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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第2話


アメリアが健やかに成長していき3年の時を過ごし、4歳の誕生日の数カ月前。

記憶を維持したままのアメリアには赤子の時間は少しばかり退屈ではあったが、ライラや父親、兄や使用人達の優しさを再認識するにはとてもいい時間だったと思える。

赤子にしては少し早く歩き出し、話し始めた事にライラは驚きを隠せなかったが、彼女の母親の事をよく知っているライラは「奥様のようにとても成長が早い…」と、寂しげに微笑んで褒めてくれた。

ライラの見た目が老けていない事から若い侍女なのだと思っていたが、どうやら母の乳母もしていたらしい事が判明した。

一体いくつなんだとアメリアは疑問に思うが、この繰り返しの時を過ごし、そして今回の3年間を更に共に過ごして再認識出来たのは、『ライラは老けない』という一点のみであった。

まるで魔法でも使っているのか、前回を含めて思い出してもライラはこの見た目のままであることが分かる。

学園に入ってからついてきた時も、全く今と変わらない。


――ライラの謎が深まる…。


正直に聞いたところで答えてもらえるかも分からないが、いっそ自分の4歳の誕生日にでも誕生日プレゼントという事で聞き出そうと、精神年齢不詳の現在3歳児は考えるのだった。


そんな3歳児はとてとてと拙い速度で長い廊下をライラを連れて歩き、とある場所に向かっていた。

階段の上に辿り着き、手すりの間から下を見つめる。

その先には自分の父親と、兄、執事長。

そして一人の女性と自分と変わらない歳程の少年が何やら話しているのが分かる。

客人なら出迎えが必要だろう。

しかし仲よさそうに話すその様子にライラは疑問を抱く。


「ねぇらいら。おとーさまはあのかたをおかーさまにするのです?」

「…何故そのように思われますか?お嬢様」

「たぶん…あのちいさいこはおとーさまのこでしょう?」

「…それは…」


3歳児らしからぬその言葉の数々はライラをとても悩ませた。

玄関ホールで話している自分の主達とお客様の姿を見て、アメリアが何を感じたのかライラには全く分からない。

話し声は多少聞こえても、その内容まではアメリアは分からないだろうと思っていた。

しかしどうだろう?この小さなお嬢様はあのお客様方を確認した瞬間に「お父様の子」だと確信を持って確認してきたではないか。


ライラは思っていたよりもアメリアの頭が回るのだと理解した。

また3歳にしては言葉と意識がはっきりしていると理解する。


アメリアが自分の父の子だろうと何故分かったのか、ライラはアメリアから再度玄関ホールへと視線を映し、その場にいる少年の髪色に気づく。

少年の髪の毛の色が、その場に居る女性と彼女の父親の髪色を合わせた青紫色だったからだ。

――しかしここで認めてしまえば、お嬢様は悲しむだろうか?お嬢様の事だから髪色で既に気づいているのだろう…しかし。

そんな考えがぐるぐると言葉を詰まらせている。

思考の中にいたライラのエプロンドレスの裾を幼いアメリアの手が引っ張り、ライラは視界に少女をとらえる。

アメリアは少し困った顔をしながらライラを見つめあげている。


「らいらをなやませたいわけじゃないのよ?」

「お嬢様…詳しくは私はお答えできません。私はただのお嬢様の乳母ですから…その権限はないのです」

「そう…ありがとう、らいら」


ライラの表情はこの間、微塵も動いていない無表情だったのだがアメリアには何故か伝わってしまうらしい。

ライラの答えに満足したのか笑顔を向けるアメリア。

その笑顔はまるで花のようだとライラは思う。

自分に権限はないが、少女が思っている事、疑問に思う事はなるべく答えられるようにしようと、ライラは密かにこの時決意した。


二人がそうこう話していると下から「あ!」と幼い声が響いた。

アメリアとライラはその声の方に視線を向ければ、女性の近くにいた少年が二人に向けて指をさしている。

先程まで話していた大人たちもアメリアたちに気づいたのか、特に父親が一番驚いていたのか様々な表情で二人の方へと視線を向ける。


(というか…そんな嫌そうな顔しなくても)


父親の傍らに立っていた女性はあからさまにアメリアに対し、悪意に満ちた怒りが込められた瞳を向けている。

口元や表情はとても綺麗に笑っているが、目が笑っていないとはこの事。

まるでアメリアが邪魔だと言っているその瞳にアメリアよりもライラが不快を感じた。

アメリアは伊達に繰り返してない。

正直その瞳に飽き飽きしている。

毎度毎度同じ視線をくれるこの義母に逆に毎回同じ目が出来るのすごいなぁ程度にしか思っていない。


「あの方はお嬢様になんて目を向けているのですか…」

「へ?らいら?」


隣に立つ無表情通常装備のライラが、その無表情を珍しく歪めながらどうやらとても怒っているようだ。


いや、かなり怒っている。


びくりとアメリアは肩を震わせライラを見上げるが、その背中には何やら混沌(カオス)が見えた気がしてそっと目を逸らす事で現実を逃避した。


(ライラがとても怒ってる!?後ろに見えた混沌(カオス)の扉的な何かはなんです!?)


今までの経験上ライラは自分の助けをしてくれてはいたが、ここまで怒りを露わにする事はまずなかった。

更にいうなれば通常装備しているその無表情は、執事長の前ですら崩れた事を見せた事がなかったはずだ。

それが何故か、義母親になる予定の女性に対する怒りを隠そうとしていないではないか。

アメリアはあわあわと内心焦りを感じたが、どう対処していいかよく分かっていない。

今までこんな事はあり得なかったからだ。


「らいら?!なんでおこってるの?」


震えながら裾をくいくいと引っ張って声をかければ、先程の混沌(カオス)が嘘のように消えてなくなった。

そしてライラはそっとアメリアを抱き上げ視線を合わせ、


「怒っていません。少なくともお嬢様には」


と。無表情の中に優しく微笑んだ。

真っすぐと見つめるその瞳に嘘はないようにアメリアは思う。

「そう?」と首を傾げ、納得出来ないながらライラの首に抱きつく。

背中をぽんぽんと一定のリズムで優しく叩いてくれるライラがアメリアは割と好きなのだ。


(ライラがあんなに怒るなんて…義母様にはなるべく近づけないようにしなくては!)


背中を優しく叩いてあやしてくれている優しい乳母に甘えるようにすり着く。


その様子を下から見ていた兄のダレンは、目を見開いて見つめていた。

今までわがままだった自分の妹が、乳母に甘えている。

そんな姿はこの3年間みた事がなかったのだ。

またその場にいた彼女の父親のロイドも驚いていた。

自分が抱きしめようとすれば乳母の方に走っていき、余り懐いていないながらも親子のように愛情があったその愛しい娘が、目の前で乳母に甘えている。

いや。乳母()()甘えているのだ。

母親がいないから寂しいのかと思って別の女性の使用人を向かわせても、あのような姿は見たことがない。

まるで乳母を母親としてみているかのような仕草にロイドは眉を寄せる。


「旦那さま、差し出がましい事を言う事をお許しいただけますでしょうか?」


階段上の廊下から吹き抜けの玄関ホールにいる自分の雇い主である主に声をかける。

本来なら絶対にあってはならない状況だというのに、ライラは凛として腕の中に居るアメリアを抱きしめ、立っている。


「なんだ、ライラ」

「申し訳ありませんが、先程のお話をお嬢様は意味を理解しておいでです。そのようなお話をされるのであればきちんとした場所でなさるのが宜しいかと。玄関先で話される内容ではまずないはずです。執事長が近くに居ながらなんたる様でしょうか。

お客様であるならば、尚の事。お客様が来るなど私はまず聞いておりませんでしたが…それはこの際おいておきます。

その方が新しい奥様であるならば、そのような所でお嬢様だけに分からないように話されているのも問題かと。今回偶々、お嬢様がこちらにいらした事で状況を理解されたのです。また私も理解致しました。

お嬢様にはきちんと()()()でお話して頂きますよう、よろしくお願いいたします」


ライラはいつの間にか腕の中で眠ってしまったアメリアをしっかりと抱きあげ、自らの主に堂々とした態度で申し出る。

まるで喧嘩を吹っ掛けるかのようなその態度。

その様子に使用人含めその場に居たものが驚愕したのはいうまでもないだろう。

たかが乳母が雇い主である主に噛みついたのだ。

乳母の弟である執事長はその様子に眉を顰めているが口出しはしない。

ライラは今まで大人しく、このような態度を見せたことはない。

だからこそ、その場にいたライラを知っている者は驚いている。

周りの様子に当の本人は気にしている様子も焦っている様子も、ましてや反省している様子もなく、再度口を開き主であるロイドに追撃を放つ。


「もしも、怠るようでありましたら、私ライラは全勢力を持ってお嬢様を連れ出しますのでそのおつもりで。あとその方の奥様としての気質、このライラ。これからこの目で見定めさせて頂きます。アスター様より劣るようでは私の主人として認める事は出来かねます」


その言葉を最後にライラは一礼し、その場を離れた。


一体何の事を言っているのだろうか?と使用人達は目を合わせ首を傾げている。

またその場にいたアメリアの兄や女性、少年も同じだ。

女性の場合はライラの態度に腹を立てている。


そんな周りを余所にライラの言葉にロイドと執事長は完全に固まった。

ロイドの中で何よりも恐れていた事態になってしまった。


ライラは少女の母親アスター、ロイドの亡き妻が連れてきた侍女でありアメリアの乳母だ。

そしてそれは亡き妻が残した()()()()()に他ならない。

その遺産はアスターが亡くなってからも、自分へ忠誠を誓ってはいなかった。

アスターにのみ忠誠を誓い、その力を使っていた。

そして現在、ライラはその力をアメリアにのみ使うと言った。

これがどのような意味をもつのかロイドは否応なしに理解できたのだ。


ロイドは女性と子供たちを執事長に任せ、ライラとアメリアの元へと足早に向かった。


――早く、アメリアと話さなくては!ライラの怒りを鎮めねば!


氷の公爵と呼ばれたその男の表情は崩れず使用人達はライラがお咎めを受けるのだろうと見えているが、その姿とは裏腹に普段はよく回る頭の中は、現在焦りが凌駕し通常の思考では一切なかったりする。


アメリアの部屋の前につくと、部屋の前にはライラが陣取って立っており、その無表情をもって廊下で迎え撃っていたなど、部屋ですやすやと眠っているアメリアは知る由もなかった。


後日、廊下での出来事を野次馬魂で見ていた使用人達に聞こうとした所、誰もが恐怖の表情を浮かべ「何もなかった。旦那さまとライラは言い合いなどしていない」と壊れた人形のように繰り返すだけだという。


(ライラとお父様って仲が悪いのかしら?)


それを目の当たりにしたアメリアは首を傾げ、斜め上の方向へと思考を飛ばしていたそうだ。


「このライラ。これからはアメリアお嬢様にだけ忠誠を誓い、力を使いますので存分に私めをお使いください」

「?わかったわ?」


また別の日、二人きりの部屋で騎士のような事をいうライラに、やはり良く分かっていないアメリア。

ただ忠誠の証としてライラからイヤーカフを貰ったアメリアだった。


〇アスターの遺産(不明)

一つ目はアメリアが持つ名前「ド・グロリア」

二つ目は侍女兼乳母の「ライラ」

詳しくは本編で明らかにしていきます。


〇ライラのイヤーカフ(証/不明)

ライラが忠誠を誓った相手にのみ渡される物。

アメリアはただの証だと思っているため、身につけてはいるがアクセサリー感覚。

どのように使用されるかはライラ以外知らない。


▽アメリア3歳児現在

ライラの名前だけはまだ上手く発音出来ない(フリをしている)、言葉も人前では上手ではない(フリをしている)為、ひらがな表記。

(ちゃんと話そうと思えば話せる引き継ぎry)

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