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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
23/87

第22話

ライラvsアーク


アメリアの前に背を向けてアークから目を離さず、守るように現れたライラ。

目の前には自分の双子の弟。

彼女が突然目の前に現れた事で、一瞬瞳が揺らいだアークの隙をライラは逃さず、一気に間合いを詰め、回し蹴りを繰り出す。

腕をクロスし受け身を取るが、ライラの攻撃は重く鋭く、アークの両足は耐える事が出来ず持ちあがり背後の本棚へと吹き飛び激しく背中をぶつけた。衝撃で彼の眼鏡が足元に落ちる。


「がっは!ぐっ」


吹き飛んだアークを蹴り倒し、更にその上に馬乗りし無遠慮に襟元を鷲掴み、引き寄せ、自身の頭でアークの顔面を強打させる。ボタンがいくつか飛んだ。

衝撃で頭が後方に揺らぐが再度引き寄せ鈍い音をさせ、額をぶつけ合わせる。


「お前は何をしようとしていたのかわかっているのか!!」

「っねえさ…」

「周りの精霊を良く見てみろ!お前が起こそうとした事はアスターの残した宝を、アメリアお嬢様を殺そうとしたんだぞ!精霊達をまた泣かせようとしたんだぞ!」


混沌の扉の隙間から呼び出された下位精霊達は、今にもアメリアを襲わんと怒りの感情にのまれている。


「っ!ち、ちが…う…違う!」

「何も違いはしないっ!これが現実であり真実だ!感情に任せてお前はあの時の惨劇をまた引き起こしたいのか!」


ひゅっとアークの喉が絞まり空気が抜ける。

顔面から血の気が失せ、瞳が光を無くしきょろきょろと迷子のように彷徨う。

目の前には耳が尖り、瞳が光り始めた姉の姿。


「感情を制御できないのは相変わらずなのね…。これ以上やろうというなら私が相手になろう。私の主に牙を剥いたのはお前だ、アーク」


閃光の光へと変化したライラの瞳がアークを鋭く貫く。

彼女の言葉にアークの瞳は見開かれ、混沌の扉と呼び出された精霊達はざぁっと姿が消え去った。

その事を確認するとライラは掴んでいた襟元を乱暴に離し、アークの上から退き、光るその目できつく見下した。


「次はない。次は全勢力を持ってこのライラ・フリージア。アメリア・ド・グロリア・スターチス様の剣はお前、アーク・フリージアを貫く!覚えておきなさい」

「ねえ…さ…」

「お前がお嬢様に牙を剥いてなければ…私達は今まで通りの双子の姉弟でいれたでしょう。しかし、私の愛しいお嬢様を怒りに任せ殺そうとした罪は重い」


伸ばされたアークの手を、瞳を閉じて拒絶したライラ。

そして口から断絶の言葉。

アークは悲しそうに力なく伸ばしていた腕は下がり項垂れた。


(勝負ありですね…ごめんなさい、アーク…)


一部始終を椅子に座って見ていたアメリアは、体と手の傷へ軽く治療魔法を、ドレスへ浄化魔法を構築し激しく怒り、ぶつかりあう二人に気づかれないように発動していた。

水色のドレスはもう元のドレスへと色が戻っており、一目見ただけでは彼女が受けた傷は判断できない。残っている痕跡は発見できない。

唯一つアークの手袋を除いては。


(あれは流石に回収できませんよね…うーん…)


現状打破。

アメリアが考えた過去最低な現状打破であった。

アークを戻し、ライラも使うことになったが致し方なかった。

ぶつかり合う二人を止める事だって出来た。だが、アメリアはあえて止めず、不利になる証拠を消し去りながら見守っていた。

完全な忠誠を誓ってしまったライラに傷を気づかれてはいけない。感情を取り戻させたアークが、二人を止めることで再び物語から外れてしまっては困るのだ。


鋼鉄の精神と魂のアメリアでも心はかなり消耗していた。

体から血が流れ普段より回らない脳を叱咤し、アークを物語に戻し自分への本来の感情を取り戻させ、ダリアの痕跡を消す。

彼女の精神では無ければ成しえる事は到底不可能だっただろう。


(結構ギリギリでしたね…ライラが来なければ最短で殺されていたかもしれないというのが、ちょっと残念ではありますけど…)


彼女がそんな事を考えている事など双子は知る由もない。


(さて…このままの流れでは、お怒りライラにアークが退場させられてしまうので、それは困ります!彼は優秀な執事長ですから!)


鋼鉄の精神と魂は相変わらず切り替えが早い。


「ライラ。わたくしはアークをこの屋敷から追い出す事を許しません」


椅子から下り二本の足で立ち凛と背筋を伸ばしライラへと声をかける。

表情は未だ楽しそうに微笑んでいる。


「しかしお嬢様っ!愚弟は!アークはお嬢様を!!」


振り向きアメリアに声を荒げるライラ。しかしアメリアは首を振ってにっこりと笑う。


「あなたが間に合ったでしょう?ライラ。命は取られていません。アークが居なくなればお父様が悲しむわ!彼にはそうねぇ…」


ライラの出現しかけていた混沌の扉は姿を隠し、瞳の光はシルバーグレイへと落ち着きを取り戻し見開かれる。

――お嬢様は何を…。

目の前に立つ自分の主の言葉が信じられなかった。彼女の本当の姿を知っているライラだが、命を脅かされた筈にも関わらずアメリアは笑っている。


「罰として、わたくしとライラに話しかける事も近付く事も禁止しましょうか。わたくし達から声をかけた時以外、決して話しかけられないように、近づけないように干渉できないようにしましょう」


――あぁ…そうか…。これはお嬢様の優しさ。

命を奪われそうになったのに与えるには優しすぎるその処罰。

ライラとアーク、双子の二人だからこその処罰を主は与えようとしてくれている。

ライラとアークは二人で一つ。

その二人が引き離される事は半身を失うのとほぼ通り。

アメリアが与えるのは二人にとって、特にアークにとって最大の罰。


「…それは…私にも与えてくださる罰なのですね…?」

「詳しくは話さないけど、貴方達は双子でしょう?ならこの罰は互いを引き離す最高の罰だと思うのだけど」


小首を傾げ瞳が弧を描く。

彼女の左耳についているイヤーカフがきらりと光る。

光の加減で変わるアメリアの瞳は桃色に近い色をしていた。

主の意思を汲み取り、アメリアの盾と剣は片膝を折り、頭を下げる。


「畏まりましたお嬢様。仰せのままに」

「っ!姉さん!」


素直に受け入れるライラにアークは悲鳴のような声を上げる。

けれどアメリアがそれを許しはしない。


「あら、駄目よアーク。言ったでしょう?お前からはわたくし達に干渉してはならない。感情にのまれた愚かなアーク。わたくしを恨み、己の愚かさを呪いなさい?」


冷たく放たれる命令。絶対的強者。

アークは彼女の言葉通り、己の愚かさを呪った。そしてアメリアを恨んだ。

頭を下げ二人から見えない所で顔を歪ませ、自分が怒りを抑え込めなかった後悔と未だに感じているアメリアへの強い嫌悪を滲ませながら言葉を紡いでいく。


「っ…申し訳…ありませんでした…。二度とこのような失態は犯しません。お嬢様の仰せのままに…」


アークの言葉に満足そうに頷くとアメリアは片手をアークへ向け、紡ぐ。


「刻むは言霊。使用するは血。男の舌と心臓に言葉と距離の杭を。彼の者の名はアーク・フリージア。彼の者が我、アメリア・ド・グロリア・スターチス、並びに従者ライラ・フリージアへ言葉をかける事勿れ。近付く事勿れ。これ即ち約束であり二つの杭也。我並びに従者からは約束に反しない。彼の者が約束反する時、刻め構築し発動せよ。彼の者を戒め杭を打て。構築せよ、構築せよ」


アメリアは慎重に詠唱する。

普段アメリアは詠唱を必要としていない。それ故に苦手としている詠唱。

その理を通常より細かに言葉を紡いでいく。

詠唱する方がアメリアからすると失敗のリスクがあるのだ。


詠唱の理に反応し、紡がれた彼女の言霊は紋となりアークの目の前で構築され刻ざまれていく。アークの手袋に沁み込んでいた血を使い、彼の舌と心臓に熱を持って魔法は刻まれた。

アメリアとライラが話しかけてからでは無ければ、アークは彼女たちに話す事が出来ない。

二人から近付かなければ、アークは近付く事が出来ない。

それを反すれば刻まれた魔法は発動し、杭となって舌と心臓に痛みが襲いかかるという魔法だった。

アメリアは構築が終わるとアークに払いのけるように手を振る。


「用済みよ。さっさと出て行きなさい。お前の顔は見ていて不愉快」

「…失礼いたします…」


眼鏡を拾う際、ライラを横目で確認するが彼女は頭を下げたままアメリアの方へ体を向けている。アークの方を一度も見ようとしていない事が見て取れた。

アメリアは一瞬アークの手袋へ視線を移し、出て行く彼の背中へと視線を戻す。

彼の手袋についていたアメリアの血液は綺麗に魔法へと変換され元の状態に戻っていた。

アークは扉の前で死角になっていて見えないアメリアに今一度頭を深々と下げ、書斎から出て行った。


構築された魔法はアークからすれば苦痛だろうが、裏を返せば、二人から話しかけられれば普通に接することが出来ると言う本当に軽い罰なのだ。

アメリアがアークを傷つけてしまった事へのせめてもの償いであり優しさだった。


(怪我の事を秘密にさせるの忘れてましたが……人の事を勝手に話すようなアークではないと思いたいので…そこは信じたいですね。場合によっては再構築させないと!アークからの小言フラグを折れた事は成長です!折れてなかったら、ライラのようにきっと長そうですし!)


裏切られてきた過去のあるアメリアだが、純粋さ故に稀に人を信じてみたくなるときもある。それが己を苦しめる場合があったとしても。


アークが書斎から居なくなり、二人はその場を状況に目を合わせ自然と体はアスターの秘密基地へと移動した。

ライラもアメリアもアークの暴走の後始末を今はする元気がなかったのである。


◇◇


光に包まれ移動した時、ライラは勢いよく両膝と両手を草野腹に付き頭をこすりつけるように下げた。

穏やかな空間に綺麗な見本のような土下座が生まれた。

何度か足を運んでいるのでライラはもう以前のように意識を飛ばす事はない。


「お嬢様!遅くなってしまい申し訳ありませんでした!!愚弟が!アークが…っ」

「いいの、いいの!ライラは間に合ってくれたし、アークを怒らせたのはわたくしですから!」


くわっとその体勢のまま顔がアメリアの方へと持ちあがる。

若干アメリアは後退した。


「私のお嬢様が無事で何よりです!アークの精霊魔法をくらっていたら肉塊になっていました!本当によかった…。血の臭いがしていましたが、あれはアークの血だったのですね…」

「え、ええ!ありがとうライラ…」


(肉の塊エンドは流石に迎えたくないですね…。血の事も上手く誤魔化せたようですし、危ない危ない)


自分の雪だるま姿を想像してしまったアメリアはそっと頭を振ってかき消した。

約束を守るためだとしてもそれは流石に避けたいと思ってしまうのは、アメリアも一人の女の子であるからだった。

目標を達成する事は決して諦めてはいない鋼鉄の精神と魂を持つアメリアなのである。


「次こんなことがあればアークの首を確実におと…」

「さないでね!絶対に落とさないでね!?!」

「しかし…」


物騒な事をさらっと口に出すライラを必死に止める。

彼女のアメリア主義は健在。

同時にアメリアは思う。愛って怖い。


「可愛いあなたの半身でしょ!?」

「それでも!弟がいくら可愛くても!半身でも!自分の恋愛対象はお嬢様だけです。お嬢様と共にある為に、お嬢様の敵は全てこのライラが証拠も残さず仕留めて参ります」


(ここではなかったはずなのに!!随分早いカミングアウト入ってしまいましたーーー!!)


アメリア現在7歳。

ライラからのカミングアウトを受ける。


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