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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
31/87

第29話

ダレン戦second


屋敷の長い廊下を抜けて、ロイドの執務室の前に辿り着いたアメリアは、ノックしようと片手を上げた。


「アメリア」

「…お兄様?と後ろにいるのはアークですか…何しに?」


気配を消して近付いてきた10歳になり身長も伸び美しさが際立ち始めたプラチナに近い銀色の髪を持つダレンと、少し離れた所にシルバーグレイの瞳に軽蔑、憎悪を宿らせながらアメリアを眼鏡の奥で見つめるアークの二人を確認し、持ち上げていた手を下げる。

アークの精霊魔法だろうか、それともダレン自身の力なのか…声をかけられるまで二人の気配は全く感じなかった。

アメリアは驚いた表情を浮かべる事無く、片眉を上げて反応しただけ。


(お兄様のレベルが上がっています!凄いですね!ジークライド殿下と同い年なのにどんどん成長していっています!将来の公爵家も安泰ですね!)


彼女の内心は彼を褒め称えていた。

ダレンがにっこりと黒い笑みを浮かべてアメリアを見つめる。


「ん?何しにというかこれはアークが僕にだけ教えてくれた事なんだけど、聞いてもいいかな?」

「アークがお兄様だけに?」


持ちあがっていた片眉は一気に中央に寄り、皺を作り上げアークへと顔の向きを変える。

彼の眼鏡の奥にあるシルバーグレイの瞳に潜む嫌悪は未だ健在。

アメリアは首を傾げる。


「ねぇアメリア。義母上に何かされたんだって?」

「何もされていません。何を勘違いされているのか分かりませんが、わたくしが犯した失態に対してお話をしただけです」


間髪を入れずアメリアは受け答えする。少しでも間が空けば気づかれる。

彼とこの周回で一度同じようなやり取りをしているが、その時以上にダレンは頭が回る様になっている。細心の注意を払って言葉を選んでいくアメリア。

一度自分の後ろに立つアークに視線を送り確認しており、アークはゆるりと首を振って答え、何かをダレンに耳打ちする。


「ならアメリアの背中には何も残ってないんだね?」

「えぇ」

「魔法で隠そうとすれば僕は気づくよ?アメリア」


(最凶タッグ!!一人ひとりなら対処可能かもしれませんが、二人が力を合わせたんですか!?神さま方やりますね!アーク言わないって信じていたのに!よりにもよってお兄様に話すなんて!!)


アメリアはかなり不利な状況に陥っていた。

ここで脱がされる事はないだろうが、真黒い笑みを浮かべているダレンを目にしているアメリアは、彼は後で絶対に確認しにやってくる事を内心確信している。

物語で抱く感情を取り戻したアークが共に確認すれば、アメリアが心を痛めて抉った事が一気に泡と消えてしまう可能性だってある。

ダレンが言う通り魔法で隠したとしても、印持ちのダレンの魔力の高さだ。気づかれてしまう。

アークを信じたかったアメリアの気持ちは本物だ。しかしその事で現状が生み出されている。彼女の失態だった。

強化された鋼鉄の精神と魂のアメリアは考える。


「もし何か残っていたとしても、それはわたくしの失態によるもの。ダリアお義母様はわたくしに、罰を与えてくださったのですわ!」


あえてダリアを善人として、ダレンとアークの前に言葉の上で差し出した。

子供のしつけをしただけだと。多少行き過ぎているかもしれないが、それは自分が反抗したからに他ならないと付け加えて。

普段の屋敷内のダリアはとても良い女主人として振る舞っている。

その評価を知っているアメリアは、ダレンとアークに自分がしてきた事を思い返すように、言葉の裏に隠して促したのだ。

案の定、アークは納得したようにアメリアから興味をなくした。

残るはダレンのみ。


(さぁさぁ!お兄様!引いてください!ここで私に初勝利を!!!)


何の勝負をしているかアメリアにも半分ほどもう分かっていないが、口論対決でみるならばここでダレンが引くことによって、周回100回目の彼女は初めて勝利することになるのだろう。

ダレンは自分をじっと見つめるアメリアの瞳がロータスに見えた。

その瞳のロータスに一瞬黄金が映り、再びロータスに戻る。

ふむと顎に手を当てて考え、後ろのアークをもういいと言って下がらせた。

現在ロイドの執務室前の廊下には二人きり。

そしてダレンはにっこりと綺麗にアメリアに微笑んだ。


「ん。なんとなく分かった気がするよ。今アメリアが宿している瞳の色はアメリアの感情の瞳だね?僕が今、アメリアに思っているものと違うみたいだ」

「っ!!なに…を…」


危機感を覚えアメリアはダレンから後退し距離を取る。しかしダレンは持ち前の長い脚で一気に詰め寄りアメリアの耳元で囁いた。


「だからねぇ、アメリア?僕を負かそうなんて考えても無駄だよ?」

「…負かそうなんて…」

「父上と話が終わったら僕の部屋においで。そこで話をしよう。逃げるなんて選択肢は“プライドの高いアメリア”には無いよね?」


ダレンはあえてを挑発し目の前でにっこりと微笑むと、アメリアをそのままに自分の部屋へと戻っていった。

残されたアメリアは膝からその場に崩れ落ちた。


(完全敗北ーーー!!このころころ変わる瞳の色で見抜いたんですか!?化け物ですか!お兄様!!)


アメリアは心の中で泣き叫んでいる。

光の加減で色の変わる彼女の瞳は彼女の感情にも左右される。しかしそれに気づけるものはごく少数。ダレンは過去の周回で気付いた事はない。それなのにも関わらず今回のダレンは気づき、アメリアへ敗北を与えたのだ。

アメリアが過去の周回を含め口では決して勝てない存在、それが兄のダレンであった。

彼の力は10歳にして存在を強め君臨しようとしている。


(うえーん…つめが甘かったです…白星が中々あげられないのは、神さま方が本気と言う証拠ですか…。放置を決め込んでいるのになんで向こうからやってくるのでしょう。神さまサイドにしては凶悪すぎます…。アークには後で口止めしないとまずいですよねぇ…ぐすん)


ぶちぶちと心の中で愚痴を吐きながらアメリアは立ちあがり、本来の目的であったロイドの執務室の扉を叩いた。

低く響く声に許可され、扉を開けて入っていく。


(お父様のフラグをここで綺麗に建ちあげて自信を取り戻すとしましょう!ちくちくは出来るだけしたくないですっ!勿体ないですが!勿体ないですが!!お父様の胃の方が心配!さぁお父様、今日ここで私を見捨てる事を宣言させてみせますよ!)


鋼鉄の精神と魂で持ち直したアメリアは、本来の標的にフラグを建築に行くのであった。

勿体ないと言っている辺り少しまだ未練があるのが見え見えである。


執務室に入るとその中の空気は…息が白くなる程冷えていた。


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