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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
17/87

第16話

アメリア宿題回


ライラが機嫌を悪くしてから、アメリアはどうしたものかと考える。

ここまできてライラを何も知らせず帰らせる事はしたくはない。しかし、先程からアスターの話をするたびに穏やかな筈のこの空間が冷えていく。日差しは今も変わらず穏やかであるし、風もさわさわと草木を緩やかに揺らして、とても過ごしやすい筈のその空間が彼女の周りだけとても冷えている。なにより混沌の扉がガタガタと揺れている。


「ラ…イラ?さ、さむいわ…」


主に背筋が。

ふるりと震えるアメリアを目にして、ライラは少しだけ機嫌が向上した。同時に混沌の扉は姿を消した。加虐的趣向は持ち合わせていなかった筈のライラだが、普段強く振る舞っている自分の主の怯えている姿はそそるものがあると素直に思った。

ライラが若干危険人物になりつつある事をアメリアは見抜けていない現状。

アメリアは手に持っていた日記帳をライラに差し出した。


「これは?」

「えっと…もう怒ってない?」

「私はお嬢様に怒った事はございませんよ?」

「う、うん??そう…だった?えっと…これはお母様がこの国に来てから書いていた日っき…」

「お借りしますね!お嬢様!!」


アメリアの言葉を最後まで聞かず、まるでひったくる様に奪うライラ。

その目は少し血走っていてアメリアは少しばかり恐怖した事は本人には内緒である。

綺麗な姿勢で立ったまま日記を真剣に読み始めたライラを横目にアメリアは木の下の本棚へと向かう。彼女はあの日記を読んだらきっと怒るだろう。しかし、アメリアはこの時ばかりはそれでいいと思った。

手紙は見せない。見せられない。


小さな本棚にはアスターが残した書物達とアルバムが残されていた。

薄いものから分厚い物まで。

それらはアスターがアメリアの為に残した物だと一目見てアメリアは理解した。

分かりやすくそれぞれの背表紙にはアスターの字で、それぞれの物がどのようなものであるのか残されていたからである。


アメリアはまずその中から数冊を手にとって椅子に腰かける。

【二人の秘密】【聖霊と精霊】【ブルームーン国とラナンキュラス国】と書かれた本はアスターが纏めたであろう記事とアスターが書いたであろう文章とそれに纏わる記述。

他に数冊の本と【ド・グロリアの秘宝】という書物もあったが、それは今日ではなくても良いだろうとアメリアは棚から選ばなかった。

自分が調べなければならない周りの事を優先した結果である。


まずアメリアは【二人の秘密】と【聖霊と精霊】を開いた。

読み進めて行けば、ライラとアーク自身の出生、彼女らが何故“特別貴族”の“異端の双子”と呼ばれ、どのように過ごしてきたのか。精霊とは何かが分かりやすくまとめられ記されていた。



・・・・・・・・・


 異端の双子・特別貴族・精霊と聖霊とは。


ブルームーン国では精霊と共にある事が普通だが、それ故にラナンキュラス国のように強い魔力を持つ者は少なかった。どちらかというと精霊力がラナンキュラス国で言う魔力と同義なのである。

ブルームーン国では双子は異端として扱われ、言わば悪魔としてみなされていた。

過去、双子が生まれた事により国が傾き、その後も双子が生まれた家庭には不幸が舞い降りたと記されている。

それ以降、双子に例外はなくただ双子として生まれたからというそれだけで。精霊力がいくら高くとも双子の子は後継者には決してなれず、苛まれてきた。


ライラとアークは元々低い魔力で生まれてきたが、彼女らの父親が高位精霊の聖霊であった為、精霊力は凄まじいものだった。


精霊は古来より自由に飛び回り、優しい性格をしており人間と共に生活していた。その中でも【精霊王】の次に精霊力の高い精霊を高位精霊として【聖霊】として表記。聖霊以上の者は主と定めた者に“証”を与え授ける。聖霊は証を授けた者以外の命令は基本的に従わず、気まぐれで気に入った者とは共にあるという自由な性格である。

ライラとアークが特別視されている理由は聖霊と人間の初めてのハーフだからと言えよう。

聖霊が証を与える事、事態が珍しく更に一人の人間を番とした異例である。

二人が更に異端の双子として生まれ、魔力は低いが聖霊と変わらないほど高い精霊力を持ち合わせていた。彼女らは聖霊と同様に下位精霊を従える力を持つ。

その統制力は国の軍隊に相当する。

ハーフの二人は聖霊に近く、その為年齢を重ねても一定の歳から見た目が変化する事はなくなった。二人が現在いくつなのかは分からないが、ラナンキュラス国の西暦で表記するならばR.D.400ほどに生まれたと言われている。

二人が感情に任せて行動すると精霊力を持つ者には彼女らの背後に混沌の扉が出現しているように見えるという。混沌の扉はこの二人特有の精霊魔法であり、親の聖霊は使用する事も出現させる事も出来ないという。

更には、彼女らが本気を出した時、体の一部、耳が尖り、瞳は激しく光ると言われ、その状態の彼女らを見た者は生きてはいないだろうという仮説が立てられている程。


仮説が立てられた最初の出来事は幼い頃の二人はその出生とは関係なく、肉体的にも精神的にも苛まれていた事にあるだろう。

そんな折、二人が誘拐される事件が起こった。彼女らの親である聖霊は怒り狂ったという。鎮めるために何十人も犠牲になった。

発見された時の二人はとても細く、姉のライラがアークを守る様にして瀕死の状態で倒れていたと言う。そしてアークはそんな姉を抱きしめながら両手を赤く染め、静かに涙を流して茫然としており、彼の周りには夥しい程の血痕と肉の塊が転がっていたという。

アークの周りには彼の怒り、悲しみ、嫌悪、そして怒りを強く宿らせた下位精霊の大群が赤の液体で濡れていた。静かに涙を流していたアークの耳は尖っており瞳が猛獣のように輝いて「姉さんを守れなかった…」と呟いていたと発見者はいう。

幸い瀕死だったライラもアークも命を落とす事はなかったが二人から表情が消えたそうだ。

彼女らが幼い頃の話なので実際起こったかどうかは定かではない。

真実は分からないままである。


聖霊と人間、そしてその間の双子。彼らの一族は特別貴族として扱う事を決定した。


特別貴族は特別に何かに特化している能力を持つ一族が位置づけられている。

ライラとアークの一族の場合は、暗躍し隠密のような裏の仕事の方が得意とする超人だった事も理由としてあげられている。


ライラとアークはアスターと幼馴染であり、主にライラがアスターと共にありたいと願ったが故にラナンキュラス国にくる際も一緒にやってきた。

アーク自身は姉のライラとアスターの事が心配でありついてきたのだ。

双子は二人で一つ。彼女達の“証”もそれ故二つで一つ。

特別な異端の双子の二人は証を同じ者に授ける事によって本来の構築されていた魔法が完成し、力を発揮する。

それは【聖霊弓・神撃】。

今は失われし古代精霊魔法。古代精霊王が残した最強の弓。

彼女達が同じ主を見つけた時、この弓は現実となることであろう。


これが【二人の秘密】であり、【聖霊と精霊】に記されていた事である。


・・・・・・・・・


(ライラのあの混沌の扉はそんな意味が…というよりもライラとアークは仙人…いえ賢者様か何かです!?)


仙人でも賢者でもなく聖霊と人間のハーフである。

アメリアは自分の左耳につけていたイヤーカフに触れる。

それはライラが自分に渡した“忠誠の証”。これにそんな意味があった事をアメリアはこの時初めて知ったのだ。

過去の周回でもこの証を受け取ってはいたが、アークからは授かってはいなかった。

神撃を手にする事はまずなかったのだ。

そして神々もその事をアメリアの魂に刻んではいなかった。決して触れないであろうと考えていたからに他ならない。神々ですら触れなかったその力を、アメリアは理解した。


「ライラとアークが無表情になったのはこの頃からだったのでしょうか…二人は凄かったんですねぇ…」


ぼそりと読み終わった本を閉じながら呟く。


「何がですか?」

「ひぇっ!ら、ライラ!?読み終わったの?」


いつの間に移動していたのか、ライラが横に立っていた。全く気配を感じさせないところが流石は隠密を極めし者と言えるだろう。

突然の事にアメリアは椅子の上で飛び跳ねるが、椅子から転げ落ちる事はなかった。

ゆっくりと確認するようにライラに顔を向ければ…


「はい。アスターには天国で待っていてもらいましょう。会ったら少しばかり説教しないとなりません」

「あぁ~…そう、ですか…」

(お母様、がんばってください!アメリアは心から応援しております!)


…案の定。ライラの背後には混沌の扉がうっすら出現していた。

アメリアは薄情ながら心の中で天国にいるであろう母に合掌した。

すうっと混沌の扉が消え、ライラが腰を曲げ机の上のものを覗き込む。


「これは…アスターが日記で書いていた私達の秘密ですか?」

「うっ…ごめんなさい…先にライラ達に許可をもらうべきでしたね…」

「いえ?聞かれれば答えましたし、アークは口を割らないでしょうが…私はお嬢様が望むのであれば何でもお答えしますよ?」


さらっと凄い事を言っているがこれが本来の通常のライラである。

繰り返す、通常のライラである。


アメリアは少し申し訳なさそうにするが、ライラは気にした様子がない事から今読んだ物の事の内容を確認する事にした。文献は全て情報ではあるが、真実とは限らない。たとえそれがアスターが残したものであっても、真実とは程遠い場合がある。

本人がいるのだからとアメリアは確認を怠る事はない。


ある程度かいつまんで確認したが、どれも真実であった。


あっけらかんと簡単に答えてくれるライラにアメリアは肩を落としたのは言うまでもない。


「ライラは…いったいいくつなんです…」

「さぁ?100を越えた辺りから数えるのが面倒になりまして、父もアークも自分達が生まれた年なんて多分覚えていませんよ?」

「なんということ…」

「それにしてもアスターは凄いですね…流石は私のアスター。私達の事や聖霊の事なんて普通ここまで調べられませんよ。流石は私のアスター」


少し高揚した様子でアスターの名前を繰り返すライラに、椅子の上にいるアメリアはぎりぎりまで体を引いた。

穏やかなこの場所で母とライラが二人になったら、それはもう危険だったかもしれないとうっすら頭に過ったのである。

更にアークはその事を見越してついてきたのではないだろうかとも思った。


(アークは本当に優秀ですね…そして苦労人です…。今度少しだけ優しくしてあげますね…フラグはちゃんと建てますけど)


心の中で少しだけアークに同情したアメリアだった。



〇異端の双子

双子は異端として扱われ、言わば悪魔としてみなされている。

過去、双子が生まれた事により国が傾き、その後も双子が生まれた家庭には不幸が舞い降りた事でそれ以降、双子に例外はなくただ双子として生まれたからそれだけで、精霊力がいくら高くとも双子の子は後継者には決してなれず、苛まれていた。

現在はライラやアークのように特別視されている存在も出てきた事で、比較的落ち着いている。しかし、第一子であっても後継者には決してなれないのは今でも変わらない。


〇混沌の扉(精霊魔法/召喚)

ライラとアークが使用する精霊魔法。

下位精霊を従わせ、その扉から召喚する。

召喚された下位精霊達は召喚者の感情に強く反応し行動する。

怒りに任せて使用すれば恐ろしい事態が引き起こされる。

精霊力を持たない者は存在すら気づけず、気がついたら…――という結果である。


〇特別貴族(特別爵位)

ブルームーン国(隣国)の何かに特化した能力を持った者が持つ貴族枠。


〇聖霊(名称)

精霊の中で高位の精霊の事を示す。

聖霊の上は精霊王である。

精霊(下位)・聖霊(高位)・精霊王(最高位)の位置づけ。


〇聖霊弓・神撃(古代精霊魔法)

失われし古代の精霊魔法。

ライラとアークの証が揃った時、本来の構築されていた魔法が完成し、力を発揮する。

今は失われし古代精霊魔法。古代精霊王が残した最強の弓。その力は神の一撃。


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