定し、片手を差し出す。

その手を掴み起き上がると腰を伸ばすように後ろに反った。


「怒り方がそっくりじゃないか!生まれてから直ぐに亡くなっているから、あのちびちゃんがアスターを知ってるわきゃないのに…いやー参った。連れて帰ろうと思ったがあれでは連れだせん」


大公は先ほどとは違う、気の抜けた様子で笑う。

ロイドはアメリアの魔法に触れない事で彼女の重要な事を大公へ告げる。


「…あの子はアスターの遺産を既にいくつか手に入れているようです」

「…そうか…のう、ロイド。客室を開けてくれ。少しの間滞在させてもらってもいいか?」


諦めたように大公は天井を見上げる。

ロイドは一つ頷くと騒ぎに駆けつけてきた使用人に客室を大公が使用する事を伝え準備に移らせた。未だアークは沈んだままだ。


「構いませんよ。のびているアークを少し鍛えなおして下さい。ここ数日の間でライラから闇打ちされそうになっているらしく、怪我が視察前に見た時より増えています」

「なんじゃそれ!ライラのやつが……まさか!今度はあのちびちゃんに!?」

「お察しの通りですよ…」

「全く…色々苦労するな、あのちびちゃんは…。そうだロイド、入口に他の使用人達も居ったが、わしはアークを追いかけて来ちまったから悪い事をした。後で謝っといてくれ。にしてもアークや!起きんかっ!」


ごりごりと靴の裏でアークの頭を踏みつけて起こす。

気絶していたアークがばっと起き上がり、目の前の腰に手をあて呆れている女性に勢いよく頭を下げた。


「アグリア様っ!申し訳ありません…っ」

「構わん。主人の危機を察知してこの部屋に駆け付けたんじゃろ?わしを放置したとしてわしが怒る事は何一つない。むしろお前の行動は正しい。が!精霊魔法もつかっとらんのに簡単にわしに沈められて長々と気絶するんはなぁ?んー?」

「いやそれは…っ」


――あなた様が規格外の強さなんですよ!!!

アークの頬から汗が滴り落ちる。緊張から生み出されている汗だ。

それほどにアグリアと呼ばれた女大公の気迫は凄まじい。

同じ国の出身のアークだからこそ感じる彼女の膨大な精霊力。


「荷物運んだらお前の事、鍛えなおしたるから準備しとけ」


にっこりと皺を作り微笑まれたアークは心の中で悲鳴を上げた。

そんな二人のやり取りをくつくつと笑いながら、ロイドはこの執務室の修復費をライラとアークの給料から差し引く事に決めたのだった。


◇◇


一方アメリアは部屋に戻った瞬間に、震えだし腰に巻きついてきたライラに心底困り果てていた。

落ち着かせる為に頭を撫でてはいるが、ライラは壊れた機械人形のようにぶつぶつと「アグリア様怖い強い怖い」とガタガタと小刻みに震え呟いている。

あの女性の名前はアグリアなのだとアメリアは知る事ができ、そしてライラにとって怖い人なんだなと呑気に思っていたのだった。


さて。アメリアは何か大事な事を忘れているのだが、彼女はまだ思い出せないでいた。


女大公(祖母)登場

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