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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
24/87

第23話


「お嬢様?大丈夫ですか?どこか遠い目をされておりましたが、疲れておりますよね…」

「え!?いえ!大丈夫よ!」


(カミングアウトを受けて意識を飛ばしていたなんて言えるわけないでしょうに!)


遠い目をして現実逃避を行っていたアメリアはライラの真剣な声に復活する。


「ダリア様から何か呼び出されていたようですが、何があったのですか?」


(来ましたね!!筒抜け過ぎてもう慣れました!!)


「最近のわたくしのやっている事がお義母様の耳に入ったらしくて、お説教を少々」

「…なるほど。お嬢様の事ですから何かしら考えがあっての事だと思われますので私は何も言う事はありません」

「ありがとうライラ!」


深く聞いてこないライラに素直に感謝するアメリア。

別の意味のお説教だったという事は伝えない。

穏やかな風がさわさわと草木を撫でる。

納得したのかライラは懐から、今朝渡されたメモを取り出し、アメリアへ渡す。


「それでお嬢様。調べていた件が分かりましたのでご報告をしたいのですが…少しお休みになられてから致しましょう」

「んー…そうですね。確かに二人の精霊魔法を近距離で当てられていたから少しつかれてしまいました」


(本当はダリアお義母様の鞭打ちで、血と体力が持っていかれてるんですけどね!)


断じて言えない。

言えば確実にライラがアークのように、暴走する事は目に見えている。


「でしたら少し早い昼食を取られてからお休みになられるのが宜しいかと」

「あっ…そうですね…そういえば朝ごはん食べてませんでした」


思い出したかのようにアメリアはぽんと握り拳で掌を叩く。


「お嬢様!!??だからそんなに体が細くいらっしゃるのですよ!?今から戻ってさっさとお食事に致しましょう!そうしましょう!料理長に急いで作らせます!」

「えぇ!?…えーと…わかったわ」


(わがままお嬢様の印象もつけられて一石二鳥なのでありですね!)


ライラが聞いたら無しと言われるであろう。

普通にお腹が空いているのは確かなので、アメリアにはちょうど良いくらいの気分である。

鋼鉄の精神と魂のアメリアはチャンスを逃す事はあまりない。

すくっと立ちあがったライラに、何故か抱き上げられながらアメリアは秘密基地から、暴走の爪痕を残したままの書斎へと戻った。


「ねぇライラ…ここ後で一緒に掃除しません?」


改めてみる暴走の爪痕の残る書斎は酷いものだった。

いくつかの棚は倒れ、大量の本は無残に床に散らばっている。


「アークにさせたらいいです」

「怒らせたのはわたくしだから、わたくしがやりたいのだけど…ライラと二人で片付けたかったのだけど。手伝…」

「いますよ!もちろん!」


二人と強調すればライラの反応は早かった。

ライラは通常運転である。決してまだ暴走していない。


アメリアを一度床に下ろし、ライラはアメリアに一礼すると競歩で扉から出て行った。

彼女は急いで料理長の元へ向かったのだ。

その速度は、流石はハーフ。隠密を極めし超人一族といった、滑るような早さだったと残されたアメリアは感心していた。


アメリアはゆっくりと自室へと戻っていく。

ライラのように競歩と行かないまでも、普段のアメリアのように威圧的に歩く事が今のアメリアには出来そうになかった。

それでもすれ違う使用人達の前では、高圧的かつ威圧的に振る舞う事は忘れない。

齢7歳の体。多少の体力作りを日課として行っていても、彼女が受けていたものは精神と心を壊すものだった。

耐えられたのはアメリアだったからに他ならない。


何とか残りの体力で自分の部屋に戻ってきたアメリアはそのままベッドへとダイブする。

ライラが食事を運んでくる短い間、彼女は完全なる休息を取る事に決めた。


(ドレス…が皺に…なると、おこ…られ…そ……)


一応は淑女として気にするところはあるものの、彼女の瞼は完全に閉じ夢の世界へと旅立った。




◇◇


 ふわふわ

 ふわりふわり


アメリアは黒い空間の中にいた。


(これは…夢の世界ですか…?)


認識するには早かったが彼女が思いつく全てを統合してもここは夢の世界だと位置づけられた。神々の世界ならばこことは反対の真っ白な世界。

そんな漆黒の世界の中に一つの光。

神々の世界で飛び回る事になれているアメリアはふわりと体をその光の元へと向かって飛んでいく。

近付くにつれて光を発生させている物がシルバーグレイのクリスタルだと認識出来てくる。


(ライラとアークの瞳の色のクリスタル…?)


美しく、けれど儚げに光るそのクリスタルにアメリアはそっと触れる。

少し暖かいそれは激しい光を発光させアメリアを更なる夢の奥へと誘った。


(えっ!?)


あまりの眩しさに瞼をぐっと閉じる。クリスタルの光に吸い込まれるように漆黒の世界が消え、世界が転回する。

さわさわと周りで聞こえてくる草花が揺れ動く音に、ゆっくりと瞼を開き、アメリアは目を見開いて固まる事となった。


そこには…


(ちょ!?え!!…ライラとアーク…あれは私!!!???)


黒髪のシルバーグレイの瞳を持つ女性と青年。

そして青銀の髪を持ったアメリアに良く似た少女。

三人は花畑のようなところにおり、少女が作る花冠を女性が受け取っていた。

アメリアの目の前の風景は白黒に色褪せており、本来の色を持っていない。

三人の人物だけが浮き上がったように色を持っており、明らかに普通とは違う世界。まだ夢の世界が継続している事を意味した。


『はいライラ!あなたは私の盾であり剣です!そして親友です!』

『ありがとう、アスター』


(あ、すた…アスターお母様!?)


次に少女は青年に。


『アーク!あなたはまだ私の盾にも剣にもなれません!でも私の大事なお友達です!』

『そうだな、俺はまだアスターに証を授けられる程、自分の感情をまだ上手く制御できないからアスターが大きくなって、俺も強くなれたら受け取ってくれる?』

『もちろん!』


笑顔で頷くアスターをアークの視線から遮る様にライラは抱きしめる。


『アーク、アスターは私の物よ。あなたには髪の毛一本もあげない』

『勘弁してくれよ姉さん。俺はそんな姉さんからアスターを守るために俺はいるんだよ?』

『なんですって?!』

『ふふっ!二人とも本当に仲良しね!』


三人は楽しそうに笑って会話をしている。

ライラとアークの表情がアスターと呼ばれている少女の前ではとても、そうとても豊かだった。幸せそうに、時には困ったように、時には怒り、とても豊かだった。


(これが本当のライラとアークの笑顔…お母様に見せていた二人の…。二人がお母様の遺産だと言われている理由がうっすらだけど分かりました…。こんな小さなお母様の時から約束していたのですね…)


 ぐるぐると世界が再び転回する。


次にアメリアの目に映ってきたのは古ぼけた一件の家屋。

山の中にあるのだろうか、周りを見渡してみても道らしい道はなく、まるで隠されているかのように、捨てられているかのように佇んでいた。

ふわりと窓から室内を覗いてみれば、アメリアの目の前で赤が飛び散り丸まり、聞こえてくるのは断末魔。吐きそうになる自分を抑え込み、中を覗く。触れれば窓は閉まっているのにするりと体が通り抜け、体が室内へと入っていく。


(見たくない!でも…これはきっと…っ!)


『ああぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!』


断末魔とは違う叫び声が室内を震わせる。漆黒の髪は揺らめき覗く少年の耳は尖り、シルバーグレイの瞳は発光し止め処なく涙を流し、腕には同じ髪の少女が抱かれていた。


(アーク…っ!)


少年は泣き叫ぶ。言葉にならないその悔しさと憎しみと悲しみを乗せて叫ぶ。

腕の中の少女の息は絶え絶えで早くしなければ彼女は絶命するだろう。

彼の背後の混沌の扉は完全に開かれている。

室内には夥しい程の下位の精霊。

彼に召喚され、彼の感情に乗せられ彼が望んだ結果を生み出している。

精霊たちが襲っている人間は騎士の服を着ており、その胸の紋章にアメリアには見覚えがあった。


(ラナンキュラス国の第五師団の紋章!?……何故…何故っ!!)


精霊が見えないラナンキュラス国の者たちは慌てふためき逃走を図ろうとしたが、一歩踏み出す前に精霊たちに刻まれ肉の塊と化した。

精霊たちは赤く、赤く染まっていく。

室内も赤く、騎士の服は跡形もなく粉々に刻まれ元を判別する事すら不可能なほど。


(誘拐して二人に暴挙を働いたのがラナンキュラスの騎士だった…。それをライラとアークしか知らなかった?証拠は粉々になってしまった…だからあの記事にも、まとめられた物にも書かれていなかった?だとしたら…っ!)


アメリアは惨状からアークへと視線を移す。

ふわりと彼の前に降り立ちアークの発光する瞳を見る。

アークの瞳は涙で溢れ、揺れており、上を見つめている。


『なんで俺たちなんだ…なんで…ラナンキュラスに…俺たちがなにをしたっていうんだよ!神様がいるなら助けてくれよ!!』


(アークっ!)


『なんで姉さんが刺されなきゃいけないんだ…なんで…なんで!』


(そんな…ライラは刺されて…)


痣が見える彼女たちの体。ライラの体はアークを守る様にように倒れていた。

背中から二本の短剣で体を貫かれて。

アークに向けられた攻撃をその身を挺して受けたのだろうか。


抱きしめていたライラの細い腕がぴくりと動き、持ちあがる。

アークの頬にゆっくりと触れ、瞳をふるふると震えている。


『あー…く』

『ねえさんっ』

『あいつらの…ことは…私とアークだけの…、ひみつ…』

『庇う必要なんてない!俺達をこんな目に合わせたラナンキュラスも苛めてきていたやつも俺がっ!』


力なく頭を振る。


『ち、がう…怒りに…まかせて、せい、れいをつかえば…だれも…たすからない』


ゆっくりと頬に触れていた指を周りに指し示す。

感情が暴走し、怒りのあまり発動した彼の精霊魔法。

二人しか使用できない混沌の扉。

その結果は惨状。赤の惨劇。


『みてごらん…せいれ、いたちが…ないてる…』


真っ赤に染まった下位の精霊達。

アークの感情にのまれ、怒りに、悲しみに、負の感情を露わにしている。

しかし下位の精霊達は…泣いていたのだ。

彼の感情に引き寄せられ涙を流しているわけではない。

精霊達にも一人ひとり感情が存在する事を意味していた。


『でも!!ねえさんはっあいつらに…』

『やく…そく、いつか…かな、らず、すくって…もらえる…。あかしをわた、せる…人があらわれ、る…。それま…で、―――をころそ…う……』


ライラの腕が力を失ったように落ちた。


『っ!!ねえさんっ!姉さん!!!』


(ライラっ!!)


扉が開かれ数十人のブルームーン国の騎士が入ってきた。


『姉さんを守れなかった…』


腕の中で意識を失ってしまったライラを息絶えたと思ってしまったのだろう。アークは抜け殻になったように茫然としていた。

下位の精霊たちもアークの感情が死んだ事により、動きを止めた。


直ぐにライラとアークは救出されていった。

突入隊がもう数分でも遅ければライラは助からなかったであろう事はアメリアも見て分かった。そしてこの出来事がアークのトラウマを生み出した原因だと言う事も。

彼女の背中から刺されていた二本の短剣。刻印はなく一般の物と判断されていたが、あの短剣は間違いなくラナンキュラスの物。


(アークはこの事でラナンキュラスにずっと憎しみを…だから私へ向ける感情の中で、特に憎悪が強いのですね…。ラナンキュラス第五師団…忘れませんよ…っ!私の大事なアークとライラを傷つけた罪は重い!!)


そして世界は転回していく。クリスタルが割れアメリアの体に吸い込まれるように入っていく。

突如項が熱を発する。

熱く焼けるような熱さにアメリアは悶え、叫ぶ。


(燃える!燃える!!)


 熱い。


「…ぅさ…!!」


(声が…)


 熱い――――



◇◇



「お嬢様っ!!!」

「はっ!ぁ…うぁ…っ!」


視界が回る。嫌な汗が溢れる。

涙が止まらない。頭が痛い。


心臓が激しく鼓動する。


目の前にはライラの心配そうな顔。周りは自分の部屋。鼻孔をくすぐるは彼女が準備してくれたであろう食事の匂い。

アメリアは夢の世界から現実世界へ戻ってこられた事を意味した。


「お嬢様しっかりなさってください!」

「ら…い…」

「はいライラです!お嬢様のライラです。大丈夫ですか?お嬢様。随分うなされていたようでしたが…」


ゆっくりとライラに支えられながら上半身を起こす。

未だ心臓が激しく鼓動を打っている。


「うなされて…夢…あれは…そう夢…」


確かに夢だったのだ。夢だった事はアメリアも自覚している。

しかし、最後のはなんだ。

アメリアは長い髪の隙間から自分の項に触れる。

そこは少しばかり熱を持ち、脈を打っている。

まるで夢の熱が、現実であるかのように。しっかりと。


「本当に大丈夫ですか…?」


ライラが心配そうに俯くアメリアを伺う。

ゆっくりと俯いていた顔が持ちあがり、彼女はライラに微笑みかける。

アメリアの顔色は魘されていたからか少し悪いが、眠る前よりかは幾分か回復しているように思えた。


「大丈夫よライラ。食事を取ったら今朝調べた事の報告を。それと別件で調べたい事があるの」

「別件…ですか?」

「ええ。これはわたくしが調べるわ。ライラは必要だったら呼ぶからそれまでわたくしの邪魔しない事。出来る?」


ライラを巻き込むわけにはいかない。

これはアメリアが決めたアメリアのわがまま。

鋼鉄の精神と魂の中に生まれた激しい怒り。

久しぶりに味わう当初の自己満足の欲求。

彼女の優しさが加わった事により確実なる信念と化す。

瞳がアメリアの感情を映し、深紅に燃え揺らぐ。

瞼を閉じて微笑んでいる彼女の瞳の色はライラには伺う事は出来ない。


(私が切り捨てられる事で『ゲーム盤』の人々は幸せになるんです!それが物語の中の設定だとしても、アークとライラを傷つけた事必ず後悔させてみせます!ユリの未来の為、攻略対象達の為に誰にも邪魔はさせません!)


ライラは少し首を傾げるが、アメリアの意思だと頷いた。


「畏まりました。お嬢様が望むままに」

「じゃあ食事にするわ。悪いけどここに持ってきてちょうだい」


(さて、一体何が出てくるんでしょうね。第五師団のみなさん待っていてください。特に団長さん…昔だろうとなんだろうとアメリアはこれから全力で貴方達を巻き込んであげましょう…。“悪役”は私だけでいいのです!)


第五師団は過去より現在に至るまで、良くも悪くも貴族の集まった師団。

欲に塗れ、己の価値が如何に上であるか権力を振るう。

貴族の膿の集まり。

その膿は姑息にも上手く隠し尻尾を掴ませない。

膿だと分かっていても腐っても貴族。

証拠が掴めていない以上、容易に手出しが出来ない。

アメリアは噂だけは知っている。その膿達は彼女の大切なものを傷つけた。



 合魔獣。


 第五師団。


彼女が引き起こす、これは過去にはなかった新たなフラグ。


それが一体どんなフラグなのかアメリアも神々も知らない。


神々の介入によってアメリアの行動が変わり、物語は少しずつ少しずつ変化していっている。



◇シルバーグレイのクリスタル(不明)


夢の世界で発見したもの。

触れると“ライラ”“アーク”に関する夢を見る事が出来た。

アメリア解釈では「過去の映像」。

投影し終わるとアメリアの体に入り、ド・グロリアの印が熱を持った。


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