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悪役令嬢は100回目のバッドエンディングを望む  作者: 本橋異優
―ゲーム本編前・事前準備―
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第9話

(おいっ早く誕生日会しようぜ)


固まってしまったダレンを見てアメリアは心底困った。


(あっれ~…?一体どうしたのお兄様?)


幼いながら恙無く社交辞令を吐ける兄を知っているアメリアは、固まってしまった兄の対処方法を知らない。

まず二人がこの年の誕生日で共に入場する事はなかった。

アメリアの表情筋は相も変わらず何も変わらなかったが、頭の中では激しく様々な考えが駆け巡っている。しかし全く解決策が思いつかない。


(エスコートに関しては諦めるにしても…この美しい石像となってしまったお兄様をどうしたらいいのでしょう…?)


「若様、お嬢様が困っておいでです」

「んっ!?あ、あぁ!ごめんアメリア…。それよりライラ…君はなんて格好をしているんだ?」

「若様が体調がお悪いとの事でお嬢様のエスコートを辞退されると。ですので私がする予定でしたが?」

「あら、おにーさま?たいちょうがわるいのですか?…なららいらに…」

「いや!僕がするよ!体調は悪くないよ!さらっと嘘を吐くな」


ライラの言葉で兄が体調を崩している事を知ったアメリアは、あわよくばこのまま断れないかという期待を込めた言葉をくい気味に遮られた。

小さくライラから舌打ちが聞こえたが気のせいだ。

自分の見えないところで二人が火花を散らしているようにも見えるのもきっと気のせいであろうと、アメリアは思うことにした。


(さて、ライラはまだしも一体お兄様はどうしたのでしょう?)


表情は変わらないものの二人の様子に若干引き気味のアメリアは二、三歩距離を取る。


(この格好!?この格好がお兄様を混乱させているのです!?)


ダレンの様子がおかしい理由を何とか理解に至ったアメリアだが、現状を踏まえてドレスを変える事は既に不可能。化粧も時間はない。装飾品もメイド達が下がっていく時に片づけてしまっている。

ならばどうするべきかとアメリアは視線だけを動かし周りを見渡す。

しかし、結論からいえば…つけたせるものは何もない。


(ちっ…装備がこの扇しかない…心許ないですが致し方ありません!エスコート担当ダレンお兄様!いざ!勝負です!)


アメリアは扇を開き顔を隠し、冷たい目を向け口を開く。


「おにーさまさきほどからめがこわいですわ…」

「あぁ…ごめんね?あまりにアメリアが可愛くて見惚れてしまったんだ…」

「…………アリガトウゴザイマス」


お前はお呼びじゃないんだよという嫌味を込めた扇言葉は何一つ伝わらず、ダレンは頬を染め素直に答えてきた。

その表情をみたアメリアは、敗北感に苛まれとうとう考える事を放棄した。

アメリアの鋼鉄の精神を持ってしても朝から疲れたのだ。

突然の襲来アーク、優秀なメイド達、男装ライラ…そして極めつけはデレデレダレン。

朝から総当たり戦をしていた気分なのだ。

少しばかりの休憩として常に考えている脳を休ませることに決めた。


ダレンは捨て置くと決めていたのだから、もう今更見た目を考える必要はない。気にしたら負けなのだとアメリアは未だに照れているダレンの横を通り抜け、そそくさと一人会場へと向かう。

アメリアの行動をすぐさま理解した男装スタイルのライラは、その後を当たり前に並び歩く。

二人が自分を無視して先に出て行った事に気づいたダレンも後を追いかける。

7歳と4歳の足の長さである。すぐさま追いつき隣へ立つ。

左にはダレン、右には男装ライラという謎の立ち位置になっているが、脳の休息をとっているアメリアはその状態に気づかず、そのまま二人を引き連れて会場の前まで移動することとなった。

「まるで一人の姫を取り合う騎士のような図」だったと一部の使用人は言う。


そして三人は会場前へ。


会場前についた事でアメリアの脳も再起動し、一時も離れたくない様子のライラをそっと仕事に戻るように伝える。そうしなければ彼女は恐らく、いや確実に会場内までついてきてしまう。

本来ならあり得ない行動なのだが、ライラは今日に限っては男装しており見た目は立派などこかしらの御子息様そのもの。第二のアークなのである。

それをされては一級死亡フラグ(ジークライド)に近付く事が出来なくなってしまう。

そして仕事を放棄する事で困るのは他の使用人たちだ。

アメリアに諭されたライラは無表情ながら不服そうにその場を後にした。

ダレンには一度も挨拶をしないで。


「…僕はライラに嫌われる事をしたのだろうか?」

「さぁ?らいらはわたくしいがいになついてないのですよ」

「懐く…まるでペットのような言い草だね」

「ふふっ。らいらはわたくしのいぬですよ?おにーさま」


声が聞こえていなければ兄妹が睦ましく話しているようにしか見えないだろう。

ころころと4歳にしては美しく笑うアメリアと7歳にしては色気のある微笑みを浮かべているダレン。

しかし実際の二人の会話は殺伐している。

アメリアの言葉の棘もなんのその。微笑みを浮かべたままのダレンはそっと右手を差し出す。


「では愛しの妹君?お手をどうぞ?」

「こんかいはおにーさまでがまんしてあげますわ」


不服を瞳に宿しながら差し出された右手に左手を添える。兄にエスコートされて彼女は会場に足を踏み入れ、予め予定されていた父の近くへと足を運ぶ。

ロイドの周りを確認するが、義母のダリアとマイクはいない。

二人はまだちゃんと籍をいれてなかったようだと、状況判断で理解する。


一度父親に目を向けたがすぐさまに逸らしてしまった。


現在のアメリアはアスターの生まれ変わり、生き写しのような見た目だ。

ちっちゃいアスターなのだ。

ロイドはアスターを溺愛していたし、亡くなった今もその愛は消えていない。

一瞬視界に入れたロイドの青い瞳が過去最大に見開かれ、自分を凝視していたなど恐怖でしかない。


(ほっっっっっっとうに!スターチス家って何故こんなにも個性的なのっ!!!!)


自分の事を棚に上げているのは気のせいでは決してない。

ロイドを決して視界に入れないように努めているアメリア。

視界の外にいるロイドとダレンは互いの同じ色の瞳を見つめ、心得たとばかりに一つ頷いた。


これから彼女を祝うために招待された貴族たちがやってくる。

それぞれの考えを胸に会場の扉をみつめる。


そして扉がゆっくりと開かれる。


今日の主役。

アメリア・ド・グロリア・スターチス。


(さぁ!フラグ建築しますよっ!)


一級死亡フラグ、ジークライド王子を迎え入れるために。


(誕生日はこの為にあるのですっ!)


違うからね!という神々の嘆きは彼女には届かない。


彼女の誕生日の幕開けである。



男装ライラvsダレン 結果:引き分け



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