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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
26/87

第25話

お忍び(偵察)回&最後の攻略対象出現


がやがやと賑やかな街の中にアメリアとライラは手を繋いで歩いている。

アメリアは早朝着ている男の子のような格好に、先の方に行くにつれて白くなっている赤いタイをつけており、またライラもきっちり男装をしている。


今朝になってライラの髪が、アークのように短く揃えられていたのには、アメリアはかなり驚いたものだ。

本人に聞いてみれば「愚弟と久々にじっくりと話し合った結果です」と無表情ながらに返してきたので、一体二人の話し合いとは何だったのかアメリアには分からない。

実際は姉弟喧嘩(半分死闘)というだけなのだが。

朝食の時、見かけたアークの顔に一筋の切り傷があったが本当に何があったのだろうと、アメリアは首を傾げた。そっとその目立つ怪我に治癒の魔法を構築していた事は誰にも、治されたアークにすら気づかれていない。


(二人の話し合いは昔から怪我を負うものなのでしょうか?)


過去視をしたがそんな二人の様子はなかったので、実際の二人の話し合いとはなんだったのかアメリアにはわからない。


◇◇


そんな二人が何故街にいるかというと、彼女達はアドニス教会へ向かっていたのだ。


アメリアの悪評は王都の街にもそれなりに広がっており、普段の格好では目立たず出歩くことが不可能であった。

その為の二人の変装である。

一応目立つ髪はどうやって用意されたのか不明だが、ライラが用意したかつらを装着し、現在二人とも似たような黒髪ショートといった髪型をしている。

アメリアの場合は目元も隠さねばならなかった為、用意されたかつらの前髪は揃っているが長く目元をすっぽりと覆っている。

傍から見たら美系のお兄さんと、その弟なら将来有望の少年が仲睦ましく手を繋いでいるように見えている事だろう。

たまに聞こえてくる女性の声と、熱い目線にアメリアは少しばかり眉を顰めている。


「なぁライ?僕ってそんなに目立つ?」

「メアの可愛さは隠せないから仕方ないんじゃないか?」

「いや、絶対ライのせいだから!ライのせいで周りが更にうるさいからこんなところで笑わないで!」


無表情を取っ払ったライラの微笑みがアメリアを捉える。

男装しているのも相まって綺麗に微笑む表情は、男そのものと言っても可笑しくない。

アメリアだからこそ耐えられるが、普通の乙女ならときめきを隠せない事だろう。

二人は名前を変え、アメリアはメア、ライラはライといった名前で呼び合っている。

話す言葉も目立つからと、男の子っぽい話し方を頑張ってしているアメリアである。ライラは普通に慣れた様子で話しているので、彼女のスキルの高さにアメリアは改めて感心するだけ。

美青年と予想美少年の兄弟は街のあるところで、少しばかり噂になったとかならなかったとか。


そんな事がありながら、二人は目的地であるアドニス教会へと辿り着いた。


「ここか…にしても凄いな…」

「参拝者が絶えないというからな…」


アメリアもライラも存在は知っていたが実際目にした教会は凄まじかった。

美しく聳え立つ巨大建造物の教会は白をベースに程良く装飾され、見た目も全く媚びておらず、街を、民を見守るように存在していた。

入口は参拝者の為に常に開かれており、中を覗けば長椅子には祈りを捧げている人達。天井も高く光を程良く入れる為に貼られた透明の窓ガラスから光が優しく差し込み室内を照らす。支える柱は一本一本に匠の技術が織り込まれているような装飾がされ、奥の巨大な数枚のステンドグラスから差し込む光は幻想的に美しく、祭壇と巨大なパイプオルガンをうっすらと光らせる。


(流石に仕事は一流というわけですね)


アンスリウム男爵が建設させたアドニス教会は外観、内観共に文句のつけようがなかった。


(これで孤児院も一緒にしているのだから、高い評価も得られるわけですね…ここの孤児たちの教育も行き届いているのか大人しく真面目だと聞きますし。あのアンスリウム男爵が騙されてとかなら大いに考えられるのですけど…)


何一つ文句がつけられない教会内。

アメリアはライラを見上げ一つ頷く。

ライラは心得たというように、アメリアを長椅子に座らせた後シスターに一度話しかけて奥へと姿を消していった。

本日の目的は偵察。

実際に合魔獣を発見できていないライラを、あえて再び向かわせたのだ。

発見した後はライラが一度戻り、アメリアを連れて再び向かうといった流れ。

発見出来なければ痕跡などを持ちかえってくるように、事前にライラにアメリアは命じてある。

まずはその第一段階。


奥にライラが姿を消していった事でアメリアは現在一人である。

街に滅多に来ないアメリアは教会内だとしても、内心そわそわとしている。


(作戦中だと言うのに…っ!屋敷の外の世界って本当に素晴らしいです!)


見る物見る物、全てが新鮮といったアメリア。

過去の周回で何度かは街に出向いた事もあったが、観光的な事ではなく、追い出されたりといった悲しい方向性での話である。

現在みたいに教会で座っているだけだとしても、自分から出向いてといった事は初めての経験だった。


(帰りに街のお店とか回ってもいいですかね?ライラが疲れていたら我慢ですが…)


「行きたいなぁ…」


ぼそりと口から欲望が漏れ出る。


「どこに行きたいん?」

「っ!?」

「驚かせてしもて悪い。んで?どこに行きたいん?」


(何故貴様がここにいる!?!レオン・サザンカ!!!!!)


アメリアは衝撃のあまり言葉が汚い。

彼女が小さく呟いた言葉を聞いた少年が長椅子の後ろから、アメリアを覗きこむように横からひょこりと顔を覗かせて訪ねてきた。

その顔にはアメリアは嫌という程見覚えがあり、彼と出会うのはまだ先だった筈だとアメリアは思い返していた。


(なんでです!?攻略対象のレオン様がここにいるなんて!)


そう。彼はこの『ゲーム盤』の世界の最後の攻略対象。


 レオン・サザンカ。

深緑の短い後ろの髪はツンツンとしているが右前髪は長く下ろしている。つり上がった目に黄緑色の瞳は草木の優しさがあり、その瞳の小さいが元々勤勉だったのも相まって細い白縁の眼鏡をかけている。流石は攻略対象といった美系。

彼の育った環境のせいなのか、良く街に出向く彼は下町の謎の訛りが移っているようで、様々な方言が混ざっている話し方をする。敬語は使えるが普段はあまり使用しない割と自由な性格の持ち主。

現在の彼の身長はアメリアとあまり変わらないが、後数年もすればぐんぐんと成長していく。

「風の公爵」を父に持つも、名の通り彼は魔力をほとんど持ってこないで生まれてきた為、後継者になれず、普通の騎士になる事すら難しい彼の魔力値ではあったが、レオンの夢はこの国の民を守る騎士になる事だった。

アメリアはその部分を攻撃し自信喪失させていくのだが、偶然ユリに出会い、彼女を支え守りたいといった気持ちを強くさせていき、必ず守ると精神を強くし、騎士は騎士でもジークライドの護衛騎士という栄誉ある役職につく。

騎士にしては勤勉で脳筋寄りではなく、アメリアをユリや王子の為に常に警戒しており、さり気なく追い込んだ後、暴漢に襲わせ命を落とさせたのは実は彼だったりする。アメリアはこの手口には度肝を抜かれたのを良く覚えている。


そんなレオンとはここでは出会わない。

その筈なのに何故か彼はここにいて、アメリアに話しかけてきている。


(色々予定を変えるのはやめてください!!あなたはあなたの誕生日でと決まっていたでしょうが!!街に行ってるのは知ってましたがまだ先だと思ってましたよ!!あれですか!?実は今日ここにやってくるっていう隠れ設定でもあったんですか!?神さま方!そういうのがあるならちゃんと細かく最初に教えておいてくれないと困りますっ!!)


内心盛大に神々に愚痴を零す。

かなり焦っているのか新しいフラグが発生している現在の状況を冷静に考えれば、攻略対象達の動きにも変化が出る可能性があると言う事にアメリアは気づけていない。

変化が出ていなくとも元々レオンが下町に出向いている事をアメリアは知っていたが、どのタイミングで出向いていたのかは流石に分からなかった。それが今日この日だったなど。

レオンとアメリアは実は同い年である。

公爵同士は仲がいいが、アメリアの“やり過ぎている”行動を気にしてロイドも彼の父も誕生日には呼んでいなかった。

その為、現在までアメリアとレオンが出会っていなかったのにはそういう訳があったのだ。


「お前声出せないんか?ちっこい体でこんなとこに居って、親はどうした?」


よっという声と共に後ろの席からアメリアの隣に背凭れを飛び越え座る。

そして尚も心配そうにアメリアを見つめる。

アメリアは首を横に振り、なるべく顔を見せないように俯きながら言葉を話す。


「声は出る…大丈夫だからほっといてくれ」

「そういう奴は基本だいじょばん!」


(くっそーーー!!大丈夫って言ってるじゃないですかーー!!!!!!)


アメリアは現状、彼を撃退する術がない。

普段のアメリアならば高圧的かつ嫌味ったらしく撃退行動にの出れるだが、今の彼女はお忍びモードで男の子に変装しており、教会の地下施設の偵察作戦実行中の現在。

目立った行動は取れず、普段と同じ行動を取る事が出来ないのだ。


(なんでこうもタイミングの悪い時に現れるんです!?)


アメリアは自分の運を今日この日は呪った。

作戦続行が難しくなってしまった事が何よりもアメリアの鋼鉄の精神にダメージが入っている。

彼女の目標の為の偵察が、いらぬ心配をよこす彼によって潰されようとしているのだ。


「ん~…言いたくないんなら無理には聞かんけど…お前ホントちっこいなぁ」

「ひっ!な、なにすんだ!」


レオンは徐にアメリアの頭を撫で、ぺたぺたと彼女の体に触れていく。

度重なる周回で様々な経験を持ってしても、一方的に知っている彼のこの行動にアメリアは小さく悲鳴を上げた。

それでも変装しているアメリアが男の子言葉を崩さない辺り、鋼鉄の精神はまだ彼女の中で息をしている。


「あ?別に驚く事しとらんしょ。背もちっこいけど腰も細っこいし…んー」


アメリアのお腹に手を当てながら何やら考えているレオン。


(ほっといてくれません!?ぺったんこなのは今だけですもんっ!男の子同士ってこんなにスキンシップ激しいんですか!?それともレオン様だからですか!?助けてライラーーーー!!)


傍から見たら男の子同士が仲良く遊んでいるようにしか見えない。

しかし片方は変装していても女性であり女の子である。

心の中で彼女の盾と剣のライラに助けを求めるが、その叫びは空しく届かなかった。


「よし!いくか!」

「は?」


突然お腹を触っていたレオンがアメリアの腕を掴み立ちあがる。

訳のわからないアメリアのかつらで隠れた目が点になっている。


「飯行くぞ!」

「はぁ!?ちょっ!?まって!ひっぱんな!」

「ほーれ、きびきび歩くー」

「ならひっぱんな!!」


彼の頭の中はどうなっているんだというアメリアの叫びは届かない。

ぐいぐいと容赦なく引っ張って歩いていく為、レオンより体の小さい女の子のアメリアは自然と連れ去られる状態になった。

教会の入り口を抜け街へと出てきたがレオンが歩く速度は変わらない。

引っ張っている腕が痛くはない事から力加減が出来ているとアメリアは急ぎ足で着いて行く中も観察する事を忘れない。


「腕もほっそいなぁ…ちゃんと飯食わんと大きく強くなれんよ」

「ほっとけ!!!」


笑いながら茶化してくるが嫌味になっておらず、まるで和ませるような声でアメリアに話しかける。

大きくならないとはどの部分で取ったのか、アメリアは少し声を大きく反論する。

その反応に眼鏡の奥の瞳が細まり、歩いていた足を止め掴んでいない手で頭をぽんっと叩く。


「どっか行きたかったんやろ?ついでに連れてってやるから機嫌直し?」

「後で連れと行くからほっといてくれていいよ…」


疲れの混ざった様子でアメリアは唇を尖らせながら、解放してくれと掴んでいる腕を振るう。

しかしレオンの腕は離れない。

小さくても男と女の力だ。アメリアにこの点では勝ち目がない。

ちらりと横目に入る魅力的な出店の誘惑の数々が、アメリアを更に追い込む。


「連れいたんか!それは悪い事したな!なら来はるまで俺とデートしよか!」


レオンは少しばかり驚くが納得したように頷くと、にっこりと視線を合わせるように腰を曲げ近距離で微笑む。

腐っても攻略対象。かなりの美系である。

あまりの近さにうっとアメリアは頬が一瞬高揚するが、直ぐに持ち前の鋼鉄の精神と魂で持ち直す。

傍から見たら男の子同士が、いちゃいちゃしているように見えている、かもしれない。

不測の事態に陥っているアメリアにそれを気にする余裕は一切ない。


「…男同士はデートって言わない」

「細かい事気にしとったら禿げるで」


さり気なく髪の毛の話をするレオンに声を荒げ反論する。

元々細い髪のアメリアからしたら少しは気になるところなのだろう。


「はげない!分かったよ!着いて行けばいいんだろ!!」

「素直が一番っ!ほら最初はあの店な!」


レオンが引かない事から投げやりに現状を受け入れたアメリアは、この際だから楽しもうと考えをシフトさせた。

レオンは満足そうに微笑むと最初の店を指差し、アメリアの腕を引きながら歩いていく。

アメリアは長い脚に恨めしそうな視線を浴びせながら、後に続いていくのだった。



全ての攻略対象が出揃いました。

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