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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
20/87

第19話※

ダリア胸糞回(気分を害される方がおりましたら読み飛ばしてください)

ダリアの部屋は本人たっての希望で奥の部屋へと変更になっていた。

その長い廊下を浮足立たないように優雅に歩く。

気を抜けばアメリアはスキップしてしまいそうなほど気分が良い。


(確かにここなら音が漏れても気づかれにくい。流石はダリアお義母様!考えが自己中心的でとっても悪どい!)


鋼鉄の精神と魂にかかれば感心に変わる。

ダリアに呼び出されたという事は即ち彼女の体が痛めつけられる事に他ならない。

それなのにアメリアは呼び出しの度、ご機嫌なのだ。

表情は至って凛と済ましている顔をくっつけてはいるが。


(私が呼ばれればマイクは叩かれませんし!私はある程度丈夫ですしね!ダリアお義母様が失態を犯せば部屋に良く通っていた事により自然と私の話題になります。ダリアお義母様はその時に私を悪として使う事でしょう!素晴らしい!一石二鳥とはこの事だったのですね!神さま方っ)


彼女の行動原理は約束を守る為。

そして、彼女の周りを彼女は守っている。

フラグを建てつつ、周りをも守る彼女の精神力と行動力は凄まじい。

通常の精神では到底耐える事は難しい事だろう。

アメリアはダリアの部屋の前に辿り着くと、深呼吸をし心を落ち着かせてから扉を叩く。


「どうぞ」

「失礼致します。お義母様」


扉を開け、部屋へと足を踏み入れ後ろ手に扉を閉める。

慣れた様子のその動作はこの繰り返しで培った彼女の経験則に基づくもの。

扉を閉めた瞬間にダリアは最初の洗礼をアメリアに浴びせるのだ。


飛んできたティーカップをまともに正面で受ける。

カップの中には入れたばかりの熱い紅茶が入っていた。

投げられたカップはアメリアの胸の辺りに当たり、そのまま重力に従い軌道を描き床に落下し割れる。高価な一品だったはずのカップはものの見事にその存在意義をなくした。


「…っ」

「あら、大きくなったから当てるところ間違えちゃったわね」


正面の椅子に座るダリアは愉快に笑っている。

机の上に並ぶティーセットにはソーサーとティーポットのみ。ソーサーの相方は床にその姿をなくし、転がっている。


(あー…また高価な物を…セットだからこそ光る匠の技術が一つ失われてしまいました…)


アメリアはこの状況でも考える事は別の事。

自分の胸の軽い火傷よりも目の前に並んだティーセットだったものに対して。

彼女の鋼鉄の精神と魂は歳を重ねても揺るがない。


「さぁアメリア。服を脱いで後ろを向きなさい」

「はい。お義母様」


アメリアは素直に応じる。ダリアの手の中にはぴしりと撓る馬用の鞭。

今回はちょっと痛そうですねと呑気に内心思いながら、アメリアはゆっくりと服を脱いでいく。年齢的なものと元々の腰の細さもあってコルセットは普段つけていない。

婚約者のジークライドを招いたり、悪評の為あまり誘われないお茶会に参加する時、ここぞという時にしか着用することはないのだ。その代わりに身につけているのが腰に巻くリボン。ボタンがいくつかついているそれはアメリアが特注で作らせたボタンで位置が調節できる一品である。

一人で着替える事に慣れているのにはダリアの行動も含まれていたのだ。

彼女は部屋へ呼びつけ己の鬱憤をアメリアにぶつけ、用が済めばさっさと部屋へ戻れと追い払う。着替えの手伝いでわざわざメイド達を呼ぶ事はなく、この時間だけはダリアの侍女も彼女の命令で席を外されている。誰にもアメリアは頼る事が出来なかった。

それ故、彼女は傷を隠すのと同時に自分の事を自分で出来るようになったのが真相である。


(汚れても良いものを選んだつもりがドレスの色、完全に間違えましたね…これでは血が出たら目立ってしまいます…浮かれていた自分に反省です!)


床に脱ぎ落したドレスを横目にアメリアはダリアの前に背を向けて立つ。


 ヒュンッ


風を切る音と共にアメリアの背中に一筋の衝撃が走る。

それは休むことなく次から次へと襲いかかってくる。

叫びをあげることは許されない彼女は奥歯を噛みしめ漏れ出そうな声を必死に耐える。


「ぐっ…」

「声を出したわね?お仕置きよ。膝をつきなさい」

「…申し訳ありません、お義母様」


指示通り両膝をつく。拳を握り次の衝撃に備えるアメリア。

ダリアは立ちあがりアメリアの背中をヒールのあるその靴で激しく踏みつけ、そのまま地面に倒す。

握り拳のままアメリアは顔面を打ち付ける事を一応は回避するが、ダリアの攻撃は止まない。何度もヒールのある靴で。何度も。

ごりっとたまにアメリアの背骨が悲鳴をあげるが彼女は声に出さない。

爪が食い込む程に拳を握り、ただただ声を殺す。鞭で打ちつけた後のこの仕打ちに背中の皮膚が耐えきれず赤い涙を流し始めた。


「お前がいなければ私が旦那様の一番になれていたのに!お前達兄妹がいなければ私のマイクが後継者になれたのに!!お前のせいでマイクが私の人形でなくなった!」


ダリアの金切り声が鈍い殴打音と共に室内に響く。


(マイクは人形だった…けれど…彼は人間ですっ!ダリアさまの人形なんかじゃない!)


アメリアがマイクを人形だと言った事がある。

それは彼女がマイクを守る為にマイクを人形にしていた事に他ならない。

彼女がマイクを使う事で、ダリアはマイクに手出しが出来なくなる。そしてマイクを襲うダリアの理不尽な行動から助けだせる。

彼女はマイクが感じた通り。壁になっていたのだ。

そして今もその壁は健在。


ダリアは息を荒げ肩で息をすると椅子に腰かける。

休む間もなく踏まれ、鞭で打たれたアメリアの背中は赤く腫れ幾重にも赤い線が折り重なってその一部から赤い涙をごぽりと溢れ出している。

ダリアはこの公爵家内では魔力は低いが多少の魔法を構築することが出来る。

冷めてしまったティーポットの中身を温めるように、否、熱するように魔法を構築し発動する。


「刻むは熱。使用するは炎。器の中の液体を灼熱へ。器に熱は通らない。構築せよ」


詠唱された理に反応し、構築が完了し、ポットの中身の紅茶がゴポゴポと音を立て沸騰し始める。ポット自体に熱が通らない事を構築しているため持ち上げても熱さはない。ダリアの魔力が低い為この程度だが、同じ魔法をアメリアが構築すれば文字通り紅茶が変化し灼熱を生み出す。本来使用する用途の違うこの魔法をダリアはこの為だけに使用する。


(あーーーー…これは沁みるやつきますね!?沸騰した紅茶は今の状態だと皮がめくれてしまうので少し高い位置からお願いします!ダリア様!お義母さまーーー!ぜひ少しでも冷やしてかけてっ!)


鋼鉄精神アメリアの心配するところはやはり斜め上であった。

ダリアはポットを持ちあげ床にいるアメリアに声をかける。

彼女の顔は女性にしては凶悪に、唇は悪魔のように弧を描いている。


「アメリア、あなた最近魔法老師を迎えたみたいね」

「…はい」

「この部屋が汚れてしまったのだから、綺麗にしてから出て行きなさい」

「はい。お義母様」


呼び出したのも、紅茶をぶつけ零し食器を割ったのも、アメリアに理不尽に暴力を振るい彼女に血を流させたのも全てダリアだというのに、ダリアはそれを全てアメリアの責として話している。


(これで少しはダリアお義母様の気が晴れますかね?ストレスをため込んでしまうといけませんからね…これで多少は心が落ち着けばいいです。お義母様の中の悪が私だけになればいい)


アメリアが甘んじて受けているこの一方的暴力はアメリアがダリアの心を救うべくして行われている行為だった。

周回を重ね、心優しき純粋なアメリアは彼女すら救おうと思っているのだ。

偽善と言われればそれはそうかもしれない。しかしアメリアはダリアとの距離はこれ以上縮まらない事を良く知っている。過去の周回で彼女は歩み寄ろうとした。しかし、ダリアはそれを拒否し、アメリアだけでなくマイクも彼女に犠牲になってしまった。

その事を知っているアメリアは己を彼女の悪とし、マイクを、ダリアを守る。


「声を出すことは許さない。お前の声はあの女に良く似ている。あぁ…そうね…あの女が叫んでいると思うのも面白いかもしれない」

「お義母さま。わた、くし…は…アスターお母様では、ありません」

「黙れ!!!」


反論は許さないと持っていたポットがアメリアの肩甲骨の辺りに投げつけられる。衝撃で蓋が開き二つの穴から勢いよくアメリアの背中に中身が降り注いだ。

声を上げないように必死に耐えるが、沸騰していた紅茶はアメリアの背中を焼く。


「っ…ぁ!」

「やっぱりお前とあの女では天と地ほどの差があるわ!あの女は死んだ!!あははははっ」



 ダリア・スターチス

紫色の色素の薄いウェーブのかかった髪。瞳は濃い撫子色。

表面上は良き女主人として君臨しており、アスターよりも体が強い事から使用人からもその点において心配ごとが減り、評価は上々。

しかし実際の彼女は過去の周回でも変わらずアメリアへ己の欲望の捌け口として暴力を振るい、最初のアメリアの心を歪ませた原因の一つ。そしてマイクの心を閉ざさせた原因の一つ。

彼女は常に二番だった。ロイドを愛していたが既にアスターがいた。そしてアスターが亡くなってからロイドは自分ではなくアメリアを愛した。ダレンが居る事で自分の息子は後継者になれず、アメリアが居る事で愛されない。彼女の怒りが幼くアスターを小さくしたような容姿のアメリアに向かう事は自然な流れだった。ユリが生まれ、姿を見た時彼女は自分の祖母を思い出し歓喜していた。

アメリアはそんなダリアを可哀想な人で心が壊れてしまった人と知っている。

将来、彼女がアメリアを直接殺す事はないが、約束が行動原理の筈のアメリアだがそれでも甘んじて現在の理不尽な現状をダリアの為、マイクの為、そして自分の為に受け入れる事にしている。



楽しそうに壊れたように笑うダリアはもう通常の精神ではないのだろう。

いつから壊れたかアメリアにも分からない。ただ、彼女は寂しく苦しくそして常に二番だった。それが彼女を壊すきっかけだったのだろうとアメリアは思っている。


作者のぼやき

書いてて辛かったです…。

意図しないクリスマス…イブにあげる内容じゃないorz

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