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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第10話

狐vs狸


会場を色とりどりのドレスの花やそれにつきそう燕の姿で埋め始めた頃、ロイドが壇上へ。

周りの視線は自然とロイドとへと集まった。


「本日は愛娘アメリアの誕生祝いにお越し頂き、誠に感謝いたします。生まれてから直ぐに妻のアスターが亡くなってしまいましたが、この公爵家に努めている皆のお陰でこうして無事に4歳の時を迎えられました。これからアメリアは皆さんのお世話になると思いますが、どうぞ宜しくお願い申し上げます」


「おいで、アメリア」


ロイドに呼ばれアメリアは壇上にあがる。


 ざわり


先程までロイドの言葉を静聴していた来賓達。

彼らの子息や令嬢たちは親の言葉に従って大人しくしているものや、やんちゃ盛りのものがいる。一部の子供たちは大人の話など露ほど興味がないといった形でデザートを食べたり、小さい声で談笑していたりしていた。

しかしアメリアが壇上に姿を見せた瞬間、静聴していた大人達だけではなく別の事に興味がいっていた子供達までもが音を無くしたように静まり返った。

一瞬の動揺の後その場は本当の静寂に包まれたのだ。

異様な静寂の中、アメリアは背筋を伸ばし口を開く。


「みなさまはじめまして。ロイド・レイク・スターチスがむすめ、アメリア・ド・グロリア・スターチスともうします。きょうはおいそがしいところ、わたくしのためにおあつまりいただき、まことにありがとうございます。きょうはたのしんでいってください」


そしてゆっくりと美しい礼を披露し壇上を降りる。

その姿は完成された淑女の姿だった。

彼女が降壇した後もしばらくその静寂は続いた。


(かんぺきやってしてしまいましたーーーっ!!!!)


4歳らしからぬ挨拶をやり遂げてしまったアメリアは激しく後悔していた。

この静寂の中、一度やらかしてしまえばその印象が激しくこの場に残ったはずだ。

しかし、アメリアはあまりの場の緊張感と静寂に、培ってきた経験が本人の意思とは裏腹に土壇場で火を吹いてしまったのだ。


一級死亡フラグであるこの国の第一王子。王太子の婚約者、即ち未来の王妃が約束されたそれは彼女が最後にどうなろうとも、途中の過程で毎日のように王妃教育が課せられていた。

それが既に99回。

周回一桁の時は抗おうと少しばかり疎かにしていたが、魂と精神の成長によりきっちりと毎回修了していたのだから魂に染みついてなくてはおかしいのである。

今現在、アメリアはその馴染み染みついてしまった王妃教育、そして淑女の嗜みが4歳にして本領発揮してしまったわけである。


アメリアはダレンの横に戻り、眉間に皺を寄せて次の行動をどのように起こすか一人の世界へと旅立った。

ダレンが何かを言っている気がするが、アメリアはそれどころではない。


会場にいる者達はアメリアの挨拶に驚き静かにしているわけではない。

アメリア自身を見て、静かになってしまったのだ。


彼女はネイビーブルーのプリンセスラインのドレスを身に纏っており、スカートは三段のティアードフリル。歩くたびにふわりと揺れ動くが決して邪魔にならず、腰に巻かれたリボンも相まって美しさと可愛さを。ネイビーブルーのドレスに輝くラインストーンは光を激しく反射するものではなく、控えめで星屑のように輝き瞬く。そして何より美しく絹の糸のように真っすぐと流れる長い青銀に輝く髪を、光の加減で変化する美しい瞳を殺す事無く、最大限に生かし、全てが彼女を引き立てていた。

本当にメイド達は最高の仕事をしていた。


彼女の姿は4歳にしては美しく、とても可憐だった。


今までのアメリアを知っている人からすればその豹変ぶりに驚きが隠せず、また初めてみたものは本当に人間なのか?女神の使いではないのか?と疑ってしまう程、彼女はその場を魅了してしまっていた。


周囲の反応をみたロイドとダレンは再び視線を合わせ、一つ満足そうに頷いた。

―父上、これより迎撃態勢に移行します。

―うむ。アメリアを何としても毒牙から守りきるぞ!

―承知!

視線上で意思疎通出来ている二人は、アメリア防衛体制に入った。

ダレンとアメリアはさほど仲が良くはない筈なのだが、今日に限ってはどうやらそうではないようだ。

アメリアは思考の海を背泳ぎしているので、全く気付いていない。


二人が防衛体制に入らなくてはならないほど、彼女が周囲を魅了してしまった現在。

父親であるロイドは壇上から見惚れている会場の子息達へ、兄であるダレンはアメリアの隣で嫉妬する令嬢達へ視線をくれる。誰が敵で誰が味方なのか一瞬で判断を下していく。


静寂を打ち払うかのようにロイドは一つ手を叩く。

静寂の中で響きわたったその音に、アメリアに意識を取られていた全ての者たちがはっとした。


「それでは皆様、引き続きお楽しみください」


彼の声を合図に演奏が流れ始める。

美しく流れる曲調とは裏腹に、その場にいた大人達はすぐさま行動に起こした。

アメリアを我が家のものに!

そんな考えが読みとれる程に全員の瞳が物語っている。


「アメリア、アメリア?聞いてる?聞こえてる?」

「え?あぁ、おにーさまなんですか?いまかんがえごとを…」

「別にそれは良いんだけど、周りをみてごらん?」


思考の海を泳いでいたアメリアはダレンの声で現実へと戻ってきた。

ダレンに言われ、周りに視線を映せば自分を強く見つめる視線の数々とご対面。


「……おにーさま…あの、きのせいではなければ…みなさまのひとみが、わたくしにはちばしってみえます」

「ん。間違いなくアメリアは狙われてるねぇ…まぁ分からなくもないけど」

「りかいできませんし、りかいしません」


(理解なんて絶対したくないですっ!なんなんです!?なんなのです!4歳に向ける目じゃないでしょう!なんですか?!少女愛好家(ロリコン)ですか!?あなた達はお呼びではないのですっ!愛しの一級死亡フラグことジークライド殿下様はどこです!!)


彼女は扇を広げ視線から逃れるように顔を隠す。

もちろんダレンとロイドは彼女を隠すように、横に立つ。

公爵であるロイドは続々とやって(群がって)くる祝辞の挨拶を笑顔の仮面で受け答えをしているが、愛しいアメリアをこれ以上紹介する気はない。諦めてさっさとさがれ!と副音声に乗せて会話をしている。

彼は伊達に「氷の公爵」の名を持っていない。

彼の氷のような視線で負けた者は大人しくすごすごと退散した。

もちろん対等に立ち向かってくる相手もいるが、今日のロイドは父親から完全にアメリアを守る騎士へとジョブチェンジしている。


ダレンは仲のいい、気の知れた友人達に「妹を紹介しろ」と言われているが、彼も彼でロイドの息子である。笑顔で対応しているが愛しい可愛いアメリアを見るな、汚れる、さっさとあっちのちんちくりん令嬢の元に帰れ!とこちらも副音声に乗せている。


そんな二人に守られるように立っているアメリアだが、彼女は彼女で探し人を探している。


「あ…」

「ん?アメリア?」


その探し人はすぐに見つかった。

アメリアの声に二人が反応し、彼女が見つめる先を確認する。


そこには堂々とこちらに向かってくる三人の姿が。


「…ダレンまずい…国王軍だ」


本来なら国王にはこちらから挨拶に行かなければならない立場だが、前もって国王には許可をもらっている抜け目ないロイド。あわよくば娘だけ先に部屋に戻らせた後、体調をくずしてしまって紹介出来ませんでしたと逃げ切るつもりでいた不敬承知のちゃっかり者である。


それが今、肩を並べてこちらに向かってくるではないか。

優雅にかつ威厳を持って進もうとすれば人が犇めき合っていても、自然と三人を導くかのように割れていく。

三人が歩けばそこは道となる。

国王軍と呼ばれた三名。

現国王・王妃・第一王子のご登場である。


「ちっ。思っていたよりも早い!父上、流石に逃げ切れません…」


小さく二人は会話するが、聞こえていたら不敬どころの騒ぎではない。

もちろん二人は誰かの耳に入る真似はしてないので抜け目はない。


「よう、レイク。娘を紹介してくれ」

「ご機嫌麗しゅう国王陛下。並びに王妃殿下、王子殿下」

「ごきげんよう、ロイド卿。さぁ!未来の()()娘を紹介して頂戴?」

「はっはっはっ。御冗談を王妃様。愛娘のアメリアは誰のところにも嫁がせるつもりはございませんよ」


国王は片手をあげ軽い口調で挨拶を寄こした。

挨拶という名の娘を見せろという圧力。それに屈せず乾いた笑いで返す。


(ん?!)


アメリアは違和感を覚えた。

王妃が()()と強調して話している。

まだジークライドと出会っていなかった事とロイドから一度も婚約の話も出ていなければ、自分もそんな話しを父にしていないはず…なのだが、これは一体どういうわけか。

ロイドは王妃の言葉にぴくりと青筋が反応するが、表情は笑顔を張り付けたまま対峙する。

ダレンはそんな父の補足及び追撃のため共に迎え撃つべく並び立つ。

先程まで彼女の隣で壁になっていた兄と父が、アメリアの前に立ち、国王軍の壁となるべく聳え立った。


「うふふ。あらいやだわ、冗談なんかではありませんよ?ねぇ陛下?」

「あぁ、お前の話しを聞いていて、どんな自意識過剰の危険分子のじゃじゃ馬娘かと楽しみにしていたんだが…、随分と正反対ではないか?狸は相変わらずか、レイク?」


国王と公爵は従兄弟でありながら、学友であり好敵手(ライバル)であり親友といった不思議な間柄だ。

前国王の弟が公爵の父にあたる。二人の関係は血筋を考えなければ、兄弟のような関係というより、やはり幼馴染兼好敵手といった関係の方があっているだろう。


この国の貴族の中で魔力値の高いものは(セカンドネーム)が与えられている。

公爵然り、第一王子然り、生まれながらに高い魔力を持っている者は印が体のどこか一部に刻まれて生まれてくる。印にはそれぞれ意味があり、その名にあった魔法の構築を使用することが多い。

貴族間では血筋はもちろん、最も重要視されているのが魔力値。その高さで後継者が決定する。貴族の中で魔力が低い者に対するいじめや差別などは多少なりあるが、どちらかというと子供よりも親の魔力の高さに重点がおかれている。子供達はその部分においては比較的自由な国なのだ。

 ロイドの印は“レイク”。

 ジークライドの印は“レイ”。

 ダレンの印は“フレッド”。

その為、印持ちの名は貴族の中で知られており、ロイドもダレンも高い魔力の持ち主だと名を聞いただけで分かるのだ。

印の継承は可能だが、魔力のほとんどを継承相手に譲渡してしまう為、最悪継承する側、される側共に亡くなる事もある。また魔力の相性が良く直ぐに馴染む者もいる。

基本的には命の危険性のある行為の為、印の継承は行われないものなのである。

またその名前を他人に呼ばれる事を基本印持ち達は嫌う。余程の仲でなければ許可する事はまずあり得ない。


国王はロイドをレイクと親しみを込めて呼べるのは彼らの仲だからこそ。

ロイドがレイクと呼ぶ事を許しているのは、ロイドの両親と今は亡きアスター。そしてこの国王だけである。


国王の言葉に少し言い辛そうに口を閉ざした父に、ダレンが代わりに立ち向かう。


「恐れながら陛下。父の代わりに発言をお許し頂けますでしょうか?」

「おお!大きくなったなダレンよ!固くならんでも今日はお前の妹の祝いの場だ。お前達親子には私達に何も気にせんでもいいと伝えていただろう。して、何かな?」


ダレンはロイドを一瞥し、ゆっくりと国王へ向き直る。


「ありがとうございます。恥ずかしながら妹アメリアは確かに我がままで酷いものなのです。今日のアメリアは例えるなら魔法使いに奇跡を起こされたような状態で…普段のアメリアとは遠く離れております。ですので父の話しがどのようなものかは存じ上げませんが、嘘ではないかと…」

「ほーう…それはまた面白いじゃないか」


ダレンの言葉に楽しそうに口角を上げ、目を細めた。

ロイドはダレンの成長を隣で感じ、心の中で感激していた。

更に二人は嘘じゃないからさっさと諦めてくれと内心思っている。

ロイドは肩の力を抜き、国王と二人で話す時のような砕けた話し方へと変える。


「おい、いい加減勘弁しろ。アメリアは渡さんしこれ以上見せんっ!」

「相変わらず頭かったい奴だな、お前は!アメリア嬢をうちの息子と婚約させよう!な!!」

「断る!!何が“な!”だ!!婚約などまだ早すぎる!」

「あらあらまぁまぁ。うふふ…もう断っても遅いのよねぇ。私達と話している間に私の息子は既に動いたみたいだから」


王妃は口元を隠していた扇を楽しそうに揺らす。彼女の瞳も綺麗に弧を描く。


「なに!!??」

「アメリア!?」


王妃の言葉に振り向けば先程までいたアメリアの姿はそこにはなく、またジークライドの姿もその場から消えていた。

――してやられた!

ダレンとロイドは王妃と国王そして第一王子の三名―国王軍―にまんまとはめられたのだ。


「さぁさぁロイド卿?私、あなたの息子とお話がしたいわ。良いかしら?良いわよね?ねぇ坊や?」

「ぼう、や…はい王妃殿下の…仰せのままに…」


「あぁそうそう、レイク!お前は私と話があるだろう?」

「この…っ!狐どもめ…」

「ふはっ!それは流石に不敬だぞレイク!諦めろ!」


吹き出し笑いながら国王は忌々しげに睨むロイドの肩を愉快気に叩く。

また王妃の言葉にダレンは逆らえないと肩を落として項垂れた。

ロイドとダレンはアメリアを追う事が出来ない状況に持ちこまれてしまったのだった。




勝者は狐


〇印(名/セカンドネーム)

高い魔力を持って生まれた者の体の一部に刻まれている文字(一文字)

晩成型の者も稀にいる。

アメリアは継承された者なので特殊枠。

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