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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第21話


アメリアはアークの肩を二度ほど叩き、床に下ろすように命じる。

眉間に皺を寄せ首を振ってこたえるアーク。


「下ろしなさいな」

「いいえ。せめて奥のスペースに着いてからです。それ以外の場所ではお断り致します」


(んん!?アークさんがまるでユリに対するかのような過保護モードに若干入ってらっしゃる!!??これは一大事です!!)


『ゲーム盤』ではアメリアがユリを苛め、それをアークが見て見ぬ振りが出来ず、ユリに優しくするところから二人の関係は始まる。アーク自身“異端の双子”という苛まれてきた過去がある為に自分にユリを置き換え、ユリの持つ純粋な優しさに触れ、心を溶かしていき過保護化が進む。そんな優しいユリを苛める非道なアメリアが自分の過去、苛めて苦しめてきた者達に良く似ており、彼女を恨み始める。

彼がアメリアに及ぼすスターチス家暗殺エンディングでは()()、忠誠の証をユリに授ける事があったが、別の攻略対象のエンディングの時は授ける事はなかった。


(暗殺エンドの時は一瞬で意識飛んでましたけど、私はどんな殺され方をしたんでしょう…?)


鋼鉄の精神と魂のアメリアが気にするところは安定の斜め上である。

そんな彼がユリに見せるべき過保護モードを、アメリアに発動しかけている。


アメリアは物語から外れてきているアークを戻すべく、血の回らない頭をフル回転させる。

彼女が頭を回転させている間に、彼は持ち前の長い足で書斎の奥へと足を運んでいる。


(このままのアークではかなり問題です…神さまサイドからは離す事が出来るかもしれませんが、一歩間違うと生存フラグが建ってしまいます…なんて憎たらしいくらいに優秀なアークなのでしょう!!)


アメリアの中でアークの難易度がダレンを越え、最上位に上がった瞬間である。


いつの間にかついた書斎の一角。本が犇めき合った書斎の中にぽつんと丸く空間が作られており、そこに机と椅子のセットが一つ。

休憩を取ったり、軽く読んだりする時に使用するその場所は入り口から死角になっており、使用人達が書斎に入ってきてもすぐに気づかれる事がない。

ゆっくりと椅子を片手で引き、アメリアを細心の注意を払いながらゆっくりとおろす。

彼女の体から離した白い手袋は、白さが半分程失われ赤く染まっている。

齢7歳の体から流れ出たその赤は、アークの心をじくじくと犯していく。


「お嬢様…一体何をされたのです!」

「愚かなあなたには関係ないでしょうアーク。わたくしが失態を犯したからお義母様からお仕置きを受けただけの事。大事にする事など何もありはしないわ」

「…確かに、私は…愚かです…。しかし…っ」


アークは目の前のアメリアになおも言葉を投げようとした。しかしそれは彼女の顔を目にした時、喉に詰まってしまった。


青白い顔をしているというのに、目の前の少女は凛としており強い瞳を向けていた。

その色はパープル。

彼女の言う事を素直に真に受ける事はアークには出来ない。しかし、彼女の瞳から嘘は見抜けない。


「何故」


アメリアがアークを真っすぐと見つめ声を発する。


「何故アークはここにいるのかしら?あなたはお父様のランド・スチュワードの筈。何故この屋敷に残っているの?」

「旦那様が不在の今。この屋敷を奥様と共に支える為です」


当たり前のように姿勢を崩さず答える。

そうじゃないとアメリアは首を一度横に振り、背の高いアークへ挑戦的に威圧的に瞳を向け口元が綺麗に弓の型を作る。


「そうね、あなたはお父様のお手伝いをしているのだものね…では質問を変えましょうか?」


一拍。緊張感がその場を支配する。


「あなた…お前は何故、“わたくしの前”にいるのかしら?お義母様を支える為にいるお前が何故?“今の”わたくしは どこか“似ている”のかしら?幼い頃の悲しい思い出のお前に」


一拍。長く感じるアメリアが作り上げる緊張が支配した空間。

一言一言丁寧に、しかししっかりと、目の前に立つ執事を言葉の剣で抉っていく。


「特別貴族の異端の双子。愚かな“哀れな力なき”アーク・フリージア?」


 ぶわり


アークの背後がアメリアの言葉で歪む。


 歪む


 歪む


ライラより激しい混沌の扉。

わざとアメリアは彼を煽った。アークが決して触れさせなかった彼自身の秘密。

アスターとライラとロイドだけが知っている彼の秘密を。


アークの傷を。


わざと抉ったのだ。

特別貴族と。

異端の双子と。


哀れな力なきアークと。


煽り、姉を守り切れなかった彼の傷を呼び起こした。


アークの無表情の顔が鬼のように歪み、耳が尖り始め眼鏡の奥の瞳が閃光のように輝きだす。激しい怒りに自身から溢れ出る力を抑え込めていない。

ガタガタと本棚が揺れ、倒れ、本が床へ崩れて落ちて行く。


 空気が重い。酸素が薄い。


本来の混沌の扉の力が発動しようとしていた。


(これは最短記録ですかね…ごめんなさいアーク。あなたにはこの言葉を使いたくなかったのに…傷つけて、思い出させてしまって…ごめんなさい。けれど本来のあなたへ、私を恨むあなたへ戻ってもらいます。私の傷などあなたは気にしてはいけないのです)


アメリアは一瞬虚空を見つめるが、直ぐに楽しそうに愚かな物をみるような表情へと戻る。

しかし心の中で、何度もアークに謝罪する。己のわがまま。自分の目標の為に彼の一番触れられたくない傷をわざと抉った。

アメリアは双子の過去をアスターからの情報をちゃんと自分の知識に置き換える事ができた。そのアークへ彼女は一番やりたくない方法で、一番最短の方法で彼の心を同情心から怒りへ、嫌悪へ、そして憎悪へ塗り替えたいったのだ。

本来のアークがアメリアに抱く感情をアークへと軌道修正した(取り戻させた)

物語のアーク・フリージアへと。


アメリアは彼の怒りを受け入れる為に、ゆっくりとその瞳を閉じる。



混沌の扉がアークの感情に合わせ、開きかけたその時――――



「お嬢様にそれを放ってみろ!私はお前を殺すぞっ!アーク!!!」



彼女が帰ってきたのだ。

彼の双子の姉、彼女の盾であり剣。


ライラ・フリージアが。


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