3.知らない女の子に出会いました
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6/12 加筆修正を行いました。分かりやすくなれば幸いです。
翌朝、聞きなれたアレクさんの怒号で起床する。残業暮らしをしていた俺にとって、長時間の睡眠は毒のように絡み付く。
やばい、ダメになる。この休みの快楽に溺れちゃう。
そんなバカみたいなことを考えつつ、辺りを見渡す。
相変わらず、檻の中は殺風景でつまらない。
眠気が抜けきれず、大きなあくびを一つ。
何度も繰り返される爆音ですら、もう慣れてきたみたいだ。檻の中でよく響く声は、目覚まし代わりに最適である。
「もう、朝ですか」
正直、もう少し寝ていたい。
この堕落の極みのような生活をもう少しだけ続けていたい。
そこに、目をキラキラさせてこちらを覗きこむ少女さえいなければ。
「ああ! ホントに目が覚めてる。もう日は昇ってますから、遅い起床ですね」
目の前に謎の少女がいる。髪型はツインテールでまとめられており、透き通る藍色が目立つ彼女。年齢は今の身体より少し年上らしく、背はそこそこあった。
そんな彼女は、片腕をぴーんと上に伸ばしながら、
「まるで、眠りから覚めたお姫様みたいだね。元気におはよーだよ! 」
テンションを上げてこちらに話しかけてきたのだった。
なんともまあ、元気なことである。
「えっと、初めてましてだよね? 」
「はい、そうですな! 」
「えっと、名前は? 」
微妙な表情を浮かべるシャウラを見てツインテ少女は首を傾げている。そして、納得したように頷く。
「あ、そうだ。自己紹介しないとね! 私はリーナだよ! これからよろしくね!」
「あ、はい。初めまして、シャウラです」
リーナは、手首につけられた鎖をジャラジャラと鳴らしながら、笑顔で自己紹介をする。
表情は明るいが、腕に付けられた鉄の塊が彼女を奴隷であると証明している。勿論、逃亡や自傷は許されない。解放されるか買われるまでは外されない枷となるのだ。
「シャウラね! 覚えちゃうよ! 」
「あ、はい。よろしくです」
そんなことも気にせず、リーナは返事をする。
「シャウラっていつもここにいたの? 」
「えっと、はい。そうですね」
「そっか、ここなんだ。ここって特別な奴隷が入れられるんだよね」
「そうなんですか? 」
できるだけ、自然な対応で返答する。女子ってこんなもんだよな?
というか、理解しているラノベが金髪ツンデレ少女、クール系お姉さん、先輩を頼る可愛い後輩の三種類だけしかないので必要最低限以外は会社員時代の対応で反応するしかない。というか、こんな娘くらいの歳の子に何を話したらいいのかわからないのが本音だが。
「シャウラってば、すっごい大人しいのね。ここに来る子ってみんな喚いたり泣いたりしているから尊敬ですな」
「まあ、泣く必要がありませんからね。リーナはどうなのですか?」
「私は泣いてないよー。むしろ、楽しいかな。いろんな人がいるから見ているのもいいしね」
「そうですか」
リーナは頷き、
「うーん、そうだ! アレクさんに頼んでこっちに遊びに来てもいいか相談してみようか? 」
「出来るんですか? 」
「アレクさん、ああ見えて優しいから大丈夫だよ! いけるいける! チョロい!」
アレクさんチョロいのか。あの人、本当の少女にもナメられているのはなんだか可哀想にも思えてきた。もう少し、奴隷商人なんだからその強面をいかせばいいのに。
「じゃあ、聞いてきてもらえますか? 私は出られないので」
「任せなさい! 」
そんな軽口で彼女は、奥の扉へと戻っていく。というか、リーナはどうやって檻から出たのだろうか。
少し座り込んで考えてみるが、抜け穴でもあったのだろうか。いや、アレクさんはツンデレでも仕事はしっかりやる人だしな。
「まあ、そのうちわかるでしょう」
特に気にならないので、俺は思考を放棄して机に向かう。
必要という訳でもないし、来たら聞けばいいしな。
それより、今は勉強だ!
文字を書けるように頑張るぞ!
その後すぐに、謝るリーナの声とアレクさんの怒号が聞こえたのは言うまでもないだろう。
□
「うう、ダメでした」
「まったく、お前は勝手に行動するなとあれほど言っておいただろうが」
「すいませーん」
俺の檻の前で涙目のリーナちゃんと不機嫌なしわを眉間につくっているアレクさんが立っていた。
「あの、なんで私の前に?」
「こいつが迷惑かけたからな、謝らせににたんだよ」
「ああ、なるほど」
それはそれでめんどくさい話なんだけどなぁ。
一応は、心の中でぼやいておく。
子どものやることだし、それくらい許していいんじゃないか? 俺だって昔は、やんちゃしてたわけだし。
そんなことを思っていた矢先に、アレクさんはため息をつきながらこちらに歩み寄る。
「ちっ、寂しいなら言えばいいんだよ」
「えっ? 」
アレクはこちらの反応には目もくれずに踵を返す。彼は、そのままよくいる作業場から一つの鍵を持ち出しこちらに投げ込む。
「ほら、さっさと出ろ」
投げ込まれた鍵は、使い込まれているのか所々に凹みが見られ、形が変容している。
「出てもいいんですか?」
「場所を変えるだけだ、お前は購入が決定しているからな。逃がしはしねぇよ」
「そうですか」
「おっ! シャウラ出られたじゃん! お外デビュー?」
リーナは、その様子をクスクスと笑っている。
「お前は後で説教だからな」
「そんな......」
表情がコロコロと変わる彼女を見て私も微笑む。
「仲が良いんですね」
その一言にアレクさんとリーナは、きょとんと腑抜けた顔をした。
「あれ.....」
思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。
「もっとそういう風に笑いやがれ」
「何のことですか?」
「気づいてねぇのかよ、やっぱり欠陥だなこりゃ」
「よくわかりませんが、欠陥と言うのを止めてください」
「やめてほしいなら早く気づきやがれバカ野郎」
本当に何のことかわからないので首を傾げる。というか、何かあるとすぐ欠陥というのをやめてくれ。俺は別に中身が男なだけで正常な女の子だからな。
恋とかは厳しいかもしれないけど。
「まあまあ、シャウラだって起きたばっかなんだし」
「こいつは、自覚してねぇよ。まったく、厄介な子だぜ」
やれやれと顔をしかめるアレクさん。
え? 俺が悪いのか?
「ところで、シャウラって普段は何してるの?」
唐突な質問だが、俺はすんなり答える。
「基本は奴隷としての知識を得るために勉学ですよ」
「げっ、ほんとに真面目なんだね」
「ええ、まあ」
「自由時間があるのに? 」
「あったのですか? 」
「あるよー。ねぇ、アレクさん」
「あたりめぇだ、酷使してたら売りもんになんねぇからな」
シャウラは二、三度ほど瞼をぱちくりさせる。
「あれ、じゃあ私は? 」
「お前は、いつも勉強して気づいてねぇだけだろうが。眠ってた分やれと言ったがやりすぎだ」
「そうなのですか? 」
もしかして、サラリーマン感覚でやってた残業はダメだったパターンだよな、これ。
睨み付けるようなアレクさんの視線が痛い。
「まあ、とりあえず出ろ。お前も引き取りまで奴隷同士で仲良くしてな」
「はぁ、わかりました」
「よかったね! シャウラ」
リーナは、我が身のように喜んでいる。
むしろ、助けられたはずである俺が喜ぶべきなのだろうが。
この世界のことを学んでいる最中なのでなんだがモヤモヤする思いであった。
アレクさんツンデレだよね