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4.老人と少女(男)

やっと話が進んだぜ()



「改めて初めまして。私が君の買い手だ」


 それは、突然のことだった。何の脈絡もない雑談、会話を断ち切るように老人は語った。

 買い手ということは、彼が|シャウラ≪おれ≫の主なのだろう。

 

 王都で権力を持つと言われる上級貴族、その中でもトップに近い力を持つと囁かれる名家に君臨する老人。当主、ジルベルト・コルネーエフは笑みを絶やさず、こちらを観察している。

 先程までの優しい笑みとは違い、何かを確認するような裏のある笑み。

 会社員時代にあった腹の探り合いのような気がして、俺は気を引きしめた。その様子は、表情に出ていたようで、


「その歳で警戒するのか、悪くないな」


 老人は納得したように、顎に手をあてながら「なるほど」と呟く。え、なに? 気に入られている感じ?


 「これはいい買い物をしたようだな、私は」


 ジルベルトはそっと、鉄格子の隙間に右手を通して俺に向ける。

 

「これから私のメイドとしてよろしく頼む」

「えっと、よろしくお願いします」


 少し戸惑ってしまったが、きちんと返事をする。先ほどまでの圧迫感のある笑顔とは違う、素の表情。

 ただ黙って頷くよりは印象がいいだろうと握手を返す。

 内心どぎまぎしている俺だが、そんな事とは裏腹に、ジルベルトさんはもう気に入ったと言わんばかりに説明をしてくる。


「何がほしいか言ってほしい」

「いえ、大丈夫です」

「困ってることはないか」

「いえ、大丈夫です」

「ジルベルトだと言いにくいだろう、おじい様でいいぞ」

「あ、はい」


 先ほどの会話で何が気に入ったのかはわからない。

 むしろ、粗相がないか不安だったというのに。


 力なく笑う俺に気づくことなく、ジルベルトは語り続ける。


 ほんと、どうしてこうなったのか。

 先ほどまでの会話を思い出してみる。


 話は、一時間程遡ることになる。朝は珍しく、アレクさんの怒号で目を覚ますことはなかった。

 それでも、いつもよりは騒がしい牢獄。瞼を擦って、眠気を覚ます。


 他の奴隷たちは、もう自分の仕事を始めている。勉学に励む者や鍛練をしている者、魔法の詠唱を唱える者、さまざまだ。何かの手伝いをして駄賃をもらい、自分を買い取ろうと必死に働くやつもいる。


 そんな俺の今日の仕事は、『休暇』である。


「.....暇です」


 毎日満員電車に揺られ、会社に向かう。そして仕事をしたら帰って寝るだけ。そんなスケジュールでやってきた男に、休日の過ごし方なんてものはとうに記憶から薄れていた。


 読書をしたい、だが本がない。

 勉強をしたい、だが何もない。

 鍛練をしたい、だが武器もない。


「なにもありませんね」


 そんな現在の状況を悲しく呟く。

 残念ながら俺は、選ばれた異世界転生ではないようで、チートなんかは使えないらしい。便利そうで羨ましいが、無いものは仕方ない。別の方法を探ることにする。


「とても暇です」

「なら、この老いぼれと会話してくれるかな」


 唐突に、牢の向こう側から声が聞こえる。振り向くと、杖をつきながら佇む一人の老人がそこにいた。


「誰ですか?」

「なに、ただの客だ。いろんな奴隷を見ておこうと思ってね」

「そうですか」


 確かに暇だと言ったが、客が来るなんて聞いていない。もう買い手は見つかっているので媚びを売る必要はないが、粗相がないように注意しなくては。後でアレクさんに怒鳴られるのもめんどくさいし。


「別に固くならなくていい。こんな老人と他愛のない会話をしてくれればいいのだよ」

「そうですか。では、雑談程度で」


 そわそわする俺を見つめること数秒。

 老人は、笑みを漏らす。

 接待なら任せろ! 何回でもしてきてるぜ!

 そんな気合いをいれながら、俺はまた少女を演じる。


「同年代の割には落ち着いているな」

「確かに、そうですね」


 んん、やっぱり落ち着き過ぎているのか? 娘なんていなかったから、この年頃の少女がどんな風にしているかなんてわからないし。


「それも個性だ。恥じることはない」

「はい、ありがとうございます」


 俺は、丁寧にお辞儀をする。


「しかし、ほんと君は大人びているな」

「そんなことはないですよ」

「やはりあの商人の器量がいいのか。さすが、王都一番の商人だ」

「ん、アレクさんはそうなのですか?」

「なんだ、知らなかったのか。そうだ、あいつは王都で一番安全、安心に奴隷を買える場所として認知されている。その代わり、他の同僚からは疎まれているらしいがな」


 はっはっは、と笑う老人。なるほど、というかアレクさんって有名な人なんですね。

 いつも奴隷の扱いが優しすぎだとは思っていたが、それが売りだったとは。

 侮れない男だぜ、アレクさん。


 そんなことを思いながらふむふむと頷く。


「まったく、善人が奴隷商人なんてやってるんだ。奇妙な者だよ」

「それには同意します」


 アレクさん、他の人からも言われてますよ。あの人、強面なのに中身善人だからなぁ。


「まあ、アレクの話はいいんだ。君の話を聞かせてくれ」

「私のですか?」

「ああ、簡単な質問だ。君は誰かに買われたとき、何かしたいことはあるのかね?」


 何かしたいこと。

 それは、いろいろある。


 せっかく女子になったのだから

 女性が楽しんでいたものにも触れてみたいし、この異世界をいろいろ見て回りたい。なんなら、戦ってもみたい。

 この世界には冒険者という職業もあるみたいだし、奴隷から解放されたらやってもいいかもしれない。

 そんな夢一杯な思いを詰めつつ、淡白に「......特には」と返す。


 ほら、授業参観とかで親の前で親の前で将来の夢話すみたいなもんじゃん。

 夢はあるけど、なんでもないみたいな感じ。見知らぬ人に語るほど、自分は解放的な人間ではない。


「まだ若い身だ。ゆっくり考えてみなさい」


 老人は、鉄格子の隙間に手をいれて、俺の頭を優しく撫でる。

 なんか、申し訳ない。流石にここで異世界に来たんで旅がしたいです! 何て言っても、信じてくれないだろうからね。老人の手は、くたびれているが時折ゴツゴツした部分があり、仕事に生を出していたのはよくわかる。

 そんな手は、過去の家族を連想させた。


 涙が一筋、こぼれ落ちる。

 なんだか、懐かしいものである。

 前世の家族、男だったときの私は母子家庭だったのでよく叔父と遊んでいたのだ。母は、仕事で忙しい。毎日、書類仕事に明け暮れて、家でもパソコンに向かい続けていた。まあ、その道を俺も辿ってしまったのだけど。

 そんな過去の記憶が湧き上がり、無表情を貫いていた心が揺らいでしまった。


「す、すいません」


 涙を拭って、平常であることを示す。

 やばい、30歳ギリギリなってないとはいえ、中身おっさんな俺がこんなことで涙を流していたらこの先やっていけない。


 そんな様子を静かに眺める老人は、何も言わなかった。

 少しの沈黙、俺は老人を見つめる。


「もう大丈夫です」

「無理はしなくていいんだぞ?」

「昔のことを少し思い出しただけなので」

「そうか」


 一応、元気であるとアピールをして誤魔化しておく。

 子どもになっているからか、涙もろくて困る。


「よし、君の事はこれ以上はやめておこう」

「帰るんですか? 」

「言っただろう、奴隷を買いに来たと」

「何を探してるんですか?」

「我が家で働くメイドを探してる」

「雇えばいいんじゃないですか? 」

「雇えば、媚びをうる貴族の娘しかほとんど来ない。そんなの扱いずらくて叶わん」


 あ、なるほど。だから貴族ってすぐ奴隷を雇うのか?

 よくわからんがそう納得しておく。


「まあ、そんなことはどうでもいい。もうそろそろ芝居も終わりだ」

「どういうことですか?」


 首を傾げながら、その発言の真義を問う。老人は、真剣な表情でこちらを見つめている。


「改めて初めまして。私が君の買い手だ」


 こうして、回想は冒頭へと帰結する。



「すまんな、あまり話さないとは聞いていたのでな。買い手にだと遠慮するかもしれんと思ってな。隠しておったのだ」

「そうですか」


 はっはっは、と笑い続けるジルベルトと反対に、無表情で沈黙するシャウラ。

 アレクさんにいろいろ言われたのもあるが、この人ホントに宰相やれてたのか不安なくらい呑気な人だった。


「これからよろしくお願いします」

「よろしく頼むよ、メイドさん」


 俺はどうやら、奴隷からメイドへ職業(ジョブ)チェンジするそうです。


 そしてこの後、もはや通例であるようにアレクさんに怒鳴られたことも、ここに追記しておくことにする。



「無茶するんじゃねーぞ」

「しませんよ。私は元気ですから」

「気づいてねぇのがやべぇんだよ」


 アレクさんはいつも通りのふてぶてしい態度で俺に今後のことを語り続ける。

 その様子を見ながらジルベルトは笑みを浮かべていた。


「ジルベルト伯爵、こいつが何か問題を起こしたら連絡を。また、叱りにいきますんで」

「その時は頼みますよ」


 扉を開ける。

 初めて見た、異世界の空。

 周りは、多くの店で賑わっている。


「さあ、シャウラ。こっちだ」


 ジルベルトに連れられ、歩み出す。

 とりあえず、中身が男子ってバレないように頑張りますか!

なんか途中ぐだった気がするけど)))


次回はお屋敷かな?

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